『これにて5セット全て終了です。全セット皆、敵を知り己を知りよく健闘しました。A組0勝、B組5勝で今回の対抗戦!B組の勝利です!』
ミッドナイトのアナウンスが夏油たち第5セットに出ていたメンバーまで聞こえてくる。
「アハハハハ!やっぱりトラブルメーカーより真面目にやる者が優れた結果を残すんだよ!」
「物間、それは分かったから皆の所に戻ろうか」
「そうだね。皆で喜びを分かち合いたいし」
夏油たちはクラスメイト達が集合しているところに戻り講評の時間になる。
「えーとりあえず緑谷、何なんだおまえ」
相澤が緑谷に尋ねた。夏油としても直に見てあの力が何なのかは分からなかった。皆もあの力には不思議そうにしている。それに対し緑谷は良く分からないとのことだ。
麗日がすぐに飛び出して緑谷を止めに行ったのを茶化されたり、心操がカッコいいことを言って相澤に絞められたりしていた。
しかも心操は2年からヒーロー科にやって来ることがほぼ決まっているようだった。夏油から見ても個性は優秀だし判断力もこれから伸びそうな気がした。
「でだ。予想通り時間が余ったからエキシビジョン行けるか、夏油?」
「もちろんです」
相澤が夏油に尋ねる。夏油は準備万端だった。
「エキシビジョン?」
「まだ何かやるんですか?」
「静かにしろ。A組は今回の授業でB組に差をつけられていることを実感したと思う。その大きな要因が夏油の存在だ。彼に引っ張られて全体の実力が底上げされてる。それを肌で感じてもらうためにも夏油が戦ってくれるそうだ。しかも今度はハンデなしでな。精々揉んでもらえ」
相澤の発言にA組は戦々恐々とした様子だった。
「マジか、あれと戦うのか」
「全員でですか?」
「ていうかハンデって何?」
A組の質問に相澤が答える。
「流石に全員じゃない。全員で掛かっても意味ないだろうが。そうだな……さっき同様5人選んで参加しろ。それとハンデだが……夏油、重り外していいぞ」
「そういえば着けてましたね、忘れてました。これ修行にいいので貸出できます?」
夏油はそう言いながら重しを外した。
「見ての通り前期の期末試験で教師が着けた重りを着けてもらっていた。それと呪霊に関しても制限してもらっていた。福岡の一件で出てきていた奴とか使ってなかったろ?というわけでA組は5人選ぶように。ただし第5セット出た奴は不参加で。もう夏油の力を間近で見ているからな」
相澤がそう言うとA組は話し合い始めた。夏油以外のB組は完全に観戦モードだ。夏油はさっさと開始地点に向かう。
「夏油、手加減しろというつもりはない。ただあいつらの為になるような戦いにしてやってくれ」
「そのつもりですよ。無意味な訓練程無駄なものはない」
相澤の要請にそう答えて歩き出す。夏油は誰が出てくるのか知るつもりはなかった。その方が自分の訓練になるからだ。プロになったら相手の個性を知らないのは当たり前で、むしろこちらが把握されている側だ。
「そう言えばオールマイトいましたけど、出していいですか?」
誰もいないのを確認して夏油は志村に尋ねる。
『出ないわけにもいかないだろう。手加減する道理がない。それに緑谷くんのあの様子は……杞憂ならいいが……』
「緑谷がどうかしましたか?」
『もうバレてるかもなと思ってね。私も覚悟を決める時が来たのかもしれない』
「それはどういう……」
夏油が尋ねようとしたところでアナウンスが聞こえる。
『では準備はいいか?スタート!!』
始まってすぐに夏油は格納呪霊を呼び出し三節棍を装備する。そしてガンちゃんを空中に散りばめ索敵させる。
「さて、行きますか。結局出るってことでいいんですね?」
『腹をくくったよ』
志村に最終確認をしてから、夏油は侵攻する。その時待ち構えていた轟を発見する。
「お願いします」
夏油がそう言って志村が出てくるのと同時に轟の炎が放たれたが、志村の狐火で相殺された。
「炎⁉脳無を倒したやつか……!」
轟は驚いていたが中継で見た光景を思い出したようだった。轟は先ほどの戦いで骨抜に氷結を防がれたのを気にして炎にしたようだった。
「で、次は……」
そこに超スピードで突撃してくる飯田がやって来た。それをギリギリで避ける夏油。
「クッ!躱すかッ!」
「流石に速いね。でも反応できないほど速くはないかな」
何度か攻撃を受けてスピードに慣れてきた夏油は段々と簡単に避けるようになっていく。
「私の予想では鬱憤の溜まった彼が来ると思っていたのだが成長したのかな?」
丁度その時考えていた爆豪がやって来た。ついでに切島も仕掛けてくる。
「死ねーーー!!」
「死ねとは酷いな。敵味方分かれても同学年の仲間じゃないか」
夏油は爆豪の爆破を避けつつ切島とも戦う。
「開幕は轟の火攻め、効かなかったときに飯田がスピードで撹乱し爆豪と切島で決めに行く。思っていたよりまともな作戦だ。先ほどまでの戦闘よりもブラッシュアップされている。もう一人が見当たらないがいいのかな?」
夏油はそこまで言ってから爆豪と切島を三節棍で吹き飛ばす。そしてそのまま必殺技を繰り出す。虹龍と明王を呼び出し同時に身に纏った。
「今まで同時にやるのは中々成功しなかったんだけど、脳無の一件で成長したのかできるようになってね。クラスメイトにも見せてなかったんだ。喜ぶように。『呪霊装術・龍王転身』」
呪霊装術・虹龍転身と明王転身の合わせ技。この技は夏油の防御力が飛躍的に高まる。ただし重くなるので機動力は上がらないが。
そして夏油は呪霊装術は単に自己の強化を目的としていたが、副次的な効果があった。それは呪霊を操作しなくていいことにより、脳のキャパが比較的圧迫しなくて済むということだ。
「さぁ、これで私自身は本気の形態だ。嬉しいだろう?」
そのまま夏油は爆豪・切島・飯田を相手にするがもう彼らの攻撃を避ける必要すらなくなっていた。どうしたものかと思っていたら、ガンちゃんが黒い影を捉える。
「来たか、常闇……」
その正体は
「出番だよ」
クイーンを呼び出し対応させる。
夏油が志村の様子を確認すると、そちらはもう終わっていた。一面焼け野原にして志村が轟を抱えていた。夏油としては羨ましい。ちょっとイラついた夏油は力加減を間違えて切島をダウンさせてしまう。
「しまった。鉄哲と同じようなテンションでやってしまった。でもそろそろ終わろうか」
夏油は高速で蹴りを放つ飯田にカウンターで腹を殴る。そして特大火力で攻撃してくる爆豪にも涼しい顔で近付き三節棍で殴った。クイーンはいつの間にか常闇を握ってやって来ていた。なんだか褒めて欲しそうにしているようにも見えるのは気のせいか。
『試合終了!意識がある者は講評をするから集まるように!』
ブラドキングのアナウンスが聞こえ夏油は呪霊を体内に呼び戻した。そして先生たちの元へと歩いていく。
講評の時間になった。幸い、意識を失った者はすぐに目が覚めて起き上がれるようになった。
「じゃあ講評だが……俺たちが何か言うより直接戦ってもらった夏油から評価頼む」
「それってオブラートに包むのとストレートに言うの、どちらがいいですか?」
「ストレートだ。多少の言葉遣いは大目に見る」
相澤から言質を取ったので率直に感想を言うことにした夏油。
「じゃあまずは個人の話から。轟は鉄哲と戦ってる時も思ったが、氷結も炎も効かない相手が出た時にどう対応するのか考えたほうがいい。例えばエンデヴァーみたいに炎を推進力にするとかね。
次、飯田は攻撃が単調だな。悪い言い方すれば速くて蹴るだけだ。通用すれば強いがカウンターに気を付けよう。
爆豪は今みたいな協調性を持った動きができればいいが……センスが良すぎるのも考え物かな?良くも悪くもセンスに頼っていて動きに粗がある。
切島は……正直もっと硬いと思ってた。緑谷・砂藤あたりにひたすら割ってもらったほうがいい。
常闇は言うことはほとんどない。君の成長はインターンでも見てるし今回も押し負けてはいたがこのままの成長曲線で問題ないだろう。
で、根本的な話をすると、この人選おかしくないか?もっと搦め手が使える人材いないのか?攻撃全振りみたいな布陣は流石にどうかと思ったね。作戦もこれは作戦と言えるのか微妙なラインだし……この程度で私に勝てると思っているのには驚いた。そんなところですかね」
夏油は長々と感想を語った。圧倒して勝った割には普通のことを言われてA組としては拍子抜けだった。
「俺も夏油の評価と似たようなもんだ。もう時間も迫ってるし簡単に済ますが、もう一度自身の立ち回りや能力を見直せ。そしてそこからどう伸ばしていくかをよく考えろ。じゃあ授業はこれで終わる。ブラド、何かあるか?」
「そうだな。今回はB組に軍配が上がったが、それも今後次第で変わっていく。うかうかしてられないぞ!」
こうしてA組対B組の対抗戦は終わった。夏油も着替えに更衣室に行こうとしたところ、オールマイトに呼ばれる。
「夏油少年、ちょっといいかい」
「もちろん」
「今日の放課後は空いているかな?」
「どうかしましたか?」
「話したいことがあるんだ」
「わかりました。伺います」
放課後訪れる約束をしてオールマイトと別れる。
『これはいよいよその時が来たのかな……』
『だとしても大丈夫ですよ。私がいます』
『ふふっ、そうだな』
志村は秘密がバレるのを危ぶんでいたが、それでもこの時は笑っていられのだ。
その日の放課後、夏油は仮眠室に訪れていた。
「悪いね、わざわざ呼びつけて」
「いいんですよ。それより私に話があるんでしょう?」
「ああ。君の人型の呪霊の顔を見せてもらってもいいかい?」
オールマイトはいきなり核心に迫るお願いをしてきた。これはもう隠しておけないと判断した夏油は志村に出てくるようお願いする。そして志村が出てきた。覚悟を決めて顔を露にする。
「お師匠……間違いない……最後に見たのは大昔だがお師匠だ……しかし一体どうして……?」
「久しぶりだな、俊典。元気そう……ではないが生きていて嬉しいよ。夢をかなえたんだな」
オールマイトは呆然としているような、信じきれない表情だ。志村もすこしぎこちない。
「まず、正体を隠していて申し訳ない。でもそれが最善だと判断した。奴の脅威を前に私がこうして存在しているのは害になるだけだと考えたんだ。でもこうしてバレることになるとは……」
「いえ、お師匠にはお師匠なりの考えがあったのでしょう。謝ることはないです」
「そう言ってもらえると助かるよ。じゃあ経緯を話すか。傑とは廃工場で出会って……」
その後志村が中心になって夏油と出会った経緯や呪霊として彼の側にいることにしたことなどを説明した。
「ムムッ、なるほどそういう事でしたか……まさか疑似的な死者の蘇生ができるような個性があるとは……しかしそれほどの個性、奴が狙う可能性を考えれば猶更お師匠の存在は明かせないですね……」
「そういうことだ。私の存在を知ったら楽しそうに利用する奴だしな」
「では……私からもお話ししなければならないことがあります……!!」
オールマイトはそう言って立ち上がり、地面に土下座した。
「え?ちょっと俊典、何してるんだ?」
「オールマイト?」
「申し訳ございません!!死柄木弔は…………彼は…………お師匠のお孫さんなのです……!!」
オールマイトの発言に部屋は静寂に包まれる。夏油は何も言えなかった。
「…………え?だってそんな……私はたしかに……」
「申し訳ございません!力を失った今、私にはもう謝ることしかできません!本当に、本当に……」
オールマイトの言葉から悔恨が伝わって来る。
「なら息子は……?弧太朗はどうなった……?」
「それが……恐らく亡くなったものと……思われます……」
「そうか……分かった……教えてくれてありがとう、俊典」
志村は静かに泣いていた。息子だけは幸せになりますように、生きられますようにと願って離した家族が知らない間にこんなことになっているとは夢にも思わなかった。
「私の選択は……間違っていたのかな?遠ざけないで側にいてあげれば良かったのか?どうしてこんなことに……」
志村は涙を流し続けていた。夏油はそれをそっと抱きしめる。
「私はあなたの選択が間違っていたとは思いません。たしかにその時の最善を選択した。結果的にどんなことになってもあなたの責任ではないし、悔いる必要もありません。全ては奴が悪いのですよ」
「……オールフォーワン、許さない……」
全身に力を込めて歯を食いしばっている志村を見て夏油は少し安心する。悲しみ打ちひしがれてしまったらどうしようかと思っていた。志村がまだショックを受けても正気を保っていられるのは夏油という支えてくれる存在があったからかもしれない。
「死柄木弔は責任をもって死んでも私が止める」
「お師匠、それは……」
「菜奈さん、やめた方がいい」
志村の発言を諫める夏油たち。
「だって私の家族なんだ!なら私が止めるしかないじゃないか!」
「お師匠、あなたは今冷静じゃない。少し落ち着く時間が必要です」
「そこまで言うなら、私もやりますよ」
夏油は志村が暴走しないように見張るつもりだ。
「夏油少年まで!」
「傑は関係ないだろう!」
「関係ありますよ。あなたは私の恋人だ。恋人の危機には参戦すると決まっている」
夏油はあっけらかんと言い放つ。
「だけど……」
「え、そういう関係なの……?あのお師匠が……」
夏油の言うことに躊躇する志村。オールマイトは二人の関係に驚愕している。
「ゴホン!では分かりました。夏油少年たちの力は分かっているから、条件を付けましょう」
「条件?」
「はい。現状ヴィラン連合はプロヒーローと警察が捜査しています。なので二人は自分から探して戦うようなことはしない。また、情で鈍らないように他に任せられるなら任せる。そして要請された時のみ戦闘すること。以上のことは守って下さい。これが未だにプロではない人間を戦わせる最低ラインです」
オールマイトの出した条件を考える二人。つまりはどうにも二人の力が必要になった時は戦って良いという事らしい。
「自分から戦いに行ったりするなってことか?」
「自発的なのは止めて頂きたい。これも死柄木を捕らえる為なのです」
「……そこまで言うなら、分かった。言うとおりにするよ」
「私も異存ないです」
志村は不承不承だがオールマイトに従うようだ。夏油としても異存ない。むしろ志村に危険なことはして欲しくないくらいだ。
「ではそういうことで。あとお師匠、グラントリノには会われますか?」
「空彦?確かに会えるなら会いたいが……」
「では雄英までお越しいただいて密かに会えるように手配しましょう」
「良いのか?じゃあお願いしようかな」
その後もしばらく再開までの間の話をして過ごした。オールマイトは夏油と志村の関係には改めて驚いていたが……
いい時間になったのでお暇して夏油たちは寮に戻った。夏油にとっても驚きの話だったが、これでまた一つ戦う理由が増えた夏油であった。