混血のカレコレとLost evolution 作:Ks5118
キリト side
訓練場に吹き抜ける風が、土煙をゆっくりと流していく。
その中心で、俺は静かに構えていた。
対するブラッドローグは、片腕を軽く振りながら笑う。
「ガァーハッハッハッハッハッハァ!」
不気味な笑いが響く。
「いいなァ……その力……実にいい……!」
「無駄話は終わりだ」
短く言い捨てる。
「ここならある程度、暴れられんだろう。さぁ、始めようか」
「ふん……余裕だなァ」
次の瞬間。
ブラッドローグの姿が揺らぐ。
──消えた。
横から衝撃。
「ぐっ!」
吹き飛ばされる。
だが空中で体勢を立て直し、着地する。
「どうしたァ!」
追撃。
だが──
「軽いな」
呟く。
「……様子見か」
踏み込む。
速度が一段階上がる。
「ッ!?」
拳が直撃。
ブラッドローグが弾き飛ばされる。
「バカな……!」
「差があるって言ってんだよ」
低く言い放つ。
「ハザードレベル9.8……それがどういう意味か、体で理解しろ」
レバーを回す。
黒いエネルギーが噴き出す。
『Ready Go!』
「終わりだ」
消える。
「なっ──!?」
真上に出現。
『Ragnaro Tex Finish!』
「グウァァァ────────ッッ!」
『Ciao!』
爆発。
煙が晴れる。
そこには井坂の姿。
「これに懲りたら、この星から出て行け」
「甘いな……」
煙と共に消える。
「……逃げたか」
踵を返す。
だが、足を止める。
「……?」
妙な違和感。
「……終わってねぇな」
静かに呟き、城へ戻った。
キリト side out
ブラッドローグ(井坂) side
暗い空間。
どこかも分からない場所。
「はぁ……はぁ……」
膝をつく。
「クソが……!」
拳を叩きつける。
「9.8……!」
歯を食いしばる。
「だが……まだ終わってねぇ……!」
ドライバーに手をかける。
その瞬間──
気配。
圧倒的な“何か”。
「……誰だ……!」
振り向く。
いない。
だが──
いる。
次の瞬間。
目の前に“現れる”。
「なっ……!?」
動けない。
ドライバーを掴まれる。
「やめろッ!!」
抵抗できない。
「貴様……何者だ……!」
答えはない。
ただ、奪われる。
「返せ……!」
手を伸ばす。
届かない。
その存在は、興味を失ったように──
消えた。
「……は?」
呆然。
「ふざけるな……」
「ふざけるなぁぁぁぁぁッッ!!」
叫びが虚空に響く。
ブラッドローグ side out
ティオside
静まり返った城内に、足音だけが響いていた。
いつもなら、この場所には人の気配がある。
従者たちが行き交い、誰かが笑い、誰かが働いている。
だが今は違う。
爆発の余韻が、城の空気そのものに残っている。
壁には微かな焦げ跡。
漂う、薄い煙の匂い。
「……」
妾は何も言わず、廊下を歩いていた。
視線は前を向いている。
だが頭の中では、同じ光景が何度も繰り返されていた。
お母様が首を掴まれていた姿。
倒れた従者たち。
そして──
何も出来ずに立っていた、妾。
「……妾は……」
足が止まる。
ゆっくりと拳を握る。
だが、うまく力が入らない。
「何をしておったのじゃ……」
かすれた声。
自分でも驚くほど、弱い音だった。
分かっている。
答えは最初から出ている。
何もしていない。
ただ、見ていただけ。
守られる存在として、そこに立っていただけ。
それが現実だ。
「……っ」
唇を噛む。
その時──
遠くから、地面を揺らすような衝撃が伝わってきた。
ドン……ッ。
遅れて、風が廊下を通り抜ける。
「……!」
顔を上げる。
この方向は──
訓練場。
お兄さまが向かった場所。
つまり、今も戦っている。
「……」
一歩、踏み出す。
だが、すぐに止まる。
「……行って、どうするのじゃ」
自分に問いかける。
答えはすぐに出る。
何も出来ない。
行ったところで、妾は──
守られる側だ。
「……」
拳を握る。
今度は、先ほどよりも強く。
「……それでも……」
顔を上げる。
「このまま……何も知らぬままでいる方が……嫌じゃ……!」
気づけば、走り出していた。
廊下を駆ける。
風が髪を揺らす。
息が上がる。
胸が苦しい。
だが止まらない。
止まる理由がない。
やがて──
訓練場が見える場所へと辿り着く。
遠くに、二つの影。
一つは──黒。
お兄さま。
もう一つは──敵。
その瞬間。
衝撃が走る。
空気が歪む。
「……っ!」
目を見開く。
速い。
いや──違う。
“消えた”。
「え……?」
一瞬、視界から完全に消失する。
探す。
どこだ。
どこに──
次の瞬間。
上空。
空間が歪む。
そこに、現れる。
「……!」
理解が追いつかない。
そして。
『Ragnaro Tex Finish!』
声が響く。
次の瞬間。
叩き込まれる一撃。
「グウァァァ────────ッッ!」
爆発。
衝撃が空気を震わせる。
その光景を──
妾は、ただ見ていた。
「……すごい……」
ぽつりと漏れる。
それしか言葉が出なかった。
強い。
圧倒的に。
比べることすら出来ない。
「……遠い……」
自然と、言葉がこぼれる。
あの人は、こんなにも遠い存在だったのか。
助けてくれた時は違った。
優しかった。
近くに感じた。
だが今は違う。
あまりにも遠い。
まるで、別の存在のように。
「……私は……」
その瞬間、言葉が変わる。
無意識だった。
だが、それが全てを表していた。
視線を落とす。
自分の手を見る。
小さい。
震えている。
「私は……何も出来なかった……」
声が震える。
悔しさが、胸の奥から溢れてくる。
「お母様を守れなかった……」
「誰一人……助けられなかった……」
拳を強く握る。
爪が食い込む。
「怖かったわけじゃない……!」
思わず声が出る。
「でも……体が動かなかった……!」
呼吸が乱れる。
視界が滲む。
「こんなの……」
歯を食いしばる。
「こんなの……姫じゃない……!」
涙が一粒、落ちた。
それを見て、ハッとする。
「……」
静かに目を閉じる。
深く息を吸う。
そして──
ゆっくりと、吐く。
震えが、少しずつ収まっていく。
もう一度、目を開ける。
その視線は、先ほどとは違っていた。
「……」
もう一度、訓練場を見る。
煙が晴れていく。
戦いは、終わっている。
「……私は……」
小さく呟く。
だが、その声はもう震えていない。
「このままで……良いのか……?」
問いかける。
答えは──
決まっている。
「……良いわけがない」
静かに、言い切る。
拳を握る。
今度は、確かな力がこもる。
「私は……弱い」
認める。
逃げない。
「未熟で……何も出来ない」
それも事実だ。
だが──
「だからこそ」
一歩、前へ。
顔を上げる。
「変わらねばならぬ」
その瞬間。
一人称が戻る。
「妾は変わる」
はっきりと、言い切る。
それは、姫としての言葉。
逃げではない。
覚悟だ。
「もう……あのような無様は晒さぬ」
視線は真っ直ぐ。
「守られるだけの存在では終わらぬ」
静かに、だが確実に。
「妾は──この国を守る者じゃ」
その言葉と同時に。
ほんの一瞬。
体の奥で、何かが“脈打った”。
「……?」
違和感。
だが、それは一瞬で消える。
「今のは……」
分からない。
だが確かに、何かがあった。
小さく。
まだ未熟で。
だが確実に存在する力。
「……」
少しだけ、口元が緩む。
「面白い」
小さく呟く。
「ならば……尚更じゃな」
くるりと踵を返す。
来た道を戻る。
その足取りに、迷いはない。
もう立ち止まらない。
もう、目を逸らさない。
次に同じ状況になった時──
必ず、立つ。
守る側として。
そのために。
「……強くなる」
静かに、誓った。
ティオ side out
ヒサメside
廊下を走る足音が、やけに大きく響いていた。
さっきまでの空気とは違う。
静かで、でも張り詰めている。
何かが起きた後の空気。
「こっちです!」
前を走る従者さんの声に、私たちは頷きながらついていく。
隣にはカンナちゃんとフィーア。
そして、その後ろに──
ティオ。
「……」
さっきからずっと、無言だ。
さっきまでの、あの元気な感じはない。
その顔は、どこか沈んでいる。
多分──
あの時のことだ。
皇女様が襲われた時。
何も出来なかったこと。
(……私もだけど)
少しだけ、胸がチクリとする。
私だって、同じだ。
あの場にいたのに。
何も出来なかった。
でも──
それ以上に。
今、頭にあるのは別のこと。
「……お父さん」
小さく呟く。
あの人は今、戦っている。
一人で。
あの、ヤバそうな相手と。
(大丈夫……だよね)
分かってる。
強い。
誰よりも。
それでも──
心配は消えない。
その時。
『ドゴォォォォンッ!!』
遠くから、爆発音。
空気が震える。
「……!」
思わず足が止まりそうになる。
でも止まれない。
止まったら、もっと不安になるから。
「急ぎましょう!」
私はそう言って、少し速度を上げた。
しばらくして──
魔法陣が現れる。
そこから現れたのは、ボティスさん。
「彼奴が戻って来た、戦いは終わりじゃ」
その一言。
「……!」
一気に力が抜ける。
「よかった……」
思わず、その場で小さく息を吐く。
隣のカンナちゃんも
「よかったぁ〜……」
って、安心した顔してる。
でも。
安心と同時に──
少しだけ、モヤっとしたものが残る。
(また……だ)
結局。
今回も。
お父さんが全部やった。
私たちは──
何も出来なかった。
「……」
視線を落とす。
その時。
前にいるティオの背中が目に入る。
小さくて。
でも、どこか力が入っている。
(あの子……)
さっきまでと違う。
何か、決めた顔。
その時、少しだけ思う。
(……負けたくないな)
理由は分からない。
でも、そう思った。
お父さんに近いのは、私たちのはずだ。
ずっと一緒にいたのは、私たちだ。
それなのに。
あの子は、あんな顔をしてる。
追いつこうとしてる顔。
「……」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
(私だって)
負けてられない。
その後、私たちはカゲたちと合流して──
そして。
お父さんが戻ってきた。
「おーい、戻ったぞ」
その声。
「……!」
一気に顔を上げる。
そこにいたのは、いつも通りのお父さん。
無事。
怪我もなさそう。
「お疲れ、お父さん」
自然と声が出る。
「おう、ティオを守ってくれてありがとな」
「……」
一瞬、思考が止まる。
「……ティオ?」
その言葉。
隣のみんなも同じ反応。
「「「「ティオ?」」」」
空気が止まる。
お父さんが、明らかに焦る。
「あっ! いや、これはその〜」
その様子を見て。
なんとなく、分かる。
誤解だってことは。
でも。
それでも。
なんか──
モヤっとする。
「ねぇ」
少しだけ、声が低くなる。
「言い訳しないで答えてよ」
お父さんが慌てる。
「違うぞ! これは姫様に呼んで欲しいって言われて──」
視線を、ティオに向ける。
「それ、本当ですか?」
ティオは少し慌てながら
「え、えぇ、その通りです」
って答える。
「……」
少しだけ間を置いて。
「……そっか」
納得はする。
するけど。
(なんか……悔しい)
理由は分からない。
でも。
ちょっとだけ。
嫌だった。
その後。
何事もなかったみたいに時間は流れて──
次の日。
帰る時間。
「ウエェェェ────ーンッ!」
ティオが泣きながら、お父さんに抱きつく。
「帰っちゃ嫌なのじゃぁぁ──ーっ!」
「……」
その光景を見て。
心の中で、何かが引っかかる。
「離れてください」
自然と口が動く。
「お父さんは私達のです!」
言ってから、ちょっと驚く。
(……私、今なんて)
でも止まらない。
「そうですよ! なんでお兄様って呼んでるんですか!」
カンナちゃんも続く。
空気が少しピリつく。
その時。
ティオが、ふっと顔を上げて──
「ならば、お母様と結婚すれば良いのじゃ!」
「……は?」
一瞬、理解が追いつかない。
「そうすればお兄様は家族じゃ!」
「……」
次の瞬間。
「「「「はぁ──────────っ!?」」」」
全員でツッコむ。
頭が追いつかない。
でも。
その中で、ふと思う。
(……家族)
その言葉。
なんだか、少しだけ──
引っかかった。
「……」
お父さんを見る。
この人は、強い。
遠い。
でも──
ちゃんと、近くにもいる。
だから。
「……私も」
小さく呟く。
誰にも聞こえない声で。
「もっと……強くならなきゃ」
守られるだけじゃなくて。
一緒に立てるように。
そのために。
私は──
変わる。
ヒサメ side out
カゲチヨside
爆発音が鳴った瞬間、頭より先に体が動いていた。
「ヤバイッ! 皇女様達がいる所で爆発が起きた!」
声を張る。
ヒサたちの顔が一斉に強張る。
「行くぞ!」
全員が頷く。
そのまま走り出す。
廊下を駆ける。
さっきまでの穏やかな空気はどこにもない。
張り詰めた空気。
焦げた匂い。
(クソッ……何が起きてる……!)
嫌な予感しかしない。
あの“トッププレデター”の話。
まさか、もう動いてるのか。
角を曲がろうとしたその時──
前から人影。
従者と──もう一人。
「カゲチヨ様がた、ご無事ですか?」
「あぁ、俺たちは大丈夫だ。それより──」
視線を向ける。
その少女。
どこか、皇女様に似ている。
「この人は?」
「この方は、この国の姫様です」
「「「「「エエェェ──────ーッ!」」」」」
思わず声が揃う。
だが、今はそれどころじゃない。
状況が悪い。
守る対象が増えた。
頭の中で、瞬時に整理する。
(敵の目的は皇女様……だとしたら)
姫様も危険だ。
考えた瞬間、決断する。
「分かりました。その依頼、カレコレ屋が引き受けます」
言葉に出す。
迷いはない。
リーダーとして。
「ヒサ、カンナ、フィーア」
三人を見る。
「姫様の護衛を頼む」
「うん!」
「任せて!」
「了解です」
即答。
頼もしい。
そして。
「シディ、ボティス」
「おう」
「うむ」
「俺と一緒に皇女様のところに行くぞ」
全員が動く。
迷いなく。
それが、今の俺たちだ。
──だが。
(……本当に、これでいいのか?)
心の奥で、小さな声がする。
無視する。
今は考えるな。
走る。
辿り着いた先。
そこにあったのは──
崩れた天井。
倒れた従者たち。
そして。
咳き込む皇女様。
「皇女様!」
駆け寄る。
「ご無事ですか!?」
「う、うむ……何とかの……」
状況を聞く。
敵が来たこと。
従者がやられたこと。
そして──
おやっさんが来て、敵を連れていったこと。
「……そうか」
歯を食いしばる。
(また……おやっさんに助けられた)
間に合わなかった。
守れなかった。
あの人がいなかったら──
考えたくもない。
「シディ」
「なんだ」
「皇女様と従者の保護を頼む」
「任せろ」
「ボティスは──」
言いかけた時。
「もう良いじゃろう」
「……?」
ボティスが空を見上げる。
「彼奴の気配が消えたのでな」
「……は?」
一瞬、理解が追いつかない。
「それって……」
「終わった、ということじゃ」
「……」
力が抜ける。
同時に──
胸の奥に、重たいものが残る。
「……そうか」
小さく呟く。
助かった。
それは間違いない。
でも──
(また、俺たちは何も出来なかった)
その事実は、変わらない。
「……クソ」
小さく吐き捨てる。
その時。
「おーい、戻ったぞ」
声。
振り向く。
そこにいるのは──
おやっさん。
無事な姿。
「おやっさん……!」
思わず、少しだけ安堵する。
「大丈夫でしたか?」
「おう! 逃がしたがな」
軽く言う。
その余裕。
それだけで分かる。
(やっぱり、この人はすげぇ)
強さも。
判断も。
全部。
俺とは、まだ違う。
「……」
視線を落とす。
拳を握る。
悔しい。
でも、それ以上に──
情けない。
(リーダーなのに……)
守るって言ったのに。
結局、守られてるのは俺たちだ。
「……」
ゆっくり息を吐く。
顔を上げる。
おやっさんを見る。
あの背中。
頼もしい。
でも──
ずっと追いかけるだけじゃダメだ。
「……頼りっぱなしは、ダメだよな」
小さく呟く。
誰にも聞こえないくらいの声で。
でも、自分にはちゃんと届く。
「俺たちは……俺たちでやれることをやる」
小さく頷く。
決めた。
今はまだ届かない。
でも。
だからこそ──
「追いつくだけじゃ足りねぇ」
静かに言う。
「並ぶ」
それが目標だ。
おやっさんの隣に立つ。
そのために。
もっと強くなる。
判断も。
力も。
全部。
「……やるしかねぇな」
小さく笑う。
少しだけ、前が見えた気がした。
カゲチヨ side out
最後の方は雑になってしまいましたが、話を書くと余計に長くなると知り無理矢理に終わらせました。不満があっても知らないので次回作を楽しみにしていて下さい。