混血のカレコレとLost evolution   作:Ks5118

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No.38 龍の巣と争いの引き金〈後編〉《修正版》

 キリト side

 

 訓練場に吹き抜ける風が、土煙をゆっくりと流していく。

 

 その中心で、俺は静かに構えていた。

 

 対するブラッドローグは、片腕を軽く振りながら笑う。

 

「ガァーハッハッハッハッハッハァ!」

 

 不気味な笑いが響く。

 

「いいなァ……その力……実にいい……!」

 

「無駄話は終わりだ」

 

 短く言い捨てる。

 

「ここならある程度、暴れられんだろう。さぁ、始めようか」

 

「ふん……余裕だなァ」

 

 次の瞬間。

 

 ブラッドローグの姿が揺らぐ。

 

 ──消えた。

 

 横から衝撃。

 

「ぐっ!」

 

 吹き飛ばされる。

 

 だが空中で体勢を立て直し、着地する。

 

「どうしたァ!」

 

 追撃。

 

 だが──

 

「軽いな」

 

 呟く。

 

「……様子見か」

 

 踏み込む。

 

 速度が一段階上がる。

 

「ッ!?」

 

 拳が直撃。

 

 ブラッドローグが弾き飛ばされる。

 

「バカな……!」

 

「差があるって言ってんだよ」

 

 低く言い放つ。

 

「ハザードレベル9.8……それがどういう意味か、体で理解しろ」

 

 レバーを回す。

 

 黒いエネルギーが噴き出す。

 

『Ready Go!』

 

「終わりだ」

 

 消える。

 

「なっ──!?」

 

 真上に出現。

 

『Ragnaro Tex Finish!』

 

「グウァァァ────────ッッ!」

 

『Ciao!』

 

 爆発。

 

 煙が晴れる。

 

 そこには井坂の姿。

 

「これに懲りたら、この星から出て行け」

 

「甘いな……」

 

 煙と共に消える。

 

「……逃げたか」

 

 踵を返す。

 

 だが、足を止める。

 

「……?」

 

 妙な違和感。

 

「……終わってねぇな」

 

 静かに呟き、城へ戻った。

 

 キリト side out

 

 ブラッドローグ(井坂) side

 

 暗い空間。

 

 どこかも分からない場所。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 膝をつく。

 

「クソが……!」

 

 拳を叩きつける。

 

「9.8……!」

 

 歯を食いしばる。

 

「だが……まだ終わってねぇ……!」

 

 ドライバーに手をかける。

 

 その瞬間──

 

 気配。

 

 圧倒的な“何か”。

 

「……誰だ……!」

 

 振り向く。

 

 いない。

 

 だが──

 

 いる。

 

 次の瞬間。

 

 目の前に“現れる”。

 

「なっ……!?」

 

 動けない。

 

 ドライバーを掴まれる。

 

「やめろッ!!」

 

 抵抗できない。

 

「貴様……何者だ……!」

 

 答えはない。

 

 ただ、奪われる。

 

「返せ……!」

 

 手を伸ばす。

 

 届かない。

 

 その存在は、興味を失ったように──

 

 消えた。

 

「……は?」

 

 呆然。

 

「ふざけるな……」

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 叫びが虚空に響く。

 

 ブラッドローグ side out

 

 ティオside

 

 静まり返った城内に、足音だけが響いていた。

 

 いつもなら、この場所には人の気配がある。

 

 従者たちが行き交い、誰かが笑い、誰かが働いている。

 

 だが今は違う。

 

 爆発の余韻が、城の空気そのものに残っている。

 

 壁には微かな焦げ跡。

 

 漂う、薄い煙の匂い。

 

「……」

 

 妾は何も言わず、廊下を歩いていた。

 

 視線は前を向いている。

 

 だが頭の中では、同じ光景が何度も繰り返されていた。

 

 お母様が首を掴まれていた姿。

 

 倒れた従者たち。

 

 そして──

 

 何も出来ずに立っていた、妾。

 

「……妾は……」

 

 足が止まる。

 

 ゆっくりと拳を握る。

 

 だが、うまく力が入らない。

 

「何をしておったのじゃ……」

 

 かすれた声。

 

 自分でも驚くほど、弱い音だった。

 

 分かっている。

 

 答えは最初から出ている。

 

 何もしていない。

 

 ただ、見ていただけ。

 

 守られる存在として、そこに立っていただけ。

 

 それが現実だ。

 

「……っ」

 

 唇を噛む。

 

 その時──

 

 遠くから、地面を揺らすような衝撃が伝わってきた。

 

 ドン……ッ。

 

 遅れて、風が廊下を通り抜ける。

 

「……!」

 

 顔を上げる。

 

 この方向は──

 

 訓練場。

 

 お兄さまが向かった場所。

 

 つまり、今も戦っている。

 

「……」

 

 一歩、踏み出す。

 

 だが、すぐに止まる。

 

「……行って、どうするのじゃ」

 

 自分に問いかける。

 

 答えはすぐに出る。

 

 何も出来ない。

 

 行ったところで、妾は──

 

 守られる側だ。

 

「……」

 

 拳を握る。

 

 今度は、先ほどよりも強く。

 

「……それでも……」

 

 顔を上げる。

 

「このまま……何も知らぬままでいる方が……嫌じゃ……!」

 

 気づけば、走り出していた。

 

 廊下を駆ける。

 

 風が髪を揺らす。

 

 息が上がる。

 

 胸が苦しい。

 

 だが止まらない。

 

 止まる理由がない。

 

 やがて──

 

 訓練場が見える場所へと辿り着く。

 

 遠くに、二つの影。

 

 一つは──黒。

 

 お兄さま。

 

 もう一つは──敵。

 

 その瞬間。

 

 衝撃が走る。

 

 空気が歪む。

 

「……っ!」

 

 目を見開く。

 

 速い。

 

 いや──違う。

 

 “消えた”。

 

「え……?」

 

 一瞬、視界から完全に消失する。

 

 探す。

 

 どこだ。

 

 どこに──

 

 次の瞬間。

 

 上空。

 

 空間が歪む。

 

 そこに、現れる。

 

「……!」

 

 理解が追いつかない。

 

 そして。

 

『Ragnaro Tex Finish!』

 

 声が響く。

 

 次の瞬間。

 

 叩き込まれる一撃。

 

「グウァァァ────────ッッ!」

 

 爆発。

 

 衝撃が空気を震わせる。

 

 その光景を──

 

 妾は、ただ見ていた。

 

「……すごい……」

 

 ぽつりと漏れる。

 

 それしか言葉が出なかった。

 

 強い。

 

 圧倒的に。

 

 比べることすら出来ない。

 

「……遠い……」

 

 自然と、言葉がこぼれる。

 

 あの人は、こんなにも遠い存在だったのか。

 

 助けてくれた時は違った。

 

 優しかった。

 

 近くに感じた。

 

 だが今は違う。

 

 あまりにも遠い。

 

 まるで、別の存在のように。

 

「……私は……」

 

 その瞬間、言葉が変わる。

 

 無意識だった。

 

 だが、それが全てを表していた。

 

 視線を落とす。

 

 自分の手を見る。

 

 小さい。

 

 震えている。

 

「私は……何も出来なかった……」

 

 声が震える。

 

 悔しさが、胸の奥から溢れてくる。

 

「お母様を守れなかった……」

 

「誰一人……助けられなかった……」

 

 拳を強く握る。

 

 爪が食い込む。

 

「怖かったわけじゃない……!」

 

 思わず声が出る。

 

「でも……体が動かなかった……!」

 

 呼吸が乱れる。

 

 視界が滲む。

 

「こんなの……」

 

 歯を食いしばる。

 

「こんなの……姫じゃない……!」

 

 涙が一粒、落ちた。

 

 それを見て、ハッとする。

 

「……」

 

 静かに目を閉じる。

 

 深く息を吸う。

 

 そして──

 

 ゆっくりと、吐く。

 

 震えが、少しずつ収まっていく。

 

 もう一度、目を開ける。

 

 その視線は、先ほどとは違っていた。

 

「……」

 

 もう一度、訓練場を見る。

 

 煙が晴れていく。

 

 戦いは、終わっている。

 

「……私は……」

 

 小さく呟く。

 

 だが、その声はもう震えていない。

 

「このままで……良いのか……?」

 

 問いかける。

 

 答えは──

 

 決まっている。

 

「……良いわけがない」

 

 静かに、言い切る。

 

 拳を握る。

 

 今度は、確かな力がこもる。

 

「私は……弱い」

 

 認める。

 

 逃げない。

 

「未熟で……何も出来ない」

 

 それも事実だ。

 

 だが──

 

「だからこそ」

 

 一歩、前へ。

 

 顔を上げる。

 

「変わらねばならぬ」

 

 その瞬間。

 

 一人称が戻る。

 

「妾は変わる」

 

 はっきりと、言い切る。

 

 それは、姫としての言葉。

 

 逃げではない。

 

 覚悟だ。

 

「もう……あのような無様は晒さぬ」

 

 視線は真っ直ぐ。

 

「守られるだけの存在では終わらぬ」

 

 静かに、だが確実に。

 

「妾は──この国を守る者じゃ」

 

 その言葉と同時に。

 

 ほんの一瞬。

 

 体の奥で、何かが“脈打った”。

 

「……?」

 

 違和感。

 

 だが、それは一瞬で消える。

 

「今のは……」

 

 分からない。

 

 だが確かに、何かがあった。

 

 小さく。

 

 まだ未熟で。

 

 だが確実に存在する力。

 

「……」

 

 少しだけ、口元が緩む。

 

「面白い」

 

 小さく呟く。

 

「ならば……尚更じゃな」

 

 くるりと踵を返す。

 

 来た道を戻る。

 

 その足取りに、迷いはない。

 

 もう立ち止まらない。

 

 もう、目を逸らさない。

 

 次に同じ状況になった時──

 

 必ず、立つ。

 

 守る側として。

 

 そのために。

 

「……強くなる」

 

 静かに、誓った。

 

 ティオ side out

 

 ヒサメside

 

 廊下を走る足音が、やけに大きく響いていた。

 

 さっきまでの空気とは違う。

 

 静かで、でも張り詰めている。

 

 何かが起きた後の空気。

 

「こっちです!」

 

 前を走る従者さんの声に、私たちは頷きながらついていく。

 

 隣にはカンナちゃんとフィーア。

 

 そして、その後ろに──

 

 ティオ。

 

「……」

 

 さっきからずっと、無言だ。

 

 さっきまでの、あの元気な感じはない。

 

 その顔は、どこか沈んでいる。

 

 多分──

 

 あの時のことだ。

 

 皇女様が襲われた時。

 

 何も出来なかったこと。

 

(……私もだけど)

 

 少しだけ、胸がチクリとする。

 

 私だって、同じだ。

 

 あの場にいたのに。

 

 何も出来なかった。

 

 でも──

 

 それ以上に。

 

 今、頭にあるのは別のこと。

 

「……お父さん」

 

 小さく呟く。

 

 あの人は今、戦っている。

 

 一人で。

 

 あの、ヤバそうな相手と。

 

(大丈夫……だよね)

 

 分かってる。

 

 強い。

 

 誰よりも。

 

 それでも──

 

 心配は消えない。

 

 その時。

 

『ドゴォォォォンッ!!』

 

 遠くから、爆発音。

 

 空気が震える。

 

「……!」

 

 思わず足が止まりそうになる。

 

 でも止まれない。

 

 止まったら、もっと不安になるから。

 

「急ぎましょう!」

 

 私はそう言って、少し速度を上げた。

 

 しばらくして──

 

 魔法陣が現れる。

 

 そこから現れたのは、ボティスさん。

 

「彼奴が戻って来た、戦いは終わりじゃ」

 

 その一言。

 

「……!」

 

 一気に力が抜ける。

 

「よかった……」

 

 思わず、その場で小さく息を吐く。

 

 隣のカンナちゃんも

 

「よかったぁ〜……」

 

 って、安心した顔してる。

 

 でも。

 

 安心と同時に──

 

 少しだけ、モヤっとしたものが残る。

 

(また……だ)

 

 結局。

 

 今回も。

 

 お父さんが全部やった。

 

 私たちは──

 

 何も出来なかった。

 

「……」

 

 視線を落とす。

 

 その時。

 

 前にいるティオの背中が目に入る。

 

 小さくて。

 

 でも、どこか力が入っている。

 

(あの子……)

 

 さっきまでと違う。

 

 何か、決めた顔。

 

 その時、少しだけ思う。

 

(……負けたくないな)

 

 理由は分からない。

 

 でも、そう思った。

 

 お父さんに近いのは、私たちのはずだ。

 

 ずっと一緒にいたのは、私たちだ。

 

 それなのに。

 

 あの子は、あんな顔をしてる。

 

 追いつこうとしてる顔。

 

「……」

 

 胸の奥が、少しだけ熱くなる。

 

(私だって)

 

 負けてられない。

 

 その後、私たちはカゲたちと合流して──

 

 そして。

 

 お父さんが戻ってきた。

 

「おーい、戻ったぞ」

 

 その声。

 

「……!」

 

 一気に顔を上げる。

 

 そこにいたのは、いつも通りのお父さん。

 

 無事。

 

 怪我もなさそう。

 

「お疲れ、お父さん」

 

 自然と声が出る。

 

「おう、ティオを守ってくれてありがとな」

 

「……」

 

 一瞬、思考が止まる。

 

「……ティオ?」

 

 その言葉。

 

 隣のみんなも同じ反応。

 

「「「「ティオ?」」」」

 

 空気が止まる。

 

 お父さんが、明らかに焦る。

 

「あっ! いや、これはその〜」

 

 その様子を見て。

 

 なんとなく、分かる。

 

 誤解だってことは。

 

 でも。

 

 それでも。

 

 なんか──

 

 モヤっとする。

 

「ねぇ」

 

 少しだけ、声が低くなる。

 

「言い訳しないで答えてよ」

 

 お父さんが慌てる。

 

「違うぞ! これは姫様に呼んで欲しいって言われて──」

 

 視線を、ティオに向ける。

 

「それ、本当ですか?」

 

 ティオは少し慌てながら

 

「え、えぇ、その通りです」

 

 って答える。

 

「……」

 

 少しだけ間を置いて。

 

「……そっか」

 

 納得はする。

 

 するけど。

 

(なんか……悔しい)

 

 理由は分からない。

 

 でも。

 

 ちょっとだけ。

 

 嫌だった。

 

 その後。

 

 何事もなかったみたいに時間は流れて──

 

 次の日。

 

 帰る時間。

 

「ウエェェェ────ーンッ!」

 

 ティオが泣きながら、お父さんに抱きつく。

 

「帰っちゃ嫌なのじゃぁぁ──ーっ!」

 

「……」

 

 その光景を見て。

 

 心の中で、何かが引っかかる。

 

「離れてください」

 

 自然と口が動く。

 

「お父さんは私達のです!」

 

 言ってから、ちょっと驚く。

 

(……私、今なんて)

 

 でも止まらない。

 

「そうですよ! なんでお兄様って呼んでるんですか!」

 

 カンナちゃんも続く。

 

 空気が少しピリつく。

 

 その時。

 

 ティオが、ふっと顔を上げて──

 

「ならば、お母様と結婚すれば良いのじゃ!」

 

「……は?」

 

 一瞬、理解が追いつかない。

 

「そうすればお兄様は家族じゃ!」

 

「……」

 

 次の瞬間。

 

「「「「はぁ──────────っ!?」」」」

 

 全員でツッコむ。

 

 頭が追いつかない。

 

 でも。

 

 その中で、ふと思う。

 

(……家族)

 

 その言葉。

 

 なんだか、少しだけ──

 

 引っかかった。

 

「……」

 

 お父さんを見る。

 

 この人は、強い。

 

 遠い。

 

 でも──

 

 ちゃんと、近くにもいる。

 

 だから。

 

「……私も」

 

 小さく呟く。

 

 誰にも聞こえない声で。

 

「もっと……強くならなきゃ」

 

 守られるだけじゃなくて。

 

 一緒に立てるように。

 

 そのために。

 

 私は──

 

 変わる。

 

 ヒサメ side out

 

 カゲチヨside

 

 爆発音が鳴った瞬間、頭より先に体が動いていた。

 

「ヤバイッ! 皇女様達がいる所で爆発が起きた!」

 

 声を張る。

 

 ヒサたちの顔が一斉に強張る。

 

「行くぞ!」

 

 全員が頷く。

 

 そのまま走り出す。

 

 廊下を駆ける。

 

 さっきまでの穏やかな空気はどこにもない。

 

 張り詰めた空気。

 

 焦げた匂い。

 

(クソッ……何が起きてる……!)

 

 嫌な予感しかしない。

 

 あの“トッププレデター”の話。

 

 まさか、もう動いてるのか。

 

 角を曲がろうとしたその時──

 

 前から人影。

 

 従者と──もう一人。

 

「カゲチヨ様がた、ご無事ですか?」

 

「あぁ、俺たちは大丈夫だ。それより──」

 

 視線を向ける。

 

 その少女。

 

 どこか、皇女様に似ている。

 

「この人は?」

 

「この方は、この国の姫様です」

 

「「「「「エエェェ──────ーッ!」」」」」

 

 思わず声が揃う。

 

 だが、今はそれどころじゃない。

 

 状況が悪い。

 

 守る対象が増えた。

 

 頭の中で、瞬時に整理する。

 

(敵の目的は皇女様……だとしたら)

 

 姫様も危険だ。

 

 考えた瞬間、決断する。

 

「分かりました。その依頼、カレコレ屋が引き受けます」

 

 言葉に出す。

 

 迷いはない。

 

 リーダーとして。

 

「ヒサ、カンナ、フィーア」

 

 三人を見る。

 

「姫様の護衛を頼む」

 

「うん!」

 

「任せて!」

 

「了解です」

 

 即答。

 

 頼もしい。

 

 そして。

 

「シディ、ボティス」

 

「おう」

 

「うむ」

 

「俺と一緒に皇女様のところに行くぞ」

 

 全員が動く。

 

 迷いなく。

 

 それが、今の俺たちだ。

 

 ──だが。

 

(……本当に、これでいいのか?)

 

 心の奥で、小さな声がする。

 

 無視する。

 

 今は考えるな。

 

 走る。

 

 辿り着いた先。

 

 そこにあったのは──

 

 崩れた天井。

 

 倒れた従者たち。

 

 そして。

 

 咳き込む皇女様。

 

「皇女様!」

 

 駆け寄る。

 

「ご無事ですか!?」

 

「う、うむ……何とかの……」

 

 状況を聞く。

 

 敵が来たこと。

 

 従者がやられたこと。

 

 そして──

 

 おやっさんが来て、敵を連れていったこと。

 

「……そうか」

 

 歯を食いしばる。

 

(また……おやっさんに助けられた)

 

 間に合わなかった。

 

 守れなかった。

 

 あの人がいなかったら──

 

 考えたくもない。

 

「シディ」

 

「なんだ」

 

「皇女様と従者の保護を頼む」

 

「任せろ」

 

「ボティスは──」

 

 言いかけた時。

 

「もう良いじゃろう」

 

「……?」

 

 ボティスが空を見上げる。

 

「彼奴の気配が消えたのでな」

 

「……は?」

 

 一瞬、理解が追いつかない。

 

「それって……」

 

「終わった、ということじゃ」

 

「……」

 

 力が抜ける。

 

 同時に──

 

 胸の奥に、重たいものが残る。

 

「……そうか」

 

 小さく呟く。

 

 助かった。

 

 それは間違いない。

 

 でも──

 

(また、俺たちは何も出来なかった)

 

 その事実は、変わらない。

 

「……クソ」

 

 小さく吐き捨てる。

 

 その時。

 

「おーい、戻ったぞ」

 

 声。

 

 振り向く。

 

 そこにいるのは──

 

 おやっさん。

 

 無事な姿。

 

「おやっさん……!」

 

 思わず、少しだけ安堵する。

 

「大丈夫でしたか?」

 

「おう! 逃がしたがな」

 

 軽く言う。

 

 その余裕。

 

 それだけで分かる。

 

(やっぱり、この人はすげぇ)

 

 強さも。

 

 判断も。

 

 全部。

 

 俺とは、まだ違う。

 

「……」

 

 視線を落とす。

 

 拳を握る。

 

 悔しい。

 

 でも、それ以上に──

 

 情けない。

 

(リーダーなのに……)

 

 守るって言ったのに。

 

 結局、守られてるのは俺たちだ。

 

「……」

 

 ゆっくり息を吐く。

 

 顔を上げる。

 

 おやっさんを見る。

 

 あの背中。

 

 頼もしい。

 

 でも──

 

 ずっと追いかけるだけじゃダメだ。

 

「……頼りっぱなしは、ダメだよな」

 

 小さく呟く。

 

 誰にも聞こえないくらいの声で。

 

 でも、自分にはちゃんと届く。

 

「俺たちは……俺たちでやれることをやる」

 

 小さく頷く。

 

 決めた。

 

 今はまだ届かない。

 

 でも。

 

 だからこそ──

 

「追いつくだけじゃ足りねぇ」

 

 静かに言う。

 

「並ぶ」

 

 それが目標だ。

 

 おやっさんの隣に立つ。

 

 そのために。

 

 もっと強くなる。

 

 判断も。

 

 力も。

 

 全部。

 

「……やるしかねぇな」

 

 小さく笑う。

 

 少しだけ、前が見えた気がした。

 

 カゲチヨ side out




 最後の方は雑になってしまいましたが、話を書くと余計に長くなると知り無理矢理に終わらせました。不満があっても知らないので次回作を楽しみにしていて下さい。
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