混血のカレコレとLost evolution 作:Ks5118
ペット探しの依頼から数日が経った、ある日のことだった。
キリトはヒサメ達を迎えに行くため、カレコレ屋へ向かっていた。店の前まで来たその時──
「「「うえぇ〜〜〜ん! うえぇ〜〜〜ん!」」」
店の中から子供の激しい泣き声が聞こえてきた。
「一体、何があった」
嫌な予感を覚えながら、キリトはカレコレ屋の扉を開けた。
そして店内の光景を見た瞬間、思わず声を上げてしまう。
「本当に何があった!」
そこにいたのはヒサメ、カンナ、フィーアの三人だった。
しかし、いつもの姿ではない。三人とも幼い子供の姿になっていた。どう見ても六、七歳ほどの幼児である。
「「「びえぇぇ〜〜〜んっ!」」」
キリトの声に驚いたのか、三人はさらに大きな声で泣き出してしまった。
[……やばい。完全に俺のせいだな]
キリトは慌てて三人を抱き上げる。
「あぁ、ごめんごめん。大きな声出しちゃって。怖くないよ〜」
優しく頭を撫でながらあやした。
「よしよし、大丈夫だからな」
そのまま二十分ほど経った頃──
カレコレ屋の扉が開いた。
「ふぅ〜、疲れた。今回の相手は結構手強かったな」
「ああ。だがカゲチヨのお陰で犯人を捕まえることができた。警察署の人達にも感謝されたな」
仕事帰りのカゲチヨ達だった。
キリトは静かに後ろへ回り込む。
そして──
「お帰り〜、カゲチヨ」
「えっ? う、うわぁぁっ!」
カゲチヨは盛大に驚き、その場でひっくり返った。
その音に反応して、ヒサメ達が再び泣き始める。
「「「うわぁぁ〜〜ん!」」」
「何すか? その子供達は?」
カゲチヨ達が不思議そうに聞いてくる。
キリトは三人をあやしながら答えた。
「ヒサメ達だよ。迎えに来たら小さくなっていた」
それを聞いたカゲチヨは、ハッとした顔で机の上を確認した。
「無いっ!」
「まさかヒサ達が飲んじゃったのか⁉」
「どういう事だ?」
キリトが聞くと、カゲチヨは頭を掻きながら説明した。
「ここにオーナーから頼まれていた“幼児化する薬”を置いていたんですけど……それをヒサ達が飲んじゃったみたいで」
[……あいつら、何でも飲むな]
キリトは呆れながら尋ねた。
「その薬の効力はどれくらいで切れる?」
「約一週間だそうです」
カゲチヨは続ける。
「正確には効力を消す薬もあるらしいんですが、それも一週間経たないと使えないらしくて」
「へぇ」
キリトは軽く頷いた。
「じゃあ、後はよろしく。オーナーには上手く言っておいてくれ」
そう言ってヒサメ達を背負い、カレコレ屋を後にする。
「えっ! ちょ、待っ!」
カゲチヨの声が後ろから聞こえたが、キリトは無視して店を出た。
[悪いなカゲチヨ。今回は俺の方が大変そうだ]
その後、キリトは喫茶店の上にある自宅へ戻った。
ヒサメ達を見ながら年齢を考える。
「さてと……見た感じ六、七歳くらいか」
キリトはキッチンで腕を組んだ。
「この年なら普通のご飯も食べられるな」
野菜のことを考える。
「苦手そうだから細かく刻んでハンバーグに入れるか」
[まぁ、子供の野菜対策は定番だよな]
そう考えていると──
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴った。
「はーい、どちら様ですか?」
モニターを見ると、そこにはオーナーが立っていた。
キリトは扉を開ける。
「どうした? こんな時間に」
「ヒサメ達なら俺が面倒見るぞ」
オーナーは少し頷いた。
「それもあるが、その薬によってどの程度幼児化したのか確認したくてな」
「なるほど」
キリトはオーナーを部屋へ案内した。
部屋の扉を開けると──
「これはアーシの!」
「違う! これは私の!」
ヒサメとカンナがクマのぬいぐるみを取り合っていた。
フィーアは少し離れた場所で馬の人形を持ちながらその様子を見ている。
キリトは苦笑する。
「二人とも、そんなに喧嘩するな」
「クマが欲しいのは分かった。とりあえずご飯にしよう」
するとヒサメが目を輝かせた。
「ご飯!」
[……やっぱり食い物には弱いな]
キリトの言葉を聞いたヒサメは、ぱっと顔を輝かせた。
「ご飯!」
先ほどまで喧嘩していたとは思えないほどの変わり身の早さだった。
[……本当に食い物には弱いな、こいつ]
キリトは苦笑しながらキッチンへ向かった。
その後、オーナーにヒサメ達の状態を確認してもらった結果、特に問題はないらしい。
時間が経てば元に戻るとのことだった。
キリトは胸を撫で下ろし、夕食の準備を終える。
今日の献立は、
米、ハンバーグ、コンソメスープ。
子供でも食べやすいように野菜は細かく刻んである。
テーブルに料理を並べると、ヒサメ達は嬉しそうに席に着いた。
「それじゃ、いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
三人はすぐに食べ始めた。
キリトは少し様子を見る。
野菜が入っていることには気付いていないはずだ。
「おいし〜〜!」
ヒサメが満面の笑みで言った。
カンナも嬉しそうに頷く。
「本当、美味しい」
フィーアも静かにスプーンを動かしている。
その様子を見て、キリトは安心した。
[良かった。ちゃんと食べてくれてる]
そのままキリトも食事を始めた。
──そして翌日。
キリトは喫茶店を臨時休業にした。
ヒサメ達の世話をする必要があるからだ。
店のシャッターを閉めながら呟く。
「とりあえず、これで良し」
頭の中で今日の予定を整理する。
「後はヒサメ達を起こして、朝飯を食わせて、歯を磨かせて……」
そこまで考えた時だった。
『ピンポーン』
玄関のチャイムが鳴る。
キリトが扉を開けると、そこにはオーナーが立っていた。
「昨日から悪いな。一応ヒサメ達の様子を見に来た」
キリトは肩をすくめた。
「別に良いよ。お前も心配なんだろ」
そう言って軽くオーナーの頭を小突く。
「だったらそんな遠慮するな」
オーナーは少し照れたように視線を逸らした。
「そう言えば、お前店の方はどうした?」
キリトが聞くと、オーナーは答える。
「あぁ、今日は休みにした」
「ヒサメ達がこんな状態では、お前も店を休んでいるだろうと思ってな」
「まぁな」
二人が話していると──
寝室の方から泣き声が聞こえた。
「うわぁぁぁん!」
キリトはすぐに寝室へ向かう。
「どうした? 何か怖い夢でも見たのか?」
泣いていたのはカンナだった。
キリトはカンナを抱き上げ、優しく背中を叩く。
「大丈夫だ。怖いものなんて何もない」
そう言ってあやしていると、ヒサメとフィーアも目を覚ました。
「おはよう」
「おはようございます」
二人はまだ眠そうな顔をしている。
キリトは二人に頼んだ。
「悪いけど、カンナを落ち着かせるの手伝ってくれないか?」
ヒサメはすぐ頷いた。
「うん、分かった!」
フィーアも真剣な顔で答える。
「任せてください」
二人はカンナの前にしゃがみ込む。
「大丈夫? カンナちゃん」
「ここは安全です。もう泣かなくても大丈夫ですよ」
優しく声を掛けると、カンナは涙を拭きながら聞いた。
「……本当? ここ安全?」
ヒサメが元気よく答える。
「うん! お父さんもお母さんも優しいよ!」
その言葉に、オーナーが目を丸くした。
「お母さん……? 私のことか?」
三人は満面の笑顔で頷いた。
「「「うん!」」」
オーナーは一瞬固まった後、顔を赤くした。
そして無言で三人を抱きしめる。
「……今は、お母さんと呼んでくれ」
その様子を見ていたキリトは、思わず笑ってしまった。
「まぁ、子供が欲しいなら養子でも取れば良いだろ」
その言葉を聞いたオーナーは、三人に顔を見せないようにしながらキリトを睨んだ。
「それは、私が出遅れていると言いたいのか?」
静かな声だったが、明らかに怒っている。
キリトは肩をすくめる。
「だって子供好きだろ、お前」
「相手もいないのに欲しいとなったら、養子しかないだろ」
するとオーナーは小さく呟いた。
「……なら、お前が娶ってくれても良いだろ」
しかし声が小さすぎてキリトには聞こえない。
「ん? 何か言ったか?」
オーナーは慌てて顔を背けた。
「お前は罪な男だと言ったんだ」
照れ隠しのような口調だった。
するとヒサメがキリトを見上げた。
「お父さん、ご飯まだ?」
キリトは苦笑する。
「お母さんと待ってろ。すぐ作ってくるから」
その瞬間──
ドゴッ!
オーナーの拳がキリトの脇腹にめり込んだ。
「ぐほっ!」
キリトはその場でうずくまる。
「何しやがる!」
オーナーは腕を組みながら言った。
「ふざけても、それはお前が言うな」
[……理不尽すぎるだろ]
キリトはそう思ったが、口には出さなかった。
キリトは脇腹を押さえながら立ち上がった。
[……本当に理不尽だな]
そう思いながらも、キリトはキッチンへ向かう。
「まぁいい。とりあえず朝飯を作るか」
背後ではヒサメ達の楽しそうな声が聞こえていた。
「ご飯〜!」
「今日は何ですか?」
「早く食べたい!」
[完全に食べる気満々だな……]
キリトは苦笑しながらフライパンを火に掛けた。
朝食を作り終えた頃、三人はすっかり機嫌を取り戻していた。
こうして幼児化したヒサメ達との生活は、慌ただしくも賑やかなまま過ぎていった。
そして──
あっという間に一週間が経過した。
その日の朝。
キリトは朝食を作るため、三人を起こさないよう静かに起き上がろうとした。
だが、その瞬間──
身体が全く動かなかった。
「……ん?」
視線を下に向ける。
そこでようやく状況を理解した。
ヒサメ、フィーア、カンナの三人が、何も着ていない状態でキリトに抱きつきながら眠っていたのだ。
右腕にはヒサメがしっかりと抱きついている。
しかも力が強い。
[……おい、馬鹿力過ぎるだろ]
さらに柔らかい感触が腕に当たっている。
[いやいやいや、これは色々とまずいだろ]
左腕にはフィーアが抱きついていた。
腕を完全に関節技のような形で固定されている。
[何で寝てるのに関節技なんだよ……]
そして身体の方にはカンナがしっかり抱きついていた。
身動きが取れない。
[……これ、どうやって抜け出すんだ]
キリトは天井を見上げた。
[こんなのオーナーやカゲチヨ達に見られたら……]
少し想像する。
[……社会的に死ぬな]
その時、ふと思い出した。
[そういえば俺、アメーバ状になれるんだった]
キリトは身体をゆっくり変形させる。
三人を起こさないよう慎重に──
そして、何とか拘束から抜け出すことに成功した。
[よし……脱出成功]
キリトは小さく息を吐く。
そのまま三人の服をベッドの横に置いておいた。
「起きたら自分で着るだろ」
そう呟き、キリトはリビングへ向かう。
朝食を作り始めてしばらくすると──
寝室から悲鳴が響いた。
「「「キャアァ────ッ!」」」
キリトはフライパンを返しながら言った。
「三人とも、服はベッドの横に置いてあるから自分で着ろよ」
少しするとリビングのチャイムが鳴った。
オーナーが来たのだ。
キリトは扉を開ける。
「三人の調子はどうだ?」
オーナーが聞く。
キリトは何気なく答えた。
「今朝、三人とも戻ったぞ」
その瞬間、オーナーの眉間に皺が寄った。
「戻ったぞって……」
ゆっくりとキリトを見る。
「まさか三人の裸を見ていないだろうな?」
キリトは正直に答えた。
「三人とも俺の両腕と身体に抱きついて寝ていましたので、起きる時に見てしまいました」
そしてその場で土下座した。
「三人には後ほど自分から説明し、処分を受けますので通報だけは勘弁してください」
オーナーは呆れたようにため息を吐いた。
「私の方はもう良い」
そう言ってから続ける。
「だが……彼女達はどうかな?」
キリトは顔を上げた。
「彼女達?」
振り返る。
そこには──
腕を組んで立っている三人の姿があった。
完全に元の姿へ戻っている。
しかも三人とも、じっとキリトを見下ろしていた。
嫌な沈黙が流れる。
キリトはゆっくりと口を開いた。
「……手加減してください」
しかし三人の返事は冷たかった。
「「「問答無用」」」
次の瞬間。
三人の異宙の力が同時に炸裂した。
ドゴッ!
バキッ!
ガンッ!
「ぐああああああああっ!」
キリトは見事にボコボコにされた。
その後──
キリトを床に転がしたまま、四人は何事もなかったようにテーブルに座った。
「それじゃ、いただきます」
「「「いただきます」」」
キリト抜きの朝食が始まる。
床の上で倒れたまま、キリトは思った。
[……せめて飯くらい食わせてくれ]
しかしその願いは誰にも届かない。
こうして──
少し騒がしく、そして少し理不尽な朝が始まるのだった。