アイテム置き屋さん、はじめました   作:面相ゆつ

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永遠の華栞置くよ

 

 今日も今日とて、本業の小さな魔道具屋はぼちぼち忙しい。魔道具の制作が主だが、普通の道具も魔道具も売っている、そんな魔道具屋だ。最近はどちらかと言えば、本業以外の頼まれごとの方が忙しかったから新鮮な気分。そうそう、これが本来の姿なんだよ。

 

 

 「やぁやぁ!やってるかい?どうやら儲かってそうだねぇ」

 

 「げっ」

 

 うわぁ……ほんのり忙しい時にほんのり暑苦しい人が来ちゃったぁ。

 

 「げっ、とは何だよう。君と僕の仲だろう?」

 

 「…………………………………………………………………………そうだな」

 

 「その長い沈黙が僕に対するぞんざいさを表現してていいねぇ!でもいいのかい?君が以前から欲しがってたの、持ってきてあげたのになぁ」

 

 「まさか、あったのか?言い値で買い取らせてもらう。待ってて。代金を払うから」

 

 「ちょっとちょっと!現物もまだ見てないのに!?」

 

 私がどれだけ探しても見つからなかったのに。一体どこに?いやそんなことはどうでもいい。私は奥から金貨袋を持ってきてどん!と受付台に置く。私が想像以上の金貨を取り出してきたのを見たからか、相手も若干及び腰になっているのがわかる。

 

 「……なんでこんな物を大金はたいてまで欲しがるかなぁ。効果も、その範囲すらも限定的。条件付きで半永久的に使えるってのは長所かもしれないけど。それだけだよこれ。そんなに価値ある?僕はないと思うけど?」

 

 むっ。半笑いで憎まれ口を……こいつ、こういうところあるんだよね。

 

 「価値は私が決めることだ。でも……探してくれてありがとう、ユウ。私すごい嬉しい」

 

 まぁ金のためとはいえ、探してくれたのは事実。私では決して見つけられかったのだ。相当苦労したはず。金銭と物品の授受を通した対等な立場ではあるが、お礼を言うのが筋だと思う。

 なのになんでこいつはそんな苦々しい顔をしてるんだろう。金が足りないのか?

 

 「………………………狡いよねぇ、君って。持ってる魅力的な手札を最大限活用する(すべ)を無自覚に身に着けてる。僕もほんのちょっとだけ心動かされそう。ねぇ、このあと時間があったらさ……」

 

 「師匠!この人から邪な念を感じます!用が済んだらとっとと帰れ!しっしっ!」

 

 急に弟子がインターセプト。配達から戻ってきたのか。

 

 「チッ!!!お邪魔虫め……まぁいいさ。お金は受け取ったし。そうだ!お求めの個数は一枚だけだったと思うけど、おまけでもう一枚入れといたからね」

 

 そう言って、金貨袋と入れ替わりに封筒をすっと差し出してくる。というかおまけでもう一枚って?

 

 「えっ……一枚だけでいい」

 

 「僕が持ってても、ねぇ?おまけはおまけ、残りは好きに使いなよ!じゃあまた今度!」

 

 含みのある爽やかな笑顔で風のように去って行ってしまった。なんか急に帰ったな。

 

 「二度と来るな~!師匠!塩撒きましょう塩!」 

 

 「なんでそこまで嫌ってるんだ……?」

 

 

 

 

 私が必要にしていたのは一枚だけ。じゃあどうする?あれをするしかないようだな……アイテム置き屋さんを!!そうと決まれば、準備だ準備!

 

 

 

 今回のアイテムは永遠の華栞だ!見た目は花弁が綴じられた長方形型の何の変哲もない普通の栞だがぁ?なんと!これを挟んだ書物はほぼ永久的にその状態のまま、劣化することなくその形を維持し続けるのだ!!燃やそうが、水に沈めようが、何でも溶かす粘液に浸そうが!何事もなかったかのように新品さながらの美しさ!

 

 制作時に特殊な腐敗無効の魔力が栞に付与され、綴じられた花弁は今では絶滅してしまった『時の華』を使用している。時の華が持っている自分を除く物体の時を緩やかにする特性によって、この栞を挟んだ書物は何者にも侵されることのないある意味神聖なものとなるのだ!

 ただし条件もある。効果があるのは永遠の華栞を『挟める』書物のみで、一度挟んでしまうと他の書物には使用できない。しかもこの栞を取り出した書物は、その時を取り戻すかのように栞と共にボロボロに崩れ去ってしまう。読んでるときにポロッと落ちたら終わりなのかどうか……多分猶予はあるけど試せないな! 

 

 だから一度きりしか使えない。使いどころの難しいアイテムだ。何も知らない人が使えば驚くことこの上ない!一緒に説明書も入れておいてあげようね!!

 

 

 そういうことなので永遠の華栞ちゃん、今日はよろしくね!『わらわにふさわしい場所を選ぶがよい』

あぁ~そういう系かぁ。そういう尊大な感じかぁ。いいよね!好きだよ!

 

 真夜中、弟子が眠ったのを見計らって外に出る。このアイテムは相応しい場所がある。そこに向かおう。

 

 

 

 

 

 着いたぜ!書庫のダンジョンだ!周囲を見渡しても本!本!本!棚に規則正しく並べられた本の群れ!天井までに積み重なれた本の山もある!本に埋もれて死にたいのならここがいいと思うぞ!

 

 ここはダンジョンと名付けられてはいるが、実際のところ魔物はいない。いるのは活字好きで善良な大魔族のみ。ダンジョンを作り出し悪さでもするのかと思いきや、古今東西の書を集めまくりそれらを保管するだけ。なんならお昼には一般開放しているからか、扱いが品ぞろえの良い図書館だ。

 危険性がなく、ぶっちゃけ貴重な書物が綺麗に保存されているために、ギルド側も対応に苦慮している。そもそものほほんと暮らす大魔族相手に、いらぬ藪蛇をつつくのは双方にとって不利益だからな!事実上の不可侵である!! 

 

 

 いつも通りであれば奥のソファで静かに本を捲っているはずだ。

 

 絵本コーナーを抜け、古文書コーナーも抜け、禁書コーナーさえも抜け。踏み心地の良い絨毯の感触を楽しみつつ、奥に奥に足を進めていくとやはりそこにいた。

 一人掛けの赤いソファに腰を沈め、ふむふむと頷きながら本を読み進める魔族の女性がこちらの足音に気づき、顔を上げる。二股に分かれた尻尾をピコピコ動かしているの見るに、ご機嫌だな。

 

 「こんな夜更けに誰です?……うわぁ……変な人だ………………………管理者権限で出禁にしましょうか」

 

 「こんばんは。アイテム置き屋さんです。以後お見知りおきを」 

 

 アイテム置き屋さんは挨拶を忘れない!アイテムを勝手に置く以外は礼儀正しく、紳士的であれとはアイテム置き道の基本!!礼節を重んじ、アイテムを置かせてもらうのだ!

 

 

 「律儀で変な人だった。えっとこんばんは?アイテム置き屋……?アイテム置き屋………………あんな世迷い事を思いつくのが二人いるとは思えないから聞きますが、ソラですよね……?」

 

 「ソ……ラ?誰それ知らない。初めて聞いた。人違い人違い。自分は誇り高きアイテム置き屋さんさ。さんまでが正式名称だから、そこのところよろしく!」

 

 アイテム置き屋はアイテム置き屋だ。誰と勘違いしているんだか。うーん全くわからないな!でも多分、聡明な魔法使いな気がするなぁ!

 

 

 「やめなさいって言ったのに……ってあれ!?起伏がない!タキシードの構造上起伏が全くないのは不可能なはず……アイテム置き屋さん!あれだけ大きいものをどうやって収納したんです?教えて教えて~」

 

 「………………………………………………こう、ガチガチにさらしを巻いて補正してる。そのままで着るのは思った以上にきついからな。質問は以上かな?」

 

 「なるほど~。えいえい!あ、本当だ硬い。石の壁みたい。これ相当力入れてますね」

 

 「魔族のお嬢さん?お触りは厳禁だよ?そこだけを重点的に触られると…………弾ける

 

 「すみません、結構ギリギリなんですね……」

 

 ………………………まぁ、普段は着ないから平気だ!

 

 

 

 

 

 「それではアイテムを置かせてもらうね。この子にはここが一番なんだ」

 

 これ見よがしに彼女の目の前にある小さな円形のテーブルに永遠の華栞を置く。宝箱に入れるよりもそのまま置く方が美しいだろう。よくよく考えると彼女であれば、説明書など必要はない。

 

 「この子?あぁ永遠の華栞ですか。良い物持ってますね」

 

 永遠の華栞ちゃん!良い物って言われてるよ!!『ふ、ふん!別に嬉しくはないが。嬉しくはないが、まぁ誉め言葉として受け取っておこう』あぁ~素直になれない系だったんだぁ!可愛い!

 

 「もしかして、私にプレゼントとか?」

 

 「いいや、アイテム置き屋さんはアイテムを勝手に置くだけさ。それを誰が拾おうと構わない」

 

 「プレゼントじゃないんだ……残念……ん?では私が拾っても構わないってことですか?」

 

 「ふふっ。どうだろうね。ただアイテム置き屋さん的には、この子を大事にしてくれる者に渡って欲しいと思うよ。ではさらば!!!」

 

 アイテム置き屋さんは親しき仲でも平等にを心掛けている!だが!自分は情もあり、貴重なアイテムは相応しい者に届いて欲しいとも思ってしまう!難しいね!!

 目的を遂行した!じゃあ永遠の華栞ちゃんお元気で!『もう一枚の方も大事にしてあげなさいね』もちろんだとも!

  

 

 「えっ!これだけのために来たんですか!!!?もうあんなところまで!?次はもっとのんびりしていってください~!これ!大事に使いますね~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、私室にて。

 私は一冊の本を取り出している。装飾などはなく、表紙に題名も入れていない。平凡な紺色の日記帳だ。少しだけ端が擦り切れ始め、中のページも使い古された手触りになってきた。全てのページは既に埋まってしまった思い出の結晶であり、私にとって何にも代えがたい大切な宝物。そして、消し去りたくない過去の残り火。

 

 永遠の華栞を差し込むと、日記帳はふわりと暖かい光に包まれる。初めて使ってみたが、こんな風に優しく光るんだな。これで文字通り栞を取り出さない間は『永遠』となったわけだ。 

 

 思い出は形も何もない記憶の欠片が集まり姿を成す。生きている限り思い出はきっと劣化などしないと信じている。信じたい。けれど思い出は儚い。段々と違う思い出に上書きされ、いつかは小さくなって振り返ることも忘れてしまう。

 

 だから……私は思い出を現実に形あるものとして残したかった。永遠に、だ。

  

 

 

 記されているのは楽しかった勇者との冒険の記録。私はそう、未練がましいのだろうな。

 

 

 





・アイテム置き屋さん
 周囲の人に恵まれているなぁと呑気にしている。
 人の善意を信じてバッドエンドに行くタイプ。

・ユウ
 金のためじゃなくて君のためなのにと言えない。
 最悪どうにかして奴隷堕ちさせて金で買えねえかなぁと思っている。
 
・弟子
 こいつは師匠に対してねっとりとした邪な感情を持っているな……と感づいている
 インターセプトが得意。

・書庫の魔族 
 一般人からは図書館の司書だと思われている。
 友人が変な方向に思い切りがいいので心配。
 
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