混血のカレコレとLost evolution   作:Ks5118

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No.37 龍の巣と争いの引き金〈前編〉《修正版》

 手紙を受け取ってから数日後──俺達は日本を離れ、「龍の丘」と呼ばれる地へと降り立った。

 

 機体の扉が開いた瞬間、ゆっくりと外の空気が流れ込んでくる。

 

 ほんのりと温かく、どこか甘い香りを含んだ風。

 

「……空気が違うな」

 

 思わずそう呟くと、隣にいたカゲチヨが頷く。

 

「あぁ、ただの観光地じゃないな。何か“いる”」

 

 ヒサメが苦笑する。

 

「いきなり怖いこと言わないでくださいよ……」

 

 軽口を叩きながらも、全員が無意識に警戒しているのが分かる。

 

 俺達はそのまま空港の外へと歩き出した。

 

 すると──

 

 出口の先に、二人の男女が静かに立っていた。

 

 男は青のチャイナ服に同色のズボン、黒い靴。

 

 女は桃色のチャイナドレスに黒い短パン、白いニーソックスに白い靴。

 

 その佇まいはまるで“迎賓の為に用意された存在”のようで、周囲の空気とは一線を画している。

 

 二人は俺達の姿を認めると、同時に一歩前へ出て、深く一礼した。

 

 その動きには一切の無駄がない。

 

「星の狩人様とそのお仲間の皆様ですね」

 

 男の声は落ち着いていて、よく通る。

 

「長旅、お疲れ様でございました。こちらへ、私どもの主人があなた方をお待ちになられております」

 

 続けて女性が口を開く。

 

「お荷物の方は、我々の方で責任を持ってお運び致します。どうぞご安心の上、お預けくださいませ」

 

 ただ丁寧なだけじゃない。

 

 “絶対に粗相はしない”という覚悟すら感じる対応だった。

 

「……すごいな」

 

 ボティスが小声で呟く。

 

「完全にVIP扱いだね、アーシ達」

 

 カンナも少し戸惑い気味だ。

 

 それでも従者達の雰囲気に押される形で、全員が荷物を預けていく。

 

 そして女性が俺の前に来て、改めて一礼した。

 

「恐れ入ります。貴方様のお荷物は、どちらにお有りになられているのでしょうか」

 

 言葉遣いだけでなく、視線の高さや距離の取り方まで計算されている。

 

 相手を不快にさせない“完璧な接客”だ。

 

 俺は軽く腕輪を見せる。

 

「俺の荷物なら、この腕輪に入れてる。手持ちはない」

 

 ほんの一瞬だけ、女性の目に驚きが浮かぶ。

 

 だがすぐに微笑みに戻る。

 

「……承知致しました。貴重なお品でございますね」

 

 否定も詮索もしない。

 

 ただ事実として受け入れる。

 

 その対応に、内心で少し感心する。

 

「それでは皆様、こちらへどうぞ」

 

 男が手を差し出すと同時に、後方に控えていた別の従者達が静かに動き出す。

 

 荷物はすでに丁寧に仕分けされ、専用の車両へと運ばれていく。

 

(手際が良すぎるな……)

 

 俺達は案内されるまま、用意されたバスへと乗り込んだ。

 

 車内は広く、座席も柔らかい。

 

 それだけでなく、各席には飲み物が用意されていた。

 

「こちら、道中のご休息にお使いくださいませ」

 

 女性従者がそう言って、一人一人に軽く頭を下げる。

 

「すげぇな……ここまでやるか普通」

 

 カゲチヨが感心したように言う。

 

「これ、完全にお姫様待遇じゃないですか……」

 

 ヒサメも戸惑い気味だ。

 

 俺は窓の外を見ながら、小さく呟く。

 

「……それだけ、俺達に期待してるってことだろ」

 

 一瞬、車内が静かになる。

 

 その重みを、全員が感じ取ったのだろう。

 

 バスは静かに走り出す。

 

 揺れはほとんどなく、まるで滑るように進んでいく。

 

 しばらくすると、遠くに巨大な樹が見えてきた。

 

 空を突き抜けるほどの高さ。

 

 枝は雲に届き、幹は山のように太い。

 

 その存在だけで、この国の異質さを物語っていた。

 

「……あれが、この国の中心です」

 

 男の従者が静かに説明する。

 

「龍の加護を受けし、大樹にございます」

 

「へぇ……」

 

 フィーアが感嘆の声を漏らす。

 

 バスはやがてその大樹の麓へと到着した。

 

 扉が開くと、外にはすでに別の従者達が整列していた。

 

 全員が一糸乱れぬ動きで一礼する。

 

 その先には──

 

 城へと続く、真紅のカーペット。

 

「……やりすぎだろ、これ」

 

 思わず苦笑が漏れる。

 

 だが同時に理解する。

 

(これは“歓迎”じゃない。“敬意”だ)

 

 俺達は、その意味を背負って歩かされている。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

 促され、俺達はカーペットの上を進む。

 

 足音すら吸い込まれるような静寂。

 

 両脇には従者達が並び、誰一人として視線を上げない。

 

 ただ、完璧な礼を保ち続けている。

 

 城内に入ってからも、それは変わらなかった。

 

 扉は先回りして開かれ、進行は一切止まらない。

 

 まるで“道そのものが用意されている”かのようだ。

 

「……ここまで徹底されると逆に怖いな」

 

 ボティスが小声で言う。

 

「うん……なんか、失敗できない感じ」

 

 ヒサメも同意する。

 

 だが俺は──

 

(これが、この国の“礼儀”なんだろうな)

 

 そう感じていた。

 

 やがて、大きな扉の前で止まる。

 

 左右の従者が同時に動き、ゆっくりと扉を開いた。

 

 その先に待つのは──

 

 この国の頂点。

 

 重厚な扉の前で、俺達は足を止めた。

 

 左右に控えていた従者が、息を合わせるように一歩前へ出る。

 

 そして──

 

 ギィィ……

 

 ゆっくりと、音を立てながら扉が開かれていく。

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 先程までの“丁寧な歓迎”とは明らかに違う。

 

 ここは──この国の中枢。

 

 踏み込むこと自体に意味がある場所だ。

 

「……」

 

 誰も軽口を叩かない。

 

 自然と、背筋が伸びる。

 

 視線の先に広がるのは、広大な玉座の間。

 

 高い天井、並び立つ巨大な柱、壁に刻まれた龍の紋様。

 

 そしてその最奥──

 

 玉座に座る、一人の女性。

 

 黒髪が静かに揺れ、金色の瞳がこちらを射抜く。

 

 視線が合った瞬間、身体が一瞬だけ強張った。

 

(……格が違う)

 

 それは力とかそういう次元じゃない。

 

 “支配する者”としての圧だ。

 

 ディナ・クラウスは、ゆっくりと立ち上がった。

 

「よくぞ参られた、星狩りの民よ」

 

 その声は静かだが、場の隅々まで届く。

 

 まるで空間そのものが従っているかのようだった。

 

「お初にお目に掛かる。儂はこの国を治める龍王の〈ディナ・クラウス〉」

 

 一歩、こちらへ。

 

「以後、お見知り置きよ」

 

 その言葉と同時に──

 

 周囲の従者達が一斉に膝をつき、頭を垂れる。

 

 統制の取れた動き。

 

 一切の乱れもない。

 

 この一瞬だけで、この国の在り方が分かる。

 

 俺は一歩前に出た。

 

「俺は星狩りの生き残り。この星での名前はキリト。元の星ではロストル」

 

 短く名乗る。

 

「そして、仮面ライダーロストだ」

 

 カゲチヨ達も続く。

 

 ディナはそれを静かに聞き終えた。

 

「……ふむ」

 

 わずかに頷く。

 

「確かに、受け取った情報と一致しておる」

 

 その直後──

 

 ディナは、ゆっくりと頭を下げた。

 

「遠路遥々、よくぞ来てくれた」

 

 王である者が、自ら頭を下げる。

 

 その重みは、さっきの接客とは比べ物にならない。

 

 場の空気が、一段沈む。

 

「其方達に、心より感謝を」

 

「えっ!?」

 

「ちょっ、頭上げてください!」

 

 カゲチヨ達が慌てて声を上げる。

 

「俺達そんな大したことしてないっす!」

 

「ただ呼ばれただけですし……!」

 

 だがディナはすぐには顔を上げない。

 

 数秒の間を置いて、ゆっくりと元の姿勢に戻った。

 

「……謙遜するでない」

 

 その一言には、確かな重みがあった。

 

「其方達が成してきたことは、すでに我らの耳にも届いておる」

 

 そこで一度、俺の方を見る。

 

「特に──キリト」

 

 わずかに目を細める。

 

「其方には、借りがある」

 

「……借り?」

 

 俺が首を傾げたその時。

 

 ふと、記憶が引っかかる。

 

 ぼんやりとした光景。

 

 怪我をした、小さなドラゴン。

 

「……あぁ」

 

 思い出す。

 

「もしかして、あの時の──」

 

 言いかけたところで、ディナは静かに頷いた。

 

「そうじゃ。あれは儂ではないが……儂の娘じゃ」

 

 ほんの一瞬だけ、表情が柔らかくなる。

 

「名をティオ・クラウスと言う」

 

 だがその直後──

 

 ディナは小さくため息をついた。

 

「……まったく、あやつは」

 

 わずかに額を押さえる。

 

「落ち着きもなければ、礼儀も未熟。王族としての自覚もまだ足りぬ」

 

 その言葉には、はっきりとした“叱責”が含まれていた。

 

「力だけはあるが、それを扱う器が伴っておらぬ」

 

 周囲の従者達も、どこか苦笑を浮かべている。

 

「本来であれば、この場に同席させるべきなのだがな……」

 

 一拍置く。

 

「今のあやつでは、其方達に無礼を働くやもしれぬ」

 

 かなりはっきり言うタイプだな、と思わず苦笑する。

 

 だが同時に──

 

(ちゃんと見てるんだな)

 

 とも感じた。

 

 ただ甘やかすだけじゃない。

 

 きちんと“王族として育てようとしている”。

 

 そんな印象だった。

 

「……とはいえ」

 

 ディナは視線を戻す。

 

「其方に救われた命である以上、会わせぬ訳にもいくまい」

 

 小さく息を吐く。

 

「後ほど、個別に会ってやってくれぬか」

 

「あぁ、構わない」

 

 俺が頷くと、ディナはわずかに安心したように目を細めた。

 

 だがすぐに表情を引き締める。

 

「さて──」

 

 空気が切り替わる。

 

「本題に入ろう」

 

 玉座の間に、再び緊張が走る。

 

「お主らを呼んだ理由。それは──」

 

 一瞬の静寂。

 

「我が国に入り込んだ“害虫”についてじゃ」

 

 ディナがそう言いかけた──その時だった。

 

 バンッ!! 

 

 玉座の間の扉が、勢いよく開かれる。

 

「お母様ぁ──っ!!」

 

 場違いなほど元気な声が響いた。

 

 全員の視線が一斉にそちらへ向く。

 

 そこに立っていたのは──

 

 小柄な少女。

 

 長い髪を揺らしながら、満面の笑みでこちらを見ている。

 

 そして次の瞬間。

 

「お兄さまぁ──っ!!」

 

 一直線。

 

 迷いも減速も一切なしで、俺に向かって突っ込んできた。

 

(……あ、これダメなやつだ)

 

 反射で半歩横にズレる。

 

 結果──

 

 ゴンッ!! 

 

「グニャッ!?」

 

 盛大に柱へ激突。

 

 玉座の間に、不思議な静寂が訪れる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 誰も、すぐには言葉を発せなかった。

 

 ゆっくりと、少女──ティオが顔を上げる。

 

 鼻を押さえながら、涙目でこちらを見る。

 

「な、なぜ避けるのじゃお兄さま……」

 

「いや避けるだろ普通」

 

 即答だった。

 

 すると後ろからツクヨが駆け寄ってくる。

 

「お嬢様! ですから走らないでくださいと何度も……!」

 

「違うのじゃ! これは感動の再会で──」

 

 言い訳を始めるティオ。

 

 だがその声を──

 

「ティオ」

 

 低く、よく通る声が遮った。

 

 ピタッ、と空気が止まる。

 

 ティオの動きも、言葉も止まった。

 

 ゆっくりと、振り返る。

 

 そこに立っていたのは──

 

 ディナ・クラウス。

 

 先程までの穏やかさはない。

 

 完全に、“王”としての顔。

 

「今は何の場か、分かっておるのか?」

 

 静かな声。

 

 だが圧が違う。

 

「そ、それは……」

 

 ティオが言葉に詰まる。

 

「来客を迎え、国の重大な話をしておる最中じゃ」

 

 一歩、近づく。

 

「その場に、許可もなく乱入し、挙句──」

 

 視線が柱へ。

 

「無様な姿を晒す」

 

 ズバッ、と言い切る。

 

 ティオの肩がビクッと震えた。

 

「王族としての自覚は、どこへ置いてきた」

 

「……っ」

 

 ティオは俯く。

 

 さっきまでの勢いは完全に消えていた。

 

「其方は、この国の“顔”の一人じゃ」

 

 さらに一歩。

 

「その自覚もなく、感情だけで動くのであれば──」

 

 一瞬の間。

 

「玉座の間に立つ資格はない」

 

 空気が、凍る。

 

 誰も動けない。

 

 その重さは、さっきの接客や歓迎とは比べ物にならない。

 

 純粋な“叱責”。

 

 ティオはぎゅっと拳を握りしめた。

 

「……申し訳、ございません」

 

 小さな声。

 

 だが、はっきりと聞こえた。

 

 ディナはしばらく無言で見つめ──

 

 やがて、小さく息を吐いた。

 

「……顔を上げよ」

 

 ティオがゆっくりと顔を上げる。

 

 その目は少し赤い。

 

「来客の前である以上、最低限の礼は尽くせ」

 

「……はい」

 

 ティオは俺達の方へ向き直り、ぎこちなく一礼した。

 

「ティオ・クラウス……です」

 

 さっきまでとは別人みたいに大人しい。

 

 思わず苦笑が漏れそうになるのを堪える。

 

 ディナはそれを確認すると、再び玉座の方へ戻った。

 

「……見苦しいところを見せたな」

 

 淡々とした声。

 

 だがほんの少しだけ、疲れも滲んでいるように見えた。

 

「これが、儂の娘じゃ」

 

 ため息混じりの一言。

 

 だが完全に突き放しているわけじゃない。

 

 ちゃんと見ているし、育てようとしている。

 

 そんな距離感だった。

 

 ティオは少し離れた位置で、じっとこちらを見ている。

 

 さっきみたいに飛びついてはこない。

 

 ……が、明らかに我慢している。

 

(後で絶対来るな、これ)

 

 内心でそう思いながら、俺は小さく肩をすくめた。

 

 ディナは視線を戻す。

 

「……話を続ける」

 

 再び空気が引き締まる。

 

「我が国に入り込んだ“害虫”──」

 

 ディナが言葉を続けようとした、その瞬間だった。

 

 ──ズンッ。

 

 床が、微かに揺れた。

 

「……?」

 

 誰かが小さく声を漏らす。

 

 だがそれは、ただの前触れに過ぎなかった。

 

 次の瞬間。

 

『ドゴォォォォン!!』

 

 凄まじい爆音と共に、玉座の間の天井が吹き飛んだ。

 

 瓦礫が降り注ぎ、衝撃波が空気を叩きつける。

 

「伏せろ!!」

 

 カゲチヨの叫び。

 

 全員が咄嗟に身を低くする。

 

 俺は反射的に前へ出て、飛んできた瓦礫を腕で弾いた。

 

 土煙が一気に広がる。

 

 視界が奪われる。

 

「げほっ……な、何が……!」

 

 ヒサメの声が聞こえる。

 

「全員無事か!」

 

「なんとか……!」

 

 煙の中、気配を探る。

 

 だが──

 

(違う……)

 

 ただの爆発じゃない。

 

 この感じは──

 

 ゆっくりと、煙が晴れていく。

 

 そして見えたのは。

 

 崩れた玉座。

 

 倒れた従者達。

 

 そして──

 

 玉座の前に立つ、一つの影。

 

 その腕が、誰かを掴んでいる。

 

 細い首を、無造作に。

 

「……くっ……!」

 

 ディナだった。

 

 苦しそうに眉を歪めている。

 

 それを見た瞬間、思考が止まる。

 

 代わりに、感情が一気に噴き上がる。

 

「……テメェ」

 

 低く、漏れる声。

 

 煙の中から、その男がゆっくりと姿を現す。

 

 不気味なシルエット。

 

 歪んだ笑い。

 

『ガァーハッハッハッハッハッハァ!』

 

 聞き慣れた、最悪の笑い声。

 

「久しいなァ……」

 

 そいつは、ゆっくりとこちらを見た。

 

「星狩りの生き残り」

 

 完全に視線が合う。

 

 口元が吊り上がる。

 

「こんな所で会えるとはなァ」

 

 血が沸騰する。

 

「ブラッドォォ────ッ!!」

 

 踏み込む。

 

 その瞬間、腰のドライバーに手をかける。

 

『Lost Devil〜!』

 

『ガァーハッハッハッハッハッハァ!』

 

 変身音が響く中、一直線に距離を詰める。

 

 拳を振り抜く。

 

 だが──

 

 ガシィッ!! 

 

 止められる。

 

「ほぉう……やはり来たか」

 

 余裕の声。

 

 そのままディナを投げ捨てる。

 

「がっ……!」

 

「皇女様っ!!」

 

 従者達の悲鳴。

 

 俺の意識が一瞬そちらに向く。

 

 その隙に──

 

「甘いなァ」

 

 衝撃。

 

『ぐっ……!』

 

 腹部に一撃。

 

 身体が浮き、叩きつけられる。

 

 床が砕ける。

 

「キリトっ!!」

 

 誰かの声。

 

 だがそんなものはどうでもいい。

 

 視界の端で、ディナが咳き込んでいるのが見える。

 

 そして──

 

 少し離れた場所で、固まっているティオ。

 

「……お母、様……」

 

 震える声。

 

 さっきまでの元気は欠片もない。

 

 ただ、状況に追いつけていない。

 

(……クソッ)

 

 歯を食いしばり、立ち上がる。

 

「ツクヨッ!!」

 

 叫ぶ。

 

「ティオを連れて離れろ!! カゲチヨ達と合流しろ!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 ツクヨがすぐに動く。

 

 だがティオは──

 

「で、でも……!」

 

 足が動いていない。

 

 完全に固まっている。

 

 その様子を見て、ブラッドローグが笑う。

 

「ほぉ……あれが“鍵”か」

 

 視線がティオへ向く。

 

 ゾクリ、と嫌な気配が走る。

 

「やめろ……」

 

 低く呟く。

 

「ほぉ? 大事か?」

 

 一歩、ティオの方へ動く。

 

「やめろって言ってんだろォ!!」

 

 地面を蹴る。

 

 一瞬で間合いを詰める。

 

 そのまま顔面へ拳を叩き込む──

 

 が、また止められる。

 

「相変わらず直線的だなァ」

 

 ニヤリと笑う。

 

「だが──悪くない」

 

 そのまま俺を弾き飛ばす。

 

 距離が開く。

 

 ブラッドローグは、ゆっくりと腕を広げた。

 

「安心しろ。今はまだ取らん」

 

 不気味な声。

 

「準備が整ってから、じっくり使わせてもらう」

 

「……っ!」

 

 怒りで視界が赤く染まる。

 

 だが同時に理解する。

 

(ここで戦うのはまずい……!)

 

 城の中。

 

 被害が大きすぎる。

 

 ディナも、ティオも、全員巻き込む。

 

 俺はディナに視線を向ける。

 

「……戦える場所はあるか」

 

 短く問う。

 

 ディナは咳き込みながらも、目を開く。

 

「……少し離れた場所に……平原がある……」

 

 息を整えながら続ける。

 

「兵の訓練場じゃ……今は、誰もおらぬ……」

 

「……了解」

 

 視線を戻す。

 

 ブラッドローグが楽しそうに笑っている。

 

「ほぉ……逃げる気か?」

 

「違ぇよ」

 

 ドライバーに手をかける。

 

「場所を変えるだけだ」

 

 一歩、踏み出す。

 

 空気が張り詰める。

 

「テメェは──そこで潰す」

 

 ブラッドローグは肩を揺らして笑った。

 

『ガァーハッハッハッハッハッハァ!』

 

「いいだろう……付き合ってやる」




 
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