アイテム置き屋さん、はじめました   作:面相ゆつ

13 / 14
炎の杖置くよ

 

 私は一応冒険者を九割がた引退している身である。冒険者専業、あるいは道具屋との兼業冒険者として活動していたのはそこそこ昔、つまり現在の私は町に住む一般的な道具屋さんである。特にここ数年はダンジョンも喫緊の理由がなければ、普通の状態では潜ることはあまりない。一般人が入れるような危険性の少ない、安全が確保した開放されているダンジョンならまた話は別だが。

  

 

 ………………………………表立ってあまりダンジョンに潜らない理由は色々あるけれど、他人から何故?と聞かれた場合にはこう答えるようにしている。

 

 

 『私が一人でその辺のダンジョンにぽつんといたら、他の冒険者たちが不安がるらしくて……』と。

 

 

 大体の質問者は『あぁ~……』と様々な意味が込められた言葉を発して目を逸らして納得する。ぶっちゃけ難易度が高い低い関係なく、私が単独かつ理由を特に言わずにふらふらっとダンジョンに出没したら『この人がわざわざ来るということは、このダンジョン何かヤバいでは?』と他の冒険者が不安がってしまう、らしい。

 

 

 そもそも私にしかどうにかできない、ヤバいと言われるような状況はまずない。そりゃあ存在自体が不安定なダンジョンや魔物が大量発生するダンジョンはあるが、その場合であっても冒険者ギルドがすぐさま把握し、対処する。本当にヤバいのなら報告が回され、騒動が終結するまでは一般冒険者が入れないようにダンジョンが封鎖される。

 

 よって私が秘密裏で~とか人知れず~とか……まぁそういったこともあるにはあるけど、それはダンジョンが封鎖された後、冒険者ギルドに頼まれてからの話だ。 

 

 

 ………………………………根も葉もないものだし、まぁ皆が不安がるくらいならいいでしょ!くらいに思っていたのだけど。私も気にせず、たまにダンジョンに足を運んでいたらね。如何せん冒険者ギルドに問い合わせやら何やらが多かったらしくて……

 

 挙句の果てにはそういったいざこざが領主様の耳に入ってしまって……

 

 『あなたは自分の立場を、多少考えて行動しなければならないのではないか?その行動一つでどれだけの影響を及ぼすのかを肝に銘じるべきだ。それができないのであれば……こちらで身柄を管理した方が良いかもしれないな。その方がうちの娘も喜ぶはずだろう』

 

 ………………………………急に呼び出されて面と向かってそう言われたら流石の私もね。ひええ……ってなる。いや身柄を管理とか初めて聞いたぞ。ただ言葉の意味的にはなんだかこう……自由でなくなるのがひしひしと伝わる。相当なトンデモ理論じゃないかなぁ。

 

 冗談で言ったのかなぁとかそんなものはない。領主様はやると決めたらやる人だ。なんてったって、先生の経験がこれっぽっちもない私を無理やり娘の家庭教師に任命したくらいだ。何が怖いって自分が知らないうちに話を進めて、周囲への根回しも済ませて、外堀も埋めて……私が断るに断れない状況にしてくる。

 

 一応、本当に一応!最終的に意思確認はしてくるけど!!その時も『やる?』ではなく『やるよね。はい、これ契約書』と確認するだけだ………………………………これ確認か?思い出すと私の意思を確認してねぇよなぁ。宣告だよ宣告。

 

 領主様は悪い人では決してないが、ヤバい権力者だと私は常々思う。小さい頃から用意周到な子ではあったけどなぁ。やや強引な部分は家系だな。うん。

 

 

 ……まぁ多分お抱え冒険者みたいに雇いたいってことなのかな。貴族の人たちはそういった専属を雇いたがると聞く。やはり自分の手足になって動く駒は何人いても都合がよい、そんなところだろう。

 

 

 とりあえず私が気分次第で何も考えずダンジョンに入る→皆が不安がる→冒険者ギルドに問い合わせ→ざわつく→領主様の耳に入るの黄金コンボが完成された今となっては、私も普段はちょっと自重しているというわけだ。なんか……………………………世知辛いな。

 

 

 そういう理由もあって表向きには冒険者ギルドから直接依頼されない限り、私が冒険者として堂々とダンジョンに入ることはほぼない。というか本業は道具屋だし。どうしても入りたいのであればバレないようにこそこそと、である。

 

 ま、私も迂闊な行動は起こさない。清廉潔白な道具屋さんなのでね。最近は特に控えめに過ごしているのでね。我が身に穢れなし!穢れ……なし!!

 

 

 

 

 

 

 そう呑気に思っていたのが昨日まで。急な領主様からの呼び出しにも自信を持って胸を張ってルンルンで応じる。だって私、変なことしてないから!

 あ!もしかすると、領主様直々の正式な依頼かもなぁ。それなら久々に普段着でダンジョンに行けるかもしれないなぁ。領主様の依頼だとすると、何も気にせずに意気揚々とダンジョンを練り歩けるってわけ。こそこそと隠れずに思う存分採取できる機会を逃したくない。

 

 「いってらっしゃーい。お土産お願いしまーす」 

 

 「お土産などなーい。いってきまーす」

 

 手を振って送り出してくれているアンナの声を背にし、箒に乗って急がず慌てずのんびりと領主様のお屋敷に向けて浮遊していく。別に歩いていっても全く問題のない距離だが、やはり魔法使いといえば箒に乗って空を駆けるべきだろう。イメージ的に。しかしそのイメージは今の服装と同じく、既に童話や昔話の類でしか見ないものであるらしい。解せぬ。

 

 愛用の箒の一本であるぶらっくソラ号に腰掛け、太陽の光が気持ちよく降り注ぐ空を飛ぶ。髪をなびかせ風を切って進む感覚が心地良い。

 

 少し前、更なる風切り体験を味わうべく立ち乗りを試してみたが、それを見ていたアンナに説教されてしまった。曰く、町の子どもの教育に悪いとのことである。うーん……どこがだろう……真似したら危ないとか……?確かに落っこちたら危ないもんなぁ。私は落ちないけれど。こちとら百年近く箒で飛んでんだい!アクロバティック飛行、見せてやるよ!あ、ダメか。アンナにまた怒られるか……

  

 箒で飛ぶことに関して並々ならぬ自信があるそんな私の眼下では人々が多く行きかい、王都にも負けないくらいの賑わいを見せている。路上には所狭しと多種多様な出店が立ち並び大盛り上がりである。

 私が住むこの町、アーデは端的に言えば交易の要だ。そのため他の地方からの人や物資の移動が活発に行われている。人も多いし、土地も広い。

 アーデには冒険者ギルドの本部などの重要施設が軒を連ね、多種多様な店がこれでもか!と思う程には立ち並ぶ。町と私はいつも呼称するけれど都市なんだろうな。まぁ都市って要はでかい町みたいなもんだろうから同じかも?どうでもいいかぁ。 

 

 

  

 飛ぶこと体感時間五分。町の中でも一際目立つお屋敷に到着した。広大な敷地と手入れされた草花の咲き誇る庭園……例によって調合にあまり関係ない花の種類はよく知らないが綺麗だ。あとお屋敷もおっきい。住み込みの人たちも多いんだろうなぁ………………………………だけど……

 この前、夢魔の王族のお城を目にしたせいか『あれ、こんなもんだっけ?』とめちゃくちゃ失礼なこと考えてしまう……!割と訪れることが多いから見慣れてしまってるのも原因なのかもしれない……!

 

 そうして立派な門の前で箒からスィーっと降り立つ。箒に跨り、門を飛び越え上から侵入……するのは礼儀正しくないのでね。ちゃんと門番さんに挨拶をしてから入りましょう。

 

 「おはようございます。今日は領主様に呼び出されたんだ。入ってもいいかな?」

 

 「おはようございます。もちろん良いですよ。どうぞ」

 

 門を開けてもらい、敷地内に入るとすぐ現れたのはお屋敷の執事さんだ。んー?あ、もしかしてお出迎えしてくれたのかな。もーそんなことしなくていいのに。ぺこりとお互いに挨拶をし、にこにこ顔の執事さんに尋ねる。

  

 「何度も来てるんだ。案内しなくても平気だよ」

 

 「いいえ、そういうわけには。ソラ様を出迎え、丁重に案内するようにと言われております。それに私共もこの日を待ち望んでいましたので」

 

 ………………………………うん?どういう意味?なんだか含みがありそうな感じだ。首を傾げて執事さんを見上げてもただにこやかに笑うだけだ。うーん……?

 すれ違う屋敷の人たちのやけに温かい視線にさらに首を傾げつつ、領主様がいる部屋まで到着した。何か良いことでもあったのかな?

 

 

 

 

 

 「これが侯爵家専属となる契約書だ。今後はこちらの指示に従ってもらうことになるが……まぁ明日からで構わないな」

 

 領主様との挨拶もそこそこにそんな言葉と侯爵家専属となる契約書を渡してきた。へぇ~明日から私って侯爵家専属になるんだ。大変そう。

 ………………………………むぅ?………………………………!!?

 

 「構わなくないです。少し話し合いましょう」 

  

 なんで!?

 

 

 

 「ん?前々から伝えていただろう?忘れたのか?」

 

 「忘れてはいません……けれどあれは私が軽率な行動をした場合の話では。私は品行方正に過ごしてきたつもりなんですが……」

 

 目を白黒させて混乱する。

 

 「どの口が……いや、まぁいい。以前の『あれ』はあくまで『仕方なく』という体であれば、仮に反対意見があったとしても周囲の理解を得やすいと思っただけだ。結果的に見れば反対する声もなく、完全なる取り越し苦労だったわけだが」

 

 えっ。やだ怖い。何故、そんな恐ろしい表情で笑うのか。何故、そんな獲物を狙う猛獣のような目をしているのか。

 えっとぉ、つまり。

 

 「つまり…………………………どちらにしても身柄を管理するつもりだったと」

 

 「そういうことだ。その方がこちらにも利点が多いのでな。この件は屋敷の者にも既に伝えている」

 

 こ、こいつぅ……悪びれる様子が微塵もねぇ!それならここしばらく私が真面目に過ごしてきた意味が!ない!

 やだぁ!私から自由を奪わないでくれ!どうにかして有耶無耶にしなければ!

 表情筋がひくひくと引きつっているのを自覚しつつも、努めて冷静な態度を崩さないように頑張る。もうすごい頑張る。ものすんごい頑張る。

 

 「一応、聞いておきますが利点とは?」

 

 「……一つ、あなたのような伝説的な冒険者が専属になることで侯爵家の名に箔が付く。二つ、戦力的な後ろ盾として申し分がない。三つ、冒険者ギルドに対して無理が通せるようになる。四つ、魔法協会や書庫の大魔族との強固な繋がりを得られる。五つ、単純に……娘が喜ぶ」 

 

 領主様は指を一本ずつ上げ、事もなげに利点を挙げていく。ふむ。最後はともかくとして、挙げられた利点とやらは恐らく間違ってはいないだろう。ただ私を引き込んだ場合の利点としては間違っていないが、前提に疑問があるだけだ。ここを突破口としよう。

 

 

 意識的に冷静になろうと努めていた先程までとは違い、頭の中は既に偽りなく冷静になった。私は否定の意を示すべく首をほんの少し横に振り、目を伏せたまま領主様に問いかける。  

 

 「領主様。今挙げられた利点は、侯爵家としても本当に必要な事柄ではないでしょうに」

 

 ……そう、必要ではない。そもそも家名にしても、戦力にしても、他方面との繋がりにしてもこの侯爵家は国の中でもトップクラスだ。他国を始めとする脅威に対し、率先して睨みを利かせなければならない立場だから当然である。最近は大魔族が大暴れを見せるわけでなく、平和と言えば平和な時代であったとしても。

 

 それに抱える専属の冒険者だって高名で力を持った者が選りすぐられ、非常時に自由に動かせる駒は既にいる。だから私はいらないはずだ。

 

 というか、私にそんなに影響力あるか?精々冒険者間でだけだろ。冒険者ギルドや魔法協会にしたって多分私を便利屋さんくらいにしか思ってない気がする。書庫の大魔族……ルイーネも書庫のダンジョンに行って書物に変なことしなければ誰でも会えるし……話せば友好な関係築けるんじゃない?

 

 結論。別に私が侯爵家の専属になる意味なし!完璧な答えが出てしまったなぁ!あと過剰な戦力は却って周囲との軋轢を生むからね。ダメだよね。

 

 

 「私は思うのです。専属にならずとも、今まで通りで良いと。これからも必要な時に気軽に依頼をしてくだされば……私は喜んで対応しますので」

 

 にこやかな笑みを浮かべ、私はそう伝える。所謂営業スマイル。恐らく根回しやら何やらをしてもらった手前、心苦しくあるが。いけるかな?いけなかったら駄々こねる。こねにこねまくる。大人の駄々は見るに堪えないぞぉ。

 

 対する領主様の反応はというと。怒るわけでもなく、不機嫌なわけでもなく。深く、深く息を吐きだし憐憫に満ちた目でこちらを見据えてくるだけだ。アンナもたまにそんな感じで見てくるが、領主様のその反応は予想してなかった。何なんだ一体……

  

 

 「………………………………はっきりと明言しておこう。あなたは率直に言ってちょろい。それも群を抜いて」

 

 「……はい?」

 

 ちょろい……ちょろい?

 

 「人の裏の思惑にあまりにも疎いうえに疑わない。利点より何よりも、人知を超えた力を持つ者が迂闊な心持ちで野放しになっている現状自体が非常によろしくない。長く生きているはずなのに、それでは見た目通りの無知で世間知らずな子ども並みだぞ?わかっているのか、『玲瓏たる紫』ソラ・グリューゼル?」

 

 「何です?喧嘩を売ってるんですか?よぉし、買いましたよ。買ってやりますとも。心苦しいですが、領主様といえどもグーでいきますね。良いですよね?先に喧嘩を仕掛けてきたのはそちらですもんね!」

 

 おい誰か今すぐゴングを鳴らせ。こいつ、私に喧嘩を売ってきやがったぞ!権力者がなんぼのもんじゃい!一ラウンドでKOしてやる!

 椅子から立ち上がり、礼儀正しくファイティングポーズをとる真剣な私。それを見て若干口だけが微笑む領主様。傍で待機していた執事さんもほんのりと笑顔である。今この瞬間、赤の他人にはよくわからない空間が出来上がった。

 

 「落ち着け。では問うが……何故あなたは怪しげな人物に何も考えずにとりあえず付いていくんだ?普通の人攫いから始まり、明らかな賊、良くない噂のある貴族、他国からの密偵……毎年最低一度は何かしらの事件に巻き込まれてるではないか。何事もなく無事に戻ってきているからいいものの、危機感がなさすぎる」

 

 「………………………………いえ、あれらは……たまたまです。えぇっと……本当に困っている可能性を考慮したまでです。結果的には残念ながら違っていたというだけで……あ、でも困っていなかったというのは良いことかもしれませんね?うん!きっとそう!」

 

 恭しいファイティングポーズを下げ、手振りを交えながらしどろもどろに弁明する。弁明になってる?

 ………………………………あれは『困ってますぅ、助けてくださいぃ』と頼まれたから付いていっただけであって。流石に途中でおかしいかも?と自分でも気づいたし。きっちりと締め上げて然るべき場所に突きだしたし。解決したので許して欲しい。

 困ってる人は助けてやってくれとの勇者の約束もある。私もできる限りはその約束を守りたいのだ。

 

 

 「そうか、たまたまか。まぁどちらにしろ軽率な行動だったことに変わりがないな。侯爵家であなたの身柄を管理した方が安心だ。ほら、さっさと契約書に署名しろ。悪いようにはしない。あと土下座しても無駄だからな。何度も見せられてると罪悪感も全くない。私からは以上だ」

  

 『あーはいはい』と言わんばかりに領主様は平然とした態度で目の前の契約書をトントンと指で叩く。あ!絶対面倒くさくなったな!

  

 「………………………………………………………………領主様、お待ちください。私にも考えがあります」

 

 ………………………………じゃあ大人の駄々、見せるかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、何とかなった。大人の駄々とは切り札だ。何度も使える技ではないが、一度使えばしばらくその件については有耶無耶にできる。積み上げてきた諸々のイメージを犠牲に……

 

 …………絶対に嫌ってわけではないんだよ。一般的には良い話で、そもそも侯爵家専属になろうが私は私で何も変わらない。けれどそうなった場合……確実に段階を踏んで今のようには自由に動けなくなって、最終的に侯爵家の子々孫々の子守をすることになりそうだ。長命な存在なら次の世代を見守ることなんてことも可能だからな。

 

 あとはまぁ……領主様の言葉もその通りだと思っている。言い方に難はあるけれど、邪神を討伐した私が長期間野放しになっているのは事実である。放っておくと国の不利益に繋がるかもしれないのだ。目の届く範囲に置こうと考えるのは至極当然である。

 

 だから、何も間違っていないんだ。

 

 ただ私にはまだやるべきことがある。それだけの話だ。領主様には悪いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 ……はぁ…………………………あ、なんだかアイテム置きたい欲が高まってきている。やるかぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 アイテム置き屋さんたる者、アイテムを置くことに専心すべし!アイテム置き屋さんの鉄則の一つだ!ふふふ。置くぞ置くぞ~!今朝あったことは忘れて置くぞ~!やけくそだぞ~!

 

 今回はこれだぁ!!!炎の杖~!

 

 全長は小型のナイフ程の大きさと少し小さめで、てっぺんに赤く着色した丸い魔結晶が付いている杖だ!事前に魔力を込めておけば、魔法使いではない前衛でも後衛でも誰でも炎の魔法が使用できるお手軽アイテム!硬い素材で作成されているから魔力が切れたら普通に殴ってもいいぞ!まるで棍棒だね!

 

 誰もが気になるであろう使用可能な炎の魔法とは……火球、つまりはファイアーボール!『炎よ』の詠唱と対象に向かって杖を振るだけで掌サイズの可愛い炎の球が飛んでいく。威力?威力も可愛いよ。赤ちゃん魔法だね。

 

 本職の魔法使いやサブで魔法を扱う者に比べるとはっきり言って弱い。が、それらの魔法職の魔力が切れた緊急時や魔力を温存したい時、そもそも魔法の適性がない者たちが簡単かつ手軽に扱えるという点が素晴らしく便利だ。

 斬撃等に耐性のある魔物に使ってもよし、距離の離れたところから放ってもよし、もしも場合の目くらましといった牽制にもよし!使い勝手……よし!!などなど一本持っておくと安心のアイテムである。持ち運びが楽なのも嬉しいね!!

 

 欠点があるとすれば、やはりどうしても威力が可愛い点と結局緊急用の意味合いしかない部分かなぁ。

 使用回数の上限も決まっていて、杖の魔力が切れたらその都度専門の道具屋で魔力を込めなおす必要もある。魔結晶の部分も魔力の貯蔵や魔法を放つ過程で摩耗するから、杖自体もそのうち買い替え必須である。魔力がなければ最終的にはただの棍棒と化す。

 あとは……普通に魔力を込めなおすにしても、買い替えるにしてもそこそこの値段が張る。それくらいか。

 

 

 でも便利!!!いいね!備えあれば憂いなしっ!

 

 よぉし。じゃあ炎の杖君、張り切っていこうか!『燃えてきた燃えてきた燃えてきた燃えてきた』おっ!なんだこいつヤバいな。個体差あるのかな『燃えてきた燃えてきた燃えてきた』張り切ってるなぁ。

 

 

 

 

 辿り着いたな……今日の目的地に……!!

 

 特に目立った特徴のない洞穴型のダンジョン……!!!!固有名称も何もない、乱雑に発生するような小さめのダンジョン!パーティを組んだ初心者冒険者たちが三回目くらいに挑むやつ!

 岩がごつごつしてる!薄暗い!魔物も少ない!一本道!二度とダンジョンなんておこがましく名乗るんじゃねえぞ……!という程度にはあまり面白みのないダンジョンだ!!

 ここを選んだ理由?ふふふ……今日はね、初心者冒険者応援キャンペーンをしようと思ってね。この洞穴型のダンジョンを選んだのだよ!今日限定だけどね!

 

 

 アイテム置き屋さんは考えました。『初心者冒険者にとって宝箱に入ってると嬉しいアイテムってなんだろな』と。それを考えたのは魔法協会からの『これ着て協会の宣伝してくれません?報酬は出すんで』という意の手紙と共に送られてきた衣装に絶句していた時のことである。現実逃避ともいう。その衣装は一緒にいたアンナがゴミを見る目で捨ててくれた。

 

 ……まぁ経緯はどうあれ考えたわけだ。

 

 武器?うん、嬉しいよね。でもその子たちの主要武器が剣系統なのにハンマーが宝箱に入ってたら『あぁ……うーん……売るかぁ』ってなるじゃない?逆もまた然り。

 

 なら防具?いいねぇ、嬉しい。でもその子たちの役割ってものもある。前衛職や後衛職の分類上、軽装を好む子たちかもしれないのに重装戦士が装備するような防具だったら『えぇ……マジかぁ……売るしかないなぁ』ってなるじゃない?今回に限ってはせっかくだし使って欲しい。

 

 じゃあアクセサリー系の魔道具?めちゃくちゃ嬉しい!でも……例えば毒耐性が付く魔道具を一人だけが装備するのは喧嘩になっちゃうかも……大体の冒険者はパーティを組んでいくから。結局『しょうがない。ここは平等にするために売るかぁ』ってなるじゃない?前提として余計な諍いを起こさせるのはちょっとねぇ。

 

 宝箱に何個か入れろ?そういう意見もある。ただ……ごめんなさい!!!もう本当にアイテム置き屋さんの都合だけれど!宝箱の中に何個かアイテム入ってると若干ありがたみが薄れるような気がする……!

 普段はそんなこと全く気にしない。何個でも入れていいと思うよ。アイテム置き屋さんもたくさん入れたいもん。時々は宝箱いっぱいに詰めたいもん。

 

 しかし!今回は初心者冒険者応援キャンペーンである!!ダンジョン探索もとい、冒険者というものを楽しんでいただきたい!宝箱との一期一会、出会いの喜びを感じてもらいたい。

 なのに宝箱を開けた瞬間、どっさりアイテムが入ってると……喜びより先に罠があるように思えてしまう。初めての宝箱の印象が微妙になったらなんかやだ!! 

 

 

 そうして色々と試行錯誤を重ねたうえで、アイテム置き屋さんの出した答えがこれである。

 

 使い手を選ばず共用可能かつ有用、冒険者を始めたてで買うのは高いなぁと後回しにするアイテム!!

 ………………………………炎の杖である。最高の選択では?

 魔結晶に魔力も目一杯上限までしっかりと込めてきた!持ち手も輝くかのように綺麗に磨いてきた!リボンも付けて贈り物っぽくもした!我ながら良い出来だなぁ。アイテム置き屋さんは自画自賛も忘れないのだ。

 

 さぁ、置きに行こうか!!!

 

 

 

 

 

 

 ごつごつした岩肌の壁に手を当てながら一歩、一歩とこけないよう気を付けて進んでいく。薄暗いダンジョン内部を照らすために魔法で光球を出しつつだ。

 

 一本道には大人しく跳ねるスライムをちらほら見かけるだけで、これといって特筆すべき魔物はどこにもいない。毒性の強くないヘビや普通のコウモリといった野生動物の方が多いくらい。それらもこちらからちょっかいを出さなければのんびりと過ごしている。

 そこまでの危険性もない所謂練習用のダンジョン。ただ実際に歩き、空気を感じ、ダンジョンという不思議な雰囲気に慣れるのにはちょうど良い。

 

 魔力が周囲に満ちた空間はダンジョン特有のものだ。体質的にアイテム置き屋さんにとってダンジョンは全て清涼感があって気持ちの良い空間だが、どう感じるかは人それぞれだ。独特な魔力に慣れるのが初心者冒険者には必要だ。個人差はあるけれど、初めての魔力に当てられて体調の悪くなる者もいるにはいる。ま、慣れさえすれば気にならなくなるんだけどね。

 

 

 と、思っている間に最奥まで到着!?狭いなぁここ!!!こんなに狭いの!?ちょっと広い場所があるだけぇ!?天井だけがめちゃくちゃ高い!見上げても薄暗いからどれだけ高いかもわからない!変な構造だな!

 しかも見渡しても何にもねぇ……本当に練習用だな………………………………あ、一応壁を切り抜いて作られた祭壇にここまで来ましたよって証明するためのカードが数十枚はあるな。それを取って提出して……といった感じか。

 やはり冒険者ギルドの手厚い管理下にあるダンジョンはどこも同じだなぁ。町近くの森も一応ダンジョンの区分だけどそうだし。流石に一般人がピクニックに来ようとは思わないだろうけれど。

 

 炎の杖君、思ったより狭かったねここ?『燃えてきた燃えてきた?燃えてきた!』多分すごい張り切ってるんだと思う!いいね!

 

 

 とりあえず……まぁ………………………………目立つど真ん中に置いとくか……宝箱が置いてあったら嫌でも気になるだろう!!絶対!!  

 

 宝箱をドンっと地面に置いてみる。石が多いからか上手く安定しない。うーん……少し均すか。こういう時のための箒だ!武器にもなるし地面も均せるし、箒ってすごい。投げれば投擲武器にもなるから万能だなぁ。皆も箒を使えばいいのに。

 

 ……これ以上することないなぁ。帰るかぁ。

 

 「……だから……さっさと…………………………」

 

 ん?ムムム!遠くから聞こえる。野生動物の鳴き声ではない。人間の声だ。お、これはぁ?

 入ってきた方向から声が聞こえる!ってことは……他の冒険者が来ている!!!っしゃあ!思わずガッツポーズをとってしまった。

 今、置いたばかりの宝箱が冒険者が開ける瞬間が見れるってわけだぁ!時々はそういう場面も見たい!!!隠れる場所は……ないな!じゃあ正々堂々と宝箱の隣に立って見守ろうか!おいでおいで!

 

 

 

 最奥に入ってきたのは三人組の冒険者。ふむ。装備だけで判断すると剣士と僧侶と魔法使いか。新しめな装備だし、初心者冒険者と見た!冒険者ギルドの職員だったらややこしいことになったかもだが、セーフ!!まずは挨拶だ!

 

 「こんにちは!よく来たね!」

 

 「なんだこいつ……」

 

 「アイテム置き屋さんです!」

 

 「うわっ……変なのに出会っちゃったよ……」 

 

 まずまずの対面だな。先頭にいる剣士君が鉄の剣を構え、他の二人も戦闘態勢に入ったことを除けば。気にしない気にしない。よくあること!!

 向こうはその場から一歩も動かず、アイテム置き屋さんも宝箱の横から一歩も動かず。うーん……膠着状態!!あ、こっちが話さないと意味わかんないよな。

 

 「あぁ、申し訳ない。急に声を掛けたら驚くかぁ。アイテム置き屋さんは悪い人じゃないよ~?怖くないよ~?ねぇそれで……君たちは冒険者に成りたてだよね?ここってほぼ初心者専用のダンジョンみたいだし」

 

 「……」

 

 ……ダメっぽいな。警戒されてる。今、一般的な冒険者の格好してないもんなぁ。むしろ無警戒で近づいてくる方が危機感ない。うんうん!この子たちは良い冒険者になる!!将来が楽しみ!!

 

 「本当に危害を加えるつもりはないんだ。ただね、アイテム置き屋さんは君たちにこの宝箱を開けて欲しいだけなんだよ?中身、すっごい便利なアイテム入れてるんだ!」

 

 「そんな世迷い言、信じると思うか?目的は一体何なんだ」

 

 うぅむ、完全にダメだな。警戒を解くことはない。ただ、攻撃を仕掛けるつもりはないから双方になく、どちらかが折れなければずっとこのままだ。せめて向こうが逃げてくれたら楽なんだけど。

 ………………………………仕方ない。こちらが折れるとしよう。

 

 「そっかぁ……開ける瞬間見たかったんだけど……あまり押し付けるのもよくないか。じゃあアイテム置き屋さんは消えるとするから。宝箱の中身は好きにしていいよ。でも……回収してくれると嬉しいな」

 

 常備している煙幕玉をこれ見よがしに懐から取り出す。それを見た彼らが体を硬くするのを確認する。安心して!煙幕玉だから危なくないよ! 

 

 「では……さらば!!」

 

 「あっ!おい!」

 

 煙幕玉を地面にぶつけて周囲は白い煙に包まれる。のと同時に、箒にぶら下がり天井へ向けて飛び上がる!そして彼らが見上げても視認できない高さまで上昇!ストップ!天井が高くてよかったー!

 

 えへへ。やっぱり宝箱開ける瞬間見たいんだぁ。アイテム置き屋さんがいなくなったのがわかればきっと開けるよ?だって人間は宝箱の誘惑には勝てない生き物なんだから!!あれで帰ると思ったら甘いんだよねぇ!

 

 

 さぁて。目を凝らして……ガン見しよ!!!

 

 お、煙が晴れてもアイテム置き屋さんがどこに行ったかはわからないようだ。まぁ普通は空中で留まっているとは思うまい。作戦勝ちです。

 

 ふふふ、探してる探してる。早く宝箱開けないかなぁ。まだかなぁ。

 

 探すのを諦めたかな?諦めたっぽいな。三人で宝箱に近づいてる。いいよ!いけぇ!

 

 剣士の子は剣で突いて罠がないかの確認してる。魔法使いの子も杖で叩いてるな。僧侶の子は二人を止めてる。気持ちはわかるが、この場でだけは止めないで欲しい!!

 

 あ……説得が成功した……奥にある到達証明のカードを取って帰ろうとしてる………………………………

 

 ……魔法を打ちこんで強制的に宝箱を開けるか。この際、あの子たちの手で開けなくてもいいから中身は持って帰って欲しい!!!おら!光の矢!よし!開いた!

 

 見てる見てる!だって急に何の脈絡なく開いたもんね。びっくりだよね。よーし!もう一回近づいてる!いけ!

 

 と、取った!やったぁ!取ってくれた!炎の杖、取ってくれた!!え、感動。

 

 いやぁいいもの見れました。自分で用意したアイテム取ってくれるとこっちも楽しくなっちゃう。

 

 

 

 じゃあ………………………………降りるかぁ!箒にぶら下がったままの状態で下降していき、再び三人の前に降り立つことにした。だって嬉しいから。

 

 「中身、取っちゃったねぇ」

 

 「上から!?クソ!罠か!」

 

 嬉しさのあまりにこにこ笑顔で話しかけると、剣士の子が愕然とした表情を浮かべそんな言葉を吐き捨てる。え、違うのに………………………………訂正しとくか。

 

 「……仮に罠だとしたら取った時点でもう何か起きてるよ?でも平気でしょ?」 

 

 「ぐ……確かに」

  

 「今、アイテム置き屋さんはね、初心者冒険者を対象にしたアイテムを置いてるんだ。君が手に持ってる炎の杖もそう。それ、買ったら結構値段張るよ」

 

 値段を知ってそうな魔法使いの子に目線を移す。炎の杖は誰でも使えるとはいえ、分野的には魔道具だ。魔法使いの子なら多分知ってると思う。

 

 「う、うん。私たちの装備全額よりも高いし……持ってると便利だと思う」

 

 「マジか……そうなのかこの……杖?杖なのかこの小さいのが」

 

 うむ。仲間の情報を信じるのは正しい。僧侶の子もうんうんと首肯している。よかったよかった。罠でもない、便利なアイテム。これは欲しいでしょう。

 丸く収まったね。だけど剣士の子は眉を顰め、じとーとした怪訝な目でこちらを見やってくる。どうしたのかな?

 

 「あれ?まだ納得してないようだね?何か質問?炎の杖の使い方とか?」

 

 「………………………………なんでこんな意味不明なことをしてるんだよ。ただ道具を置いていくだけってお前に得がないだろ」

 

 ふぅむ。

 

 「得なんて別にないよ。でもいいんだ。損得の話ではないからさ」

 

 「はぁ?」

 

 「じゃあ今度こそさらば!!皆、冒険者頑張ってねー!応援してるよー!」

 

 とりあえず走ってその場を去ることにした。これ以上は話が長引きそうだしね!!後ろの方で何か言ってるようだけど。まぁいいかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。道具屋にて。

 

 「し、師匠?昨日侯爵家のお屋敷で駄々こねたって嘘ですよね……?」 

 

 「………………………………こねたけど?大人の駄々、見せつけたが?」

 

 「何してるんですか。本当に何してるんですか……!?」

 

 「気合の入った素晴らしい駄々だと自負している。後悔はあまりない」

 

 「おバカ!謝りに行きますよ!私も一緒に付いていくんで!」

 

 「やぁだぁ……領主様も苦笑いしてたくらいだから大丈夫だって。ダメだったら今ここにいないってぇ」

 

 「この人は……!!!あ、こら!逃げるな!!ちゃんとした服で謝りに!!!」

 

 「ふっ。アンナが私に追いつけたら謝罪しに行こうか」

 

 「どこから出てくるんですか、その自信は……どう考えても走りにくい癖に!」

 

 

 程なくして追いつかれて謝りに行かされた。おかしいな……追いつけるはずがないのに……昨日だって走って逃げて……あぁ……服装が違うからか。通りで走りにくいわけだ。

 

 アイテム置き屋さんは謝りに行く!!いや、別に謝りに行かなくてもいんじゃねぇかなぁ。侯爵家の人たちも多分日常茶飯事だよ?と思っても言わないのはアンナに怒られるのは目に見えているからだ!!

 頑張れアイテム置き屋さん!頑張れ!!駄々はこねない方がいいね!!

 

  





・アイテム置き屋さん
 権力者には普通に弱いが、図太いので終わったことはそこまで気にしない。
 領主様は昔から知っている子で立派になってすごい!と思う一方、なんか自分を見る目が怖いと震える。人の裏は見ないようにしている。
 

・領主様
 土下座は何度も見たが、駄々をこねるのは初めて見た。驚きよりも『人はここまで恥を捨てられるのか』と感心したし、笑ったので今回は有耶無耶にしとくか……となった。
 憧れの人の色んな姿が見れるのと最終的に侯爵家に来てくれればいいので焦っていないが、ある程度弱み握っておくべきだなとは思っている。怖い人。
  
・アンナ
 すぐに捕まえて一緒に謝罪しに行った。経緯を聞いたうえで一定の理解を示しつつ、形だけでも謝る姿勢を見せないと恐ろしいことになると懇々と伝えた。
 自分が弟子になる前まではどうやって諸々を切り抜けてきたのかが最近の謎。

・炎の杖
 気合を入れて魔力を込めたせいで使用上限がとんでもなく多くなった。
 しかし杖自身が耐えられなくなるので永遠には使えない。そのうち崩れて灰になる。

・初心者冒険者たち
 幼馴染三人組。炎の杖をもらえて嬉しいが、魔力がいつまで経っても切れず怖いので過信しないようにしている。
 変なことをしているが子どもがいると冒険者ギルドに一応報告した。
 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。