混血のカレコレとLost evolution   作:Ks5118

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混血のカレコレ 最終章
No.X4 年越しと意外なお年玉〈修正版〉


 クリスマスイベントが終わってから、数日が経った。

 

 あの最後のサプライズに全員で驚き、騒ぎ、笑い合った時間も、今となっては少しだけ遠く感じる。

 

 気がつけば、街はすっかり年末の空気に包まれていた。

 

 冷たい風。白い息。どこか忙しなく、それでいてどこか温かいこの時期特有の空気。

 

 そして——

 

「はいっ!」

 

「ほっ!」

 

「はいっ!」

 

「ほっ!」

 

 乾いた音が、裏庭に響く。

 

 俺とカゲチヨは、臼と杵を使って餅をついていた。

 

 蒸し上がったもち米の甘い匂いが、湯気と一緒にふわりと広がる。

 

「いや、何でですか!」

 

 カゲチヨが、杵を持ったまま叫ぶ。

 

「何がだよ」

 

「何が、じゃないですよ! 今どき餅なんてスーパーで買えるじゃないですか!」

 

「買えるな」

 

「じゃあ何でついてるんですか!」

 

「手打ちの方が美味いからだ」

 

 即答だった。

 

「いや、理由がシンプルすぎません!?」

 

「あと、作ったって気分になる」

 

「それは……まぁ、分かりますけど」

 

 カゲチヨは少しだけ照れたように視線を逸らす。

 

「でも、おやっさん毎日働いてるんですし、今日くらいは休んでもいいんじゃないですか?」

 

「美味いもん食わせたいだけだ」

 

「……」

 

 一瞬、言葉が詰まる。

 

 それ以上の理由は、必要なかった。

 

「……だからって無理しないでくださいよ」

 

「分かってるって」

 

 軽く笑いながら、杵を振り下ろす。

 

 ぺったん、という心地いい音が響く。

 

「それより」

 

「はい?」

 

「お年玉、いくら欲しい?」

 

「今聞きます!?」

 

「いいから言え」

 

「えぇ……じゃあ……いつも一万くらいなんで……その、10万で」

 

「了解、15万な」

 

「増えてる!?」

 

「気にすんな」

 

「気にしますよ!」

 

「まぁ、まだ金はあるしな」

 

「いや、そういう問題じゃ——」

 

 そこでカゲチヨの動きが止まる。

 

「……そういえば、おやっさんってどれくらい持ってるんですか?」

 

「今は、九千九百九十九兆九千九百九十一億二千四百八十五万円だな」

 

「……え?」

 

「だから——」

 

「ちょっと待ってくださいちょっと待ってください!! 桁がバグってる!!」

 

「まぁ落ち着け」

 

「落ち着けるわけないでしょ!!」

 

「ほら深呼吸しろ、あと今のは忘れろ。お前が聞いたのは八千六百九十四万円だ」

 

「それでも多いわ!!」

 

「大丈夫だって」

 

「何がですか!?」

 

「盗まれても痛くも痒くもない」

 

「規格外すぎる……」

 

 カゲチヨは本気で頭を抱えた。

 

 だが——

 

「まぁ、それもいつまでか分からんけどな」

 

「……え?」

 

 ふと、俺がそんなことを呟く。

 

「どういう意味ですか?」

 

「ヒサメ達には内緒だぞ」

 

 少しだけ声を落とす。

 

「俺は、この世界の人間じゃない」

 

「……は?」

 

「この宇宙ですらない」

 

 カゲチヨの思考が、完全に停止する。

 

「異世界召喚された側だ」

 

「……」

 

「だからあいつらのシステムも分かった。あれは俺の世界の技術を、別の形で再現したものだ」

 

「……じゃあ」

 

「いずれ、帰る」

 

 あまりにもあっさりとした言葉。

 

「この世界にあるライダーシステムを全部壊してな」

 

「……」

 

「それが終わったら、俺は消える」

 

 静かだった。

 

 餅をつく音だけが、やけに響く。

 

「……それ、みんなは」

 

「知らない」

 

「……」

 

「知ったら、ついてくるって言うだろうからな」

 

 軽く笑う。

 

 でもその目は、どこか遠くを見ていた。

 

「だからお前らに頼む。俺がいなくなった後、もし残ってたら壊してくれ」

 

「……」

 

「信用してるから言ってる」

 

 カゲチヨは、しばらく黙ったまま——

 

「……はい」

 

 それだけを答えた。

 

『ただいまぁー!』

 

 その空気をぶち壊すように、扉の向こうから声が響く。

 

『開けてくださーい! 重いですぅ!』

 

「お、帰ってきたな」

 

 カゲチヨが慌てて立ち上がる。

 

 扉を開けると、全員が荷物を抱えてなだれ込んできた。

 

「寒かったぁ〜!」

 

「飲み物買ってきたよ!」

 

「材料も揃ったぞ」

 

 一気に騒がしくなる空間。

 

 さっきまでの静けさが嘘みたいだった。

 

「お、餅できてる!」

 

「いいタイミングだな」

 

「焼くか」

 

 その時。

 

 ヒサメが、ぱっと立ち上がる。

 

「じゃあ私、お雑煮作るね!」

 

 ——時間が止まった。

 

「「「「待てぇぇぇぇぇ!!!」」」」

 

「えっ!?」

 

「ヒサメ、それだけはダメだ!」

 

「死にたくないですぅ!!」

 

「年越し前に人生終わるぞ!」

 

「ひどくない!?」

 

「事実だ!」

 

 カゲチヨが真顔で言い切る。

 

「前に作ったスープ、鍋が歪んだんだぞ!?」

 

「ちょっとしたミスでしょ!」

 

「ミスで鍋は歪まねぇ!!」

 

 ボティスが震える。

 

「……紫色の湯気……忘れられん……」

 

「言わないでぇ!!」

 

 ヨーメイが耳を塞ぐ。

 

 シディも頷く。

 

「……あれは料理ではない」

 

「兵器だ」

 

「そこまで!?」

 

 ヒサメが涙目になる。

 

「じゃあ誰が作るのよぉ……」

 

「俺が作る」

 

 俺はそう言って台所へ向かった。

 

 しばらくして、香ばしい匂いが広がる。

 

「……いい匂い」

 

「安心するぅ……」

 

「生き延びたのぉ……」

 

「大げさだなお前ら」

 

 出来上がった雑煮を配る。

 

 一口。

 

「……うまっ」

 

「これですよぉ……」

 

「やはり料理とはこういうものじゃ……」

 

 ヒサメは頬を膨らませる。

 

「……絶対リベンジする」

 

「まずは安全からだ」

 

「うぅ……」

 

 そのまま時間は流れ——

 

 テレビの中でカウントダウンが始まる。

 

 全員で声を揃える。

 

『3! 2! 1!』

 

『0!! 明けましておめでとう!!』

 

 歓声が上がる。

 

「ほら、お年玉」

 

 それぞれに配られていく。

 

「何で私だけ少ないんですかぁ!」

 

「成人だからだ」

 

「納得いかないですぅ!」

 

 笑いが絶えない。

 

「よし」

 

「どこ行くんですか?」

 

「初日の出だ」

 

「今から!?」

 

「当たり前だろ」

 

 ワープした先は、富士山の高台。

 

「寒っ!!」

 

「無理ですぅ!!」

 

「ここは俺の別荘だ」

 

「別荘!?」

 

 文句を言いながらも、全員で空を見る。

 

 やがて——

 

 空が、ゆっくりと明るくなる。

 

「……来るぞ」

 

 誰も喋らない。

 

 太陽が、顔を出す。

 

「……綺麗」

 

「すごい……」

 

 その光の中で——

 

 カゲチヨは、思う。

 

(……この時間が、ずっと続けばいい)

 

 でも。

 

(……終わるんだよな)

 

 隣にいる男を、ちらりと見る。

 

 何も言わず、ただ笑っているその横顔が——

 

 やけに遠く感じた。

 

(今年も、皆が元気でいられますように)

 

 俺は、静かに願った。

 

 ——新しい一年が、始まった。

 

 そしてそれは同時に、

 

 “終わりへ向かう時間”の始まりでもあった。

 

 新年を迎えてから、数日。

 

 店はいつも通り営業していた。

 

 ——いつも通りのはずなのに。

 

「……」

 

 ヒサメは、台所の前で腕を組んでいた。

 

「……よし」

 

 小さく呟く。

 

「今日は……ちゃんと作る」

 

 視線の先には鍋と材料。

 

 そして紙に書かれたレシピ。

 

「もう“兵器”なんて言わせないんだから……」

 

 少しむっとした顔で、調理を始める。

 

「……あれ?」

 

 数分後。

 

「なんでこの色になるの……?」

 

 鍋の中では、すでに不穏な色が広がっていた。

 

「いや、でもまだ途中だし……たぶん大丈夫……」

 

 完全にダメな流れである。

 

 その時。

 

「ヒサ?」

 

「ひゃあっ!?」

 

 背後から声がして、ヒサメは飛び上がる。

 

 振り返ると、そこにはカゲ——カゲチヨが立っていた。

 

「……何してんの」

 

「な、何でもないよ!?」

 

「その鍋見せろ」

 

「ダメ!!」

 

「その時点でアウトなんだよ」

 

 カゲはため息をつきながら、無理やり鍋の中を覗き込む。

 

「……うわ」

 

「何その“うわ”って!」

 

「ヒサ」

 

「なに……」

 

「これ食いもんじゃねぇ」

 

「ちゃんとお雑煮だもん!!」

 

「嘘つけ」

 

 即答だった。

 

「色がおかしい、匂いもおかしい、何より見た目が危険」

 

「ひどい!!」

 

「事実だ」

 

 カゲは真顔で言い切る。

 

 そして大きく息を吸い——

 

「お父さ——」

 

「呼ばないで!!」

 

 ヒサメが全力で口を塞ぐ。

 

「今回はいけると思ったのに……!」

 

「その“思った”が毎回外れてんだよ」

 

「うぅ……」

 

 結局。

 

「俺が作る」

 

 というキリト——お父さんの一言で、料理担当は交代となった。

 

 ヒサメは少し離れた場所で、その様子を見ていた。

 

 無駄のない手つき。

 

 迷いのない動き。

 

 同じ材料のはずなのに、出来上がっていくものはまるで別物。

 

「……すごい」

 

 ヒサメはぽつりと呟く。

 

「なんであんなに上手くできるんだろ……」

 

「センスだろ」

 

「カゲ、それ言わないで……」

 

 ぐさっと刺さる。

 

「でもまぁ」

 

 カゲは少しだけ視線を逸らして言う。

 

「やろうとしてるだけマシじゃねぇの」

 

「……え?」

 

 ヒサメは驚いたように顔を上げる。

 

「最初から諦めるよりはいいだろ」

 

「……」

 

 一瞬、言葉が出ない。

 

「カゲがそんなこと言うなんて」

 

「どういう意味だよ」

 

「もっとボロクソに言うかと」

 

「言ってんだろ十分」

 

「それもそうだけど」

 

 ヒサメは小さく笑った。

 

「……ありがと」

 

「……別に」

 

 カゲはそっぽを向く。

 

 その日の夜。

 

 店の中は静まり返っていた。

 

 ヒサメは一人、窓の外を見ていた。

 

「……」

 

 昼間のことを思い出す。

 

 料理の失敗。

 

 みんなの反応。

 

 カゲの言葉。

 

 そして——

 

(……お父さん)

 

 キリトのこと。

 

 いつも通り、笑っていた。

 

 いつも通り、みんなと話していた。

 

 でも。

 

「……なんか」

 

 ヒサメは小さく呟く。

 

「ちょっとだけ……違う気がする」

 

 理由は分からない。

 

 でも確かに、何かが引っかかる。

 

「気のせい……かな」

 

 そう思おうとした、その時。

 

「ヒサ」

 

「っ!?」

 

 振り返ると、カゲが立っていた。

 

「まだ起きてたの」

 

「カゲこそ」

 

「まぁな」

 

 少しだけ間が空く。

 

 静かな空気。

 

「……さ」

 

 カゲがぽつりと口を開く。

 

「また作んのか」

 

「……作る」

 

「懲りねぇな」

 

「だって悔しいもん」

 

「……そっか」

 

 短い返事。

 

「今度は、ちゃんと食べられるやつ作る」

 

「目標低くねぇ?」

 

「大事なの!」

 

 ヒサメは少しムキになる。

 

 カゲは小さく笑った。

 

「……まぁ、期待はしとく」

 

「ほんと?」

 

「……少しだけな」

 

「ひどい」

 

 でも、どこか嬉しそうに笑う。

 

「ねぇ、カゲ」

 

「ん?」

 

「お父さんさ」

 

「……」

 

「ずっと、ここにいるよね」

 

 一瞬だけ、空気が止まる。

 

 カゲの表情が、ほんの少しだけ曇る。

 

「……あぁ」

 

 短く答える。

 

「いるだろ」

 

「……そっか」

 

 ヒサメは笑う。

 

 でも——

 

(今、ちょっと変だった)

 

 違和感は、消えない。

 

「ねぇ」

 

 ヒサメは少しだけ声を落とす。

 

「ちゃんと料理できるようになったらさ」

 

「おう」

 

「一番に食べてね」

 

「……あぁ」

 

「お父さんに、一番に食べてもらいたい」

 

「……」

 

 一瞬だけ、キリトは言葉を止める。

 

 ほんの一瞬。

 

 でも確かに、止まった。

 

「……あぁ」

 

 少しだけ優しく笑って、頷く。

 

「約束だ」

 

「……うん」

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