混血のカレコレとLost evolution   作:Ks5118

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 以上が無人島での暮らしを書いた話である、また次回を待っていてください。


No.11.5 カゲチヨとフィーアのサバイバル生活〈修正版〉

 カゲチヨside

 

 クルーズ船が沖へ出てからしばらく経った頃だった。

 

 海は穏やかで、空は雲一つない青空。

 

 波も静かで、船はゆったりと海を進んでいた。

 

「うぉー! 見ろ見ろ!」

 

 俺が身を乗り出すと、船のすぐ横で水しぶきが上がった。

 

 ザバァッ! 

 

「イルカだ!」

 

 ヒサメが嬉しそうに叫ぶ。

 

 数匹のイルカが船の横を泳ぎながら跳ねていた。

 

「可愛いですね」

 

 フィーアが微笑む。

 

 カンナもはしゃいでいる。

 

「すごーい!」

 

 シディは腕を組みながら言う。

 

「実に見事だな」

 

 俺は身を乗り出しながら叫んだ。

 

「すげぇ! こんな近くで見れるのか!」

 

 キリトも少し驚いたように言った。

 

「結構寄ってくるもんだな」

 

 イルカ達はまるで遊ぶように船の横を泳ぎ続けている。

 

 ヒサメが指を差した。

 

「見て! あっちにも!」

 

 確かに遠くの海面でも跳ねている影が見えた。

 

 船の乗客達も盛り上がっている。

 

 カメラのシャッター音があちこちで鳴っていた。

 

 その時だった。

 

 ヒサメが突然声を上げた。

 

「あっ!」

 

「どうした?」

 

 俺が聞くと、ヒサメは遠くを指差した。

 

「あそこ!」

 

 海の向こうで、大きな水柱が上がった。

 

「……あれって」

 

 カンナが目を丸くする。

 

「鯨じゃない?」

 

 その瞬間、船のスタッフが叫んだ。

 

「クジラです!」

 

 周囲が一気にざわつく。

 

 俺も目を凝らした。

 

 海面から巨大な影が浮かび上がる。

 

 ドォン……

 

 巨大な背中が海から姿を現した。

 

「でっか……」

 

 思わず声が漏れる。

 

 ヒサメも驚いていた。

 

「すごい……」

 

 キリトが少し警戒した声で言う。

 

「……ちょっと近いな」

 

 確かに近い。

 

 クジラはゆっくりと船の周りを回るように泳いでいる。

 

 船長も警戒しているのか、船の速度を落としていた。

 

 だが──

 

 次の瞬間だった。

 

 ドンッ!! 

 

 船が大きく揺れた。

 

「うわっ!?」

 

 俺はバランスを崩す。

 

 カンナが叫ぶ。

 

「何!?」

 

 もう一度衝撃が来た。

 

 ドォン!! 

 

「きゃあっ!」

 

 ヒサメの悲鳴。

 

 船が大きく傾いた。

 

 クジラが船の下に潜り込んだらしい。

 

 次の瞬間。

 

 バキィィッ!! 

 

 船体から嫌な音がした。

 

「嘘だろ!?」

 

 俺が叫ぶと同時に──

 

 船が横に倒れた。

 

 ザッパァァァン!! 

 

 海水が一気に押し寄せる。

 

「うわああああ!!」

 

 気付いた時には、俺は海に投げ出されていた。

 

 目を覚ました時、俺は砂浜に倒れていた。

 

「……う」

 

 頭が痛い。

 

 体を起こす。

 

 周囲を見回した。

 

 白い砂浜。

 

 青い海。

 

 そして──

 

 誰もいない。

 

「……は?」

 

 立ち上がる。

 

 辺りを見渡す。

 

 人影は無い。

 

 船も無い。

 

 俺は叫んだ。

 

「遭難してるじゃねーかぁぁぁ!!」

 

 頭を抱える。

 

「やべぇ……やべぇよ……」

 

 その時だった。

 

 背後から声がした。

 

「カゲチヨ」

 

 振り向く。

 

 そこに居たのはフィーアだった。

 

「フィーア!」

 

 思わず安心する。

 

「お前も無事だったか!」

 

 フィーアは頷いた。

 

「はい。しかし他の方は見当たりません」

 

 俺は頭を掻いた。

 

「マジかよ……」

 

 深呼吸する。

 

 [落ち着け俺……]

 

 パニックになっても仕方ない。

 

 まずやるべき事は一つだ。

 

 生き残ること。

 

 俺はフィーアに言った。

 

「フィーア、すまないけど薪を集めてきて欲しい。出来れば湧水もあったら教えて欲しいんだけど、お願い出来るか?」

 

 フィーアはすぐ頷いた。

 

「分かりました。ただ、どのくらい持って来ればよろしいのですか?」

 

「フィーアの両手で持てる分を何回か頼む」

 

「承知しました。それでは行って参ります」

 

 そう言うとフィーアは森の方へ走って行った。

 

 あっという間に姿が見えなくなる。

 

 [流石ヴァルキュリー……速いな]

 

 俺は浜辺に残った。

 

 そして砂浜を見回す。

 

 [使えそうな物……]

 

 流れ着いた廃材を探す。

 

 しばらく探すといくつか見つかった。

 

 ビニール袋。

 

 ビニールシート。

 

 竹。

 

 彫刻刀入れ。

 

 剪定鋏。

 

 そして錆びた鍋。

 

 俺は思わず笑った。

 

「よっしゃー!」

 

 思わず拳を握る。

 

「これだけあれば何とかなる!」

 

 まず剪定鋏を分解する。

 

 二本の刃に分ける。

 

 簡易ナイフ代わりだ。

 

 その後、海岸の岩場へ向かう。

 

 [食料も必要だな]

 

 岩を見てすぐに見つけた。

 

 フジツボだ。

 

 彫刻刀で剥がす。

 

 ゴリゴリと削り取り、ビニール袋へ入れていく。

 

「よし」

 

 袋がいっぱいになった頃、浜辺へ戻った。

 

 そこにはフィーアが居た。

 

 薪が山のように積まれている。

 

「おぉ……」

 

 思わず声が出た。

 

「凄い量だな」

 

 フィーアは平然としている。

 

「まだ集めますか?」

 

 俺は慌てて言った。

 

「いや、もう十分だ」

 

 そして続ける。

 

「昼飯作るから手伝ってくれ」

 

「承知しました」

 

 俺は聞いた。

 

「そういえば湧水は見つかったか?」

 

 フィーアは頷く。

 

「はい、見つけました。ご案内します」

 

 俺は鍋とビニールシートを持って付いて行った。

 

 森の中を少し進むと、小さな湧水があった。

 

 透き通る水が静かに流れている。

 

 俺は手で掬って飲んだ。

 

「……いける」

 

 普通に飲める水だ。

 

 鍋に水を入れて浜辺へ戻る。

 

 薪を組み、火を起こす。

 

 鍋を置く。

 

「フィーア」

 

 俺は竹と刃を渡した。

 

「これで銛を作った。魚を取って来てくれ」

 

「分かりました」

 

 フィーアは海へ入る。

 

 数分後。

 

 魚を何匹も持って戻ってきた。

 

「早っ!」

 

 俺は笑った。

 

 フジツボと魚でスープを作る。

 

 残りは焼き魚にする。

 

 こうして簡単な昼飯が完成した。

 

「いただきます」

 

 二人で食べる。

 

 塩も無いが──

 

 妙に美味かった。

 

 その後、俺達は脱出の準備を始めた。

 

 船を作るためだ。

 

 だが問題があった。

 

 木をどうやって切るか。

 

 俺が悩んでいるとフィーアが言った。

 

「私の速度を使って木を切るのは如何でしょう」

 

 俺は目を丸くした。

 

「出来るのか?」

 

「恐らく」

 

 俺は頷いた。

 

「頼む」

 

 そして──

 

 一時間後。

 

 木が三本倒れていた。

 

「……すげぇ」

 

 思わず呟く。

 

 俺は丸太を組み、簡易の筏を作り始めた。

 

 補強用の丸太も付ける。

 

 作業を続けていると、空が暗くなり始めた。

 

「今日はここまでだな」

 

 安全な場所を探す。

 

 その時だった。

 

 茂みの奥から音が聞こえた。

 

 ガサガサ……

 

 俺は身構える。

 

「……」

 

 小声で言う。

 

「フィーア」

 

「はい」

 

「猛獣かもしれない。俺が受け止める。フィーアは倒してくれ」

 

 フィーアは静かに頷いた。

 

 そして──

 

 茂みから影が飛び出した。

 

 次の瞬間。

 

「……あれ?」

 

 出てきたのはクリスだった。

 

「グァ」

 

 俺は思わず叫んだ。

 

「クリス!!」

 

 その後ろから声がした。

 

「お前達、大丈夫か?」

 

 キリトだった。

 

 俺はその場に座り込んだ。

 

「助かったぁぁ……」

 

 フィーアはキリトに抱きついた。

 

「父様……」

 

 その瞬間、俺は思った。

 

 [これで何とかなる]

 

 遭難はまだ終わっていない。

 

 だが──

 

 仲間が揃った。

 

 それだけで、安心感は段違いだった。

 

「助かったぁぁ……」

 

 俺はその場にへたり込んだ。

 

 さっきまで必死にサバイバルしていた緊張が、一気に抜けてしまったのだ。

 

 フィーアはおやっさんに抱きついている。

 

「父様……」

 

 おやっさんは少し安心したように息を吐いた。

 

「無事でよかった」

 

「はい……少し疲れましたが問題ありません」

 

 その様子を見て、俺は頭を掻いた。

 

「いやぁ……マジで焦ったわ」

 

 さっきまで俺は本気で遭難していたのだ。

 

 水を確保して、食料を集めて、筏まで作ろうとしていた。

 

 正直、かなり必死だった。

 

 その時だった。

 

 森の奥から声が聞こえた。

 

「カゲェ────!」

 

 ヒサメの声だ。

 

 振り向くと、ヒサメとカンナ、シディが走ってきた。

 

 ヒサメは俺を見るなり飛びついてきた。

 

「カゲ!」

 

「うわっ!」

 

 俺は慌てて受け止める。

 

「生きてたぁ!」

 

「お、おう……」

 

 カンナも笑っていた。

 

「よかったよかった」

 

 シディも頷く。

 

「どうやら全員無事の様だな」

 

 その横でクリスがゆっくり歩いてくる。

 

 リンネ達も後ろから付いてきていた。

 

「キュゥ!」

 

「ガァ!」

 

「ミィ!」

 

 ヒサメがしゃがんで撫でる。

 

「リンネ達も無事!」

 

 俺は深く息を吐いた。

 

「いやぁ……マジで助かった」

 

 だが──

 

 その時、少し気になる事に気付いた。

 

 ヒサメ達が妙に静かなのだ。

 

 俺は言った。

 

「どうした?」

 

 すると三人は一瞬顔を見合わせた。

 

 そして──

 

 微妙な空気が流れた。

 

 ヒサメが目を逸らす。

 

 カンナは頬を掻いている。

 

 シディは腕を組んだまま黙っていた。

 

 俺は眉をひそめた。

 

「……?」

 

 フィーアも言う。

 

「皆様、どうかされたのですか?」

 

 その時だった。

 

 ブォォォン……

 

 遠くからエンジン音が聞こえてきた。

 

 振り向くと、森の奥から作業車が出てくる。

 

 ヘルメットを被った作業員が降りてきた。

 

「君たち大丈夫!?」

 

 俺は固まった。

 

「……は?」

 

 作業員は慌てて言う。

 

「クルーズ船の事故があったって連絡来てさ!」

 

「この辺り探してたんだ!」

 

 俺はゆっくりヒサメ達を見る。

 

 三人とも、気まずそうにしている。

 

 俺はゆっくり聞いた。

 

「……おやっさん」

 

「なんだ」

 

「ここ……」

 

 少し間を置いて言う。

 

「無人島じゃないのか?」

 

 おやっさんは一瞬だけ目を閉じた。

 

 そして小さくため息を吐いた。

 

「……違う」

 

「ここはリゾート開発予定地の未開拓区域だ」

 

 沈黙。

 

 俺の思考が止まる。

 

「……は?」

 

 フィーアも驚いていた。

 

「リゾート……ですか?」

 

 カンナが気まずそうに言った。

 

「実はさ……」

 

 ヒサメが続ける。

 

「お父さんが教えてくれてて」

 

 俺はゆっくり振り向く。

 

「……何を?」

 

 ヒサメが言った。

 

「この辺りの海流」

 

 おやっさんが説明した。

 

「この海域は海流が強い」

 

「船から落ちても、この浜に流れ着く可能性が高い」

 

 俺は呆然とした。

 

「……」

 

 おやっさんは続ける。

 

「それにここはリゾート開発区域だ」

 

「人も来る」

 

 カンナが言う。

 

「だから多分大丈夫だろうって」

 

 ヒサメも小さく言う。

 

「様子見てから合流しようって」

 

 シディが腕を組んだまま言った。

 

「……結果として」

 

「少し様子を見過ぎたがな」

 

 沈黙。

 

 俺はゆっくり座り込んだ。

 

「……」

 

 フィーアが言う。

 

「つまり」

 

 冷静にまとめる。

 

「私達だけが本気でサバイバルしていたのですね」

 

 ヒサメ達は何も言えない。

 

 完全に気まずい空気になった。

 

 俺は空を見上げた。

 

「……」

 

 そして小さく言った。

 

「俺さ」

 

 全員がこちらを見る。

 

「フジツボ取って」

 

「魚捕まえて」

 

「筏作って」

 

「拠点まで作ろうとしてたんだけど」

 

 沈黙。

 

 ヒサメが小さく言う。

 

「……ごめん」

 

 カンナも言う。

 

「ごめんって」

 

 おやっさんが俺の前に立った。

 

 そして少し頭を下げた。

 

「カゲチヨ」

 

「すまなかった」

 

 俺は目を瞬いた。

 

 おやっさんは続ける。

 

「お前達を危険な目に合わせた」

 

「俺の判断ミスだ」

 

「本当にすまない」

 

 周囲は静まり返った。

 

 俺はしばらく黙っていた。

 

 そして──

 

 頭を掻いた。

 

「……まぁ」

 

 立ち上がる。

 

「死にかけた訳じゃないし」

 

 ヒサメ達が少し安心した顔をする。

 

 俺は続けた。

 

「ただ一つだけ言わせてくれ」

 

 全員がこちらを見る。

 

 俺は叫んだ。

 

「最初に言えよぉぉぉ!!」

 

 その声は森中に響いた。

 

 おやっさんは苦笑していた。

 

 こうして俺達の遭難騒動は──

 

 俺とフィーアだけが本気でサバイバルしていたという、かなり間の抜けた形で幕を閉じたのだった。

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