混血のカレコレとLost evolution 作:Ks5118
キリトside
家の改装が終わり、引越し作業も全て片付いてから一週間が経った頃のことだった。
新しくなった喫茶店兼住宅にも、ようやく生活のリズムが出来てきた。
一階は喫茶店、二階と三階は住居スペース。地下には俺が作った訓練場もある。
ヒサメ達も新しい家にすっかり慣れ、毎日賑やかな声が響いていた。
そんなある日、俺は喫茶店で使う食材を買い出しに出ていた。
買い物を終え、商店街を歩いていると、店先で何やら賑やかな催しが行われているのが目に入った。
そこには派手な装飾の付いたガラポン抽選機が置かれていた。
「お買い上げ金額でガラポン出来まーす!」
店員が元気よく呼び込みをしている。
俺は手に持っていたレシートを見た。
[まぁ、やってみるか]
軽い気持ちで抽選機の前に立つ。
店員にレシートを渡すと、にこやかに言われた。
「どうぞ回してください!」
俺はハンドルを回した。
ガラガラガラガラ……
抽選機の中で玉が転がる音が響く。
やがて一つの玉が転がり出た。
コトン。
それは──黒い玉だった。
その瞬間。
[カララララン!! カララララン!! ]
派手な鐘の音が鳴り響いた。
周囲の客が一斉に振り向く。
「おめでとうございまーす!!」
店員が声を張り上げた。
「一等です!!」
そして黒玉を指差す。
「団体様、砂浜ホテル二泊三日無料宿泊券でーす!!」
……。
俺は少し固まった。
[一等? ]
差し出された券を見る。
団体宿泊無料券 最大十二名 ペット可
[ヒサメ達が喜びそうだな]
俺は苦笑しながらその券を受け取り、家へ帰ることにした。
家に戻ると、リビングから賑やかな声が聞こえてきた。
「ただいま」
そう声を掛けながら入ると、ヒサメ達がテーブルを囲んでいた。
そして──
その横には巨大な影。
マンティコアのクリスだ。
獅子の体、蝙蝠の翼、蠍の尾。
そしてその体格は普通のライオンより二回りは大きい。
立ち上がれば人の肩ほどの高さがあり、存在感は圧倒的だった。
だが今は、完全に家族の一員だ。
その足元では、三匹の小さな影が走り回っている。
クリスの子供達──
リンネ、ミゲル、カリン。
まだ体は猫より少し大きいくらいだが、元気いっぱいだ。
リンネが俺の足元に駆け寄ってきた。
「キュゥ!」
ミゲルは尻尾を振りながら床を滑っている。
カリンはヒサメの膝の上で丸くなっていた。
ヒサメがこちらを見る。
「お父さんおかえり!」
「いいもの見つけた」
そう言って俺は旅行券をテーブルに置いた。
三人が一斉に覗き込む。
そして──
「やったぁぁぁ!!」
ヒサメが飛び上がった。
「海行けるじゃん!」
カンナもテンションが上がる。
「水着買わないと!」
フィーアは冷静に券を見ていた。
「最大十二名、ペット可ですね」
その言葉でヒサメがクリスを見る。
「クリスも行ける!」
クリスが嬉しそうに鳴いた。
「グァ」
リンネ達も騒ぎ出す。
「キュゥ!」
「ガァ!」
「ミィ!」
どうやら海という言葉は理解していないが、楽しい空気は感じているらしい。
俺は言った。
「カレコレ屋の奴らとオーナーも呼ぶか」
ヒサメはすぐ頷いた。
「うん!」
こうして旅行が決まった。
数日後。
ヒサメ達は水着を買いにショッピングモールへ行った。
[ヒサメside]
売り場に到着すると、私達は早速水着を探し始めた。
最初にフィーアちゃんが持ってきたのは──
眼帯ビキニだった。
私は叫んだ。
「ダメェ────!!」
カンナちゃんも慌てる。
「それ砂浜で事件起きる!」
オーナーも真顔だった。
「羞恥心を知れ」
結局別の水着を選び直し、フィーアちゃんは白いスクール水着風の物になった。
カンナちゃんは赤いフリルビキニ。
私は水色の縞模様ビキニを買った。
[キリトside]
三日後。
俺達は砂浜に到着した。
青い海。
白い砂浜。
空は雲一つ無い。
カゲチヨが叫ぶ。
「うぉ────海だぁ!!」
ヒサメ達も走り出す。
その後ろから、砂浜に巨大な影が現れた。
クリスだ。
普通のライオンより二回り大きい体が砂浜に立つ。
観光客がざわつく。
「でか……」
「ライオン?」
だがクリスは気にしていない。
波を見つめている。
その足元ではリンネ達が砂を掘っていた。
「キュゥ!」
ミゲルは波を見て尻尾を振る。
カリンはヒサメの後を追いかけている。
ヒサメが笑った。
「クリスも海デビューだね!」
俺は背中を叩いた。
「行ってみろ」
クリスはゆっくり波へ近づく。
ザァ……
波が足に触れた。
「グァッ!?」
驚いて飛び退く。
ヒサメが笑った。
「びっくりしてる!」
だがすぐ慣れたらしい。
次の瞬間。
ザバッ!!
クリスは海に飛び込んだ。
巨大な体が水を蹴る。
「グァァ──!」
カゲチヨが叫ぶ。
「泳いでる!?」
リンネ達も後を追う。
小さなマンティコア三匹が海に入る。
「キュゥ!」
「ガァ!」
「ミィ!」
ヒサメが笑う。
「すごい!」
俺はその光景を見ながら呟いた。
「……海デビュー成功だな」
クリスは嬉しそうに鳴いた。
「グァ──!」
波の中で、巨大なマンティコアと三匹の子供達が遊んでいた。
青い海と白い砂浜の中で。
その光景は、どこか不思議で──
そして、とても平和だった。
クリスとリンネ達が海に慣れてきた頃、砂浜はすっかり賑やかになっていた。
ヒサメは膝まで海に入りながら笑っている。
「冷たーい!」
カンナはもう泳ぎ始めていた。
「アーシこういうの好きなんだよね!」
フィーアは静かに波を見ていた。
「海とは落ち着く場所ですね」
その横で、クリスはゆっくりと海に入り、波の感触を確かめている。
最初は少し警戒していたが、今では楽しそうに水をかいていた。
「グァ」
リンネ達も後を追う。
「キュゥ!」
「ガァ!」
「ミィ!」
小さな三匹はまだ泳ぎがぎこちないが、それでも一生懸命水をかいている。
ミゲルがバランスを崩して水に顔を突っ込みそうになる。
「ガァッ!」
それを見てヒサメが笑った。
「ミゲル下手ー!」
カンナも笑う。
「頑張れ頑張れ!」
クリスはそんな子供達を見守りながら、ゆっくりと海を泳いでいた。
俺はその様子を砂浜から眺めていた。
[楽しそうだな]
そんなことを思っていると、後ろから声がかかった。
「おやっさん!」
振り向くと、カゲチヨがボールを持って立っていた。
「ビーチバレーやろうぜ!」
ヒサメがすぐ反応する。
「やる!」
カンナも手を上げた。
「アーシも!」
フィーアも頷く。
「参加します」
こうして急遽、ビーチバレーが始まることになった。
チーム分けはすぐ決まった。
俺、ヒサメ、カンナ。
カゲチヨ、フィーア、シディ。
カゲチヨが笑う。
「負けたらジュース奢りな!」
ヒサメも負けじと笑う。
「いいよ!」
試合開始。
カゲチヨがサーブを打つ。
「いくぞ!」
ボールが高く上がる。
ヒサメが受ける。
「キリト!」
俺は軽くジャンプして打った。
ドンッ!
シディが受ける。
「ふん」
フィーアにパス。
「行きます!」
勢いよくスパイク。
だが──
ボールはカゲチヨの顔に直撃した。
ドゴッ!
「ぎゃぁぁぁ!!」
ヒサメが慌てる。
「カゲェ!」
カンナは笑っている。
「ナイスレシーブ!」
カゲチヨは砂浜に倒れたまま叫んだ。
「顔面は反則だろ!!」
その後も試合は続いたが、不思議なことにボールは何度もカゲチヨの顔に当たっていた。
試合が終わる頃には、全員かなり疲れていた。
ヒサメが砂浜に座る。
「つかれたぁ……」
カンナもそのまま寝転ぶ。
「でも楽しかった」
フィーアはタオルで髪を拭きながら言う。
「良い運動になりました」
その時だった。
近くにいた数人の男がこちらへ歩いてきた。
一人がヒサメ達に声をかける。
「ねぇ君たち」
笑いながら続ける。
「よかったら一緒に──」
そこまで言ったところで、男達の動きが止まった。
後ろにいたクリスが静かに近づいてきたのだ。
「グルル……」
低い声が聞こえる。
男達はゆっくり振り向いた。
そして──
一瞬で顔色が変わった。
ヒサメが言う。
「どうかしました?」
男達は慌てて後ずさる。
「い、いや……」
「なんでもないです!」
そのまま全員で走って逃げていった。
カゲチヨが笑う。
「何だったんだ?」
カンナが肩をすくめる。
「さぁ?」
クリスは何事も無かったようにヒサメの隣に座った。
リンネ達も戻ってきて砂を掘り始める。
夕方になると、海は少し静かになっていた。
空はオレンジ色に染まり、波の音だけが聞こえる。
ヒサメが言った。
「今日は楽しかったね」
カンナも頷く。
「まだ一日目だけど」
フィーアは遠くの海を見ていた。
「明日も楽しみですね」
カゲチヨが突然立ち上がる。
「そうだ」
袋を持ってきた。
「花火買ってきた!」
ヒサメの目が輝く。
「やる!」
夜。
浜辺で花火をすることになった。
パチパチと火花が散る。
ヒサメが笑う。
「きれい!」
カンナは花火を回している。
「線香花火楽しい」
フィーアは静かに見つめていた。
クリスは少し離れた場所で座っている。
リンネ達は興味津々で近づいてくる。
「キュゥ!」
ミゲルが火花を追いかけようとする。
「危ない」
俺は軽く止めた。
フィーアが言う。
「夜の海は静かですね」
確かにそうだった。
波の音。
花火の光。
そして星空。
ヒサメがぽつりと言う。
「また来たいな」
俺は空を見上げながら答えた。
「そうだな」
この時の俺達はまだ知らなかった。
この旅行の中で──
とんでもない出来事が起きることを。
その話はまた別の機会だ。