アイテム置き屋さん、はじめました   作:面相ゆつ

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組紐置くよ

 

 私は書庫のダンジョンにいる。商品のお届け物をしに来たのだ。お届け物の中身は星の欠片を加工して作成された万年筆だ。真っ黒な金属製の外観はてらてらと艶があり、触れるとほのかに温かみを持つ万年筆はもちろん普通の品ではない。

 

 流星群が見られる夜、きらきらとした欠片が空を舞い降りてくることがある。それが星の欠片である。降り注ぐのはほんの少量で、しかもどこに落ちてくるかは予想もつかない。だがそれらの星の欠片を集め、道具に加工すると……なんと武器に使っても十分な程に強度が跳ね上がる。ドラゴンの硬い鱗なんてなんのその!世界最高クラスの一品の出来上がりだ!

 

 じゃあなんで星の欠片を武器に加工しないのかって?それはこの万年筆を一本分作るだけでも百年単位での星の欠片を集めないといけないのと、星の欠片を複雑な形に加工できる職人が限られているからだ。今、私が持ってきた万年筆も昔々に酔狂で作られた類の珍品である。所謂趣味の範囲の道具になるのかな。

 

 

 私の道具屋はこうして極たまに町の外まで商品の配達を行っている。知り合い限定になるけれど案外評判が良い。私も町の外に箒に乗って飛んでいくのは気分転換になるから嫌いではない。

 帰ったら魔法協会から送られてきた質問書に回答しないといけないのは、とりあえず一旦忘れることにしよう。毎回毎回考えるんだけど、魔法協会は私がどれくらいの量の業務に耐えられるかの耐久試験でもやってるのか?ここ十数年酷いぞ本当に。名誉理事は名誉だけでいいじゃんかよぉ。このままだとマスコットキャラクターみたいなこともさせられるかもしれない。やだよぉ………………………………

 

 ………………………………うぅ。切り替えよう。うん。せっかく来たんだし少しくらい本を読んだって許されるだろう。きっと。

 

 本特有の香りがダンジョン内の全てに広がり、その中にいる自分が一冊の本になったかのように錯覚する。快い気分だ。

 ここはたくさんの本があっていいよなぁ。いつ来ても何度でもそう思ってしまう。自宅には置けないような莫大な数の蔵書があって羨ましい限りである。

 至る所に天井へと届きそうな高さまで本棚が設置され……上の方取るの難しくないか?と思うだろうが、常駐する使い魔の妖精に頼めば取ってきてくれるため、意外にも便利がいい。まぁちゃんとお代を支払わなければ、希望した本とは違う変なのを悪戯で持ってくるがな。お代はお菓子をあげると喜ぶぞ!

 

 でも本を読むのはこれを届けてからだな。逸る気持ちを抑えつつ、届ける先の最深部に向かってのんびりと歩いていく。

 

 

 

 到着した先にいつもいるはずの友人がいない。いつもならばお気に入りの一人掛けソファに座って本を読んでいるのに。私はあのいつもの様子が絵になるから好きなんだけどなぁ。どこに行ったのか。

 

 「ソラ~!」

 

 きょろきょろと目を動かし、辺りを探しているとそんな私を呼ぶ声が静かな場に響いてくる。

 珍しく走っているのは書庫のダンジョンの主こと、大魔族のルイーネだ。このお届け物を渡す相手である。あんなに慌ててどうしたのだろうか。もしかして走って来る程この商品が楽しみだったのかな。そんなに喜んでもらえると持ってきた甲斐があるってものだ。

  

 「注文していた道具持ってきたぞ。走って来るなんて……ふふ、そんなに楽しみだった?」

 

 「すみません!それは後で受け取るんで!ちょっとの間ダンジョンの維持を任せます!」

 

 「え?」

 

 有無を言わせないように、力強く私の手を握ってくる。そうして握手を通して、魔力こもった印が私の手の甲に現れた。自然発生以外のダンジョンの主たる者、つまり管理者にはどこかしらに印を持っている。ルイーネの場合は手の甲にあったけれど……それに対応しているのかな。本が開いたような形の真っ赤な印である。

 

 って、そうではなくて。文句を言う前にダンジョンの管理権を譲渡されてしまった。何してくれてんだ。管理権が譲渡されてしまった影響で体内の魔力がダンジョン内に吸われていく。あぁ~ダンジョンの維持に魔力が持っていかれる~。

 

 「うんうん、平気そうですね。すぐ戻ってくるつもりではあるので、それまでお願いします!お礼もしますので!」

 

 ルイーネはそう言うと、サッと指で空間に切れ目を入れてどこかへ移動してしまった。空間移動は高度な魔法だが、簡単にやってのけるとは流石大魔族だ。 

 

 「え、すぐっていつだよ」

 

 急いでいたのはよくわかるが、理由くらい言ってくれてもいいじゃないか。それに私、本を読みに来ただけだぞ。残された私はルイーネが帰って来るまでの間、臨時でダンジョンの主となってしまったのであった……

 

 

 

 

 まぁいっかぁ!今日は特に用事があるわけでもなし。ちょっと急すぎて面食らったけれど、ちょっとワクワクしてきた。

 

 とりあえずルイーネのいつも座っているソファへ陣取る。ダンジョンの管理、要はこの書庫の司書みたいなことをやれということだろう。

 管理権を一時的に譲渡されている形ではあるが、今この瞬間は私がダンジョンの主である。そうであるからか、ダンジョンの構造やらどこに何があるのかが手を取るようにわかってしまう。脳内にマッピングされた地図が3D映像として浮かび上がるかのようだ。かくれんぼしても勝てそうにない。

 

 ………………………暇だし、ちょっと解析してみようかな。ダンジョンの主になれるなんて滅多にないんだからな。

 

 

 ダンジョンには自然発生的なものと人工的なものがある。どちらも莫大な魔力が込められている事には変わりなく、明らかに違うのはその維持に必要な魔力源を何が引き受けるかだ。前者は自然から、後者は何らかの供給者から魔力を取り出すわけだ。

 そしてこのダンジョンは人工的なもので、魔力の供給者はルイーネだ。だが今回は私が代わりの供給者となっているが、通常ではあり得ないことをしている。なぜなら人工的なダンジョンとは、よっぽど魔力の相性が良くなければダンジョンの主以外の魔力を受け付けないからだ。その拒絶反応は良くて内部構造が無茶苦茶に変わって修復不可からの半壊、大体はダンジョン完全崩壊である。

 

 ただし私の魔力は誰にでも何にでも合うのでそんな心配はないけれど。だから私が選ばれたわけなんだが……とんでもなく距離が離れない限りは魔力供給は行われるのになぁ。どこまで行ったんだ?

 

 ………………………まぁいいか。そんなことより解析解析っと。ふむふむ。

 

 

 

 

 そこそこ時間はかかってしまったが大体理解できたぞ。そうか、ダンジョンとはこういう風に作っているのか。これなら私も………………………

 

 「すみません……あれ?いつものお姉さんじゃない……」

 

 少しだけ困惑の混じった声が正面からしてくる。おおっと。目を閉じてダンジョン解析に集中していたからか、近くまで人が来ていたのに気付かなかった。

 目を開きちらりと見ると、分厚い本を抱えた赤毛の少年がこちらを伺っているようだ。もちろん冒険者などではなく一般の利用者だな。ここはダンジョンの癖して魔物が全くおらず、大量な本が所蔵されているため気軽に誰でも入ってくる。ほぼ図書館だからな。

 しかもルイーネもそのことを別に気にしていないどころか、司書の真似事までする始末である。『本好き、すなわち私の同好の士というわけですよ』とは本人の談だ。

 図書館らしく書物の貸出期間は十日間で、一度に五冊まで。流石に発禁処分されたものや、人間の手に余る禁書類の貸し出しは行っていないがそれを除くと割と自由だ。 

 

 ……いけないいけない。対応しなきゃだな。きりっとした表情に切り替え、最大限司書っぽく振舞おう。

 

 「私は臨時の司書だ。代わりに用件を承ろう」

 

 「あ、えっと……用があるっていうかそのぉ」

 

 「む?」

 

 もじもじと煮え切らない態度である。下を向いて、がっくりと落ち込んだようにも見える。見知らぬ者には言えない用件なのかもしれないと思ったその時、私にはある考えが浮かんだ。ははーん?これはもしかして……!

 

 「あぁ!そっかそっかぁ。ルイーネに会いたいからここに来たのにいたのが私で残念だ、ということだろ?すまない。いつ戻ってくるかはわからないんだ」

 

 「!!」

 

 「隠さなくてもいいぞ。綺麗だもんな。好きになるのも仕方ない」

 

 「そ、そんなんじゃないです!」

 

 首をぶんぶん振って否定し、しどろもどろになりながら頬を真っ赤にする少年。初々しいとはこのことだ。いいね。私はこういった話は意外と好きだ。

 ちょいちょいと手を縦に振って近くに招きつつ、その辺に置いてあった小さ目の青いソファを魔法で呼び出す。それを私の目の前に設置し、指を差してそこに座るように促す。満面の笑みで。

 

 「どうぞ、座りなさいな。ねぇねぇ、少年。それでルイーネのどこが好きなんだ?」

 

 「……帰っちゃダメ?」

 

 「無理強いはしないからいいけど……もし教えてくれたらこちらもルイーネの好きな物教えてあげるぞ」

 

 「本当!?」

 

 その喜びよう……やっぱり好きなんじゃないか!目をキラキラさせているのを見るに、相当知りたいのだなぁ。ほらほら座って座ってと再度促す。

 

 「もちろんだ」

 

 「誰にも言わない?じゃあ……少しだけ」

 

 恋バナ聞くのって………………………………へへへ実は好きなんだ!いいよね恋バナ!ドキドキしてきたぁ!

 少年がソファに腰を掛けてさぁ聞こうかと姿勢を正し…… 

 

 「お待たせしました!ちょっと会議が長引いてしまいまして……あれ?ショウ君?」

 

 「あっ。お姉さん!」

 

 ルイーネが外出したのと同じように空間を切り裂いて戻ってきた。あらら、もう帰ってきちゃったかぁ。まだ何にも話聞けてないのにさぁ。

 

 「残念。お役御免ってことだな。まぁいいや。君、耳貸して」

 

 「?」

 

 こそこそと少年の傍まで近づいて声を落とす。ルイーネに聞かれるわけにはいかないからな。

 

 「ルイーネの好きなものは想いが込められた文章だ。お手紙を書いてあげるときっと喜んでくれるよ」

 

 内緒話をする距離でぽそぽそと教えてあげる。どこが好きかは聞き出せなかったけれど、せっかくの恋路は応援させてもらいたい。成就は難しいかもしれないが。それでも……

 

 「あと……恋心とかそういうのは抜きにして、自分の気持ちを伝えないで後悔するのは結構辛いから。気を付けてね?」

 

 「……はいっ。ありがとうございますっ」

 

 あは!経験者からの言葉だ!受け取りな!頑張れ、少年!

 

 「…………あのー。私を除け者にして二人で内緒話は酷くないですか。えいっ!寂しいから抱き着いちゃいます!」 

 

 ジトっとした視線を向けていたルイーネがそう言って急に私たちに抱き着いてきた。おっとっと。抱き着いてきた衝撃で体勢が崩れそうなのを耐え、押された少年を胸で受け止める。あー……ルイーネは肉体的接触を好むからなぁ。つまり割とボディタッチが激しい。普段からそんな様子だろうから少年もドギマギしてるはずだ。

 

 「あわわ!」

 

 ほら見ろ!私たちが両側から少年を挟んでサンドイッチみたいになってる!こうやって過度なボディタッチでルイーネは少年たちの純情な感情を自覚なく弄びまくっているんだ。なんて奴だ……とんでもない初恋キラー……これが大魔族……!

 

 「何を話してたんですかぁ~。教えてくれるまで離さないですよ!」

 

 あーあ。内容を教えるつもりは全くないからルイーネの気が済むまでこのままです。痛いとかそんなんじゃないから私は構わないけど。ただ目下の少年はというと。

 

 「きゅう……」

 

 目を回して顔が真っ赤だ……まぁ少年も多分満更でもないとは思うし、しばらくこのままでいいか。少年も好きな人に抱き着いてもらって役得だろう。うん。青春。

 

 

 

 

 

 

 

 

 青少年の恋路は温かく見守ってあげるのが大人の務めだと思うアイテム置き屋さんだ!歳上のお姉さんと少年のラブコメってやつは王道だな!嫌いじゃないよ!ほろ苦い子どもの頃の思い出としてビターに終わるか、それともめでたく結ばれハッピーに終わるかは少年次第だ!頑張れ!

  

 さぁて良いものを見れた記念に今日置くのはちょっと珍しいアイテムにしようか!うぅむ何にしようかなぁ。

 ………………………………そうだ。恋愛系のアイテムを置こう!ダンジョンに潜る冒険者もそういう変わり種のアイテムが欲しくなってくるかもだからね!

 

 

 よって今日置くのはこちら!薄桃色の紐をメインに編み込んだ組紐!手首に巻けるくらいの長さのね!結び目には小さくひし形に削った紫色の魔結晶を付けてるシンプルな組紐だ!材料も特に厳選していない!

 

 最近こういった組紐が若い女の子の間で流行ってるんだよねぇ。なんでも身に着けていると恋が実るとかなんとかで。うちの道具屋にも『組紐売ってませんかぁ?』と度々探しに来るお客さんがいる程度には流行っているようだ。あれかな、ミサンガかな。あー、昔々足首に着けてたなぁ。なんだっけ?切れると願いが叶うんだっけ。

 

 分類上は冒険にはあまり関係のない装飾品だからか、町を歩くと行く先々で組紐を手首に巻いた子たちを見かける。組紐に自らの恋心を託す姿は微笑ましいものである。青春……だね!

 

 まぁニーズに合った物を取り揃えるのも道具屋には必要だし。アイテム置き屋さん的にも流行には乗っておくべきだからね!手慰めに少しずつ組紐づくりをしてるってわけだ!夜な夜な眠い目を擦りながらの作業かつ、手作りで量はあまり作れはしないけれど、出せばすぐに売り切れるから結構人気なんだ!ちょっとしたおまけ付きなのも影響してるのかもだけど。

 

 組紐ちゃん!今日はよろしくぅ!『お店で売ってってば!どう考えてもそっちの方が喜ばれるでしょ!?怒るわよ!』………………………………確かにこの手のアイテムはダンジョンに置かれるより、普通に店売りで置かれる方が喜ばれるんだよな。当然な話だけど。

 

 おっと!冷静さを取り戻しては元も子もない!頭をもっと熱くしようぜ!物事に何でもかんでも意味を求め始めると辛いからね!アイテム置き屋さんはアイテムを勝手に置いていく人でしかない!そして拾った人が喜んでくれたらいいなぁと思いを馳せるのみ!これアイテム置き屋さんの鉄則!

 

 そういうことだ!わかったかな!?組紐ちゃん!!『……本当に楽しい?』どうだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前には壁、壁、壁。大きく開いた天井付近を見上げてみると首を痛めてしまいそうな程に高い無骨な石の壁が右に左に伸びている。歩いてきた道は愛用の箒を思い切り振り回しても全く問題のないくらいには広い。

 ふと思い立ってあからさまに『絶対に押しちゃだめだよ?』と自己主張が激しい壁から飛び出ている凸部分を押してみると……かちりとこれまた明らかに何かやっちゃった音がし、進行方向の道の先から道幅いっぱいに巨大な岩が勢いよく転がってくる。これは………………………………罠じゃな!!記憶の片隅で覚えている冒険映画で観たことあるやつだ!!!

 

 なかなかの速さで岩が迫ってくるけれど、アイテム置き屋さんはいつだって逃げも隠れもしない!あれ?たまにはするか!まぁいっかぁ!

 アイテム置き屋さんは慌てません。岩は岩だ。石ころよりもちょっと大きいだけである。左右の壁を削り取り、轟音を鳴らしながら迫ってきても怖がりません!魔法で強化した箒を両手で握って振りかぶり、目前まで近づいてきた岩に向かってえいやっ!と力を込めてそのまま縦に振る。箒と岩の衝突の瞬間、閃光が迸り爆音が辺りに響く。

 

 うむ!木っ端微塵だ!気持ち良いね!!!

 

 

 ここはどこだと思う~?そう!ラビリンスだね!迷宮のダンジョン!迷路が楽しいよね!

 

 このダンジョンの危険度はBで比較的高く、それでもベテランかつ上位層の冒険者パーティならこのくらいは数日で行き帰りも含めて危なげなく踏破しないとね?となる塩梅!でも魔物も多く、罠もふんだんに用意されているので一人で行くのは絶対にやめておこう!死ぬよ!

 

 もしも一人で行きたいのなら、人外レベルの腕っぷしの強さでもどんな状況でも生き残れる生存力でも何でもいい、最低限人としての理を無視できる存在になってからにしよう!アイテム置き屋さんとの約束!要は遊び感覚でうろつけるような人じゃないとダメってことだ。組紐ちゃんもそのことを忘れないように!『そんな危険な場所に置いてかれるのって最高だわ』よかったね!!!

 

 

 

 

 箒に乗って地面に設置されているであろう罠を回避しつつ、鼻歌交じりに道中を迷いながら進んでいく。タキシードの裾をはためかせ、悠々自適にダンジョンを飛び回る。この手のダンジョンは足元か壁に罠が仕掛けられている場合が非常に多い。よって空中を飛ぶのが最適解!余裕!

 

 歩くスペース、戦うスペースは確保されているとはいえ、左右を物言わぬ壁に囲まれたせいで息の詰まる圧迫感が漂う迷宮のダンジョン。他のダンジョンと比べて、分岐を進めども進めども景色は古ぼけた石壁から一切変わることはない。

 一応、周囲に存在する壁の模様を解読したり罠に見せかけた隠しスイッチを駆使すると正解の道を教えてくれるようにはなっている。まぁそれ自体が罠の場合もあるけど。

 

 何故?と聞かれると多分『それで慌てふためくのが楽しいから』くらいの理由だ。自然発生ではない、管理者がいるタイプのダンジョンには良くも悪くも何かしらの欲望が見えるのが常である。ここなら……『人が困るのを上から見たい』かなぁ。自分の作った迷路を解いて欲しい、謎解きを楽しんで欲しいという可愛らしいものは感じられない。

 

 

 迷路というだけあって進んでいく先は大体行き止まりばかりである。そして行き止まりの度に番人のような魔物と接敵するわけだ。確かこのダンジョンってそんな感じだった気がする。

 正直、行き止まりが外れかどうかは個人差がある。命を賭してダンジョンの隅々まで探索したいという酔狂な目的があれば……罠に引っかかる可能性、魔物と無駄に戦う可能性に目を瞑ると……うーん微妙だ!大多数は外れかも!アイテム置き屋さんはそこにアイテムを置くこともあるので、行き止まりも時々大当たり!早く帰りたいなぁと思ったら大外れ!気分に依りますねぇ。

 

 『今はどっち?』組紐ちゃん、良い質問ですね!別にダンジョン踏破が目的ではなく、帰りたいわけでもないから行き止まりは当たり寄り!もう少し探検したいので!

 

 

 そんな馬鹿馬鹿しいことを考え、無機質で特に人の気配もない道の分岐を勘で選ぶ。さっきは右を選んだから、次は左!次は真ん中!次は右と見せかけて左!………………………………分岐がたくさんあるなぁ!?これって絶対最奥まで行かせようっていう優しさがないよなぁ!ここの管理者は意地悪な性格してるよきっと。

 

 

 しばらくそうして右へ左へ飛んでいき、途中でそのまま一本道。先程まではちょろとちょろと地を這い、恨めしそうな目でアイテム置き屋さんを睨みつけていた魔物がほとんど出なくなった。

 このダンジョン、飛んでいる者に無力過ぎる。もっと空中戦ができる魔物か魔力に反応して作動する飛び矢の罠を置いといた方が良いと思う。それか天井をめちゃくちゃ低くして飛べなくするとか。

 

 ただ匂う……匂うね。誘い込まれているかのような一本道だ。ぐるぐると円を描くように中心へと。当たりかな?外れかな?どっちかな?どっちかな?持ってきたクッキーを口に含みつつ、のんびりと道なりに進むと……当たりを引いた。つまりは行き止まりだ。

 

 おっ!楽しくなってきたな。

 

 

 突き当りを曲がった先、目測ではもう少しだけ進んだ先に行き止まりがあるのを認識できる。そしてそこには………………………………厳重に全身を鎖で繋がれた二足歩行のウシ型の魔物が息を荒げて待ち構えていた。遠目から見ても筋骨隆々でオーガにも見劣りしない体格。両手にはこれまた大きな黄金の斧を携えて。

 

 案の定ミノタウロスだ!だけど他の行き止まりで出会った個体のどれよりも大きく、やる気に満ち溢れている!元気いっぱいだ!!特殊個体かな?それともアイテム置き屋さんのために用意してくれたのかな?どっちでもいいか。

 

 「ぐぎゅるるる!!!!」 

 

 未だ距離が離れているのにも関わらず、熱を持った激しい息遣いや欲望に塗れた唸り声がここまで伝わってくる。アイテム置き屋さんが近くに来るのを今か今かと待ち望み、巨大な体を拘束する鎖をがしゃがしゃと金属音を鳴らす。

 

 あの鎖頑丈だなぁ。魔道具だろうから持って帰ろっと!

 

 『逃げないの?』組紐ちゃん!またまた良い質問だね!ほら見てごらん。さっきまで通ってきた道を!『真っ黒になくなってる……』そう!目視によって行き止まりと認識した時点で、通ってきた道が消えちゃうんだ!次元が切り離されてるから出られなくなるんだよねぇ。だからあのミノタウロスを倒すまでは普通は出られないってこと!

 

 他の行き止まりでは魔物が現れても逃げることができていたけれど、これに限っては違うようだ。もしかするとボス的な立ち位置なのかも?ただの行き止まりにしては空間が広くなっているし。

 

 踏み込んだら最後、どちらかが倒れるまで続くデスマッチ……!たまにはそういう野蛮なことをしたいのがアイテム置き屋さんである。今日はいつもよりも元気! 

 

 『えー大丈夫なの?強そうに見えるけど』心配してくれるんだね!ありがとう!でも大丈夫だよ!アイテム置き屋さんの方が強いから!

 

 

 

 

 

 

 頭の先から足の先まで全身氷漬けになったことでミノタウロスはようやく活動を停止した。なかなかに根性のあるミノタウロスだ。それはそうと完・全・勝・利!!!余裕!

 

 意外にも分身や目くらまし、手投げ爆弾などの飛び道具を使ってくるテクニカルミノタウロスだったからかちょっと面食らってしまったが。巨体に似合わない滑らかで繊細な動きはちょっと面白かったです。

 ただねぇ……意味深に両手に持っていた黄金の斧は使わないんかい!戦闘開始と同時に後方に大事そうに置かれるとアイテム置き屋さんもどうしていいかわかんないよ!

 

 まぁ気分転換に体が動かせたってことで十分お釣りがくるか。氷漬けにする前に頑丈な鎖も回収できたし。やっぱり魔道具だなこれ。魔力を流すとすごい硬くなる。縛られたら抜け出すのが難しそうだ。いいもの手に入れた!

 

 

 ………………………………うん。区切りもいいかな。組紐ちゃんをここに置くことにしよう。ちょうどおあつらえ向きな豪華な斧もある。そこの近くにっと。おっ。貴重品っぽくっていいね!!組紐ちゃんも嬉しい?『いや、うーん……はぁ……もういいよここで』微妙そうだけどここにしまーす!アイテム置き屋さん権限でーす!

 

 

 

 

 うんうん。綺麗に置けたね。じゃあ帰ろっか。そう思って来た道を戻ろうとすると……次元が切り離されて真っ黒なままの空間が眼前に広がっていた。

 ………………あれ?ミノタウロスを倒せば元に戻るんじゃないの?それとも倒してもすぐには反映されないのかな。とりあえず待っていようか。

 

 

 ………………………………氷像と化したミノタウロスの隣で座り込み、その辺に落ちている石をポイポイ投げて暇をつぶす。体感的に三十分くらいは待っている。戻ったかな?特に反応がない。しばらく待っても戻らない。

 これはあれか。別にミノタウロスを倒さなくても、この空間にある何らかの謎解きをすれば出られるとかそういう系か。ふぅん。

 周囲をぐるりと見渡す。よく目を凝らして観察すると近くの壁に石が出っ張った部分がある。石をぶつけて押してみるとその隣に同じように石が今度は上下に二つ飛び出した。あっ、これって……?

 

 上を押す。一番初めに飛び出ていた石が出てきて最初からになった。

 もう一度押してから、また飛び出た部分の次は下を押す。少し離れた壁に今回は石が三つ飛び出した。真ん中の石を押すと……最初からになった。はいはい。なるほどね。

 

 

 ふぅーーーーん………………………………めんどくさ。何回続けるのこれ。

 

 

 ……まぁやることやったし、もういいかな。何もない空間に向かって指を縦に振り、人が入れる程の大きさに次元を切り離す。ぱっくりと開いた先は真っ黒であるが、ここに入ればすぐに自宅の部屋に戻れるようにした。帰り道も楽しみたかったけれど仕方ない。だってあの作業を続けるの面倒くさいだもん。

 

 さぁ帰ろう。全く意地悪なダンジョンだよ!ぴょいっと切り裂いた空間に入りこみ、忘れずに切った部分も戻しておく。時間が経てば勝手に閉じるけど、戸締りをしっかりするのがアイテム置き屋さんなのだ。立派である。さらば!!!

 

 「む、無茶苦茶しやがってぇ……うぅ、変な物置いていくな……二度と来るんじゃねえぞ……」

 

 帰り際そんな風な声が聞こえたけれど、些事だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 五日後、書庫のダンジョンにて。

 

 「知り合いの女の子の話なんですけどね?ダンジョンを作って好き放題している子がいて」

 

 「ルイーネと一緒だ」

 

 「いえいえ。私はその子と違って他の人に迷惑をかけませんので。このダンジョンは皆さんに楽しんでもらってますよ?危険性もありませんし」

 

 「うーん……それもそうか……そうかぁ?」

 

 「悩む余地、ありませんよ?話を戻しますね。で、この間変な格好の人がそのダンジョンに侵入してきたらしいんですよ。難易度の高いダンジョンなのに一人で!」

 

 「……危ないな。死にたがりの冒険者もいるにはいるけど」

 

 「『変な奴が来ちゃったしからかってやろう』と思って、ダンジョンのリソースを全部その人に注ぎ込んで対応したそうなんです。でもせっかく仕掛けた罠も魔物も箒で飛んで回避されるわ、異様に高い魔法で迎撃されるわで逆に好き放題されたみたいで」

 

 「……」

 

 「そこで一番強いお気に入りの魔物も再起不能の氷漬けにされて」

 

 「…………」

 

 「謎解きをしないと出られないように閉じ込めたのに次元を切って勝手に脱出されて」

 

 「………………」

 

 「あと奇妙な宝箱まで置いていかれた!とかバカにされた!とか言って怒りながら泣いていました」

 

 「……………………謝った方がいいのか?」

 

 「いいえ?各方面に迷惑をかけている子なので別に。たまにはお灸をすえた方がいいんです」

 

 「よかったー!」

 

 

 アイテム置き屋さんは許された!んだけど……自然発生以外のダンジョンの場合って管理者がいるんだよなぁ。あれか?その場合は伺いを立てた方がいいのか?………………………………いやそんなことしないでいっかぁ。ダンジョンには変わりないんだし。

 

 気にするな!アイテム置き屋さん!その部分に引っかかりだすときりがないのだから!

 

 





・アイテム置き屋さん
 睡眠時間が削られるのとたまに妙に疲れるのを除くと、組紐を編むのは意外と楽しい。
 他人の色恋話は大好き!自分の?まぁそんなこといいじゃないか……となるタイプ。

・ルイーネ
 変な理由は特にないが、男女問わずにスキンシップが激しい。
 大魔族の中でも格別に穏健派で、大魔族間の会議では『まぁまぁ落ち着いて』と宥める役割のためいなかったら大変。なぁなぁで会議を終わらせるのが得意。

・赤毛の少年
 本とルイーネが大好きな少年。少年の淡い恋心は見てると応援したくなる。
 ルイーネにお手紙を一生懸命書いて渡すと、想像以上にすごい喜んでくれたので嬉しい。

・組紐
 アイテム置き屋さんの組紐はたまに寝ぼけて魔力を込めて編まれるので、魔法関係の攻撃には途轍もない耐性を得られる。魔力付き組紐の確率は十回に一回。
 組紐をお買い上げの際のおまけにはお菓子が付いてくる。紅茶クッキーとか。美味しい。
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