アイテム置き屋さん、はじめました   作:面相ゆつ

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鈴のお守り置くよ

 

 今日は何もない日。溜まっていた事務処理も珍しく昨日中に終わり、ぐっすりと眠れた。近々な作業もない!あれもしかしたら連休!?そうなのか!?

 お小言をくれる弟子も用事があるとかで、家には私だけ。やったね!何しよっかなぁ。積んでいた本でも…………あれ。チャイムが鳴ってる。もう!気が削がれちゃうよ。まぁ届け物だろう。でも頼んでた物なんてあったかな?

 

 

 「先生、御機嫌よう!」

 

 「……御機嫌よう。マルローネ様。もう先生ではないですけどね」

 

 「もう!せっかく(わたくし)がここまで来たのに、素っ気ないのね。寂しいわ」

 

 「私はいつもこうですよ。それで、今日は何か?私も忙しいのですよ?」

 

 「フフフ。嘘。あなたは今、お暇でしょう?昨日、溜まっていたお仕事も終わったそうね。しかもなぜか今日と明日は特に魔道具の制作依頼も入っていない。お弟子さんのアンナも不在……あら不思議。でも偶然にしては出来過ぎよねぇ」

 

 「……マジかよこいつ。その他人の行動を自分の良いようにコントロールするところ、私は好きではありません」

 

 「そうかしら?でも私、あなたのそういう露骨に表情に出るところだーい好き!ねぇ……?わかってるんでしょう?私の屋敷に招待したいの。また『遊び』ましょう?」

 

 「おやめ下さい……それにあれで最後だって……」

 

 「だーめ。明日の朝来てくださいまし。絶対ですよ?」

 

 

 ………断れなかった……しかもだいぶ急……やぁだぁ……………

 

 ………………………………アイテム置き屋さんをしよう。うん、それがいい。そうと決まれば即実行!準備だ準備!

 

 

 

 

 あぁ……最後だって言ってたのになぁ。相手は貴族のお嬢さんだから断りにくいし……ぶっちしちゃおうか。いや、あの様子だと私から訪問しなければ何度でも来る。何度でも来て、最終的に押し切られる。いつものことじゃないか。教え子だし嫌いじゃ全くないけど、強引な子だよ。家庭教師をしていた頃のあの子はあんなに素直だったのに……憂鬱だ。

 

  

 あーダメダメ!暗い気持ちになってはいけない!アイテム置き屋さんは暗い気持ちではできない!楽しくやろうぜ!イェイイェイ!今日は少し遠くに行こう!そうしよう!!

 

 

 はい!本日のアイテムは鈴のお守りだ!ちりんちりんと控え目に鳴る鈴を三つ付けたお守りで、効果は睡眠無効!使いどころは限定的で、鈴の数の分だけしか効果がないけど、ソロで冒険するなら持っていると安心するぞ!

 睡眠魔法や眠り毒を使う魔物「は」ほとんどいない。が、人間が皆が皆、良い者とは限らないからね!気をつけようぜ!

 アイテム置き屋さん的には鈴のお守りは結構好きだ!単純に見た目が可愛いから!こういったアクセサリー系のアイテムは女性に人気だ!小さなお守りだから持ち運びも楽なのもポイント高い!

 そして今回はなんと!いつもなら一つしか入れないアイテムを!三つも入れちゃいます!おっ得ー!

 

 

 鈴のお守りさん!今日の抱負は!?『冒険に使えるオシャレアイテム65位(アクセサリー部門)の力をお見せするのが楽しみです~』おー!やる気満々といった感じだぁ!!!頼りになるぅ!

 

 

 さてさて!アイテム置きの舞台となるのは地下水路のダンジョン!じめじめした空気が纏わりつき、状態異常にしてくる魔物がこれでもかといる不快感満載なダンジョンだ!大ナメクジ(ぬとぬとしている。気持ち悪い)、大ネズミ(泥にまみれて汚い。気持ち悪い)、ドロドロ(溶けたスライムみたいな形。気持ち悪い)が主に生息している!

 臭い、汚い、気分悪い!入るのも憚れるダンジョン!足元に目を向けると、ねちょねちょした何かが散らばっている。なにこれ……気持ち悪い……

 

 ……気分転換のために少し遠出したのに、なんでこんな汚いところに来ちゃったんだろう。来る前はすごいウキウキだったのに……これじゃあ……

 

 はっ!いかーん!!!!アイテム置き屋さんは場所を選ばない!ダンジョンあるところにアイテム置き屋さんあり!どんな場所でも貴賎なし!!平等!!よし!!

 

 はぁはぁ。危なかった。危うく正気に戻ってしまうところだった。アイテム置き屋さんは冷静になってちゃやってられない。

 行け!進むのだ!

 

 

 

 

 いやぁしかし、このダンジョンはシンプルな作りだな。あー、あれっぽい。あの何だっけな……そうそう!下水道っぽい。真ん中に水路が通っていて、それに沿って左右に道がある。そこからはひたすら真っすぐ道が続いていくだけ。で、水路の水は恐ろしい程汚い。どれだけ金を積まれようとも絶対に触れたくない。

 

 ……というかやはり地面も汚い。足つけたくねぇ~。箒に乗って飛んじゃおう!よいしょっと!天井が低いから頭をぶつけないように!

 

 

 箒に跨って緩やかに進んでいくが、以前来た時に比べると様子が変化している。空気に漂う魔力濃く、魔物が1.5倍程大きくなっている気がする。前に来たのは……いつだったっけなぁ。ここのダンジョンのランクはEと低いからかなり前だとは思う。

 ダンジョンの中身自体常に変わり続けるから当然であるんだが、それにしたって変化の幅が広いような。うーん……まぁ誤差の範囲か?

  

 

 ん?水路に変な影が。おおすげぇ!汚水から急に飛び出してきたのは触手だぁ!!!こんな場所から!?珍しい!

 後方に向かって距離を取り、触手を華麗に躱す!へっ。もう少し素早さを磨いてくるんだな! 

 

 水面からそそり立つ複数の赤い触手からはねとねとした粘液が滴り落ち、くねくねと標的を捕まえようとする動きは意外にも滑らか。久々に見たな……これはタコ魔人の触手だ!柔軟な触手と屈強な四肢を持つムキムキな蛸タイプの魔物!腕を組みながら戦いのフィールドにエントリーだ!

 ……強いのは強いんだけど、ここに出てくる魔物でもないんだよなぁ。出るんなら海だよ海。誰かに連れてこられたのか?汚水から出てきて少しかわいそう。

  

 

 かわいそうだからさっさと燃やすね。 

 

 

 

 

 

 えっと………………………………もう最奥まで着いちゃった!何も起こらないとそれはそれでつまらないなぁ!出会うのは魔物しかいないし、アイテムを置く場所もピンとくるスポットがないし!道中、かわいそうな触手が出てきただけで、アイテム置き屋さんとして有るまじきスムーズさだ!なーんの気配もない!!

 

 最奥は水路の終着点であり、人が何十人でも余裕で入れるだだっ広い石造りの広間!ボス的な魔物も見当たらない!目に付くのは水路の終着点たる汚水だまりに繋がれた巨大な円形の魔力製造装置、何かをでかい魔物を召喚するような血で描かれた超巨大な魔法陣!

 

 ………………………………おかしいな!誰かが変な手を加えてるじゃん!絶対に変な実験してるやつじゃん!

 もー。これのせいでこのダンジョンにいる魔物が妙に大きくなってたんだなぁ?生態系を崩すのはやめて欲しいんだけど。せっかくだからぶっ壊しとこ!!!!代わりにアイテム置き屋さんが優しさ満点なアイテム置いといてやるよ!!

 それにこんな悪意の塊を放っておくと誰のためにもならない。今はそこそこ平和になってるんだから、それを乱そうとするのは嫌いだ。

 

 箒を振りかぶって……

 

 「待ちなさい!」

 

 「待たない」

 

 何か声が聞こえたが、関係ない!そのまま何度も箒を振り下ろして魔力製造装置をぐしゃぐしゃにする。あぁぁぁ!壊しても問題ない高級そうな装置ぐっちゃぐちゃにするのって楽しいいいい!!アイテムを無断でダンジョンに置くのと同じくらい楽しい!

 よし!!あとは跡形もなく消し炭にすれば………………………………はい!燃えたぁ!綺麗さっぱり!!

 あんなに大きな物体が見事なカスになってる!あっ!さっき止めようとしてきた奴が項垂れてるぞ!見るからにマッドサイエンティストて感じの風貌だ。ざまあみろ! 

 

 「なんてことを……こんな馬鹿みたいなタキシードの狂人に私の悲願が……」

 

 「あんな物騒なの置くのが悪い。あと狂人ではなくてアイテム置き屋さんだ」

 

 「アイテム置き屋さん……アイテム置き屋さん?なら何も間違ってないじゃないか」

 

 ちょっとよくわかんないです。じゃあこっちもアイテム入れた宝箱置いてくんで……匿名でギルドにも報告しとくんで……あぁでも魔力製造装置、燃やしちゃったな。

 

 「そもそも私が何かするのを直接見たのか!?おい!」

 

 「何かをする気だったんでしょうが。あんなに大きな召喚魔法陣まで描いておいて……碌でもない存在を呼び出すつもりだったろうに」 

 

 「碌でもないだと!邪神様は人類を導く存在だ!それをお前は……!」

 

 「あーこれ以上のお話は無駄のようだね。おら!睡眠!」

 

 よし!寝たな。縛って放置してギルドに任せよう。どうせこのフロアのどこかに隠し部屋でもあるんだろうし。調査でもすれば何かしら見つかるはずだ。 

 

 

 

 さて、と。ここで一番目立つのはあの魔法陣だよな。うんうん。ここに入った瞬間目に付くくらいは派手だもん。あそこにアイテム置こっと!!

 

 ごめんねぇ、鈴のお守りさん!いい感じの場所がそこしかなさそうなんだ。でも、手に取ってもらいやすいと思う!いいかな?『いいよ』よし!!

 

 

 今回のアイテム置き屋さんはモヤモヤが残る結果になってしまったけど、そういうこともある!!!成功ばかりではない、これもまたアイテム置き道だ!!

 

 

 

 

 次の日、マルローネ様の屋敷にて。案の定、衣裳部屋に連れ込まれていた。

 

 「前々から伺おうと思っていたのだけれど、なぜ先生はいつも古びたローブをお使いに?ボタンもきっちり締めては野暮ったくなりますのよ?」

 

 「私の中の画一的な魔法使い像ですので。箒を武器として使うのもそういった理由です」

 

 「それは随分と……昔好みですのね。今時そのような服装は演劇でしか見かけませんわ。もっと自由でもよろしいのに」

 

 「自由にした結果でもありますよ。魔法使いとは斯くあるべし。ですから、自由選択を尊重して今回はこの服で終わりしませんか?私にはその……似合いませんから」

 

 「フフフ。そうやって逃げようとしても、逃がしませんわよ?私の目から見ても、先生は良いものを持っています!さぁ!次はこれを着てくださいまし!」

 

 「勘弁して……」 

 

 「先生?そんなに心配なさらないで?悪いようにはしませんから!さぁ!さぁ!」 

 

 じりじりと寄ってこないで……その服は嫌だ……なんで露出の多い服を選ぶの?あーせっかくの休みがこんなので消えていく……

 

 

 

 頑張れアイテム置き屋さん!多分夕方近くまで続くと思うけど……頑張れ!!心頭滅却!時間が経てば終わるのだ!その間はお人形さんになるのだ!!

 

 

 




・アイテム置き屋さん
 変装時のタキシードはカッコいいなぁと思ってる。
 金品では動かない。  

・マルローネ(貴族のお嬢さん)
 いつか先生を独占出来たらいいなぁと思っている。
 目的のためなら普通に買収する。 

・アンナ(弟子)
 そんな回りくどいことしないでもいいんじゃない?と思っている。
 演劇のチケットで買収されて不在。
 
・鈴のお守り
 その辺の道具屋でも売ってる。
 
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