アイテム置き屋さん、はじめました   作:面相ゆつ

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魔結晶の指輪置くよ

 

 今日はずっと寝る。何もしない。だらだらする。

 もうね最近ずっと働きすぎだったんだよ。寝る寝る。ぐぅ。仕事は知らなーい。臨時休業です。何かあったら明日の私がどうにかする。

 

 

 

 

 

 「んー?寝た気がしない………………………は?ここどこ?」

 

 起きるとそこは森林生い茂る森の中。周りはぎゃぁぎゃあと獣と鳥の鳴き声。まるでベッドだけワープさせられたみたいだぁ。なんで?

 

 「あ、起きた起きた。でも夢の中でも起きるっていうのはおかしいのかな。とりあえずおはよー!」

 

 「なんだこいつ。夢魔か?急に出てきてむかつくんだけど。私の安眠を妨害しといてタダで帰れると思うなよ。クソガキが」

 

 「やばい!寝起きが異常に悪い人だった!」

 

 

 

 寝起き直前の全てが煩わしくなる状態から脱した私は、涙目でフルフルと震える魔族の少女に目を向ける。  

 

 「ごめんね。怖がらせたみたいだ。それで一体どういう用件?」

 

 「よかったちゃんと会話してくれるんだ……えっと実は力を貸して欲しくて」

 

 「いいけど……」

 

 「話が早すぎる……まだどんな内容かも知らないのに、詳しく聞かなくてもいいの?」

 

 「すごい困ってるんだろう?相当切羽詰まってなきゃ、私の夢の中に直接出てこないはずだ。だからいいよ」

 

 わざわざこの私を選ぶくらいなんだから、それはそれは大変なのだろうな。私がそう答えると、彼女は一瞬下唇をぎゅっと噛み、その後何事もなかったかのように悪戯っぽくにんまりとする。イメージ通りの夢魔の笑い方だなぁ。あれだな、メスガキっぽい。ピンク髪だし。

 

 「………………………頼んでるあたしが言うのもあれだけど、もっと他人を疑った方がいいよ~?騙されてるかもだよ。もしかしたらぁ悪いことに加担させられかもよ~。いいの~?」

 

 「仮に騙されていたなら、私の目利きが悪かっただけだ。私は騙す方より騙される方になりたいからね。でも君は私を騙そうとはしていないと思うよ」

 

 騙されたとわかったらボコボコにするだけだし。それに実は私は騙されたことが少ないんだ。やはり良い目利きを持っているのだなぁ。

 

 「………………………………………………調子狂うなぁ。あたし、あなたのこと苦手だなぁ。きっといつか誰かにこっぴどく騙されて、身を滅ぼしちゃう人だ」

 

 「急に喧嘩売ってくるじゃん。一応助けを求められている側だぞ?まぁ今まで大丈夫だったんだ。これからもきっと平気だな」

 

 「……じゃあ付いて来て~」 

 

 あっ、話を切りやがったな。そっちが始めてきたんだろうがい!

 

 

 

 

 サクサクと草を踏み、向かうは森の奥。いや奥かは知らないけども。だって見覚えもない森を着いてってるだけだから。前方に映る可愛らしい角が生えたピンク頭とぴょんぴょこ左右に揺れる細く長い尻尾は見ていて飽きないけど。魔族って角と尻尾がデフォルト装備なんだろうか。

 気持ちの良い風も吹いてて、太陽もぽかぽか。生き物も普通に過ごしている。

 

 「久々に来たけど、夢の中って割には現実みたいだよな。触感もあるし」

 

 「そうだね~。こっち側もある意味であたしたち夢魔にとっての現実だからかな。この夢の世界と人の見る夢を繋ぎ合わせて、あなたを呼び出したんだけど……」 

 

 足を止めて振り返った彼女は不安そうな上目遣いでこちらを見やる。理由はわかる。

 

 私の知る限り、夢魔は夢に生きる魔族だ。比喩ではなく、言葉通り。普段は彼女の言う、この夢の世界に存在を固定し、現実の世界――私たちにとってのだが――と夢を自由に行き来する。

 夢の世界は言ってしまえば、人々の夢を土台にして作られたダンジョンみたいなもので、自然発生ではないダンジョンを維持するには莫大な魔力リソースが必要だ。しかし、この夢の世界は眠っている間に漏れ出る生物全ての魔力を少しずつ平等に拝借し、存在する。人々の無意識が作り出したダンジョンとも言い換えることが出来るかもしれないなぁ。

 

 そしてそんな場所に私を同意なしにピンポイントで呼び出すということは、こちらに相当有利な条件付けをしたに違いない。恐らく……いや、確実に私が望めばすぐにでも現実に帰ることが可能だ。しかも同意なしで呼び出せるのはたったの一度きり。だから不安がっているのだろうな。藁にも縋る気持ちだったに違いない。

 

 

 「……私が選ばれたということは魔力量が飛びぬけて豊富で、頼んでも断らない者とかか?」

 

 「まぁ…………うん。大体正解かな。条件に合うのがあなたしかいないから、断られたらどうしようかと……あっ!今からやっぱりやりませんとか言ってもダメだよ!?」

 

 「安心しろ。嫌ならもう戻ってる」 

 

 ここで会ったのも何かの縁、というやつだ。見捨てるのも後味が悪いからね。

 

 「………………………………………………あなたってさぁ、都合のいい人だよね~」

 

 「都合のいい人?どういう意味?」 

 

 「誰かにとって、都合のいい人ってこと。理由を聞かずに了承するなんてやっぱりおかしいよ。しかも勝手にあなたを呼び出した見ず知らずの夢魔だよ?本当に裏があるとか思わないの?」 

 

 「でも、困ってるんだろう?助けるってのは自分の意志で決めたんだし、本当に嫌なら断ってるよ夢魔のお嬢さん。だからええっと……君が気にすることはない」 

 

 なんなら魔法協会の理事会に出席する方がよっぽど嫌だ。あの厳格な雰囲気はなかなか苦しいぞ。あと悪い奴ならこうやって何度も聞き返さないだろうに。

 

 「むぅ……まぁあたしはいいんだけどねぇ~。べっつに~?でも……ありがとね」

 

 彼女は心底呆れた顔をして再び前へと進み出す。それと……少しの笑顔と共に。

 

 

 

 

 「着いたよ!ここ!」

 

 連れてこられた先、木々が大きく開かれた場所にあったのはお城だった。お城でっかぁ。庭もひっろぉ。

 

 自然に見えて実のところ手入れが綺麗に行き届いている広々とした庭はあれだ。あの……あれだよね何だっけ。昔々見たんだよ。あのーそう!イングリッシュガーデンみたいな感じ!色んな花が植えられていて目が楽しいんだけど、アイテム関連の花以外はよく知らないんだよね。あ、噴水もある。

 

 お城も大きいなぁ。何階建て?お城に対して何階建てってのもおかしいのかな。近くで見上げると首を確実に痛める高さだ。私の自宅兼道具屋の、えーっと……多分何百軒分だろうか。大きいね。

 

 

 「すごいお城だ。まさか王族でも住んでる?」

   

 「ここには夢魔の女王様がいるよ。あたしのお母様」

 

 「なんだ、君はお姫様かぁ。ちなみに私、権力には屈しない気持ちでいるけど、立場的にはまぁまぁ弱いぞ」

 

 「アハッ!何の情報なの、それ!あとここは本宅じゃなくて別荘で、住んでるというよりは療養かな。森の中で空気も良いから」

 

 療養ねぇ。何となく私がここまで連れてこられた理由は予想がついた。でも私はお医者様ではないんだがな。 

 

 門番にどうぞと促され、おずおずと入城する。正面にはよくある幅が広い豪華な階段、左右にはどこかへ続いていく長い長い廊下。天井も高ーい。

 うえぇ、場違い感が凄まじい。別荘という割にちゃんとしたお城じゃないか。

 

 「どうしたの?早く早く」

 

 お姫様はもう階段を上って先の踊り場で手招きしている。はーい、行きまーす。

 

    

 

 「ここが目的地、あたしがあなたを呼んだ理由よ」

 

 どこへ連れてこられるかと思っていたが、辿り着いたのは

  

 「お母様。サミュです。入りますね」 

 

 お姫様がノックをし、その返事を聞かないまま扉を開ける。親子の距離感だなぁ。

 今の私、ナイトキャップまで被った完全体パジャマ姿だけどいいのかな。不敬ってことにならない?今更かぁ。

 

 

 扉を開けるとすぐに目に入ったのは、日当たりの良い窓の傍に設置された天蓋付きの大きな白いベッドだ。それ以外は……何もない寂しい部屋だった。…………あぁなるほど、ここは病室だ。

 

 寂しい病室にはただ一人。ベッドの中で本を読んでいる。薄い桃色の長い髪の毛を三つ編みにし、静かに佇む美しい女性がそこにはいた。私たちの姿に気づくと、ゆっくりと本を閉じて優しい微笑みを携えて迎え入れてくれる。

 

 「あら。サミュ……と後ろの方はお友だち?」

 

 後ろにいる私を不思議そうな目で窺う。当然の疑問だ。初対面だもの。

 

 「どうも。私は娘さんに連れ込まれた者です。よろしくお願いします」

 

 「あっ!誤解を与える言い方は止めてってば!……違うんです。実はお母様を治してもらうために来てもらったんです」

 

 誤解ではなく事実では?そう思っても言わない良心が私にはある。話の腰が折れちゃいそう。

 その説明で何かを察した女王様は白い顔をさらに青ざめ始める。

 

 「サミュ……!あなたなんてことを……!申し訳ありません。今すぐに元いた場所にお帰ししますので」

 

 「お母様!でも、あたし死んで欲しくなくて……」

 

 「私は誰かを犠牲にしてまで生きるつもりはありません」

 

 「お願いだからあたしの話を」 

 

 すごい揉めてる……あれ?もしかして私が思っている以上に大ごとなのかな?ちゃんと事情を聞いてた方がよかったかも。ちょっとインターセプトしとこう。

 

 「まぁまぁ。二人とも落ち着いて。私は別に構わないので」

 

 「あなたは、何のために呼ばれたのかをご存知なのですよね……?」

 

 「……ふふふ?何か困ってるらしいんです?」

 

 私も曖昧に微笑んでおこう。いやぁこんなことならしっかり聞いとけばよかったなぁ。そう思いつつ、女王様の傍に近づいてみる。するとなぜ私が呼ばれたのかを完全に理解した。なるほど。

 

 「あぁ……魔力がほとんどないんですね」

 

 何故かは知らないけれど、魔力欠乏症になってしまっている。全く魔力を感じられない。それも魔族の生命活動に必要な魔力までも底に尽き欠けていた。これは死んじゃうぞ。

 

 「ということは……魔力を分け与えればいいんだな。じゃあお手を拝借しますね」

 

 「えっ。待っ」 

 

 魔力欠乏症の解決手段は一つ!!外部から満タンまで魔力を供給すればよい!!!夢魔の女王様ともなればたくさん必要だ!

 

 有無を言わさずに女王様の手を握る。あ、すごいすべすべ。魔力を流しますね。うおっとんでもない吸い込み。紙パックを交換した掃除機ぐらい吸ってる。あぁ~勢いよく魔力をどんどん取り込まれていく~。負けないぞ!!吸われる~!

 

 

 

 そうしてしばらく魔力を流し続けると、ある段階で供給が止まった。これ以上はいらないのかな。半分くらい待っていかれた。

 

 「体調はどうですか?多分これで大丈夫なはずです」 

 

 「嘘でしょう……魔力量が元通りに……」

 

 「本当に?お母様、もう平気?」

 

 ぐすぐすと泣き始めてしまったお姫様を促し、私は女王様の傍から離れる。おーおー抱き着いちゃって。まぁそれだけ心配してたってことか。そりゃあどうにかする方法があるんなら、死ぬより生きる方が何倍もいいさ。よかったよかった。 

   

 

 「ありがとうございました。なんてお礼をしたら良いのか……」

 

 「私のことはお気になさらず。寝たらどうせ元に戻るので。でも女王様は安定するまで魔力供給を続けた方が……そうだ!」 

 

 私は右手の人差し指に付けていた魔結晶の指輪を、ベッドに備え付けられた台の上に置く。

 

 「この指輪は外付けの魔力保管庫なんで、安定するまでの間はしばらくこれを身に付けていてください」

 

 魔結晶の指輪は魔力を貯め込み、必要時に放出する性質のあるアイテムだ。私一人分くらいの魔力は多分貯まってるから、女王様の魔力が安定するまでは十分賄える。

 

 「何から何まで……」

 

 「私が持っていても仕方ない物ですので」

 

 こんなもんかな。ぐえ!お姫様がこっちにまで抱き着いてきて、グサグサ角が刺さってくる!なんて硬い角だ! 

 

 「ごめんなさい……こっちの都合で急に呼び出したのに。もうずっとダメだと思ってて……でもお母様に生きて欲しくて……ごめんなさい」

 

 「謝らないで。何回でも言うけど、困ってたんだろう?ならいいんだよ。大事な人には生きてて欲しい気持ちはわかるから。それにさ……やっぱり私、騙されてなかったね?」 

 

 「……………………お母様を助けてくれてありがとう。何も聞かずに付いて来てくれてありがとう」

 

 「うんうん。泣き顔より笑顔の方がいいよ」

 

 まぁ聞いてたとしても結果は変わらないけどな。

 

 

 なんだか一件落着の雰囲気が漂う。実際そうなわけだが。おぉ!なんかいい感じに周囲も光始めてる。祝福されてる!……違う!私の体が光ってるんだ。自分の体が光始めて薄くなってきた。

 あれかな。呼び出された役目を終えたからか。帰る時間ってことかな。

 

 「じゃあねお姫様。また困った時は呼んでね。同意ありなら来れると思うから」

 

 「えっ!!早い早い早い!!まだ滞在する流れだったでしょ!?待って待って!ちょっと待ってお礼を!」

 

 「もう九割がた消えてるから無理~。お礼もいらなーい。ではさらば!」

 

 さぁ~寝るぞ~。 

 

 

 

 

 

 

 現実の世界。私室にて。私はまだ寝ていたいのに弟子が起こそうとしてくる。

 

 「師匠~?いつまで寝てるんですか!起きなさーい!!」

 

 「いやだ!私は今日は休むんだ!決定事項だ!許して!」

 

 「ダメとは言いませんから!というかもうお昼ですから!毛布を取りますからね!!」

 

 「もう取ってる!寒い!返せ~」

 

 もっと寝たいのに!

 

 「……師匠、いつも右手に着けてる指輪はどこへ……?」

 

 「え、ある場所に置いてきたが、何かまずかったか?」

 

 「爆弾みたいな量の魔力を貯め込んだ指輪を?」

 

 「…………変なことには使われないはずだから。人命救助のためだから」

 

 

 その後、普通に怒られた。悪用はされないから……まぁ大丈夫なはず……

 

 

 




・アイテム置き屋さん
 騙されることは多々あるが、実際気づいていないし、最終的に丸く収まるのでセーフ。
 自己犠牲とかそんなのではなく、自分のできる範囲で頑張ってる。
 
・夢魔のお姫様
 ダメ元で呼び出したらとんとん拍子で進んで怖かった。
 どういうお礼をすればいいか考え中だけど、せっかくだから夢魔らしいお礼をしたい。
  
・夢魔の女王様
 とても元気になった。
 置いてもらった魔結晶の指輪をいつも身に着けている。

・魔結晶の指輪
 綺麗な紫色の指輪。
 着ける指に合わせてリングのサイズを変えてくれるのはありがたい。


・弟子
 あんなに魔力を貯め込んだ物をどこかへ置いておくのは止めて欲しいと思ってる。
 強めに仕事をするよう促すが、それは仕事をいつも溜め込む師匠のため。
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