混血のカレコレとLost evolution   作:Ks5118

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 すみません、先日は予定がありまして、小説を書く時間が無かったため遅くなりました、明日は短編も含めて二本出します。それでは次回を楽しみにしながら、本編どうぞ


No.10 ペットの飼い方と店の改築〈修正版〉

 キリトside

 

 ──元研究所の一件から三日後。

 

 まだ朝の空気が冷たい時間帯だった。

 

 カレコレ屋の建物の中は静かで、窓から差し込む柔らかな朝日だけが床を照らしている。

 

 そんな静寂を、突如として破る声が響いた。

 

「ぎゃあぁぁぁぁ────っ!!」

 

 玄関の方から聞こえた絶叫に、俺は思わず目を覚ました。

 

「……何事だ」

 

 半ば呆れながらも、俺はベッドから身体を起こし、ゆっくりと玄関へ向かった。

 

 朝からこんな騒ぎを起こす奴は、だいたい予想がつく。

 

 そして案の定──

 

 そこには、巨大なマンティコアに弄ばれているカゲチヨの姿があった。

 

 獅子の身体。

 

 蝙蝠の翼。

 

 そして蠍の尾。

 

 その異形の魔獣が、器用に肉球でカゲチヨの肩を押さえつけ、尻尾をゆらゆらと揺らしている。

 

「何だよ……カゲチヨか。朝から五月蝿いぞ」

 

 俺が呆れた声で言うと、カゲチヨは涙目で叫んだ。

 

「何でマンティコアを室内で飼ってるんですか!? おやっさん!!」

 

「飼ってるって言うな」

 

 俺は肩を竦めながら答える。

 

「こいつの毛並みって、思ったより柔らかくてな。それに暖かい。ヒサメ達がこいつの子供達と一緒に寝てるんだよ」

 

 カゲチヨはぽかんと口を開ける。

 

「それで、寂しがったこいつが俺のベッドに入ってきてな。それから一緒に寝てるってわけだ」

 

 説明を聞いたカゲチヨは、呆れたように呟いた。

 

「いや……こんな野郎と寝るとか、やっぱりおやっさんスゲーな……」

 

 その瞬間だった。

 

 マンティコアの蠍の尾が、ゆっくりとカゲチヨの顔へ近づいていく。

 

「えっ……」

 

 カゲチヨの顔が青ざめた。

 

「何で尻尾の針近づけてきてるの!? おやっさん助けて!!」

 

「そりゃあ……」

 

 俺は淡々と言った。

 

「彼女のことを“こんな野郎”って呼んだからじゃないのか?」

 

 マンティコアは「その通りだ」と言わんばかりに、こくりと頷いた。

 

 それを見たカゲチヨは目を丸くする。

 

「え……こいつメスだったのか!? てかそんなに頭良いのか!?」

 

「マンティコアはな」

 

 俺は腕を組みながら言う。

 

「獅子の体、蝙蝠の翼、蠍の尻尾を持つ魔獣だ。そして知能は人間以上とも言われている」

 

 カゲチヨは青ざめた顔のまま、慌てて頭を下げた。

 

「野郎とか言って、すみませんでした!!」

 

 するとマンティコアは満足そうに鳴き、許すと言わんばかりに肉球でカゲチヨの頭を撫でた。

 

 ふに。

 

「……」

 

 カゲチヨが固まる。

 

「……柔らかいなぁ……」

 

 そして次の瞬間には、夢中になって肉球を触っていた。

 

 そこへ──

 

 二階から足音が降りてきた。

 

 ヒサメside

 

「「おはよう、お父さん」」

 

「おはようございます。父様」

 

 ヒサメ、シディ、フィーアの三人が階段を降りてきた。

 

 そして玄関の光景を見て、三人は揃って首を傾げた。

 

「何やってんの、カゲ?」

 

「あぁーっ! 母マンティコアの肉球触ってる!」

 

「柔らかくて気持ち良かったですね」

 

 三者三様の反応。

 

 カゲチヨの顔は一瞬で真っ赤になった。

 

「わぁ────っ!! 見ないでぇ────っ!!」

 

 勢いよく玄関を開けると、そのまま外へ飛び出して行った。

 

 残された俺達は、顔を見合わせる。

 

「……何だったんだ?」

 

 結局そのまま朝食の準備が始まった。

 

 マンティコアの食事は人間とは違う。

 

 母マンティコアには、生肉と生野菜を用意する。

 

 子供達はまだ母乳を飲んでいるが、来月には離乳食になるらしい。

 

 食事を終えた頃、俺はふと呟いた。

 

「そういえば……」

 

 三人がこちらを見る。

 

「こいつらの名前、どうするかな」

 

 ヒサメが頷いた。

 

「確かに」

 

 シディも言う。

 

「いつまでも“母マンティコア”って呼ぶのは可哀想」

 

 フィーアも静かに言った。

 

「名前を決めるのは構いません」

 

「よし」

 

 俺は笑った。

 

「だったら放課後にカレコレ屋で決めるか」

 

 三人は嬉しそうに頷いた。

 

 そして夕方。

 

「「「ただいまー!」」」

 

「ただいま帰りました」

 

 四人がカレコレ屋に帰ってきた。

 

 すると玄関で待っていたマンティコアが、

 

「グガォ」

 

 と鳴いて出迎える。

 

 ヒサメ達は喜んだが、カゲチヨだけが叫んだ。

 

「何で母マンティコアがここにいるんだよ!?」

 

 ヒサメが呆れ顔で言う。

 

「今日名前決めるって学校で言ったでしょ?」

 

 シディも言う。

 

「まさか忘れてたの?」

 

 フィーアはため息をついた。

 

「この方に名前を付けられるとは……この子達も可哀想ですね」

 

「ごめんてヒーちゃん!!」

 

 カゲチヨは情けない声でヒサメに抱きついた。

 

「見捨てないでぇぇぇ!」

 

 それを見て、俺達は一斉に言った。

 

「夫婦漫才は他でやれ」

 

「仲良いんだね二人」

 

「人前では控えて下さい」

 

「うむ、仲が良いな」

 

 二人の顔が真っ赤になった。

 

 その後、くじ引きで名前を決めることになった。

 

 紙に名前を書き、箱に入れ、引く。

 

 そして決まった名前は──

 

 母親

 

 クリス

 

 長女

 

 リンネ

 

 長男

 

 ミゲル

 

 次女

 

 カリン

 

 俺は頷いた。

 

「良い名前だ」

 

 皆も賛成した。

 

「可愛い名前!」

 

「男の子のもカッコいい」

 

「良い名前ですね」

 

 マンティコア達も、

 

「ガァオ──」

 

 と鳴いて応えた。

 

 そして俺は、もう一つの話を切り出した。

 

「そうだ。フィーア以外には言い忘れてたが」

 

 全員がこちらを見る。

 

「明日からオーナーのアパートに住んでもらう」

 

 沈黙。

 

 次の瞬間。

 

「えええぇぇぇ!?」

 

 ヒサメ達の叫びが響いた。

 

「聞いてない!」

 

「準備出来てない!」

 

「そんな大事な事今言う!?」

 

 俺は肩を竦めた。

 

「悪い悪い。言い忘れてた」

 

 そして続ける。

 

「でも前から言ってただろ。“この家狭くない? ”って」

 

 三人は何も言えなくなった。

 

「だから明日までに荷物まとめてくれ」

 

 その日は解散となった。

 

 翌日。

 

 新しいアパートに到着すると、皆が驚いた。

 

「広ーい!!」

 

「今日からここで暮らすんだ」

 

 フィーアだけが冷静だった。

 

「もっと早く言えば良かったのでは?」

 

「ごめんって」

 

 だがフィーアは容赦ない。

 

「泣き真似は結構です。荷解き手伝って下さい」

 

「はいはい」

 

 俺は苦笑した。

 

 数日後。

 

 ヒサメ達が喫茶店を見に来ると──

 

 そこには三階建ての建物が建っていた。

 

「えっ!?」

 

「三階!?」

 

「父様……財産どれだけあるんですか」

 

 俺は笑った。

 

「前の家狭かったからな。思い切って階層増やした」

 

 三人は喜んだ。

 

「ありがとうお父さん!」

 

「棚買える!」

 

「欲しい物買えます!」

 

 そして──

 

 一ヶ月後。

 

 喫茶店と家は完成した。

 

 その夜、ヒサメ達は新しい家ではしゃぎ続けた。

 

 もちろんクリス達の遊び場も作られた。

 

 そして深夜。

 

 俺は地下へ向かう。

 

 地下訓練場。

 

 そこにロストパンドラパネルを壁へ埋め込む。

 

「これでいいか」

 

 作業を終え、部屋へ戻る。

 

 ベッドには既にクリスが丸くなっていた。

 

 俺はその隣に横になる。

 

 柔らかい毛並みと、温かな体温。

 

「……やっぱり暖かいな」

 

 クリスは満足そうに喉を鳴らした。

 

 こうして俺は──

 

 静かな夜の中で眠りについた。

 

 キリトside

 

 ──家が完成してから数日後。

 

 新しく建て直した喫茶店兼住宅は、以前とは比べ物にならないほど広くなった。

 

 一階は喫茶店。

 

 二階はリビングとキッチンなどの生活空間。

 

 三階はヒサメ達の部屋。

 

 そして地下には訓練場。

 

 最初こそ皆は広さに戸惑っていたが、今ではすっかり慣れてしまっている。

 

 その日も、いつものように穏やかな朝だった。

 

 キッチンからは、ヒサメが作る朝食の香ばしい匂いが漂っている。

 

「お父さーん、もうすぐ出来るよー」

 

 ヒサメの声がリビングに響く。

 

「分かった」

 

 俺は新聞を読みながら答えた。

 

 新しいソファは思った以上に座り心地が良く、つい長居してしまう。

 

 すると──

 

 ドスン。

 

 隣に大きな影が座った。

 

「……クリスか」

 

 母マンティコア──クリス。

 

 獅子の体に蝙蝠の翼、そして蠍の尾を持つ魔獣だが、今は完全にこの家の一員だ。

 

 クリスは俺の腕に頭を擦りつけてきた。

 

「甘えたいのか」

 

 俺が頭を撫でると、喉を鳴らすような低い声を出した。

 

 その光景を見て、シディが笑う。

 

「完全に懐いていますね」

 

 フィーアも頷いた。

 

「父様の事を群れの主と認識しているのでしょう」

 

 その時、二階の階段から足音が聞こえた。

 

 ドタドタドタ。

 

「おはようございます!!」

 

 勢いよく降りてきたのはカゲチヨだった。

 

「朝から元気だな」

 

「いやぁ、この家広いですね!」

 

 カゲチヨはキョロキョロと辺りを見回す。

 

「まだ全部把握出来てないですよ!」

 

 ヒサメがキッチンから顔を出した。

 

「カゲ、朝食出来たよ」

 

「待ってました!!」

 

 その瞬間──

 

 テーブルの下から小さな影が三つ飛び出した。

 

「ガゥ!」

 

「ガァ!」

 

「キュゥ!」

 

 マンティコアの子供達。

 

 リンネ、ミゲル、カリンだ。

 

 まだ小さいが、毎日元気に走り回っている。

 

 カゲチヨはその姿を見ると、しゃがみ込んだ。

 

「おー、今日も元気だな」

 

 するとリンネがカゲチヨの頭に飛び乗った。

 

「うわっ!?」

 

 ミゲルは足に絡みつき、カリンは尻尾を追いかけている。

 

「ちょ、待て待て待て!!」

 

 ヒサメが笑った。

 

「遊ばれてるね」

 

「助けてください!!」

 

 そんな騒がしい朝だったが──

 

 それもまた、この家の日常だった。

 

 朝食を終えた後。

 

 ヒサメ達は学校へ向かう準備をしていた。

 

「いってきます!」

 

「いってきます、お父さん」

 

「いって参ります、父様」

 

 三人は玄関で手を振る。

 

「気を付けてな」

 

 俺が言うと、三人は元気よく出て行った。

 

 家の中は一気に静かになる。

 

 その時、隣でクリスが立ち上がった。

 

「……散歩か?」

 

 クリスは軽く鳴いた。

 

 どうやら図星らしい。

 

 俺は苦笑した。

 

「分かった」

 

 外套を羽織る。

 

「少し歩くか」

 

 外に出ると、朝の空気が心地よかった。

 

 街はまだ静かで、人通りも少ない。

 

 クリスはゆっくりと歩き出す。

 

 その大きな身体のせいで、すれ違う人達は少し驚くが──

 

 今ではこの街の住人も慣れてきている。

 

「おはようございます、キリトさん」

 

 近所のパン屋の店主が声を掛けてきた。

 

「おはよう」

 

「今日も散歩ですか?」

 

「まぁな」

 

 店主はクリスを見て笑った。

 

「相変わらず立派ですね」

 

 クリスは少し誇らしげに胸を張った。

 

 その姿を見て、俺は思わず笑う。

 

「褒められるのは分かるんだな」

 

 クリスは小さく鳴いた。

 

 しばらく歩くと、街外れの小さな丘へ出た。

 

 ここは人があまり来ない、静かな場所だ。

 

 草の匂いと風の音だけがある。

 

 クリスは丘の上に座り、景色を眺め始めた。

 

 俺も隣に腰を下ろす。

 

 遠くには森が広がり、その先には山が見える。

 

「……平和だな」

 

 俺が呟くと、クリスは静かに鳴いた。

 

 ふと、クリスがこちらを見た。

 

 そして頭を俺の肩に乗せてくる。

 

「重いぞ」

 

 そう言いながらも、俺はその頭を撫でた。

 

 柔らかい毛並み。

 

 温かい体温。

 

 魔獣とは思えないほど穏やかな存在だ。

 

「お前もこの生活が気に入ってるのか」

 

 クリスは静かに目を細めた。

 

 その様子を見て、俺は少しだけ思う。

 

 研究所の事件。

 

 戦い。

 

 色々あった。

 

 だが今は──

 

 こうして静かな時間がある。

 

 風が吹き、草が揺れる。

 

 クリスの尻尾がゆっくり動いた。

 

「……悪くないな」

 

 俺は空を見上げた。

 

 青い空が広がっている。

 

 しばらくそのまま、何も話さずに景色を眺めた。

 

 それだけで十分だった。

 

 昼前になると、俺達は家へ戻った。

 

 玄関を開けると──

 

「おやっさーん!!」

 

 カゲチヨの声が響いた。

 

「客来てますよ!」

 

「もう来たのか」

 

 どうやら喫茶店の開店時間らしい。

 

 俺はカウンターへ向かう。

 

 クリスは入口の近くに寝そべった。

 

 それを見た客が言う。

 

「看板娘……いや看板魔獣ですね」

 

「まぁそんなところだ」

 

 店内には、ゆったりとした時間が流れていた。

 

 笑い声。

 

 コーヒーの香り。

 

 外から吹く風。

 

 そして入口では──

 

 クリスが気持ち良さそうに昼寝をしていた。

 

 その姿を見ながら、俺はコーヒーを淹れる。

 

「……今日も平和だな」

 

 そんな一日が、静かに流れていった。

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