山で薬草を摘んでいた時、ふと思った。
アイテム置き屋さんしてぇ~。いや、しよう。思い立ったが吉日だ。準備だ準備。
「そういうわけでちょっと行ってくる」
「はっ?え、どういうわけで?どこに?」
「それじゃあ」
「えっ。………………師匠、行っちゃった。夕飯までには帰ってきてくださいよー」
アイテム置き屋さんとは!!!アイテム置き屋さんである!!!それ以上でもそれ以下でもない!!!
身元が割れないように変装しつつ、箒に乗ってえんやこらと飛んでいくと早速目的地に到着。アイテム置き屋さんの血が騒ぐぜ。
よおし。今日はこの森にしよう。住んでいる町からも近く、見習い冒険者が初めてのクエストでよく行く小さな森。生息している魔物もスライム(ふにょふにょして可愛い。害はない)や吸血コウモリ(手のひらサイズで可愛い。ほとんど噛まない)しかいないオーソドックスな森だ。何なら危険度ではこの魔物たちよりもあそこにいる鹿の方が高い。ダンジョン評価的には下の下。何ならその辺のガキでも遊びに来れる程手軽で親しみやすい。
はい。そんな遊び場ダンジョンに置きますわこの薬草!本日、早朝に摘みました原色の緑が眩しい薬草です!正式名称ナオール草、丸っこい双葉と触るとぬめっとしているのが特徴である。気持ち悪くないぬめぬめ感、例えるなら蜂蜜くらいのぬめぬめ感。良いぬめぬめだ。
口に含むと苦いがどことなく爽やかな気分になれるし、傷も治る不思議な薬草だ。この世界で薬草と言えば、100人中99人がこれを思い浮かぶくらいには身近なものだな。大体はそのまま使わずに、何かと合成させてポーションにする。その方が効果も高いから。
でもそんなのは関係ない。この小脇に抱えたお手製の宝箱に入れて、それで目に付くところに置いて、何も知らない冒険者に拾わせてぇ。理由?アイテム置き屋さんの流儀に理由なんて必要ないだろうがよ。
ほら感じるだろ、この薬草の戦いたがっている気迫を。『僕は単体でも魅力的なアイテムなんですよ!ポーションになんて負けません!』と声が聞こえてくるかのようだ。うんうん。わかるよ。君も立派なアイテムだもんな。その心意気や良し!!さぁ戦ってこい!
……さてどこに置こっかな。
途中、スライムと戯れ英気を養う。アイテム置き魂はこういった現地調査で培われるものだ。スライムは良い。両手で挟んでふにょふにょすると日頃の疲れが癒されていく。
青スライム可愛い。緑も赤も好きだけど、やっぱり青だな。この森のスライムは服も溶かしてこないし、大きくないし。大きいスライムと遊んで服が溶かされた時、帰るのが大変だったなぁ。間違いなく人生の危機トップスリーに入ってた。包帯か葉っぱの二択は人間の尊厳に関わる一大事であった。
…………あぁいかんいかん!アイテム置き屋さんは過去を振り返らない!本来の目的を忘れてはならないのだ!アイテムを置き、見守ることが最大の目的!寄り道もほどほどに!
そうして襲ってくる吸血コウモリを箒でしばきながら森の中を矯めつ眇めつ注意深く観察する。じろじろ。ふうん。冒険者だけでなく近隣の村人も植物の採取に来るためか、普通に整備されてる。道も踏み固められて通りやすく、案内板も所々に設置されてるな。
それもそのはず。だってここは初心者にとっての最初の関門……もといお試しダンジョンである。いわばチュートリアル修練場、お使いクエストの具現化、ピクニックに持って来いのダンジョン3年連続優秀賞受賞である。ギルドが手を加えているから安全だぁ!
………………………………置くとこないなぁ。
アイテム置き屋さんは勢いが大事!「何してるんだろうな……」と自問自答し始めると泥沼にはまる!そうだ!奥に行こう!奥に!
ふんすふんすと気合を入れて森の奥に奥に進んでいく。爛爛と陽の光が頭上から降り落ちるのと対照的に薬草の入った宝箱が心なしか寂しそうに光る。『無理しなくていいんですよ?』と囁くようだ。でも安心しろい!既に置くところは決めた!というかそこしかない。
おぉ……いつ見ても綺麗な草原だ。天気が良いからか余計にそう思う。
森の奥に当たる場所には草原がある。微妙に木々に覆われて狭苦しい道を抜けた先で辿り着くのはこの草原だ。ふわふわの絨毯のような草に、透き通る泉、場にそぐわない小屋。そして『ここが森の奥です。お疲れさまでした』と書いてある看板!人の手がバリバリに入っているし、今も何人かくつろいでる!ピクニック中かな?本当に分類上ダンジョンかここ?
さあて着いたな………今日のアイテム置きスポットに……
「あら、あなたもピクニック?良い天気ですものね」
おっと、声を掛けられてしまった。見ると……あっやばい知り合いだ。昨日仲良くお茶したばかりの貴族のお嬢さんだ。いつものひらひらしたドレスではなく動きやすい服装でピクニックに来ているようだな。よくよく観察すると護衛が数人付き従っている。ピクニックには似つかないなぁ。ご苦労様です。
しかし、アイテム置き屋さんは正体を知られるわけにはいかない。なぜならアイテムを勝手に置くのが趣味だと思われると……引かれる!ドン引きされる!この前友人にこの趣味を伝えると「悪いことは言わないから、意味の分からないことは止めなさい」と本気で諭されてしまった。
なんでわざわざアイテムを置くのかと聞かれると「なんでだろうね。なんでだと思う?」と逆に聞き返すしかなくなってしまう!敢えて理由を述べるとすれば、なんだか楽しいからだ!
しかし僥倖!相手はこちらに気づいてないご様子!だって変装しているもの!そうだ声色も変えなきゃだ!
「んん゛。いいえ、美しいお嬢さん。崇高な使命のために、です。ふふっちょっとカッコつけすぎですかね」
「?まぁ楽しんでね!」
貴族のお嬢さんは「なんだこいつ」みたいな表情を巧みに隠しながらそのまま去っていく。よし!小粋なトークを挟みつつも、正体もバレずに済んだ!万々歳!
ピクニック集団を尻目に吟味に吟味を重ねる。こっそり置く?いいや、敢えて堂々とだ。コソコソするのは逆効果。あとこれ自体は決してやましい行為ではない!愛と善意と気持ちよさのためだけだ!悪意は0なのだ!
この場で一番目に付くのはやはり草原のど真ん中に位置する泉だ!森の精霊が出ると噂されるあの泉は水質良し、飲んで良し、入って良しの三拍子揃った非常に綺麗な泉である。そこそこの深さでそこそこの広さ、そこそこの水中生物がいるから泉というより湖に近い感じがするな。
それに何といっても特徴的なのが中央に浮かぶ岩だ!岩が水上から顔を出す……ではない!物理的に水の上をふわふわ浮いているのだ!すごいね!まるで王侯貴族のパーティーに参加した時の自分のようだ。あの岩も苦労してるのかもなぁ。
よし!あそこしかない!そうと決まれば即実行!早速行くぞ!
箒に乗ってスイスイと岩に向かって飛んでいく。周囲からは「危ないぞー」とか「何してんだー」とか叫ばれているけど気にしてはいけない。正気でアイテム置き屋さんなんてできるかよ!こちとら何年も箒に跨って飛んでんじゃい!危ないわけあるかぁ!
到着!おお、なるほど。乗ってみるとわかるが、人が10人立てる程の広さの平面で思いの外安定している。これはアイテムを置くのに適した良い場所だぁ!
薬草君!君が一番目立つ場所がここだぞ。うんうん。『いいんですかい?こんな立派な場所に置いてくれて……しかも宝箱に入れて!』と感動している気がする。いいんだよ。君は確かに地味で、どこでも採取できて、単体では効果がちょっとな……と皆が思っている。
それでも君は無くてはならない存在だ。何より初心者冒険者にとっては貴重な回復手段だ。
君が誰かにゲットされる瞬間が鮮明に思い浮かぶよ。宝箱を開け、薬草を手に取る。………………………………多分微妙に納得いかない顔をしてそうだな。まぁいいか!
よくよく確認すると先客がいるな。こんにちは!
「は?誰?」
「どうも可愛らしい精霊さん。休んでいるところに申し訳ないが、ここにアイテムを置かせて欲しい」
「置くのは構わないけど……てかこの魔力。あんたまさか……」
「ではさらば!」
精霊相手には姿だけの変装も意味を為さないか。有名人は辛いのぉ!ならば即撤収が丸いと見た!宝箱は置いていくぜ!
「あっ!待ちなって!ちょっと話するだけでも……」
何か言ってるみたいだが、知らん!一体誰と勘違いしているのだ!自分はただのアイテム置き屋さんで無関係だ!
「アイテム置き屋さんは何にも縛られないのさ!」
岩を飛び降りる勢いそのままに、全速力で逃げるのみ!目的達成!箒に乗って急いで帰ろう!
「精霊さん!この場にいる皆さん!良い一日を!」
ポカンと口を開いている自分以外の全員に向かってウインクをする。目元を覆う仮面付けてるからわからないかな?あばよ!
森が見えなくなる位置まで飛んでいき、目に付いた木の陰にシュタっと舞い降りる。ふぅ………………………………
あー楽しかった!!!!!でもあそこってわざわざ誰か拾いに来るのだろうか。拾ってくれたらいいなぁ。このワクワクドキドキ感もアイテム置き屋さんの醍醐味なのだなぁ。
変装を解いて、何食わぬ顔で帰ってきたわけだが。
「師匠。あれから結局どこに行ってたんですか?」
「アーキ森。研究意欲が刺激される有意義な時間だったよ」
「そうですか~よかったですね~。でも承認が必要な書類溜まってますよ。どっさりと」
「………………………………わぁ」
気持ちよくアイテム置き屋さんを遂行するためには本業を疎かにしてはいけない!反省!弟子の目が怖い!本当にこれを今日中に?冗談……じゃないよね。ならなんで早めに言ってくれなかったの……!?言ってた?昨日も一昨日も?溜めていった結果?今夜は徹夜だぁ……
だがアイテム置き屋さんはめげない。また違う場所にアイテムを置くために!
・アイテム置き屋さん
ストレス発散の方法がこれしかない
・弟子
怒ると怖い
・スライム
可愛い