アイテム置き屋さん、はじめました   作:面相ゆつ

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なんか長くなっちゃった。


魔法教本(中級編)置くよ

 

 今日は暇だ。夕方に差し掛かりそうな時間になったが、来店したお客さんは三組しかいない。少ない。田舎の寂れた駄菓子屋でももっと来るだろう。あれってどうやって儲けてるんだろうね。意外と通販対応とかしてたんだろうか。解明する機会がなくなってしまった永遠の謎だ。

 まぁ暇なのには理由がある。なぜなら雨が降っているから。しかも海をひっくり返してサメが喜んでダンスするくらいの土砂降りだ。むしろ三組もよく来たな……

 

 アンナも熱を出して寝込んでいて部屋で安静にしてもらってる。この前は私が寝込んでいたから交代制でダウンした形になる。あとでまた様子を見に行かなければ。

 

 

 「ごめんくださーい!!ごめんくださーい!!!開けてー!」

 

 む!そうこうしているうちに四組目!大声が店の外から響いてくる。それとドンドンと扉を叩く音も。いや、そんなことせずに普通に入ってこいよ。営業時間中だから鍵なんて掛けてないぞ。

 

 あれか?もしかして押し売りか?おいおい、ここが道具屋だと知っての狼藉かぁ?ワクワクしてきたな。決めた。押し売りなら逆にこの新しく仕入れたこの魔法教本(中級編)を売りつけてやろう。押し売りバトル勃発させよう!

 

 これ、初級編と上級編を一緒に仕入れなかったから店の中では微妙な立ち位置なんだよなぁ。でも表紙はローブを着た二足歩行の猫の絵があって可愛い。表紙買いされてもおかしくはない。ちなみに初級編と上級編は文字しかない真面目な表紙だった。なんでだよ。

 

 「はいはい。どちら様?」

 

 右手に魔法教本(中級編)を持ち、未だにドンドンと叩かれている扉をゆっくりと開け放つ。うおっ!とんでもない風雨だ!!早く入ってくれないとお互いにずぶ濡れになっちゃうぞ。

 

 「冷たい!雨粒が大きくて痛い!!悪いけど早く中に入れて!」

 

 ……………………目の前にはキャンキャンと吠えているピンク髪の女の子がいた。大きな荷物を両手で抱えているせいで頭がひょっこりしか見えず、さらには傘もさせていない。濡れるも何もこんな暴風雨の中ここに来るのが悪いのでは?と思うが、私も台風の日は非日常感ではしゃぐタイプの人間だったので口には出さない。停電もウキウキするタイプの人間でもあった。

 

 「まぁまぁ。とりあえず入ってくれ」

 

 「そうする!」

 

 私が扉を抑えている間に、びしょびしょになりながらよたよたと店の中に入ってくる。少しの時間扉を抑えていただけで私も濡れてしまった。こんな豪雨で外に出るとか危険でしょ。

 ピンク髪の女の子は抱えてていた大きな袋を降ろし、肩で息をしている。すごい重そうだったもんな。何が入ってるんだろうか。

 ……………………はっ!まさか本当に押し売りに!?わかったぞその中身は商品なんだろう?始まるか、押し売りバトル…! 

 

 期待に胸を膨らませ、濡れ鼠状態の子にタオルを手渡す。そこでようやくまじまじと姿を確認したわけだけど……

 

 「あぁ君は……夢魔のお姫様じゃないか。いらっしゃい。この悪天候で大変だっただろうに」

 

 ピンク髪に特徴的な魔族の尻尾と角、悪戯っぽそうな目が印象深い可愛らしい夢魔のお姫様がそこにはいた。度々夢の世界では会っていたが、こちらに来るのは珍しい。

 それにしても押し売りじゃなかったかぁ。残念。一回くらいは押し売りバトルとかやってみたいんだけどなぁ。多分負けるけど。大体買っちゃうよ私は。片手に持っていた魔法教本(中級編)

 

 「タオルありがと。ここに出てくるつもりだったんだけどね。飛んでくる空間の座標がズレちゃって……こんな感じなの」 

 

 タオルで全身を拭きながら見せびらかすようにくるりと回る。不機嫌というわけではなく、けらけらと楽し気に笑っているから安心だ。『やっっちゃいました』と言わんばかりの愛嬌がそこに備わっていた。

 ただその明るさとは別に、服も濡れてしまっていてなんだか風邪を引きそうで心配になるな。

 

 「ちょっと待っててくれ。着替えを貸すよ。その格好じゃ風邪を引くかもしれないし」  

 

 今着ている服は乾燥させた方がいいだろう。風と熱の魔法を弱めに使えばすぐ乾くはずだ。でもそれよりお風呂にでも入ってもらった方が体も温まるからいいのかも?加えてそう提案する。 

 

 「あ、ほんと?助かる……じゃあお言葉に甘えてちょっと借りるね」

 

 「よし、案内するから。温まってる間に着替えも用意しとくよ」

 

 「……なんかごめんなさい。急に押しかけちゃったし……」

 

 おうおう!いっちょまえに申し訳なさそうにしてるぜこのお嬢さん。良い子だなぁ。

 

 「謝る必要なんてないさ。子どもが大人に遠慮なんてしちゃあいけないよ。それに君が体調でも崩す方が私は辛くなってしまう」

 

 そもそも気にすることなんて全くないのに。誰だって目の前の人が困ってたりしたら助けるもんだ。それが知り合いならなおのことだ。

 

 「……………………相変わらずよくそんな浮ついたこと言えるね。あと歳なんてそう変わらないでしょ?」

 

 「うーん。どうだろう」

 

 魔族だって年齢通りの見た目はしていないんだから、歳上とか歳下とかわからなくないか?でも私の方が多分大人だぞ。

 

 

 

 「……着替えを用意してもらえたのは感謝してるんだけどね?ものすごーく。質もびっくりするくらい良いし。大きさも……一部を除いて……大体合ってるし」

 

 「どういたしまして」

 

 「気を悪くしないで欲しいんだけど、これ……あなたが着てるの?そのぉ、今までの付き合いでこういう感じのを着てるのが想像ができないっていうか。えっと似合わないとか言ってるんじゃなくてね?むしろ今のその古臭いローブよりよっぽど似合うと思うから」

 

 「……………………頂き物なんだ。まぁ、私の趣味ではないな」

 

 「え゛っ。かなり高級な生地を使った……多分体に合わせて制作された受注品が、頂き物?だってこれお金かなり掛けて……嫌なら嫌って言った方がお互いのためだとあたしは思うよ……?」

 

 そうかも。嫌ではないけどね。うん……もしも要望が通るなら肌をあまり出さない服だと嬉しいんだけどなぁ。 

 

 

 

 

 「紅茶でいいか?」

 

 「うん、ありがと」

 

 一段落の意味を込めて温かい飲み物を手渡す。外の雨は少しだけ弱まってきているような、きていないような。結局大雨には変わりないか。窓を横殴りに叩く雨粒はまだまだ元気いっぱいだ。

 

 「今日、ここに来たのはね。この前のお礼のためだったの」

 

 ポツリとそんな言葉が落とされた。この子も律儀だなぁ。 

 

 「何度も言うけどいらない。困った時はお互い様ってやつ。女王様が元気になったからいいじゃないか。それで話は終わりだ」

 

 「よし!じゃあちょーっと考えてみて欲しいんだけどね?『身内の命を助けてもらいました。しかもお礼なんて必要ないと言っています。また困ったらすぐに来るとかも言ってます。無償で。この人は血も繋がっていない人です』……これってどう思う?」

 

 「怖い。そんなこと言う奴はあまり信じない方がいいぞ。後から何言ってくるかわからないからなぁ」 

 

 私も道具屋だ。タダより高いものはないことはよぉく知っている。他者を介した取引において、無償は非常に怖い。価値があるのならなおのことだ。ある意味形にならない何かを人質に取られている気分になるかもしれない。

 

 「わかってんじゃん!!!!!今ね、それと同じ状況!」

 

 「私は『貸すならあげたと思って貸せ』の精神で生きてるから。後からそれを盾にがたがた言わないから安心してくれ。私がそうしたいと思ったから手を貸しただけで、幸運なことに自分のできる範囲だっただけなんだ。もしも心配だってことなら契約を交わしてもいいぞ」

 

 そうだなぁ。契約内容は『そのことを盾にして何かを無理やり従わせようとすれば激痛に襲われる』とか?私も痛みは嫌いだからしっかり守るはずだ。

 うんうんいい考えだ!これならお姫様も安心する。どうかな?と問おうとしたが……やめた。悲しそうに目を伏せたお姫様を見てしまったから。そこでようやく私が失言したことに気が付いた。 

 

 「…………………………………………ごめんなさい。素直に言うね。あたしの感謝の気持ちを受け取って欲しいの。義務感とかそんなのじゃないの。ただのあたしの我が儘。それでもダメ?」 

 

 あ……そっか。私は今まで酷いことをしていたんだ。私は、この子の感謝の気持ちを何でもないかのように無下にしていた。感謝を拒否していたのと同じだ。正直私にとっては『ありがとう』の言葉だけで十分だったけれど、それは本当の意味では不十分だった。結局私の独り善がりだったわけだ。反省、だな。

 

 ……………………負い目を感じさせるつもりなんてなかったのに。

 

 「すまない。君がせっかくお礼をしてくれるって言ってたのに。今までの私の言動は軽率だった」

 

 「いいよ別に。あなたは良い人だけど、でも都合の良い人過ぎるよ……」

 

 「……かもな。私もそう思ってたなぁ」

 

 「え?」

 

 「何でもないよ。こっちの話」

 

 まだまだ未熟だな私も。

 

 

 

 

 

 変な雰囲気になりそうだったが、気を取り直していこう!!うん!!残った紅茶を一気に飲み干す!さぁさぁ!どんなお礼をくれるのかなぁ!楽しみ!

 

 「それで……お礼の品っていうのがこの大きい袋でいいのかな」

 

 お姫様が抱えてきためちゃくちゃ湿ってる袋を指差す。びっしょびしょだ。中身濡れてない?大丈夫? 

 

 「そうそう!見たらびっくりするよ!絶対に!色々持ってきたんだから!」

 

 私の若干の不安をよそにお姫様の自慢げな顔だ。にんまりと口を三日月形にし、ゆらゆら揺れる尻尾もどこか自信満々に見えるな。これは相当期待できるのでは?なんだろう?夢の世界にしかない貴重な薬草とかだといいなぁ。 

 

 「まずは……これよ!」

 

 ドスンとド派手に袋の中から取り出されたのは金塊だった。は?金塊。どこからどう見ても金塊。黄金に輝く物体、金塊だ。こいつマジかよ。

 

 「金塊よ!すごいでしょ!」 

 

 お礼の品で金塊はヤバいって!どうすんだよこれ!

 

 「どこから持ってきたぁ?」

 

 「お城の金庫!お母様もいいってさ。だからもちろん大丈夫よ?」

 

 いいんだ。じゃあもらうか……いいのかなぁ。まぁ金製の魔道具でも作ることにしよう。

 

 「次はね、これ。はいどうぞ」

 

 先程より軽い手取りで取り出したのは……指輪?だ。私の手のひらに置かれた指輪は何の変哲もない。ん?でも魔力を感じるから魔道具の類か。金塊に比べたらまぁ常識の範囲内ではある。木の幹が絡みついたような銀のリング、バラの形に削り取られた青い宝石が付いている。へぇ~、綺麗。

 

 「前にくれた魔結晶の指輪の代わりにお母様が渡してって」

 

 「アレの代わりがこれになるのか……」

 

 あの、ことわざであったよな。えーっと、海老で鯛を釣るとかそんな感じだな。得した気分になる。

 

 「あたしも同じような指輪付けてるよ。ほら」

 

 「君のには紫色の宝石が付いてるんだね」

 

 「お母様のは赤色の宝石。三人で色違いのお揃いよ。これを付けてると生きてる限り、どこにいても場所がわかるんだって」

 

 あぁなるほど。この指輪は持ち主の魔力に反応し、紐づけられた魔力、この場合は女王様とお姫様の魔力かな?それらが連鎖して感知し合う魔道具か。どこかに遭難してもこれを辿ってくればすぐにで見つけることができそうだ。結構便利だな。

 ただ疑問があるとするなら、これ家族に渡す物なのでは?という部分だな。私の居場所がわかってもそんなに利点ないよなぁ。ちょっとしたおまけ感覚なのかな。

 

 「……身内ながら、想いが重いよねぇ」

 

 「んー?重くない重くない。この指輪軽いよ」

 

 「うんうん、そうだねー」

 

 訳知り顔で頷かれても私は困るんだけど。

 

 

 それから先はどんどんと出てくるわ出てくるわ。どんだけ持ってきてんだ。いくつかは完全に濡れてしまってどうにもならなくなっていたが。特に紙製の何かはほとんどダメになっていた。何が書かれているかも判別できない程に濡れに濡れていた。聞けば夢魔の秘伝書の写しらしい。めちゃくちゃ気になる……!乾かしたら読めないかなぁ。魔族の、しかも王族のだぞ?

 

 「あは!ぐしょぐしょじゃん!雨に降られちゃったもんね。ま、今度こっちに来た時、原本見せてあげるからね~」

 

 水の滴る書物を指でつまんで大笑いしてる。反応がかるーい。

 よくよく考えたら写しと言えど、ガチガチの秘伝書は普通に持ち出し不可だもんな。あれだろう、一般公開可能な範囲の秘伝書。博物館とかで期間限定で公開する感じの。一般公開可能な秘伝書とはこれ如何に?お菓子のレシピ書?夢魔のお菓子ってめちゃくちゃ甘そうなイメージある。それはそれで嬉しいなぁ。

 

 「持ち出せるなんて意外と規則緩いんだな」

 

 「……………………いやぁ?結構議会の承認通したよ?城内で閲覧するのならまだしも、やっぱり持ち出しちゃいけない書物だし。あたしが王女だって加味して、お母様に口添えもしてもらって、そこからもう一押しでようやくだから苦労したもん」

 

 私が能天気なこと口にしたら釘を刺されてしまった。そんな稟議が必要で、最後は王族パワーでどうにかしたもん持ち出すなよぉ。そんな門外不出な書物、私の手元に来る予定だったのが余計怖い。それがぐちゃぐちゃに濡れているのも非常に怖い。苦労して持ち出した写しが無駄になってるのに爆笑してるのがさらに怖い。結論。怖い。

 

 「えぇ……なんでそこまで」

 

 「もう!何回でも言うけどそれくらい感謝してるってこと!これでもまだまだ足りないくらいなんだから!」

 

 「むぅ」

 

 そう言われてしまうと口答えはできない。甘んじてありがたく受け取るぞ。今度行った時のお楽しみだぁ! 

 

 

 それからも色々出てきて………………………

 

 「こ、これは?」

 

 「夢魔の衣装。伝統的なやつだけど、皆着ないよねぇ」

 

 「だって衣装って言うには布が……夢魔ってすごいなぁ」

 

 

 「これは?」

 

 「秘薬。道具屋さんならこういうの好きでしょ!」

 

 「好き好き!へぇ~嬉しいな。どんな効能なんだ?」

 

 「飲んだら十日間くらい眠れるよ!」

 

 「ほぼ毒じゃないか」

 

 

 「……これは夢見草か」

 

 「あ、知ってるっぽい反応」

 

 「夢の世界にしか自生しないから手に取るのは久しぶりだけど。香りが好きなんだ」

 

 「お香にして焚くとよく眠れるよね~」

 

 「え、あ、これお香に加工するものなんだ。サラダに入れて食べてた」

 

 「えぇ……」

 

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 「うん!これで全部!」

 

 大きな袋だから多いんだろうなと思ったけどここまでとは。ずらっと並べると圧巻の様子である。押収物の陳列かな?珍しいものがたくさんあって見てて楽しかった。

 

 「重かっただろうにありがとう。こんなにたくさんの貴重なものを貰えて嬉しいよ」

 

 「あたし的にはまだまだ物足りないけどね~?」

 

 あげた側が物足りないとは……ただこれで恩は清算されたと考えていいはずだ。いや、こういった考え方はあまりにもあんまり過ぎるな。向こうは女王様も元気になって、多分気持ちの問題ではあったが負い目を解消できてハッピー。こっちは困ってた人の手助けをできたうえに、色んなものがもらえてハッピー。双方両得!めでたしめでたし!イェイ!

 

 「さてと。長居してもあれだからそろそろ帰っちゃおうかなぁ~?忙しい中来たからなぁ~?」

 

 そう言いつつちらちらと私の顔を伺っている。はいはいなるほど、引き留めて欲しいんだな。可愛い。

 

 「私はもっとお喋りしたいんだけどね。忙しいんなら仕方ない。バイバイ、また会おう」

 

 「そこは引き留めなよ」

 

 

 なんだかんだで夜までいたよあの子。

 

 

 

 

 

 アンナの熱が下がり、よく眠っているのを確認した後。色々片付けしてたら深夜になっちゃった。しかし、私は未だに元気いっぱいだ。夏休み序盤の男児くらい元気だ。理由?だって今日ほとんど働いてないもんね!大雨様最高だぁ!

 

 行くぞ!ダンジョンへ!でもいつもの格好で濡れたら気分が盛り下がるので久々に空間転移しようか。刻印をつけてるとこなら座標も間違えることもないから平気だ。

 箒で飛ぶっていう道中が楽しめないけど、まぁまぁ。そこはね?飽きがこないためのアクセントとしてね?傘さし運転も危ないって聞くし。また風邪ひきたくないし。あの空間を切り裂いて目的地に行くのも楽しいもんだよ。一瞬で着くから旅情もなーんにもないけどさぁ。

 

 へへ。どこ行こうかなぁ。火山?汗かきたくない。雪山?うーん、雪を触りたいわけじゃないな。ジャングル……はこの前行ったから却下。なんか今日は屋内ダンジョンの気分かも。

 

 屋内……屋内……そうだ!あそこ行こっか!

 

 

 

 はい。というわけで空間を切り裂きものの数秒で辿り着いたのはスライムの館です!ここは多種多様なスライムがたくさんいる館型のダンジョンで、難易度は低いが私にとってはお気に入りの場所だ。なぜなら館中を好き勝手にぴょんぴょこ跳ねるスライムの姿が愛らしいから!

 

 アイテム置き屋さんね、スライム好き。大きいのも小さいのも中くらいのも好き。一番好きなのは両手で抱えられる大きさのかな。ちょっぴりひんやりしてるのが特にいい。しかもこの館のスライムはふっつうに人懐っこくじゃれついてくるからリスみたいな小動物に思えてしまう。追いかけなくても触らせてくれるし、機嫌を損ねなければあまり襲い掛かってこないしで……最高だ。

 

   

 さてさてさて!本日置かせてもらうアイテムはこれだぁ!!魔法教本(中級編)だ!!  

 ……………………魔法教本(中級編)だ!綺麗に包装してるからおぉなんということだ、見栄えもいいじゃないか!道具屋としての技術……出てしまったよ。ふふふ包むのは得意だ!まぁ結局宝箱の中には入れはするから意味あるかと質問されると困るけど!

 魔法教本(中級編)はれっきとした専門書だからお店で買うとなるとなかなかいいお値段するぜ!具体的には高級で美味しいリンゴが二十個分だ!!専門書とか学術書っていざ買うとなると思ったより高くて臆しちゃう。

 

 

 魔法教本(中級編)さん、今日はよろしく!!『売れ残りだから置いていくんですか?』

 

 違うよ……そういう後ろ向きな理由じゃないよ?ごめんね、そんな風に思わせてしまったのはアイテム置き屋さんの責任だ。あなたは素敵な本だ。表紙の見た目もそしてもちろん内容も。でも、あなたの輝ける場所はあの道具屋の中ではない。

 ねぇ……魔法教本(中級編)さん、なんでアイテム置き屋さんがここを選んだと思う?このスライムの館はね、ダンジョンとしての難易度も低くてたくさんの冒険者が訪れるんだ。まだまだ発展途上で未熟な冒険者たちが……あなたを必要とする冒険者たちが!『……!!!』

 

 誰かの手に渡って、読んでもらってこその本だもの。魔法教本(中級編)さんわかってくれるかい?あなたを置くのは在庫処分なんて悲しいものじゃない。捨てるつもりなんて毛頭ない。前へ進むために置くんだ。『……すみません。勘違いしてました。そこまで私のことを考えてくれてたんですね』

 

 あなたに不憫な思いをさせてしまい申し訳ない。でもこれからは相応しい人が受け取ってくれるはずさ!!『はい!!!!』 

 

 

 

 うんうん!!…………………………………………何言ってんだろうな私?

 

 

 

 

 アイテム置き屋さんが乗れる程度にちょうどいい青いスライムの上に跨り館の中を移動する。懐にしまっていた薬草をあげると快く乗せてくれた。この子は薬草が好物なスライムで助かった。乗り心地はぷよぷよしていて振動も少ない。楽ちんらくちん!たまに跳ねるのがまた楽しい。まさにロデオだ。

 

 そして頭の上には赤いスライム!片手に収まる大きさだから首も痛くないぞ!この子は……とろとろする粘度のスライムだな。ハットにべちょぉとへばりついている。くつろいでるのかな?可愛い。

 

 さらに腕に抱えるのは緑のスライム!!この感触……………………たまらないあなぁ。服を溶かすスライムはいないから安心して抱きしめられる。一張羅が溶かされちゃあ悲しくなっちゃうからね!えへへぷにょぷにょだぁ!この子の上に宝箱も置いちゃお!あ、宝箱の下半分が入り込んじゃった。

 

 ……………………最終形態だな。アイテム置き屋さん最終形態……!!無敵、だね。他人が見ればスライムに襲われているように見えるかもだが、それも良し!まぁこんな夜中にスライムの館に来る奴なんていないよ!  

 

 

 

 館とは言うが内装は素朴なものだ。高級そうな彫像などは何もない。うんうん、こういうのでいいんだよ。それより目に付くのはやはりスライムだね!左右を見ても、天井を見ても、床を見てもスライムがたくさんいる。スライムの館の言葉通りである。

 

 周囲の至る所にいるスライムはこちらに興味を示しつつも、飛んだり跳ねたりして自由気ままに過ごしている。複数のスライムがその辺をコロコロ転がってみたり、重なり合ってタワーみたいになっていたり。廊下に置いてある観賞用の植木に擬態しようと頑張ってるスライムもいる。

 

 ここまで敵意がないのって不思議だよなぁ。冒険者と楽しく戯れるうちに人に慣れっこになったのだろうか。

 おっと、緑スライムくん?シャツの中には入りこまないでくれ。直に肌に触れると少しぴりぴりするから。

 

 「あはは!くすぐったい!でも入っちゃダメだぞ~?」

 

 そう言って緑スライムを指で突っつくと、しょんぼりした雰囲気ですぐに引っ込んだ。表情は全くないのにしゅんと落ち込んでいるのがわかる。本当にただ戯れたいだけで危害を加えようとする気配は一切ない。うーむ。人懐っこい。

 

 

 跨っている青スライムに行く先を任せているからか、どこに向かっているのか見当もつかない。たまには自分の意思に任せない移動もいいもんだぁ。行け行け!ゴーゴー!乗馬感覚だ!馬乗ったことないけど!

 

 残りの薬草もあげるからね!頑張ってね!!はいお食べ~!青スライムの中に薬草を突っ込むともにょもにょ動いて咀嚼っぽいことをしている。心なしか嬉しそうだ。その証拠に若干速度が上がっている。跳ねる頻度も多くなったけど、振動はやはりほとんどない。スライムって流体だから衝撃を吸収してるんだろうな。うおっーー!行けーーー!

 

 そうしてウキウキで進んでいくうちに違うスライムも後ろに付いてき始めた。それでも気にせず進んでいくとスライムが追加でどんどん後ろに連なっていき、長い行列を作り大行進してる状態だ。カルガモかな?廊下を埋め尽くす大小問わない可愛いスライムたちと、それを引き連れる大集団の実質的なリーダーであるアイテム置き屋さん……最強だ……!

 

 もしもスライム使いという職業があれば、至上最高のスライム使いになれる自信さえある。魔法使うより得意になる自信さえあるぞ!だって見てよこのスライムたちを!!アイテム置き屋さんを何故か信じて後ろを付いて来てるんだぞ!スライム使いの才能以外の何でもないって!すごいって!ないなら作っちゃうか!?スライム使い!おうスライムたちよ!黙って後ろを付いてきな!

  

 「うわぁっ!」

 

 前方から叫び声が響き、ドドンと倒れる音が。むぅ!誰だ!人が気分良くスライム使いという夢に思いをはせていたのに!しかしこんな夜中にこのダンジョンにいるとはよっぽどのスライム好きと見た!挨拶だ!

 

 「こんばんは!アイテム置き屋さん兼スライム使いです!よろしくぅ!」

 

 「え、あぁどうも?よかった人間だ……いや変異体のスライム……?」

 

 見ようによっては一体の巨大スライムに見えなくもないか。後ろに引き連れ過ぎて蛇みたいに長い生物になってるもん。目の前の冒険者が腰を抜かしてる。申し訳ないことをしたなぁ。

 冒険者を起き上がらせるために青スライムから降りて手を貸す。ふむ、装備の新しさや若さ的に初心者冒険者かも。優しくしよう。

 

 「ん。でも君、一人は危ないよ?出会ったのがアイテム置き屋さんだったからいいものの、変人や変な魔物がいないとも限らないからね」

 

 「今、目の前にいる……」

 

 あぁ気が動転しているようだ。それに足もぷるぷるしていて立つのも覚束ない。これは一人きりにするのは危険だな。仕方ない、一緒に帰ってあげよう。

  

 「ちょっと動くのは難しそうだね。さぁこのスライムに乗って出口まで行こう」

 

 「ひっ。え、遠慮して」

 

 あれ?スライムは苦手なのかな。まぁあまりここのスライムは敵意がほとんどないとはいえ、一応魔物だもんな。しかしダンジョン内に足元がふらふらの初心者冒険者を置いていくわけにはいかない。

 

 「ふむぅ。じゃあ箒なら平気?アイテム置き屋さんの後ろに乗ってもらえるかな」

 

 「へ、箒?」 

 

 手元に箒を呼び出す。よいしょ。箒に跨って後ろに乗るように促す。

 

 「はい、どうぞ。もう乗ってもいいよ」

 

 「……箒ですよ?」

 

 「ん?そうだよ?あ、そっかぁ!落ちるのが不安か!こっちの腰を両手で掴むと安定するからさ。大丈夫!」

 

 「変な人に捕まっちゃったよぉ……」

 

 ぐすぐすと泣きながらもしっかりと箒に跨ってくれた。泣く程とは……まぁ一人でダンジョンは心細いもんね。 

 

 「さぁ行くよー」

 

 「嘘!本当に飛んでる!……腰ほっそぉ……」

 

 頭をぶつけないようにちょっとだけ低空飛行にしつつ、ゆっくりとすぅーっと進ませる。よしよし。落ちないようにしっかりと腰を掴んでくれてるから安定してるな。そしてその後ろをスライムたちが付いてくる。やっぱりスライム使いの才能あるかも!

 

 

 

 

 「到着!」

 

 のんびりと飛び回り、館の出入り口まで辿り着いた。と、同時に後ろに乗っていた冒険者は急いで降りてしまった。乗り心地が悪かったのかな。

 

 「あの……ありがとうございました」

 

 「いいってことよ!これからは仲間を連れて一緒に行くことをおすすめしておくね!何か起きても二人以上の方が対応できるから」

 

 「……………………あなたは結局何者なんでしょうか?」

 

 「アイテム置き屋さんはアイテム置き屋さんだよ!アイテムをダンジョンに置いていく存在さ!今日からは自称スライム使いでもあるけど」

 

 「良い人だけど、おかしい人なんだ……」

 

 そうしてドン引きされながら別れたのであった。いやぁ、自称スライム使いは引かれても仕方ないわな。うんうん。

 

 

 

 あー……出入り口まで戻ってきちゃった。魔法教本(中級編)さん、どうしようか。また戻るのもなぁ……出入り口に置くのも何だかなぁ……『ここでもいいですよ?』うーんそうする?

 腕を組んで悩んでいるとタキシードの裾をくいくいと引っ張られる。ん?と思い、そちらを見やると宝箱が下半分入り込んじゃった緑スライムが体を器用に伸ばして引っ張っていた。しきりに宝箱をぺしぺし叩き、何かを伝えようとしている……?あ、そういうことかぁ!

 

 「緑スライムくん、君もしかして……宝箱は任せてくれって伝えようとしてる?」

 

 「!!」

 

 すごい勢いで伸び縮みしてる!多分そうなんだ!

 

 「えっと……じゃあその宝箱を欲しそうな人がいたら渡してもらえるかな?」

 

 「!」

 

 元気よく跳ねてる跳ねてる!これは了承を得たと思っていいだろう。助かる!ふふふ、今宵のアイテム置き屋さんは運が良いぜ!

 

 「ありがとう!緑スライムくん!頼んだ!でも危なくなったらすぐにポイっと捨てるんだよ?」

 

 「!!!」

 

 通じ合った者同士が行うこと、それは握手だ!緑スライムくんが触手のように伸ばした体の一部とグッと熱い握手を交わす。めちゃくちゃ物わかりのいいスライムだな! 

 

 

 ハットとほぼ一体化している赤スライムをぺりぺり引き剥がし、出入り口の扉付近に大勢いる他のスライムたちの元へ帰す。名残惜しいが、拾っていくわけにはいかない。

 

 「スライムの皆ー!今夜はありがとうー!楽しかったよー!」

 

 大きく手を振るとそれに反応してスライムたちが伸び縮みする。おぉ……別れの挨拶までもできるとは恐れ入った。それでは、ばいばーい! 

 

 

 

 

 

 大雨の降った数日後、よく晴れた日。道具屋にて。

 

 「買い取りお願いしたいんですけど……これって売れます?」

 

 「どれどれ…………んぅ?…………この魔法教本ってどこで手に入れました?」

 

 「あぁ、それはスライムの館ってダンジョンで。信じられないかもしれないんですが、宝箱を背負った不思議なスライムからもらったというか……信じられないとは本当に思いますが」

 

 「……へぇ。しかしこの本は新品同然な気も。読まなかったんですか?」

 

 「僕って見ての通り大剣を扱う剣士なので。せめて初級編なら読もうかなぁとかは思うんですが、それ中級編じゃないですか。わざわざ初級編手に入れてからとなるとどうしても面倒くさいなって」

 

 「まぁそうですよねー」

 

 

 戻ってきてしまった魔法教本(中級編)!『帰ってきちゃいました……』ごめん!!!とりあえず初級編と上級編も仕入れてセット売りにするから安心してくれ! 

 

 





・アイテム置き屋さん
 仕事は別として、やったことに対して見返りはあまり期待しないようにしている。
 服を溶かすタイプのスライムだけは積極的に追い払うし、全く好きではない。

・夢魔のお姫様
 目的地から遠く離れた場所に間違って空間転移し、しかも大雨で流石に泣いた。
 感謝の気持ちは言葉だけでは足りない場合もあると思っている。

・魔法教本(中級編) 
 やっぱり初級編から順番に読んだ方が理解度もかなり違う。
 その後初級編と上級編とセットにすると、思いのほか早く売れた。よかったよかった。

・スライム
 館にいるスライムたちは穏やかにのんびりと日々を過ごしている。
 館中のスライムが全て集まり合体すると人型になる。人語を扱い、なかなか強い。
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