混血のカレコレとLost evolution 作:Ks5118
俺の身体を触手が貫いた瞬間──。
ヒサメとカンナの悲鳴が同時に響いた。
「「イヤァ──────っ!!」」
だが、その悲鳴はすぐに途切れた。
代わりに聞こえてきたのは、困惑した声だった。
「……お父さん?」
ヒサメが目を丸くして俺の体を見つめている。
「体から……何か出てるんだけど」
「ああ、これか」
俺は自分の胸を貫いている触手を軽く見下ろした。
正確には“貫かれているように見えるだけ”だが。
「とりあえず、その話は帰ってからな」
俺は体内の損傷をさっと修復しながら言った。
「今はまず……こいつを大人しくさせないと」
触手が伸びてきた方向へ顔を向ける。
そこにいたのは──。
依頼を出した少年の隣にいた、もう一人の少年だった。
それを見て、俺とフィーア、ヒサメ以外の全員が固まる。
次の瞬間。
「な、何で坊主の背中から触手みたいなのが生えてんだよっ!?」
カゲチヨが叫んだ。
無理もない。
少年の背中からは、何本もの触手がゆらゆらと伸びていた。
しかし少年本人は、まるで当たり前のことのように言う。
「この触手は、元々持っていた器官だ」
淡々とした声だった。
「ここから生命力や栄養を摂取する。でも──」
少年は不思議そうに俺を見た。
「オジサンからは出来なかった。何故?」
「さあな」
俺は肩をすくめた。
「そんなことより」
一歩前に出る。
「お前、自分の友達のペットを盗んだんじゃないのか?」
その言葉に、少年の目がわずかに揺れた。
だがすぐに、無表情に戻る。
「人類は皆、動物を飼っても……いずれ捨てる」
ぽつりと少年は言った。
「だから僕は、捨てられる前に僕たちの糧にしようと思った」
その言葉に、カゲチヨたちが反応する。
「……それは違うだろ」
カゲチヨが低く言う。
「確かに、そういうクソみたいな人間もいる」
拳を握りしめながら続けた。
「でもな、そんな奴らばっかりじゃねぇ」
シディも静かに言う。
「貴方のお友達は、きっとペットの帰りを待っている」
フィーアが頷いた。
「人も、捨てたもんじゃないぞ」
カンナも一歩前へ出る。
「あんたはさ、友達がそんな酷いことする人に見えたの?」
四人の言葉。
しかし少年は顔を歪めた。
「うるさい!」
触手がばしんと床を叩く。
「うるさいうるさいうるさい!」
感情が爆発した。
「どうせ人間なんて自己満足の塊なんだ!
だから動物だって平気で捨てる!」
触手が激しくうねる。
「そんな奴らなんだよっ!!」
その様子を見ながら、カゲチヨが言った。
「……お前さ」
静かな声だった。
「今やってること、自分が嫌ってる人間と同じだぞ」
少年の動きが止まる。
「どんなに否定しても、それは変わらねぇ」
だが次の瞬間、少年は叫んだ。
「違うッ!!」
触手が一斉に動く。
「僕は……僕はあいつらなんかと一緒じゃない!!」
そしてこちらへ襲いかかろうとした──その時。
奥の扉が静かに開いた。
「……そこまでじゃ」
現れたのは、一人の老人だった。
白髪の老人はゆっくりと歩き、少年の横に立つ。
そして俺たちへ向き直ると、深く頭を下げた。
「うちの子が……大変ご迷惑をお掛けしました」
静かな声だった。
しかし、その声は震えていた。
「今回のことは……この老骨に免じて」
老人はさらに頭を下げる。
「どうか、内密にして頂ければ」
その姿を見て、カゲチヨたちは顔を見合わせた。
そしてカゲチヨが言う。
「……頭上げてくれよ、爺さん」
「俺たちは他言しねぇ」
シディも頷く。
「依頼のペットを返して頂ければ、それで十分です」
フィーアも微笑んだ。
「アーシたちは、絶対に口外しない」
老人は動かない。
ただ、頭を下げたまま涙を流していた。
俺はゆっくり歩み寄る。
「頭を上げてください」
肩に手を置く。
その瞬間──俺は老人の体を軽く診察した。
……なるほど。
病気持ちか。
ついでだ。
俺は体内の異常を修復しておいた。
老人が目を見開く。
「これは……」
「気にしないでください」
俺は笑った。
「それより」
少年を見る。
「この子を一人にしたくないんでしょう?」
老人は黙って頷いた。
俺は少しだけ笑った。
「俺も娘を持つ身なんでね」
ヒサメが「えへへ」と照れた。
こうして俺たちは老人と別れ、依頼のペットや動物たちを回収した。
今回の依頼は、これで解決だ。
──そして帰り道。
「さてと」
カゲチヨが振り返る。
血液で出来た刃を、俺に向けた。
「聞かせてもらおうか」
ニヤリと笑う。
「お前の正体と……おやっさんの行方をな」
俺はため息をついた。
「分かってるよ」
そして言った。
「先に言っておくが、俺は元からこの体だ」
「……は?」
シディが眉をひそめる。
「元から?」
「他の体に変われるってことか?」
「いや違う」
俺は首を振った。
「普段は人の姿で生活してるが──」
手を軽く振る。
指先が一瞬、液体のように揺らいだ。
「自由にアメーバ状になれる」
全員が固まった。
「そのお陰で怪我もしないし、病気もしない」
肩をすくめる。
「ついでに他人の病気も治せる」
そして付け加えた。
「まあ、この世界が異宙と融合する前からこの星にいたけどな」
沈黙。
そして。
ヒサメが聞いた。
「……お父さん」
「それってつまり」
首を傾げる。
「宇宙人ってこと?」
「まあ」
俺は笑った。
「平たく言えばそうだな」
──その瞬間。
カゲチヨたちは一斉に距離を取った。
「おい待てぇ!?」
「反応ひどくない!?」
「おい待てぇ!?」
カゲチヨが叫んだ。
「宇宙人ってなんだ宇宙人って!? 軽く言っていいワードじゃねぇだろそれ!」
「でも事実だしな」
俺があっさり答えると、カゲチヨは頭を抱えた。
「いやいやいやいや! おやっさん、今さらサラッと爆弾落とすなよ!」
「父様が宇宙人……」
シディは腕を組みながら考え込んでいる。
「なるほど、それなら身体構造が特殊でも説明がつくか」
「納得してんじゃねぇ!」
カゲチヨがツッコんだ。
その横でヒサメが、むしろ興味津々という顔で俺を見上げてくる。
「ねえお父さん」
「ん?」
「宇宙船とかあるの?」
「ない」
「ビームとか撃てる?」
「撃てない」
「ちぇー」
ヒサメはあからさまに残念そうな顔をした。
「夢がないなぁ」
「勝手に期待するな」
俺は苦笑する。
その時、カゲチヨがふと思い出したように言った。
「そういやよ」
鋭い目で俺を見る。
「数日前の“自称勇者”の事件」
「あいつが刑務所で死んだ件、知ってるのか?」
「ああ」
俺は頷いた。
「というか──」
少し間を置く。
「犯人は俺だ」
一瞬、空気が凍った。
「……は?」
カゲチヨの目が点になる。
「ちょっと待て」
「今なんて言った?」
「だから」
俺はあっさり繰り返した。
「殺したのは俺だ」
沈黙。
次の瞬間。
「はぁぁぁぁぁ!?」
カゲチヨの絶叫が響いた。
「何やってんだよおやっさん!」
「落ち着け」
俺は手をひらひら振る。
「理由がある」
シディが真剣な顔で聞いた。
「店長、何故そのようなことを?」
俺は少しだけ息を吐いた。
「アイツの正体は──」
全員を見る。
「この世界に召喚された“勇者”だった」
「……召喚?」
カンナが眉をひそめる。
「勇者って、自称じゃなかったの?」
「俺も最初はそう思ってた」
俺は続ける。
「だが調べても、あいつの情報が一切出てこなかった」
「戸籍も記録も、何もない」
カゲチヨが腕を組む。
「それで?」
「裏の人脈も使った」
俺は肩をすくめた。
「それでも何も出ない」
「だから直接会いに行った」
「……会いに行った?」
ヒサメが首を傾げる。
「そう」
俺は言った。
「そして記憶を見た」
もちろん本当はもっと簡単な方法だが、そこは誤魔化しておく。
「そしたら分かった」
「異世界から召喚された存在だってな」
「……マジかよ」
カゲチヨが額を押さえる。
「ラノベみたいな話だな」
「現実だ」
俺は淡々と言った。
「それで」
シディが聞く。
「何故殺したのですか?」
俺は少し真顔になった。
「釈放される可能性があった」
「そして釈放されたら」
少し間を置く。
「まずここに来る」
「……ここ?」
カゲチヨが目を細める。
「つまり」
俺は言った。
「次は“復讐”だ」
沈黙。
カゲチヨがゆっくり聞いた。
「それってつまり」
「ヒサや俺たちを守るためか?」
「ああ」
俺は頷いた。
その瞬間、皆の緊張が一気に緩んだ。
「なんだよ」
カゲチヨが頭をかく。
「そういうことなら最初から言えよおやっさん」
「父様らしい理由ですね」
シディも小さく笑う。
ヒサメは嬉しそうに俺の腕に抱きついた。
「お父さんかっこいい!」
「やめろ照れる」
その様子を見ていたカンナが、ふと聞いた。
「ねえ」
「お父さんってさ」
「異宙が融合する前からいたんだよね?」
「ああ」
「じゃあ仲間とかは?」
俺は少し空を見た。
「……多分」
肩をすくめる。
「俺以外、全員死んだ」
「え?」
ヒサメが目を丸くする。
「どうして?」
「単純だ」
俺は言った。
「アイツら野蛮だったから」
「野蛮?」
カンナが首を傾げる。
俺は苦笑した。
「俺の弟たちがな」
「星を破壊するくらいの力を持ってたんだ」
全員が固まった。
「それで喧嘩して」
「星ごと吹き飛ばしたんじゃないかと思ってる」
沈黙。
そして。
カゲチヨが恐る恐る聞いた。
「……なあ」
「おやっさん」
「まさかとは思うけど」
「おやっさんも」
「そのレベルの力……」
俺はあっさり言った。
「あるぞ」
全員。
「「「「「は?」」」」」
「今は使えないけどな」
「頼むから使うな!!」
カゲチヨが全力で叫んだ。
「地球なくなるわ!」
「使えねぇって言ってるだろ」
俺は苦笑する。
「外部からエネルギー吸収しないと無理だ」
それを聞いて、全員が一斉にへたり込んだ。
「……疲れた」
カゲチヨがソファに倒れ込む。
「情報量多すぎだろ今日……」
シディも椅子に座る。
「頭が追いつきません」
ヒサメも言う。
「お父さんの話スケール大きすぎ」
カンナも頷く。
「うん、宇宙レベルだった」
俺は頭をかいた。
「……なんか悪い」
少し考えてから言う。
「詫びに」
「晩飯は俺が作る」
その瞬間。
全員の目が輝いた。
「マジか!」
「父様の料理!」
「やったー!」
「今日は豪華だな!」
俺は笑った。
「あと」
指を立てる。
「俺の正体は他言無用な」
全員が元気よく答えた。
「「「「「はーい!」」」」」
こうして俺はオーナーに連絡を入れ、晩飯の準備を始めた。
──そして翌日。
俺はオーナーの店、リサイクルショップに来ていた。
「すまないな」
「面倒かけて」
オーナーは笑った。
「いや、構わない」
「昔救ってもらった身だしな」
そして少し照れながら言った。
「なあ」
「また昔みたいに呼んでもいいか?」
「ん?」
俺は笑った。
「好きにすればいい」
「高校に上がる時から呼び方変わったしな」
オーナーは苦笑した。
「やめてくれ」
「改めて聞くと恥ずかしい」
そして小さく言った。
「……義兄さん」
俺は吹き出した。
「久しぶりに聞いたなそれ」
そして聞く。
「そういえばアイツとは連絡取ってるのか?」
「ああ」
オーナーは頷いた。
「今、カゲチヨたちの学校で教師やってるぞ」
「へぇ」
俺は少し驚いた。
「じゃあ今度、三人で飲みに行くか聞いてみてくれ」
「分かった」
オーナーは笑った。
「きっと喜ぶ」
こうして俺たちは会話しながら、店の整理を進めた。
そして──
その日も、いつも通り静かに終わった。
リサイクルショップの店内には、古い家電や家具が所狭しと並んでいる。
午前中の光が窓から差し込み、ほこりがきらきらと舞っていた。
俺──キリトは段ボールを一つ持ち上げ、棚に置いた。
「しかし、相変わらず物が多いな」
「リサイクルショップだからな」
オーナーが苦笑する。
「むしろ少ないと困る」
俺は肩をすくめた。
「まあ、それもそうか」
オーナーは少し作業を止めて、俺の方を見た。
「そういえば」
「昨日の件、大丈夫だったのか?」
「どこまで聞いてる?」
「勇者のことくらいだ」
俺は軽く息を吐いた。
「まあ、問題ない」
「カゲチヨ達には全部話した」
オーナーは驚いた顔をする。
「全部?」
「俺の正体も含めて」
「……大胆だな」
「隠してもどうせバレる」
俺は段ボールを畳みながら言った。
「それにあいつらなら大丈夫だ」
オーナーは少し黙ったあと、ふっと笑った。
「確かにな」
「いい連中だ」
「だろ?」
その時、店のドアが開いた。
カラン、とベルが鳴る。
「いらっしゃい」
オーナーが声を掛ける。
入ってきたのは──
カゲチヨだった。
「よー」
片手を軽く上げる。
「おやっさん、やっぱここにいたか」
「どうした」
俺が聞くと、カゲチヨは店内を見回した。
「いやな」
「ヒサメに聞いたんだよ」
「お父さんは今日オーナーの店に行くって」
「なるほど」
俺は苦笑する。
「あいつ、余計なことを」
カゲチヨは近くの椅子に座った。
「それよりさ」
「ちょっと聞きたいことがある」
「なんだ」
カゲチヨは少し真面目な顔になった。
「勇者の話」
「昨日は途中だっただろ」
「……ああ」
俺は頷く。
「続きか」
オーナーも興味ありそうにこちらを見た。
「俺も聞いていいか?」
「別に構わん」
俺は棚にもたれながら言った。
「で、どこからだ」
カゲチヨは腕を組んだ。
「勇者召喚のところだ」
「なんでそんな奴がこの世界にいる?」
「それが問題なんだ」
俺は少し目を細めた。
「問題?」
オーナーが聞く。
俺は静かに言った。
「勇者召喚ってのはな」
「普通は“世界の危機”の時に行われる」
カゲチヨが眉をひそめる。
「つまり」
「この世界がヤバいってことか?」
「可能性は高い」
俺は答えた。
店の中が静かになる。
外を車が通る音だけが聞こえた。
カゲチヨがぽつりと言う。
「でもよ」
「その勇者、もう死んだんだろ?」
「ああ」
「じゃあ問題ないんじゃね?」
俺は首を横に振った。
「いや」
「むしろ逆だ」
「は?」
「召喚された勇者が一人とは限らない」
沈黙。
カゲチヨの顔が引きつる。
「……ちょっと待て」
「それって」
オーナーが呟いた。
「勇者が複数いる可能性があるってことか?」
「そういうことだ」
俺は淡々と言う。
カゲチヨは天井を見上げた。
「マジかよ……」
「最近ただでさえ異宙融合でヤバいのに」
「勇者まで増えるのか」
「しかも」
俺は続けた。
「召喚した奴がいる」
カゲチヨが一瞬固まる。
「……そりゃそうだろ」
「勝手に召喚されるわけじゃねぇ」
「つまり」
俺は言った。
「どこかに“召喚した連中”がいる」
オーナーが腕を組んだ。
「それが黒幕か」
「可能性は高い」
店の空気が少し重くなる。
しかしその時だった。
店のドアがまた開いた。
カラン。
「お父さーん!」
元気な声。
ヒサメだった。
その後ろにはカンナとシディもいる。
「やっぱりここにいた!」
ヒサメが駆け寄ってくる。
「どうした」
俺が聞くと、ヒサメは少し息を弾ませながら言った。
「カゲチヨがいなくなったから探してたの」
「そしたらカンナが」
「絶対キリトのところだって」
カンナが得意げに言う。
「だって分かりやすいし」
カゲチヨが苦笑した。
「悪い悪い」
シディが周りを見た。
「リサイクルショップに来るのは久しぶりですね」
「好きな物あったら持っていけ」
オーナーが笑う。
「ほんとか?」
カゲチヨが食いつく。
「ただし動く物だけな」
「ちぇっ」
そのやり取りを見ながら、俺は少しだけ笑った。
さっきまでの重い話が嘘みたいだった。
ヒサメが俺の袖を引く。
「お父さん」
「ん?」
「お腹すいた」
俺は時計を見た。
「……まだ昼前だぞ」
「でもすいた」
「さっき朝ごはん食べただろ」
ヒサメは真顔で言った。
「それとこれは別」
カゲチヨが笑った。
「ヒサメ、それ俺も分かる」
「お前は黙ってろ」
俺はため息をついた。
「分かった分かった」
そして言った。
「昼飯でも作るか」
その瞬間。
全員の目が輝いた。
「やった!」
「父様の料理!」
「久しぶりだな!」
オーナーが笑う。
「店の裏のキッチン使え」
「助かる」
俺は袖をまくった。
「じゃあ」
キッチンへ向かいながら言う。
「今日はちょっと豪華にするか」
後ろから歓声が上がった。
だが──
その時。
店の外。
通りの向こう側。
一人の男が、静かにこちらを見ていた。
そして呟く。
「見つけた」
その瞳には──
普通の人間にはない光が宿っていた。