混血のカレコレとLost evolution 作:Ks5118
手紙を受け取ってから数日後──俺達は日本を離れ、「龍の丘」と呼ばれる地へと降り立った。
機体の扉が開いた瞬間、ゆっくりと外の空気が流れ込んでくる。
ほんのりと温かく、どこか甘い香りを含んだ風。
「……空気が違うな」
思わずそう呟くと、隣にいたカゲチヨが頷く。
「あぁ、ただの観光地じゃないな。何か“いる”」
ヒサメが苦笑する。
「いきなり怖いこと言わないでくださいよ……」
軽口を叩きながらも、全員が無意識に警戒しているのが分かる。
俺達はそのまま空港の外へと歩き出した。
すると──
出口の先に、二人の男女が静かに立っていた。
男は青のチャイナ服に同色のズボン、黒い靴。
女は桃色のチャイナドレスに黒い短パン、白いニーソックスに白い靴。
その佇まいはまるで“迎賓の為に用意された存在”のようで、周囲の空気とは一線を画している。
二人は俺達の姿を認めると、同時に一歩前へ出て、深く一礼した。
その動きには一切の無駄がない。
「星の狩人様とそのお仲間の皆様ですね」
男の声は落ち着いていて、よく通る。
「長旅、お疲れ様でございました。こちらへ、私どもの主人があなた方をお待ちになられております」
続けて女性が口を開く。
「お荷物の方は、我々の方で責任を持ってお運び致します。どうぞご安心の上、お預けくださいませ」
ただ丁寧なだけじゃない。
“絶対に粗相はしない”という覚悟すら感じる対応だった。
「……すごいな」
ボティスが小声で呟く。
「完全にVIP扱いだね、アーシ達」
カンナも少し戸惑い気味だ。
それでも従者達の雰囲気に押される形で、全員が荷物を預けていく。
そして女性が俺の前に来て、改めて一礼した。
「恐れ入ります。貴方様のお荷物は、どちらにお有りになられているのでしょうか」
言葉遣いだけでなく、視線の高さや距離の取り方まで計算されている。
相手を不快にさせない“完璧な接客”だ。
俺は軽く腕輪を見せる。
「俺の荷物なら、この腕輪に入れてる。手持ちはない」
ほんの一瞬だけ、女性の目に驚きが浮かぶ。
だがすぐに微笑みに戻る。
「……承知致しました。貴重なお品でございますね」
否定も詮索もしない。
ただ事実として受け入れる。
その対応に、内心で少し感心する。
「それでは皆様、こちらへどうぞ」
男が手を差し出すと同時に、後方に控えていた別の従者達が静かに動き出す。
荷物はすでに丁寧に仕分けされ、専用の車両へと運ばれていく。
(手際が良すぎるな……)
俺達は案内されるまま、用意されたバスへと乗り込んだ。
車内は広く、座席も柔らかい。
それだけでなく、各席には飲み物が用意されていた。
「こちら、道中のご休息にお使いくださいませ」
女性従者がそう言って、一人一人に軽く頭を下げる。
「すげぇな……ここまでやるか普通」
カゲチヨが感心したように言う。
「これ、完全にお姫様待遇じゃないですか……」
ヒサメも戸惑い気味だ。
俺は窓の外を見ながら、小さく呟く。
「……それだけ、俺達に期待してるってことだろ」
一瞬、車内が静かになる。
その重みを、全員が感じ取ったのだろう。
バスは静かに走り出す。
揺れはほとんどなく、まるで滑るように進んでいく。
しばらくすると、遠くに巨大な樹が見えてきた。
空を突き抜けるほどの高さ。
枝は雲に届き、幹は山のように太い。
その存在だけで、この国の異質さを物語っていた。
「……あれが、この国の中心です」
男の従者が静かに説明する。
「龍の加護を受けし、大樹にございます」
「へぇ……」
フィーアが感嘆の声を漏らす。
バスはやがてその大樹の麓へと到着した。
扉が開くと、外にはすでに別の従者達が整列していた。
全員が一糸乱れぬ動きで一礼する。
その先には──
城へと続く、真紅のカーペット。
「……やりすぎだろ、これ」
思わず苦笑が漏れる。
だが同時に理解する。
(これは“歓迎”じゃない。“敬意”だ)
俺達は、その意味を背負って歩かされている。
「どうぞ、こちらへ」
促され、俺達はカーペットの上を進む。
足音すら吸い込まれるような静寂。
両脇には従者達が並び、誰一人として視線を上げない。
ただ、完璧な礼を保ち続けている。
城内に入ってからも、それは変わらなかった。
扉は先回りして開かれ、進行は一切止まらない。
まるで“道そのものが用意されている”かのようだ。
「……ここまで徹底されると逆に怖いな」
ボティスが小声で言う。
「うん……なんか、失敗できない感じ」
ヒサメも同意する。
だが俺は──
(これが、この国の“礼儀”なんだろうな)
そう感じていた。
やがて、大きな扉の前で止まる。
左右の従者が同時に動き、ゆっくりと扉を開いた。
その先に待つのは──
この国の頂点。
重厚な扉の前で、俺達は足を止めた。
左右に控えていた従者が、息を合わせるように一歩前へ出る。
そして──
ギィィ……
ゆっくりと、音を立てながら扉が開かれていく。
その瞬間、空気が変わった。
先程までの“丁寧な歓迎”とは明らかに違う。
ここは──この国の中枢。
踏み込むこと自体に意味がある場所だ。
「……」
誰も軽口を叩かない。
自然と、背筋が伸びる。
視線の先に広がるのは、広大な玉座の間。
高い天井、並び立つ巨大な柱、壁に刻まれた龍の紋様。
そしてその最奥──
玉座に座る、一人の女性。
黒髪が静かに揺れ、金色の瞳がこちらを射抜く。
視線が合った瞬間、身体が一瞬だけ強張った。
(……格が違う)
それは力とかそういう次元じゃない。
“支配する者”としての圧だ。
ディナ・クラウスは、ゆっくりと立ち上がった。
「よくぞ参られた、星狩りの民よ」
その声は静かだが、場の隅々まで届く。
まるで空間そのものが従っているかのようだった。
「お初にお目に掛かる。儂はこの国を治める龍王の〈ディナ・クラウス〉」
一歩、こちらへ。
「以後、お見知り置きよ」
その言葉と同時に──
周囲の従者達が一斉に膝をつき、頭を垂れる。
統制の取れた動き。
一切の乱れもない。
この一瞬だけで、この国の在り方が分かる。
俺は一歩前に出た。
「俺は星狩りの生き残り。この星での名前はキリト。元の星ではロストル」
短く名乗る。
「そして、仮面ライダーロストだ」
カゲチヨ達も続く。
ディナはそれを静かに聞き終えた。
「……ふむ」
わずかに頷く。
「確かに、受け取った情報と一致しておる」
その直後──
ディナは、ゆっくりと頭を下げた。
「遠路遥々、よくぞ来てくれた」
王である者が、自ら頭を下げる。
その重みは、さっきの接客とは比べ物にならない。
場の空気が、一段沈む。
「其方達に、心より感謝を」
「えっ!?」
「ちょっ、頭上げてください!」
カゲチヨ達が慌てて声を上げる。
「俺達そんな大したことしてないっす!」
「ただ呼ばれただけですし……!」
だがディナはすぐには顔を上げない。
数秒の間を置いて、ゆっくりと元の姿勢に戻った。
「……謙遜するでない」
その一言には、確かな重みがあった。
「其方達が成してきたことは、すでに我らの耳にも届いておる」
そこで一度、俺の方を見る。
「特に──キリト」
わずかに目を細める。
「其方には、借りがある」
「……借り?」
俺が首を傾げたその時。
ふと、記憶が引っかかる。
ぼんやりとした光景。
怪我をした、小さなドラゴン。
「……あぁ」
思い出す。
「もしかして、あの時の──」
言いかけたところで、ディナは静かに頷いた。
「そうじゃ。あれは儂ではないが……儂の娘じゃ」
ほんの一瞬だけ、表情が柔らかくなる。
「名をティオ・クラウスと言う」
だがその直後──
ディナは小さくため息をついた。
「……まったく、あやつは」
わずかに額を押さえる。
「落ち着きもなければ、礼儀も未熟。王族としての自覚もまだ足りぬ」
その言葉には、はっきりとした“叱責”が含まれていた。
「力だけはあるが、それを扱う器が伴っておらぬ」
周囲の従者達も、どこか苦笑を浮かべている。
「本来であれば、この場に同席させるべきなのだがな……」
一拍置く。
「今のあやつでは、其方達に無礼を働くやもしれぬ」
かなりはっきり言うタイプだな、と思わず苦笑する。
だが同時に──
(ちゃんと見てるんだな)
とも感じた。
ただ甘やかすだけじゃない。
きちんと“王族として育てようとしている”。
そんな印象だった。
「……とはいえ」
ディナは視線を戻す。
「其方に救われた命である以上、会わせぬ訳にもいくまい」
小さく息を吐く。
「後ほど、個別に会ってやってくれぬか」
「あぁ、構わない」
俺が頷くと、ディナはわずかに安心したように目を細めた。
だがすぐに表情を引き締める。
「さて──」
空気が切り替わる。
「本題に入ろう」
玉座の間に、再び緊張が走る。
「お主らを呼んだ理由。それは──」
一瞬の静寂。
「我が国に入り込んだ“害虫”についてじゃ」
ディナがそう言いかけた──その時だった。
バンッ!!
玉座の間の扉が、勢いよく開かれる。
「お母様ぁ──っ!!」
場違いなほど元気な声が響いた。
全員の視線が一斉にそちらへ向く。
そこに立っていたのは──
小柄な少女。
長い髪を揺らしながら、満面の笑みでこちらを見ている。
そして次の瞬間。
「お兄さまぁ──っ!!」
一直線。
迷いも減速も一切なしで、俺に向かって突っ込んできた。
(……あ、これダメなやつだ)
反射で半歩横にズレる。
結果──
ゴンッ!!
「グニャッ!?」
盛大に柱へ激突。
玉座の間に、不思議な静寂が訪れる。
「……」
「……」
「……」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
ゆっくりと、少女──ティオが顔を上げる。
鼻を押さえながら、涙目でこちらを見る。
「な、なぜ避けるのじゃお兄さま……」
「いや避けるだろ普通」
即答だった。
すると後ろからツクヨが駆け寄ってくる。
「お嬢様! ですから走らないでくださいと何度も……!」
「違うのじゃ! これは感動の再会で──」
言い訳を始めるティオ。
だがその声を──
「ティオ」
低く、よく通る声が遮った。
ピタッ、と空気が止まる。
ティオの動きも、言葉も止まった。
ゆっくりと、振り返る。
そこに立っていたのは──
ディナ・クラウス。
先程までの穏やかさはない。
完全に、“王”としての顔。
「今は何の場か、分かっておるのか?」
静かな声。
だが圧が違う。
「そ、それは……」
ティオが言葉に詰まる。
「来客を迎え、国の重大な話をしておる最中じゃ」
一歩、近づく。
「その場に、許可もなく乱入し、挙句──」
視線が柱へ。
「無様な姿を晒す」
ズバッ、と言い切る。
ティオの肩がビクッと震えた。
「王族としての自覚は、どこへ置いてきた」
「……っ」
ティオは俯く。
さっきまでの勢いは完全に消えていた。
「其方は、この国の“顔”の一人じゃ」
さらに一歩。
「その自覚もなく、感情だけで動くのであれば──」
一瞬の間。
「玉座の間に立つ資格はない」
空気が、凍る。
誰も動けない。
その重さは、さっきの接客や歓迎とは比べ物にならない。
純粋な“叱責”。
ティオはぎゅっと拳を握りしめた。
「……申し訳、ございません」
小さな声。
だが、はっきりと聞こえた。
ディナはしばらく無言で見つめ──
やがて、小さく息を吐いた。
「……顔を上げよ」
ティオがゆっくりと顔を上げる。
その目は少し赤い。
「来客の前である以上、最低限の礼は尽くせ」
「……はい」
ティオは俺達の方へ向き直り、ぎこちなく一礼した。
「ティオ・クラウス……です」
さっきまでとは別人みたいに大人しい。
思わず苦笑が漏れそうになるのを堪える。
ディナはそれを確認すると、再び玉座の方へ戻った。
「……見苦しいところを見せたな」
淡々とした声。
だがほんの少しだけ、疲れも滲んでいるように見えた。
「これが、儂の娘じゃ」
ため息混じりの一言。
だが完全に突き放しているわけじゃない。
ちゃんと見ているし、育てようとしている。
そんな距離感だった。
ティオは少し離れた位置で、じっとこちらを見ている。
さっきみたいに飛びついてはこない。
……が、明らかに我慢している。
(後で絶対来るな、これ)
内心でそう思いながら、俺は小さく肩をすくめた。
ディナは視線を戻す。
「……話を続ける」
再び空気が引き締まる。
「我が国に入り込んだ“害虫”──」
ディナが言葉を続けようとした、その瞬間だった。
──ズンッ。
床が、微かに揺れた。
「……?」
誰かが小さく声を漏らす。
だがそれは、ただの前触れに過ぎなかった。
次の瞬間。
『ドゴォォォォン!!』
凄まじい爆音と共に、玉座の間の天井が吹き飛んだ。
瓦礫が降り注ぎ、衝撃波が空気を叩きつける。
「伏せろ!!」
カゲチヨの叫び。
全員が咄嗟に身を低くする。
俺は反射的に前へ出て、飛んできた瓦礫を腕で弾いた。
土煙が一気に広がる。
視界が奪われる。
「げほっ……な、何が……!」
ヒサメの声が聞こえる。
「全員無事か!」
「なんとか……!」
煙の中、気配を探る。
だが──
(違う……)
ただの爆発じゃない。
この感じは──
ゆっくりと、煙が晴れていく。
そして見えたのは。
崩れた玉座。
倒れた従者達。
そして──
玉座の前に立つ、一つの影。
その腕が、誰かを掴んでいる。
細い首を、無造作に。
「……くっ……!」
ディナだった。
苦しそうに眉を歪めている。
それを見た瞬間、思考が止まる。
代わりに、感情が一気に噴き上がる。
「……テメェ」
低く、漏れる声。
煙の中から、その男がゆっくりと姿を現す。
不気味なシルエット。
歪んだ笑い。
『ガァーハッハッハッハッハッハァ!』
聞き慣れた、最悪の笑い声。
「久しいなァ……」
そいつは、ゆっくりとこちらを見た。
「星狩りの生き残り」
完全に視線が合う。
口元が吊り上がる。
「こんな所で会えるとはなァ」
血が沸騰する。
「ブラッドォォ────ッ!!」
踏み込む。
その瞬間、腰のドライバーに手をかける。
『Lost Devil〜!』
『ガァーハッハッハッハッハッハァ!』
変身音が響く中、一直線に距離を詰める。
拳を振り抜く。
だが──
ガシィッ!!
止められる。
「ほぉう……やはり来たか」
余裕の声。
そのままディナを投げ捨てる。
「がっ……!」
「皇女様っ!!」
従者達の悲鳴。
俺の意識が一瞬そちらに向く。
その隙に──
「甘いなァ」
衝撃。
『ぐっ……!』
腹部に一撃。
身体が浮き、叩きつけられる。
床が砕ける。
「キリトっ!!」
誰かの声。
だがそんなものはどうでもいい。
視界の端で、ディナが咳き込んでいるのが見える。
そして──
少し離れた場所で、固まっているティオ。
「……お母、様……」
震える声。
さっきまでの元気は欠片もない。
ただ、状況に追いつけていない。
(……クソッ)
歯を食いしばり、立ち上がる。
「ツクヨッ!!」
叫ぶ。
「ティオを連れて離れろ!! カゲチヨ達と合流しろ!!」
「は、はいっ!!」
ツクヨがすぐに動く。
だがティオは──
「で、でも……!」
足が動いていない。
完全に固まっている。
その様子を見て、ブラッドローグが笑う。
「ほぉ……あれが“鍵”か」
視線がティオへ向く。
ゾクリ、と嫌な気配が走る。
「やめろ……」
低く呟く。
「ほぉ? 大事か?」
一歩、ティオの方へ動く。
「やめろって言ってんだろォ!!」
地面を蹴る。
一瞬で間合いを詰める。
そのまま顔面へ拳を叩き込む──
が、また止められる。
「相変わらず直線的だなァ」
ニヤリと笑う。
「だが──悪くない」
そのまま俺を弾き飛ばす。
距離が開く。
ブラッドローグは、ゆっくりと腕を広げた。
「安心しろ。今はまだ取らん」
不気味な声。
「準備が整ってから、じっくり使わせてもらう」
「……っ!」
怒りで視界が赤く染まる。
だが同時に理解する。
(ここで戦うのはまずい……!)
城の中。
被害が大きすぎる。
ディナも、ティオも、全員巻き込む。
俺はディナに視線を向ける。
「……戦える場所はあるか」
短く問う。
ディナは咳き込みながらも、目を開く。
「……少し離れた場所に……平原がある……」
息を整えながら続ける。
「兵の訓練場じゃ……今は、誰もおらぬ……」
「……了解」
視線を戻す。
ブラッドローグが楽しそうに笑っている。
「ほぉ……逃げる気か?」
「違ぇよ」
ドライバーに手をかける。
「場所を変えるだけだ」
一歩、踏み出す。
空気が張り詰める。
「テメェは──そこで潰す」
ブラッドローグは肩を揺らして笑った。
『ガァーハッハッハッハッハッハァ!』
「いいだろう……付き合ってやる」