アイテム置き屋さん、はじめました   作:面相ゆつ

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煙幕玉置くよ

 

 私は大いに悩んでいる。引き受けたからにはやらなきゃいけないのは理解しているが………………………

 

 ああぁぁぁ……なんだって私が人前で講義をしなきゃいけないんだ!家庭教師はやったことはあるけど、それだけだぞ!クソ!魔法協会の連中は私を万能の天才だと思ってるのか?そう思ってるのならちょっと嬉しい! 

 

 「先生?頭を抱えてどうされたましたの?」

 

 「……いえ、実は魔法協会が運営する学校で講義をすることになりまして……」

 

 あれぇ?マルローネ様がいつの間にか侵入してきている。ここ私の部屋だぞ。どうワープすればここに移動することになるんだ。そもそも自宅側は鍵閉めてなかったっけ。でも入ってきているということは閉めてなかったのかも。

 怒って追い出すわけにも、問いかけを無視するわけにもいかず、私も仕方なく答えた。

 

 「は?なぜ?」

 

 「なぜと言われましても。頼まれたからとしか」

 

 一回だけ!一回だけだから!と全力で頭を下げられたらなぁ。私はどうしてもダメな場合は除いて、頼み事は断れない性格だ。そのせいでどんどんやることが増えてきてしまった。くぅーん、暇だった頃が懐かしいわん………………………

 

 そしてこっちではマルローネ様が口を尖がらせて機嫌が悪い。私何もしてないぞ。むしろ私が『勝手に入るのは止めろぉ!出ていけぇ!』と言ってもいいんだけど?実際は貴族のお嬢さん相手だからそんなこと言わないけどさぁ!

 

 「へぇ~。ふぅん。そうですのね。見ず知らずのどこの馬の骨ともわからない生徒相手に、先生は笑顔で!講義をするわけですのねぇ。ふぅーーーーーん」

 

 「どうしたんですかマルローネ様。私が笑顔で講義するわけないでしょう。嫌々ですよ。仕方なく、頼まれたからってだけです」

 

 早く終われと思ってるくらいなんだぞ。なんで引き受けちゃったかなぁ。

 

 「先生は頼まれたのなら嫌なことでも何でもしますの?じゃあ私が『あの家から連れ出して』と頼んだらやるのですか?しないでしょう?そうやって誰にでも良い顔を……」 

 

 「侯爵家令嬢の立場が辛くて苦しくて、どうにもならない程に逃げ道がないのなら、私はしますけど……あなたが本当に望むなら」

 

 まぁあくまで例え話だろうけど。そんな風には見えないけれど。仮に本心でそう思っているとすれば、やりようはある。私も結構やる時はやる人間なんだからな。ただそれは講義を乗り切ってからの話になるが。

 あれ?例え話だとしたら、もしかしてマルローネ様、私が無理してないか心配してくれているのかな。意外と優しいところあるじゃないか。先生冥利に尽きるってやつかも。

 

 「……ぐ…………………先生っていつか騙されて破滅しますわね。逆にその時に救い出したら私のものってことかしら。晴れて私だけの先生……?

 

 「ちょっと邪な念を感じました!師匠!無事ですか!」

 

 「何なの君たち」

 

 もう慣れちゃったからいいんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 とうとうその時が来てしまった。お呼ばれした魔法学校の教室に私はいる。

 

 「はい、というわけで本日だけの特別講師のソラです。よろしく」

 

 うぇええ。壇上から人がめちゃくちゃいるのが見えるぅ。緊張するぅ。ここで吐いたら帰れるかなぁ。無理だよなぁ。あーもうサクサク捌いていこう!で、帰ろう!

 

 「講義をしろと言われましたが、質疑応答の方が色々と良いでしょう。何かありますか、聞きたいことなら何でも………………………はい、そこの子どうぞ」

 

 「すみません、純粋な疑問からですが……ソラさんはなぜ魔法使いになろうと思ったのですか」

 

 魔法使いになろうと思った理由?理由ねぇ。

 

 「向いてたから。そもそも私は道具屋だしな。はい次」

 

 「ローブの下が見たい?なんで?………………………はい、特に面白いものは入ってないけど。これでいいんだ?不思議な質問だなぁ。次」

 

 「魔法なら何でも使える。せっかくだ。ここにいる皆に催眠魔法を……ダメ?じゃあ次」

 

 「弱点?苦手なものってことでいいか?お酒の味が苦手。次々いくぞー」

 

 「悩みは本業以外の仕事がどんどん増えていくことだな。おーい魔法協会の連中聞いてんだろー。仕事の振り方もっと考えろー。便利に使い過ぎだぞー。私は一応功労者だぞー。よし次」

 

 「………………………スケベ。何でもって言ったけどそういう質問には答えないから。うん、次」

 

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 「よ、ようやく最後……!」

 

 ぽんぽんと質問を捌いていって最後の質問者まで辿り着いた。質問が一人一つだけとはいえ、どんだけいたんだよ!ここに!

 一度だけの講義じゃあ何やってもあまり意味ないよな……と始めた質疑応答だったが、予想を遥かに超えて疲れる。参加者の二割くらいは質問してくれると気まずくないなぁとくらいに思ってたのに。全員はおぉもうすごいな!私ってば意外と人気者だった!

 しかし、終盤に至ってはよくわからない質問ばかりになって、若干おざなりになった気もするが………………………まぁ終わりよければ全て良しだろう。

 

 「僕が最後の質問者ですか。じゃあ、誰も聞かなかったので最後に質問します。ソラさんは勇者と共に邪神を討伐しましたが……実際のところソラさん自身は勇者について()()思っていたのですか」

 

 「勇者について、か」

 

 どう、思っていたか。

 

 「そうだなぁ。勇者は……うん、子どもっぽい言い方になるけど、とても良い奴だった。それに一緒にいて心落ち着く存在だったよ。これでいいかな?」

 

  

 

 

 

 

 

 へっへっへ。終わった終わった。開放感がとんでもない。もう二度と講義なんてやんねぇからなぁ。あれ?講義ではないか。質疑応答か。同じことだ。二度とやんねぇからなぁ………………………!

 

 魔法協会がこの日のために取ってくれた宿屋で、家のとは比較にならない大きさのベッドにダイブする。弟子のアンナも連れてくるつもりだったけど『店番する人がいた方がいいのでは?』という至極真っ当な提案を受け、私一人での宿屋である。別に何日か閉めても構わないんだけどなぁ。

 

 それで今日は宿屋に泊まり、明日帰るわけだが。あぁ~溜まってるなぁ、ストレスが。大勢の前に出て話すのはなかなかに負担が重い。学校の先生は向いてないな私。

 

 

 こういう時のストレス発散方法なんて一つしかない。アイテム置き屋さんだぁ!!!実は持ってきてるんだよなぁ!変装道具もアイテムも!出張アイテム置き屋さんだぁ!

 

 

 今日のアイテムはぁ……煙幕玉!!地面に叩きつけると同時に玉が割れてモクモクと広範囲の煙が周囲を包み込む!魔物から逃げる時に使うと便利だぞ!!

 シンプルイズベスト!余計な手順も必要としないわかりやすさ。煙に紛れて外敵から逃げるという単純明快な効果と潔さ。これは………………………無駄を削ぎ落した美しさだよなぁ!

 出る煙の色は白、黒、ピンクがあるけど今回は白い煙が出る煙幕玉だ。まぁね、やっぱりね、煙幕と言えば真っ白でしょうからね! 

 

 煙幕玉クン!よろしくぅ!!ねぇどんな気持ち?『おいら、煙出す。モクモク。冒険者なら一つは持っておくべき。必需品』煙幕玉クン、めちゃくちゃわかるよ……もしもの場合に備えて持っておくべきなんだよね。

 回復魔法も使えない程に魔力も尽き、ポーションなどの回復アイテムも尽き……息も絶え絶え疲労困憊。あぁでも出口までもう少し。そんな状況で魔物が出たらどうするの!?逃げるしかないでしょうが!逃走を確実にする煙幕玉クンはそんな時に役立つってわけ。保険は入っておかないと意味はないぞ!

 

 初心者冒険者だろうが中堅冒険者だろうがベテラン冒険者だろうが!持っておこうぜ!手のひらサイズなんだから最悪懐にでも入れておこう!

 

 

 おぉ!いい感じにあったまってきた!!役に入る前はこうして気分を高めるのは実際大事。 

 

 よおし!準備だ準備!

 タキシードとぉ、小っちゃなシルクハットとぉ、目元を隠す仮面とぉ、煙幕玉クンを入れる宝箱とぉ……あれ?ない…………

 えっと。あれなしで一回頑張って着てみる?いや無理だろ。前が留まらん。えぇ……ここまでやっといて?あ、部屋に備え付けの包帯あるじゃんこれでいいか………………………包帯の幅って狭いなぁ。

 

 

 

 若干トラブルもあったが代用できるものでよかった!ちょっと心許ないけど。上手く固定出来てないかも。

 

 よし!じゃあこれから行く場所は!場所は……この辺りってどんなダンジョンがあるんだろう……頭の中講義のことばっかりで、なーんにも考えてなかった。

 んーそうだなー………………………あっ………………………学校に通う生徒たちにとっては実質ダンジョンみたいなものでは?迷路みたいに入り組んでるし。そんな気がしてきた!

 

 

 アイテム置き屋さんは無断侵入を恐れない!別に盗みに入るわけではないから多分セーフだ!と思い込むことが肝心だ!リスクがある方が燃えるだろう?行くぞ~!!!

   

 

 

 

 意気揚々と正門から堂々と侵入した瞬間、学校中をビービーと耳をつんざく警戒音が鳴り響く。

 へぇ~真夜中の学校ってこんな風なんだ~意外とうるさいんだなぁ。まだ建物内に入ってすらないよ。ここなんて庭じゃん庭。

 

 「侵入者発見!あそこだ!捕まえろ!」

 

 「おっ!やべぇ!!」

 

 警備兵が数人こちらに向かってくるのが見える!早い早い!流石はこの国で一二を争う魔法学校!防犯システムがしっかりしてる!感心感心!!わー逃げろーー!

 

 アイテム置き屋さんは足腰が強いのだ!追いかけてきな!  

 

 

 

 「いたか!?まだ近くにいるはずだ!探せ!」

 

 なんとか校内に忍び込んだはいいが、警備兵の人数が思いの外多くなってきている。ちなみに今、アイテム置き屋さんがいるのは大きなゴミ箱の中だ。臭い。 

 警備兵を無力化するのは簡単だけど、頑張って業務を遂行しているだけの相手に魔法を使うのはちょっとね……怪我をさせるのは以ての外。それじゃあ本当の悪人だもんね!………………………自分のせいとかそういうのは一旦目を逸らすとして。

 

 

 

 それはさておき、どこに置くのが良さそうかな。せっかくここまで侵入できたんだから、目立つ場所がいいよね!今日の講義で使った大教室に置こっか!

 でも申し訳ないね煙幕玉クン。バタバタしちゃって。『逃げるならおいらを使って』煙幕玉クン!!自己犠牲の精神!さしものアイテム置き屋さんも感動してしまう!自分を大切にして!

 なぁに平気さ、煙幕玉クン。なぜならそうしているうちに辿り着いたからさ!!

 

 

 こそこそっと入ると当たり前に真っ暗だ。アイテム置き屋さんは夜目が利くので問題なし。必須技能ではないが、アイテム置き屋さんを志す者は身に着けておくと便利。じゃあ壇上のど真ん中に置くぞ!

 

  

 よっこいせっ!と屈んで宝箱を置いた瞬間だった。プツンと音がして、妙な感覚に襲われた。あ、やばいな。包帯が千切れた。ぐぇっ息苦しい!ボタンが飛ぶ!いやもう飛んだ!

 

 「ここにいたぞ!」

 

 「はぁ!?チッ!タイミング最悪じゃないか……!」

 

 うげぇ。すげぇ変な感じ……絶妙なバランスでギリギリで留まっている。つまり早く戻って脱ぎたいくらいには心地よくない!!慣れてない包帯では無理だったんだ!片腕で押さえつけておくしかない!

 葛藤しても遅い。このズラッと警備兵が並び立っているのをどうにかしなくては。わぁ皆が皆武装している。なんだか大変なことになってきたぞ。

 ………………………まずは挨拶からかな?

 

 「こんばんは。失礼、実は怪しい者ではないんだ。アイテム置き屋さんです。よろしく」

 

 「馬鹿言うな、この不審者め!何が目的だ!」

 

 「アイテムを勝手に置くことが目的だが?ほら見てくれこの宝箱を。この中にアイテムを入れているんだ。何が入っているかは……ふふっ開けてからのお楽しみさ!」

 

 「………………………意味が分からない。捕まえてからじっくり聞きだすしかないか。そこを動くなよ」

 

 おっと。警戒度が上がってしまったようだ。じりじりとこちらに近づいてくる。アイテム置き屋さん式話術が効かない。まぁ当然か。

 この包囲を突っ切ってとなると、魔法を使うのがいいんだけど……今、あまり集中できてないから加減ができない。加減しないでとなると、眠らせるのがいいか……でもここの床に頭ぶつけたら痛そうだよなぁ。『おいらを使うんだ』君は……懐に隠していた方の煙幕玉クン!

  

 そうだよ!こういう場面でこそだもんね!!

 

 「変な動きをするなよ。こちらとしても手荒な真似はしたくない」

 

 「同感だね。アイテム置き屋さん的にも罪のない警備兵さんを傷つけたくないのでね」

 

 ごそごそ。あったあった。持ってると安心するね。

 

 「何を言ってるんだこの不審者………………………おい懐に何を隠している」

 

 「それでは!お騒がせしました!!あばよ!」

 

 取り出した煙幕玉クンを床に叩きつけると辺りはもう驚くくらいに真っ白!!げほ!煙が多い!物によっては個体差があるのが難点だな!

 いきなり視界が真っ白になるとあちらも対応できまい!その混乱に乗じて逃げろー!お騒がせしてごめんなさーい!!

 

 

 

 

 

 

 次の日、無事に住んでいる町まで帰ってきたあと。洗濯物を整理中の時のこと。

 

 「あれ?師匠このボタンが外れたシャツって持ってましたっけ?」

 

 「………………………持ってたけど?何か問題でもあった?」

 

 「いや、師匠の趣味じゃないよなぁって。マルローネ様からの頂き物とかですか?でも……着れませんよねこれ」

 

 「……むっ…………………着れるもん。実践してみようか」

 

 「え、ちょっ!……あー……あーあー。案の定じゃないですか。シャツ着るだけでそんなに扇情的になることあります?胸のボタンが全く閉まってないじゃないですか」

 

 「でも着れることが証明されたな」 

 

 「それを着れたと自信を持って言える師匠は流石だなぁ。ボタン付け直しておくんで別にしといて下さいね」

 

 「ありがとう」

 

 

 アイテム置き屋さんは気にしてはいない!気にしてはいないけれど……やっぱり大きいと不便だなぁと思うこともたまにある!仕方ないんだけどね………………………

  

 

 





・アイテム置き屋さん
 「ローブの下が見たいってもしかしてそういうことか?」とあとになって気づく。
 アイテム置き屋さん状態では少し倫理観とか遵法精神がどこかへ飛んでいく。

・マルローネ 
 講義をせず質疑応答だけで済ませたと聞き、「この人ちょっと変だな……」と思った。
 別に立場に嫌気が差しているわけではないが、あの言葉にはぐらっときた。

・弟子 
 店番します~と殊勝なことを言ったが、実際は自由を満喫していた。
 師匠って学校の先生には向いてないと思う。 
 
・魔法学校の生徒たち 
 講義じゃなくて質疑応答!?となったが、律儀に答えるのでかなり盛り上がった。
 英雄然とした想像と違って、意外と親しみやすいと話題に。

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