【完結】ヒロアカ世界でも猿が嫌いな夏油傑   作:カワニ

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全面戦争③

 夏油が蛇腔まで凄まじい速さで到着できたのは、エイに過剰に呪力を通して強化する過呪増強に加え、志村の火力を推進力にしてグングン加速した結果によるものだ。これによって一瞬で群訝山荘から蛇腔までたどり着くことが出来たのである。

 

「てめえ……!夏油……!」

「夏油くん!それに志村さんも!……あっ」

 

 助けられた爆豪は不満気だがピンチだったのは認識しているらしく、それ以上は何も言わない。彼も成長しているのか。

 緑谷は夏油たちが来たので少し気が抜けたのか、志村の名を声に出していた。一応志村の名は秘密であるはずだ。

 

「それでこの焦げてるのが死柄木でいいのかな?」

「うん!直に触れられたら終わりだし、崩壊の個性が伝播するようになってる!地面に触れさせちゃダメだ!しかも改造されたのか素の力もオールマイト並みになってる」

「へえ……そいつはとんでもないね。(しかもエンデヴァーのあの怪我。彼にこれ以上無理させられそうもないな。あと一歩早ければ……いや、過ぎたことは仕方ない)」

 

 夏油は素早く周囲を観察し、緑谷の説明と共に状況を概ね理解した。

 

「触れられてもダメ、地面に触れさせてもダメか。しかも身体能力はオールマイト並みと来た。ここは私たちでやるから緑谷たちは援護に徹するか、周辺に見えた脳無の相手を頼む。さっき言った通りここからは家族会議の時間なんだ」

 

 夏油から見るとここまで戦ってきた緑谷やエンデヴァーはもうボロボロで戦えそうになかった。この時、轟はエンデヴァーの治療のため地面に降りていた。

 

「さっきから家族会議って何のことなんだい?…………先生は黙ってろ」

 

 死柄木の体を使ってオールフォーワンと思われるものが尋ねる。それに対し二重人格のように死柄木が口を挟む。

 そこに志村も仮面を取って話しかける。

 

「死柄木弔……もうここまでにしよう。私は君の祖母、志村菜奈だ」

 

 志村の告白に一瞬その場の時が止まる。

 

「志村さんが死柄木の祖母……?でも志村さんはオールマイトの師匠のはずで……」

「は?祖母って言ったって見た目が……」

 

 緑谷と爆豪は志村の言うことがいまいち良く分からなかった。

 

「志村菜奈?本物かよ⁉おいおい凄いぜ、死人だ!弔の祖母にして無能で哀れな志村菜奈がそこにいる!でもおかしいな……僕が確かに惨たらしく殺してやったのにどうして生きてるんだ?」

 

 その口調は不思議がっているようで、新たなおもちゃを与えられたように楽しげだった。

 

「先生……あんたはいい加減出てくるな。志村菜奈……なんでアンタが生きてるのか、写真の姿から歳をとっていないのか、ワケはともかくだ。安心しろよ、おばあちゃん。アンタもしっかり憎んでる。恨みを込めて改めて地獄に送ってやるよ」

 

 死柄木はそう言って志村を憎しみの籠った眼で見ていた。死柄木の恨みの感情の大きさでオールフォーワンの意識は表に出てこない。

 

「死柄木弔、君が私を憎んでるのはいい。でもこれが罪を償う最後のチャンスだ。抵抗するのをやめて欲し……」

「おいおい、転弧という両親がくれた名前があるってのにそんな風に呼ぶなんて酷いなぁ、おばあちゃん。お父さん、あんたのことを子供を捨てた鬼畜だって言ってたぜ」

 

 死柄木の言うことにショックを受け目の前が真っ暗になる志村。自然と涙が溢れてくる。だがそこにすかさず夏油が寄り添う。

 

「菜奈さん、奴が言うことは気にしなくていいですよ。私がいます。あと游雲の準備ができました。あとは……」

 

 夏油は志村が話している隙に游雲の縛りを実行していた。そして虹龍と明王を呼び出し、両方を呪霊装術を発動して明王の鎧の上から虹龍の結晶を身に纏う。死柄木に直に触られないようにしている。

 

「呪霊装術・虹龍転身、明王転身の二つの合わせ技……龍王転身」

 

 龍王転身は研鑽によって生み出された夏油の近接戦闘の最終形態だった。防御力はとんでもないが、その代わり呪力の消費が激しい。

 群訝でも戦闘をして移動でも呪力を使ったせいで夏油の莫大な呪力も心もとなくなっている。

 

「おばあちゃん、夏油といやに仲いいけどお前らそう言う関係か?息子捨てて孫より若い男と恋愛かよ?こいつは傑作だ」

「さっきから酷いことばかり言うね、君は。そんな言い方はないだろう?君のお祖母さんは私の女だぞ。申し訳ないがこれから君を殴る。仕方なかったってやつさ。だって君、強い上に人を殺しすぎた」

「部外者は引っ込んでろ。お前も壊してやるよ」

「それが義理の祖父に対して言う事か?私は君のお祖父ちゃんだぞ」

「気持ち悪い事言うな……!」

「その暴言、祖父から孫への教育が必要なようだね。手荒になるけど許してくれ。何故なら君は問題児だからだ。私も心苦しいんだよ?」

 

 そこから夏油と志村対、死柄木の戦闘が始まった。だがそれはかなり一方的だった。夏油は呪力が少ないとはいえ怪我もしていない。それに志村は万全の状態だ。

 

 それに対して死柄木は満身創痍、個性の超再生が無ければいつ崩れてもおかしくない体だ。しかもオールフォーワンの意識が表に出て来なくなったことで、使い慣れてない個性で戦うことになり、まともに反撃できていなかった。

 

 夏油はエイに乗りながらすれ違いざまに游雲で殴る。死柄木の鋲突を正面から打ち破り的確にダメージを与えていく。志村は泣きながら遠距離から夏油を援護するように狐火を放つ。それが続いて超再生の効力も弱まって来ていた。

 遂には死柄木がまともに反撃できないくらいに弱まった。大きな隙が生まれ、この戦いの趨勢が決まろうとしていた。

 

「そろそろ終わりにしなければね。私が雄英を卒業してからだから、いつになるかはわからないが、将来君の叔父か叔母が生まれるはずなんだ。家族が増えて嬉しいかい?」

「……壊す……俺が壊す……全部……」

 

 死柄木は意識が朦朧としているのかうわ言のように繰り返す。

 

「そうか……君にも喜んで欲しかったのだがね。残念だよ」

 

 夏油は無念そうに首を横に振る。

 

「では菜奈さん、いいですね?」

「……うん、頼むよ」

 

 志村に確認を取って最後の一撃の準備をする。

 

「君を始末するにはこれくらいしないと無理だろうな。呪霊操術・極ノ番『うずまき』……さようなら、私の孫よ。君とも仲良くなれたらよかったと思っていたよ」

 

 最低限の呪霊だけを残して、それ以外のすべての呪霊を一つにまとめて超高密度の呪力を放った。死柄木は避けることもままならず、それが直撃した瞬間に大爆発を引き起こし閃光が辺りを明るく照らした。

 

 死柄木は跡形もなく消し飛んだかに思われたが、腕を除いた上半身だけの姿で地面に落下した。

 

「これにも耐えるのか……一体どういう体を……菜奈さん?」

「最後くらい私がやるべきだと思う。やらせてくれ……頼む」

 

 とどめを刺そうとする夏油だったが、涙目になりながら懇願する目を向ける志村の想いを汲んで彼女に任せる。志村は死柄木の側に寄り添う。

 

「おばあ……ちゃ……」

「君のやったことは許されることじゃない。だけど君の祖母として、私は君に安らかに眠っていて欲しい」

 

 志村は超高温の白い炎で死柄木の体を包んだ。それはまるで供花のようであった。その美しい炎は灰になるまで燃やし尽くした。志村はそれを沈痛な面持ちで見ていた。

 

「菜奈さん、灰を入れるならこれどうぞ」

 

 夏油は残しておいた格納呪霊に入っていた壺を志村に渡す。

 

「ありがとう、傑。私……知らなかったんだ……」

「…………」

「孫の本当の名前さえ知らなかった。弔が名前だと思っていたけど、テンコって名前なんだって。どんな字を書くんだろう……?どうして私は恨まれていたんだろう……?私はこの子のこと何も知らなかった。覚悟していたはずなんだ。彼はヴィランだから、戦わなくてはならない、傷づけることになるかもしれない。でもやっぱり辛いよ、傑」

 

 志村は立っていられないほどに泣き崩れ、夏油が抱き留める。

 

「彼は罪を犯した。その過程に何があったかは分かりません。でも私たちが今この時に止めなければならなかったのは目の前の光景を見れば明らかです。赤の他人より血のつながった祖母であるあなたの手でトドメを刺されたのは、彼にとっては救いであると私は考えます。気に病むなとは簡単には言えませんが、彼の冥福を祈りましょう。そして来世では幸せに生きれることを願いましょう」

 

 夏油は転生している。神の存在はあまり信じていないが来世はあると信じていた。

 

(死柄木弔、いや志村テンコ、君は強かった。でも強いだけではダメだ。それでは前世の私のようになる。次は壊さない人生を送れるといいね。まぁ私が言えることではないかもしれないが……)

 

「そうだね。ホントは良くないのかもしれないけど、お墓作ってあげたいな」

「雄星教の施設のどこかにお墓を作りましょうか」

 

 更地になった戦場で夏油と志村は肩を寄せ合っていた。

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