混血のカレコレとLost evolution 作:Ks5118
それは、普通を求める子供達を救った者の記録
はい、話を作っといて、納得がいかず書き直しました。仮面ライダーキルバス〈キルバスコーピオン〉については、オリジナルライダーの解説の後ろに書きます。前回の方が言いとい方々には、すみませんが自分はこちらの方が良いと思いました。それでは本編の方を楽しんで下さい。
Another 異界での戦い〈修正版〉
空が、歪んだ。
それは亀裂というよりも、“侵食”だった。
本来そこにあるべき青が、黒に塗り潰されていく。
音はない。
だが確かに、世界が軋んでいる。
拒絶している。
それでも——止まらない。
内側から押し広げられるように、空間は裂けていく。
そして。
その歪みの中心から、一つの影が落ちた。
キリト「……は?」
次の瞬間には、風が全身を叩いていた。
落下。
急激な加速。
だが、キリトの思考は乱れない。
キリト[……落ちてるな]
空中で身体をひねる。
脚を下へ。
重心を制御。
回転を抑える。
視界が安定する。
キリト[高さは……問題ない。殺せる範囲だな、この程度なら問題ない]
衝撃は殺せる。
そう判断する。だが——
視界に広がる景色が、その余裕を削る。
荒廃。
崩壊した建物。
抉れた大地。
風に削られた残骸。
生命の気配が、あまりにも薄い。
キリト[……違うな]
即座に結論に至る。
キリト[ここじゃない。ここは、"俺が来るべき世界"じゃないし、少なくとも“戻ってきた”わけでもない。と言うか……ここ、すかすかの世界じゃん]
キリト「……イレギュラーかよ。しかも随分と質が悪い世界に来たことで」
小さく呟く。だが、それ以上考えない。
キリト[状況の把握は後回しだ。まずは生きる、話はそれからだ]
着地。
ドンッ、と重い音。
地面が沈む。
膝を使って衝撃を逃がす。
すぐに立ち上がる。
砂埃が舞う。
静寂。
耳が痛くなるほどの無音。
キリト「……嫌な空気だな。ただ静かなだけじゃない、何かが“抜け落ちてる”感じがする」
足元に視線を落とす。
骨。
白く乾いたそれは、長い時間ここにあったことを示している。
キリト「……終わってるな。生き残りがいるとしても、まともな状態じゃないだろうな」
歩き出す。
乾いた地面が鳴る。
その時。
遠くで“何か”が動いた。
キリト「……いるな。隠れる気もない、むしろこっちを探してる動きだ」
視線を向ける。
蠢く黒。
形が定まらない。
生物のようで、生物ではない。
キリト[……ああ]
理解する。
キリト[〈獣〉か。えぇ〜と、確か……記憶通りなら、あれがこの世界を壊した原因の一つ……か]
キリト「……面倒だな。単体なら問題ないが、群れるタイプなら話が変わる」
だが、構えない。
キリト[今は戦う必要はない。勝てるだろうけど……今じゃない、“やる意味も無いし”]
視線を上げる。
空。
そこには、異様な光景が広がっていた。
浮遊する大地。
複数の島が、空中に存在している。
キリト「……あっちか。少なくとも地上よりは“生きてる場所”に見える」
短く言う。
キリト「ここに留まる理由はないな。情報も、人も、全部あっちにある」
その時。
足元に何かが転がっているのに気づく。
布。
汚れているが、まだ使える。
キリト「……まあ、いいか。目立つよりはマシだろ、こういう場所じゃ“人間”は狙われやすい」
拾う。
キリトは布を被る。顔だけを出す形。
キリト「……多少は誤魔化せるか。完全じゃないが、何もないよりはいい」
その瞬間。
一体の〈獣〉がこちらを向く。
キリト「……だろうな。視線で分かる、あれはもう“獲物”として認識してる」
空気が変わる。だが——
キリトは動じない。
キリト「無駄な戦闘はしない主義なんでな。勝てるかどうかじゃない、やる必要があるかで動く」
次の瞬間。
地面を蹴る。
加速。
一気に距離を詰める。
〈獣〉が動く。
追ってくる。だが振り返らない。
キリト[今はいい。相手をする価値はない、目的を優先する]
目的は一つ。
崖。
その先は虚空。
下は死。
上は生。
キリトは立つ。
風が吹く。
布が揺れる。
キリト[距離は……通常じゃ届かないな。助走込みでも足りない]
一瞬の計算。
キリト「……使うか。温存しても意味はない、この状況じゃな」
ロストエボルドライバーを取り出す。
『Lost Evol Driver!』
ボトルを取り出す。
『Garuda』
『Formula』
装填。
『Lost Evol Match!』
レバーを回す。
キリト「ここで躓くわけにはいかない。まずは“生き残る場所”まで行く」
『Are You Ready?』
キリト「変身」
プレートが挟み込む。
白い蒸気が弾ける。
『ガルーダフォーミュラー』
踏み込む。
キリト「距離、風、推進……問題なし。行ける」
そのまま——跳ぶ。
加速。
脚部の推進機構が唸る。
空気を裂く。
一直線。
浮遊島へ向かって。
キリト[……届く。この出力なら、途中で失速もしない]
滑空のまま着地。
軽い衝撃。
周囲を見る。
そこには——生活の気配があった。
人々の声。
行き交う足音。
笑い。
キリト[……普通、か]
キリト[壊れてない場所もあるんだな。この世界にもまだ“残ってる”ものがある]
キリト「……いいな。こういう空気は、嫌いじゃない」
小さく、呟いた。
キリトは変身を解除する。
白い蒸気が静かに消えていく。
布を整える。
周囲を見る。
視線が集まる。
布越しでも分かる違和感。
キリト[……やっぱり目立つか。隠してるつもりでも、“異物”ってのは隠しきれないもんだな]
キリト「……まあいい。ここで完全に溶け込もうってわけでもないしな」
その時。
ヴィレムの声。
ヴィレム「……おい」
キリトは止まる。
ゆっくり振り返る。
そこに立っていたのは、一人の男。
キリト[……人間]
すぐに分かる。
キリト[この環境で生きてるってことは、ただの一般人じゃないな。少なくとも“何か知ってる側”だ]
キリト「なんだ。呼び止めるってことは、用があるんだろ」
短く返す。
ヴィレムはじっと見る。
観察するように。
ヴィレム「その格好、何だ」
キリト「日除けだ。直射は避けたい性質なんでな、肌にも色々ある」
一拍。
キリト「……まあ、嘘だけどな。見れば分かるだろ、その反応」
ヴィレム「……嘘だろ」
キリト「だろうな。隠す気も薄いし、信じられるとも思ってない」
少しだけ口元が緩む。
短い沈黙。
ヴィレム「行く場所はあるのか」
キリト「ない。正確には“決まってない”だな、この世界の地理も分からないし、当てもない」
一拍置いて。
キリト「だから今は、情報が集まる場所を探してる。ここがそう見えたから来ただけだ」
ヴィレムは少しだけ考える。
そして——
ヴィレム「ついて来い」
キリト「いいのか。見ての通り怪しいぞ、俺は」
ヴィレム「放っておけない」
キリトは少しだけ目を細める。
キリト[……合理じゃないな。でも嫌いじゃない判断だ]
キリト「……助かる。こういう時に手を差し伸べられると、断る理由がなくなる」
二人は歩き出す。
街の中へ。
喧騒の中。
普通の生活の中へ。
キリト[……守られてる場所、か。少なくとも外とは切り分けられてる]
キリト[こういう場所は、壊れた時の反動がでかい]
その時。
一人の子供がキリトに気づく。
子供「ねー、だれー?」
その一言で、視線が一斉に集まる。
キリトは小さく肩をすくめる。
キリト「通りすがりだ。迷い込んだだけの部外者、って言った方が分かりやすいか」
子供「なにそれー!」
笑い声。
距離が一気に縮まる。
囲まれる。
子供「ねーねー! その布なにー? 怪しいー!」
キリトはしゃがむ。
目線を合わせる。
キリト「走るなよ。こういう場所で転ぶと、打ち所によっては洒落にならない」
子供「え?」
キリト「ほら、前見てないだろ——」
その瞬間。
一人が足をもつれさせる。
キリト「言ったそばからか。タイミングが良すぎるだろ」
片手で受け止める。
子供「えへへ」
キリト「笑って誤魔化すな。怪我しなかったのは運が良かっただけだ、次もそうとは限らない」
軽く額を小突く。
キリト「怪我したらどうする。痛いのは自分だし、泣くのも自分だぞ」
子供「しないもん!」
キリト「するんだよ、そういう時に限ってな。だから気をつけろって言ってる」
ため息を一つ。
だが、手は優しい。
頭を撫でる。
キリト「……次はちゃんと見て走れ。それだけ守れば、だいぶマシになる」
子供「はーい!」
また走っていく。
少し離れた場所。
青い髪の少女が、その様子を見ていた。
クトリ「……誰」
ヴィレムが隣に立つ。
ヴィレム「行き場がないらしい」
クトリ「怪しくない?」
ヴィレム「怪しいな」
キリト[……即答か。正直で助かる]
ヴィレム「だから置いておく」
クトリ「意味分かんない」
ヴィレム「分からなくていい」
クトリは歩き出す。
キリトの前に立つ。
じっと見る。
キリトも視線を合わせる。
クトリ「……ねえ」
キリト「ん?」
クトリ「本当に何者なの」
キリト「通りすがりだ。少なくとも“ここに属してる人間じゃない”って意味では、それが一番正しい」
クトリ「それ以外で」
キリト「それ以外は……今は話す必要がないな。信用もない状態で全部出すほど軽くない」
少しだけ口元が緩む。
クトリ「……信用できない」
キリト「しなくていい。むしろその方が自然だ、初対面で信用される方が困る」
一瞬、子供たちを見る。
キリト「その代わり——」
クトリ「?」
キリト「守るくらいはする。ここにいる限りはな、俺の目の届く範囲で死なせる気はない」
静かな声。
キリト「戦う理由としては、それで十分だろ」
クトリは言葉を失う。
警報。
けたたましい音が空気を切り裂く。
甲高い金属音。
一定の間隔で繰り返される、無機質なリズム。
だが——
キリトの表情は、わずかに変わった。
キリト[……遅い]
風が止まっている。
空気が重い。
“流れていない”。
キリト[警報が鳴る前から、もう来てる。これは“予兆”じゃない、“侵入後”の反応だ]
視線を動かす。
地面。
壁。
空間。
微かに——歪んでいる。
キリト「……この警報、間に合ってないな。知らせてるんじゃない、“追いかけてる”だけだ」
ヴィレム「全員下がれ!」
子供たちがざわつく。
足音。
焦り。
小さな悲鳴。
キリトは一歩前に出る。
キリト「動くな! 一斉に走るな、詰まるぞ! 順番に下がれ、押すな!」
空気が一瞬で引き締まる。
キリト「ヴィレム、出口は一つか? なら分散させろ、左右に振って流せば詰まらない!」
ヴィレム「……分かった!」
クトリが駆け寄る。
クトリ「キリト!」
キリト「子供たちを優先しろ。戦うのは後だ、今は“減らさない”ことだけ考えろ」
クトリは一瞬だけ迷い——頷く。
クトリ「分かった!」
中へ走る。
キリトはゆっくりと前に出る。
警報音が鳴り続ける。
だが——もう意味はない。
キリト[……来るな]
地面を見る。
わずかに。
ほんのわずかに——“揺れている”。
キリト「……視認まで数秒。近いな、予想より速い」
ロストエボルドライバーに手をかける。
キリト「ここで止める。中に入れた時点でアウトだ、被害は出さない」
『Lost Evol Driver!』
ボトルを取り出す。
キリト「初手は広く削る。様子見じゃ足りない、“範囲で潰す”」
『Hydra』
『Shovel』
『Lost Evol Match!』
キリト「変身」
『ヒュドラショベル』
装甲が展開される。
その瞬間——
地面が、滲んだ。
キリト「……来たな」
土が盛り上がる。
いや、違う。
“中から押し上げられている”。
キリト「……地中侵入型か。しかも単体じゃない、面で来てる」
次の瞬間。
現れた。
地面から滲み出る黒。
形が定まらない。
伸びては崩れ、崩れてはまた形を作る。
キリト「……なんだそれ。個体ってより、“現象”に近いな」
足元から、増える。
一つじゃない。
二つ。
三つ。
いや——“広がっている”。
キリト[数じゃない、これは面だ。倒しても意味がないタイプか]
一体が伸びる。
触れようとする。
キリト「遅い」
踏み込む。
右腕に毒を生成。
キリト「まずは効くか確認だ。効くなら削れる、効かないなら切り替える」
触れる。
黒が揺れる。
崩れる。
キリト「……効くな。構造自体は壊せる」
だが——その残骸が蠢く。
再生。
分裂。
増える。
キリト「……なるほどな。壊しても終わらない、“繋がってる”タイプか」
周囲を見る。
すでに囲まれている。
キリト「面倒だな。削るだけじゃ終わらない、核を潰さないと止まらないやつだ」
後ろからクトリの声。
クトリ「避難完了!」
キリト「いいタイミングだ。これで範囲を気にしなくていい」
一体が跳ねる。
キリト「来るぞ、距離取れ! 触れさせるな、広がる!」
クトリが跳ぶ。
直後——地面が爆ぜる。
黒が飛び散る。
着弾。
増える。
キリト「……やっぱりそう来るか。範囲拡張型、接触で増殖」
ボトルを入れ替える。
キリト「なら削り方を変える。広範囲で一旦リセットする」
『Kraken』
『Launcher』
『Lost Evol Match!』
キリト「変身」
『クラーケンランチャー』
腕を構える。
キリト「まとめて吹き飛ばす。一箇所に残さない、残ればそこから増える」
射出。
爆撃。
地面ごと抉る。
黒が吹き飛ぶ。
消える。
——だが、残骸が、また動く。
再生。
キリト「……足りないか。やっぱり“元”が別にある」
目を細める。
キリト[散ってるだけじゃない。全部どこかに“繋がってる”]
キリト「……核があるな。見えないだけで、どこかに“中心”がある」
クトリ「どうするの!?」
キリト「一点に集める。散ってるから厄介なだけだ、形を作らせれば終わる」
一歩前へ。
キリト「全部寄せる。逃げ場を潰して、“一つにする”」
黒が集まる。
寄る。
増える。
キリト[いい……寄ってきてる]
キリト「……今だ」
ボトルを交換。
『Raijyu』
『Crane』
『Lost Evol Match!』
キリト「変身」
『雷獣クレーン』
キリト「全部まとめて止める。散らすな、一気に流す」
電撃。
放つ。
地面を走る。
黒が——止まる。
中心。
わずかな歪み。
キリト「見えた」
踏み込む。
貫く。
破壊。
一瞬の静寂。
そして——崩壊。
すべての黒が、同時に消える。
風が戻る。
音が戻る。
キリトはゆっくりと息を吐く。
キリト「……とりあえずは終わりだな。だが“全部”じゃない、これはあくまで一部だ」
クトリ「……倒した?」
キリト「一応な。ただし完全じゃない、本体は別にいる」
空を見る。
キリト「地上だな。あれだけの規模を維持してるなら、上には置かない」
静かに言った。
倉庫の裏。
夜の冷たい空気。
キリトは一人、地面に広げた装備の前にしゃがんでいた。
ロストスチームブレード。
ロストスチームガン。
分解。
内部構造が露出する。
キリト[……やっぱり足りないな]
指先でパーツを弾く。
微かなズレ。
出力のムラ。
キリト[さっきの分散型、削りは出来たが止めきれなかった。あれが前座なら——本体はもっと“しつこい”]
クトリが後ろから覗き込む。
クトリ「……まだやるの」
キリト「やる。準備で埋められる差は、戦場に持ち込まない方がいい」
パーツを外す。
再配置。
キリト「出力を底上げするだけじゃ足りない。範囲と持続、両方上げないと意味がない」
クトリ「そんなこと……一晩で出来るの?」
キリト「出来るところまでやる。足りない分は、現地で補う」
淡々とした声。
だが、手は止まらない。
キリト「戦う前にどれだけ詰めたかで、生き残る確率は変わる。そこは手を抜かない」
カチッ、と音が鳴る。
再構築。
キリトは一度だけ軽く振る。
キリト[……応答は良い。暴れはしない、これなら制御できる]
立ち上がる。
空を見上げる。
キリト[……下にいる]
はっきりと分かる。
気配。
重い。
広い。
キリト「……行くぞ。時間をかけるほど、向こうの準備が進む」
クトリは黙って頷く。
崖。
その先は、闇。
底は見えない。
風が吹き上げる。
冷たい。
空気が重い。
地上。
風は吹いている。
草も揺れている。
空も、どこまでも青い。
だが——生きている気配がない。
鳥の声はない。
虫の羽音もない。
人の気配など、当然のように存在しない。
感じるのは——獣だけ。
遠くで唸る声。
草むらを駆ける影。
それ以外は、何もない。
世界が死んでいる。
クトリ「……静かすぎる……」
ヴィレムは周囲を見渡す。
ヴィレム「……人の気配が完全に消えてるな」
一歩踏み出す。
乾いた音が響く。
ヴィレム「ここまで徹底的なのは……異常だ」
キリトは前を見る。
キリト「……この下だ」
視線の先。
崩れかけた施設。
地面に半ば沈み込むように存在している。
クトリ「……ここにいるの?」
キリト「ああ」
ヴィレムが目を細める。
ヴィレム「……ここ、知ってる」
クトリ「え?」
ヴィレム「研究施設だ」
一拍。
ヴィレム「……何をしてたかまでは知らない」
キリトは何も言わず、歩き出す。
暗闇へ。
光が消える。
空気が変わる。
湿っている。
重い。
足音だけが響く。
壁は崩れ、焼け焦げ、溶けている。
床には割れた容器。
砕けた機材。
クトリ「……これ……」
透明な円筒。
割れている。
内部は空。
だが、何かの痕跡が残っている。
ヴィレム「……容器か」
それ以上は言わない。
キリトはさらに奥へ進む。
進むほどに——
重くなる。
空気が、濃くなる。
クトリ「……なに……これ……」
ヴィレム「……気配が濃い」
キリト「……近いな」
さらに進む。
ぽた。
音。
床に、青い液体。
ヴィレム「……水じゃないな」
クトリ「……変な色……」
キリトだけが、わずかに視線を上げる。
天井。
暗闇の中。
何かが——“いる”。
だが、沈黙している。
進む。
やがて——空間が開ける。
広い空間。
中央。
“それ”は立っている。
人型。
だが——二回り大きい。
骨格がズレている。
関節が合っていない。
歪んだ存在。
キリト「……ここだな」
クトリ「……いる」
キリト「下がってろ」
その時。
“それ”の口が、ゆっくり開く。
??? 「……オマエ……」
声が引き裂かれるように歪む。
??? 「……ニンゲン……?」
クトリ「……喋った……?」
ヴィレム「知性はあるみたいだな……」
キリトは何も答えない。
ただ、睨む。
次の瞬間。
ボスが動く。
速い。
斬撃。
キリトが受ける。
火花。
キリト「……面倒だな」
距離を取る。
キリト[……通常じゃ足りない]
ロードボトルを引き抜く。
『Drake』
『Drill』
ドライバーに装填。
『Lost Evol Match!』
レバーに手をかけ——回す。
同時にボスが踏み込む。
『Are You Ready?』
キリト「変身」
『掘削の戦竜〜! ドレイクドリルッ! ガァーハッハッハッハッハッハァ!』
装甲形成。
踏み込む。
拳。
直撃。
ボスが後退。
だが止まらない。
すぐに戻る。
斬撃。
受ける。
火花。
キリト「……硬いな」
連撃。
叩き込むたびに出力が上がる。
キリト[……乗ってきたな]
タックル。
直撃。
吹き飛ばす。
壁に叩きつける。
だが——砕けない。
再生。
キリト「……面倒な仕様だな」
次の瞬間。
同じ動き。
コピー。
回避。
カウンター。
キリト「……っ」
吹き飛ばされる。
着地。
キリト[……読まれてる]
床に落ちた青い液体。
キリトの目がわずかに動く。
天井の暗闇から、液体が垂れ落ち、地面に広がる。
クトリ「……なに……?」
ヴィレム「……?」
二人には分からない。
キリトだけが理解する。
キリト[……これか]
青い液体——それは単なる液体ではない。
意思を持つ“寄生体”だった。
〈獣〉の本体が生き残るために、この施設の残骸と融合して生み出したもの。
床に落ちた液体が蠢く。
その先端が、ボスの身体に吸い込まれるように伸びる。
ボスの体表——黒く歪む獣の肉体が、液体に侵食されていく。
キリト「……やっぱり、寄生か」
クトリ「寄生……?」
ヴィレム「……気配が、完全に変わった」
黒く歪んでいたボスの身体が、ゆっくりと膨張する。
関節のズレ、骨格の歪み——それらが液体の侵食によって修正されるどころか、さらに異形へと変化していく。
そして——
ぽた、ぽた。
青い液体がボスの口元に落ちる。
不気味な蠢き。
口が開く。
歪んだ声が響く。
キリトの視線が鋭くなる。
状況を把握するのに、一瞬も迷わない。
キリト[……キルバスだな]
この異形の中に、かつての戦友——キルバスの意識が残っている。
しかし今は、〈獣〉の寄生体によって肉体と意思が歪められている状態だ。
ボス——キルバスの口がゆっくりと開く。
キルバス「久しぶりじゃん、兄貴……」
クトリ「……兄貴……?」
ヴィレム「……誰だ……?」
空気が変わる。
キリトは一歩も動かず、ただ睨む。
言葉を発するのは、黒く歪む〈獣〉と青い寄生体に覆われたキルバスだけ。
キリト[……何でここに、俺が最も会いたくなかったコイツが]
キルバスの声が響く。
歪んだ口元から、青い液体の波動が身体を覆う。
黒い獣の外皮が蠢き、関節が鳴る。
キリトは一歩も動かず、じっと観察する。
キリト[……動きの中心はあの液体か。寄生体が本体の再生と変形を制御してる]
黒い肉体が、ひとつ、またひとつと崩れ、粘着状の液体が絡みつく。
歪んだ骨格が溶け、再び組み直される。
クトリの目が大きく見開かれる。
小さな身体をすくめ、思わず一歩後ろに下がる。
クトリ「……うそ……」
声は震えている。
口元は開いたまま、言葉が続かない。
ヴィレムも眉をひそめ、手を軽く握る。
ヴィレム「…………まさか、あれが……同じサイズになるとはな……」
唇を噛む。
目には驚きと、わずかな恐怖。
二人とも、息を整えようとするが、空気の重さに押され、簡単にはできない。
目の前で蠢く寄生されたキルバス——黒と青の異形は、もはや人間の姿の残滓を保ちつつ、戦闘可能なサイズで立ちはだかっている。
クトリ「……どうして……こんな……」
小さな声が震える。
ヴィレム「……寄生体が、ここまで……本体の形まで整えるのか……」
思わず後ずさる。
キリトだけが冷静に視線を合わせる。
キリト[……やる気か、こいつ……]
他の二人とは違い、動揺はない。
むしろ、予想通りの動きとして、戦況を即座に把握している。
クトリは肩を震わせ、息を整えようと必死だ。
ヴィレムは唇を引き結び、両手をしっかり握り直す。
二人にとって、目の前の光景は、理解を超えた恐怖——
だが、それでも目を逸らすことはできない。
キリト「……下がれ」
短く言う。
クトリとヴィレムは言われるまま、距離を取り、構える。
目の前の異形と、これから始まる戦いに備えるために——
二人は静かに間合いを取り合う。
黒と青に覆われたキルバスの視線が、キリトの動きを追う。
キリトも同様に、冷静に相手の動きを読もうとする。
一撃目。
拳と剣が交わる。
火花と音。
互いに手応えを感じる。
二撃目。
キリトは素早く踏み込み、斬撃を放つ。
キルバスはそれを受け止め、体勢を整えながら、わずかに眉を上げる。
キルバス[……あれ? ]
目に止まったのは、キリトの剣を振る速度。
以前より僅かに遅い。
反応も少し鈍い。
三撃目。
キリトは回避し、蹴りを放つ。
だが受け止められる。
力の差は微妙に縮まっている。
キルバス「……ふん、少し鈍ってるな」
低く、冷たい声。
しかしその口元には微かな笑みが浮かぶ。
キリト[……感覚がずれてるか]
自分の体の反応を確かめながらも、動きを止めない。
しかし、自覚していた。
ロストエボルドライバーの長時間使用と、前の戦闘での負荷で、出力が完全ではない。
四撃目。
二人の剣が再び激しくぶつかり、火花が飛ぶ。
キルバスの目に、キリトの微かな疲弊が映る。
動きのリズム、呼吸の間隔、力の伝わり方——
全てが以前より“重い”ことを感じ取った。
キルバス「……なるほどな。兄貴、弱体化してる」
その言葉は低く、闇の中に響く。
だが同時に、戦意を刺激する。
キリトは一瞬だけ眉をひそめる。
キリト[……読まれたか]
弱体化は隠せない。
だが、この程度で動揺するわけにはいかない。
戦う理由は、ただ一つ——
この場での生存と、守るべき者たちのために。
キルバスは距離を取り、笑みを浮かべながら剣を構える。
キルバス「……よし、なら力を試す価値はあるな」
黒と青の異形の身体が、闇の中でひときわ存在感を放つ。
キリト「……覚悟してる」
短く呟く。
互いに間合いを取り、戦いは再び激化する。
火花、衝撃、互いの呼吸——
二人の戦場は、言葉よりも激しい攻防で満たされる。
何度目かの打撃が空気を切る。
互いの剣が交わり、火花が散る。
キリトの動きはまだ俊敏だが、わずかに間がある。
キルバスは瞬間的にそれを察知する。
キルバス[……やはり、前より出力が落ちている……]
鋭い視線がキリトの腰元に向く。
ドライバー——
使い慣れたはずのロストエボルドライバーだが、何かが違う。
キルバス「……なるほど、理由はそれが理由か」
キリトのドライバーを指さしながら低く言う。
キリト「……?」
クトリとヴィレムも視線を向ける。
キルバス「普段使っているのはな、ロストロードボトル〈ヒュドラ、ドレイク、フェンリル、デビル〉のうち一本とライダーロードボトルでの変身……出力は高く安定している」
剣を構えたまま、冷静に分析する声。
キルバス「だが今、使っているのはただのロードボトルだろう? 武器召喚や必殺技用のやつ……無理に変身してるから出力が低く、安定していない」
キリトは僅かに息をつき、視線を逸らさない。
キリト[……読まれてるか……]
クトリ「……え……?」
ヴィレム「……それで弱体化してるってことか?」
二人は同時に驚き、目を大きく見開く。
キルバスの目がキリトを鋭く見据えた後、軽く肩を落とす。
キルバス「……はぁ、少しつまらないな……弱ってる兄貴と戦うのは」
キリトは動じず、低く答える。
キリト「……関係ない」
その瞬間、両者の変身スイッチが同時に入る。
キリト側の変身
キリトはラグナロクトリガーのボタンを押す——
『Ragnarok ON!』
ドライバーにヒュドラとショベルのロードボトルを装着。
ドライバーから——
『Hydra! Shovel! Super Lost Evol Match!』
レバーを回すと、キリトの前後に黒いプレートとロードボトルと同じ色のエネルギー管が伸び、プレートが浮遊しながら彼を挟み込む。
黒い蒸気が立ち昇り、ドライバーから——
『ガチャガチャ! ズッカン! ドッカッカッカン! ガチャガチャ! ズッカン! ドッカッカッカン!』
そして——
『Are You Ready?』
キリト「変身」
黒いプレートが彼を完全に覆い、蒸気と共に装甲が形成される。
『Uncontrollable Force! massacre time!』
キルバス側の変身
同じ瞬間、キルバスはどこからかエボルドライバーを取り出し腰に装着。
ドライバーから——
『Evol Driver!』
懐からキルバススコーピオンフルボトルを取り出し、何度か振る。
蠍型のガジェット〈キルバスコーピオン〉が跳ねて手に収まり、フルボトルを装着すると——
『キルバスコーピオンッ!』
レバーを回すと、キルバスの前後に赤・黒・紫のエネルギーと一対の歯車が浮かび上がり、蠍の頭を模した胸と額の装甲が展開。
ドライバーからは——
『スコーピオンッ! スコーピオンッ! キルバスコービオォ────ーンッ!』
キルバス「ヘンッ! シンッ!」
彼を中心に歯車が回転し、全身が光とエネルギーで包まれる。胸の紫色のコアからコードが伸び、脈打つように全身を駆け巡る。
二人の同期
その瞬間、キリトのドライバーからも重厚な笑い声——
『ガァーハッハッハッハッハッハァ!』
キルバスは軽く笑い、声を投げる。
「お前の方が鳴るのかよ」
黒と赤・紫のエネルギー、蒸気、歯車、プレート——
戦士二人の変身が空間を裂き、瓦礫や浮遊大地が振動する。
戦闘態勢が整い、互いの視線がぶつかる。
同時変身によって、両者の存在が空間に強く刻まれる——まるで世界の秩序を揺るがすかのように。
黒と赤・紫のエネルギーが空間を渦巻く。
変身を終えた二人が、互いを鋭く睨む。
キリト「……行くぞ」
キルバス「ヘンッ! 兄貴、受けてみろ」
互いに踏み込み、拳を突き出す。
衝撃が炸裂する。
拳同士がぶつかるたび、空気が震え、瓦礫が舞い、地面に微細な亀裂が走る。
プレートや歯車はただの装甲演出として周囲を輝かせるだけで、戦闘には干渉しない。
二度目の打撃。
キリトの動きは正確かつ制御されているが、やはり出力の低下がわずかに響く。
キルバスの攻撃は荒々しく、エネルギーを帯びた拳が地面や空気を切り裂く。
三度目。
キルバスが踏み込むと、キリトは一瞬体勢を崩す——
「……動きが荒いな」
「荒い? これが俺の全力だ」
衝撃の応酬は続く。瓦礫が飛び散り、浮遊大陸の地面に振動が伝わる。
二人の視線が交錯する瞬間、キルバスは気づく。
「……弱ってるな、兄貴」
キリトは冷静に応じる。
「……関係ない」
拳がぶつかるたび、黒と赤・紫のエネルギーが空間に閃光を作り、衝撃波が広がる。
クトリとヴィレムはその威力に圧倒されながら、後ずさる。
クトリ「……どうして……?」
ヴィレム「兄貴、出力が……いつもと違う」
キルバスはキリトのドライバーを一瞥し、無言で全てを理解する。
「……なるほど、武器用ボトルで無理に変身してるのか」
キリトは視線を逸らさず、次の打撃に備える。
二人のエネルギーの塊は、装甲演出のプレートや歯車と共に、ただ美しく、凄まじい迫力を放つ——
だが、戦闘自体は拳と脚、体捌きだけで進んでいる。
キリトの拳が放たれる。
黒と赤のエネルギーをまとった一撃がキルバスの胴を打ち、彼は大きくよろめく。
キリト[心の中で、静かに]
「……終わりだ」
迷いなくレバーに手をかける。
キルバスも歯を食いしばり、渾身の力でレバーを回す。
「負けるか……!」
だが、キリトの手が早い。
ドライバーから鋭く響く声——
『Ready GO!』
同時に蹴りを放つ。
蹴り足が、キルバスのドライバーに向かって一直線に飛ぶ。
キリトのドライバーからは、必殺の起動音が鳴る。
『RagnarokTex Finish』
キルバスも負けじと拳を振り上げ、キリトのラグナロクトリガーに叩きつける。
しかしその衝撃で、ラグナロクトリガーにヒビが走る——
だがキリトは動じず、蹴りを止めない。
蹴りがキルバスの胸を貫き、全身が後方に吹き飛ぶ。
そして静寂の中、ドライバーから柔らかく、しかし確実に聞こえる声——
『Ciao』
蹴りを受け、キルバスの体が空中で揺れる。
装甲の赤が弾け、黒いアンダースーツの表面に亀裂が走る。
キルバス[吐息混じりに、弱々しく]
「……やっぱり、兄貴には敵わなぇ……」
その言葉を最後に、全身が内側から光を帯び、紫と赤のコアが脈打つ。
脈打つエネルギーが瞬間的に暴走し、黒・赤・紫の爆発が周囲を包む。
爆発の光が消えた後、空気は静寂に包まれる。
煙と埃がゆっくりと舞い上がり、周囲の光景をぼやけさせる。
クトリは目を大きく見開き、手で口元を覆った。
クトリ「……ほんとうに……終わったの……?」
声が震えている。小さな体が微かに揺れていた。
ヴィレムも立ち尽くす。額に汗を滲ませ、深く息を吐く。
ヴィレム「……これで、少なくとも今は……」
言葉を切り、周囲を見渡す。戦いの痕跡だけが残る廃墟の中で、生き残った者たちの安堵がようやく空気に混ざった。
キリトは蹴りを放した地点を見つめたまま、ゆっくりと息を整える。
胸の奥で、重く張りつめていたものが少しずつ解けていく。
キリト[……やっと、一段落か……]
しかし、表情にはまだ完全な笑みはない。
戦いの疲労と、失われたものの痛みが残る。
それでも、目の前で無事だったクトリや、冷静に状況を整理するヴィレムを見ると、心の奥底に小さな光が差し込む。
キリトはゆっくりと振り返る。
黒と赤の装甲は跡形もなく消え、残るのは静かな廃墟と、生き残った者たちの存在だけ。
キリトが振り返ろうとすると。
膝から崩れる。
そのまま、座り込む。
足元から、
静かに消えていく。
粒子となって、光になって、風に溶けていく。
クトリ「……キリト!!」
走る。
止まれない、止められない。
抱きしめる。
クトリ「……やだ……!」
離さない。
強く。
必死に。
キリトは静かに手を伸ばす。
クトリの頭を、優しく撫でる。
キリト「……大丈夫だ」
優しい声。
それだけが、残された温もり。
ドライバーから、壊れたラグナロクトリガーを外す。
その手を伸ばし、クトリに渡す。
キリト「持ってろ」
クトリ「……これ……?」
キリト「壊れてるけどな」。
その時、キルバスがいた場所から。
カラン、と音が聞こえた。
その方を見ると
キルバスの持っていたガジェット〈キルバスコーピオン〉がキリトに向かって跳ねて来た。
クトリは止めようとするが
キリトが制止した。
キリト「……大丈夫だ」
その声にクトリは不安になるが
クトリ「良いの?」
キリト「……あぁ」
するとガジェットはキリトの手に収まると停止した
それを見てキリトは
少しだけ、笑う
キリト「これで……終わりだ」
キリト「お前たちの世界は……守られた」
クトリ「……やだ……!」
涙が止まらない。
キリト「"普通の"子供として生きろ」
クトリ「……っ……」
キリト「甘えていい」
キリト「泣いていい」
キリト「それが普通だ」
体がほとんど消えかけていく。
キリト「……頑張れよ」
そして、消滅。
クトリ「……っ……あ……」
その場に崩れ落ちる。
手には——
壊れたトリガー。
そして、あの時の布。
クトリはそっと抱きしめる。
少し考え、静かに言う。
クトリ「……私の……大切な布だよ」
風が吹く。
静かに。
遠くで、聞こえる声。
キリト「……頑張れよ」
クトリ「……うん」
END
■エピローグ
風がそよぐ。
柔らかな陽光が空を満たし、青い空が果てしなく広がっている。雲は淡く、のんびりと流れ、何事もなかったかのように日常の一片を映し出していた。
街は静かで、普段通りの人々の営みが続いている。誰も気に留めない小さな瞬間の中で、世界は穏やかに呼吸していた。だが、その穏やかさの片隅で、クトリは手の中の布をぎゅっと握りしめ、無言でその温もりを確かめていた。戦いが終わった後も、この布にはあの瞬間の重さが残っていた。
ヴィレムがそっと声をかける。
ヴェノム「大丈夫か?」
クトリは視線を遠くに向け、静かにうなずいた。
クトリ「……うん……大丈夫」
その目には、あの戦いの記憶、光と影、そして守られた世界のために流した涙が映っていた。思い返すたびに胸が締め付けられるが、それでも前を向く力を、彼女はこの手の中にある布から受け取っていた。
子供たちが、無邪気な足音と共に近寄ってくる。小さな手がその布に触れると、クトリは微笑みながら言った。
クトリ「……触ってもいいよ」
子供たちは笑顔を輝かせて布に手を置く。無邪気な声が空気を満たし、穏やかな日常の音となる。ヴィレムもまた、ほんのわずかに微笑む。その表情は、戦いを越えた者だけが持つ、深い安堵と静かな誇りに満ちていた。
静かに風が吹き、布はひらりと揺れる。戦いの痕、焦げた跡、光と影の記憶すべてが、その揺れる布の中に抱き込まれているようだった。クトリは小さな声でつぶやいた。
クトリ「……キリト……ありがとう」
その声は弱々しいかもしれないが、確かに、誰も届かない遠くの空に届くような、力強さを伴っていた。
子供たちは笑いながら布に触れ、楽しげに遊び始める。ヴィレムもそれを見守り、静かに言った。
ヴィレム「さあ、行くぞ」
その言葉に、未来の約束が背中に広がる。希望と日常が、穏やかな光景の中で静かに呼吸する。しかし、遠くの空にはまだ、微かに何かが動く気配があった。誰もその正体を知らない。
クトリは振り返らない。胸に抱いた布をしっかりと握り、前だけを見る。足元には、穏やかな日常が広がっている。そして誰も知らないところで、キリトは次元の狭間を越え、まだ見ぬ世界へ向かって旅を続けている。
その姿は目に見えない。けれど、確かにそこに存在している。彼が守ったものたちは、ゆっくりと息を吹き返し、笑い声が日常の一部として響き渡る。未来の約束、希望、そして平和。
クトリは微笑み、布を抱きしめながらそのすべてを胸に刻む。光と影の記憶を抱えたまま、彼女は日常の中で生きていく。──それが、普通の、そしてかけがえのない日常だった。
■
■ 後日談:残されたもの
朝の光が柔らかく妖精倉庫を包む。
いつも通りの騒がしさ。小さな声が入り交じり、笑い声と怒鳴り声が、入り混じった音の渦となって空気を震わせる。
子供A「ねー! それ違うって!」
子供B「違わないもん!」
小さな子供たちは朝から元気いっぱいに言い争い、思わず笑みがこぼれる。ヴィレムは倉庫の入り口で、ため息をつきながら見守る。
ヴィレム「こら、朝から騒ぐな」
子供「はーい!」
でも、子供たちは静かにはならない。騒ぎながらも、楽しげに遊び、倉庫の中は活気で満ちていた。ヴィレムは微かに笑みを浮かべながら、胸の奥に安心を抱く。戦いが終わり、この日常が続いていることが、何よりも嬉しかった。
外の風がやさしく吹く。クトリは一人、柵にもたれて静かに立っていた。手の中には——あの布。そして、壊れたラグナロクトリガー。戦いの記憶を伝える品々。もう、動かないはずの機械が、彼女の胸には重く、そして暖かくのしかかる。
クトリ「……」
視線は遠く、どこか別の世界を探すように空を見つめる。胸の奥に、かすかな痛みとともに、暖かな記憶が広がる。あの瞬間、キリトが残した言葉や行動が、今も彼女を包んでいた。
足音が近づく。
ヴィレム「ここにいたか」
ヴィレムが隣に立つ。静かな朝の空気の中で、二人の間に言葉は少ない。けれど、沈黙の中に深い安心が漂っている。
ヴィレム「……あいつのことか」
クトリ「うん」
クトリは隠さずに答える。その声には、まだ心の中に残る寂しさと温もりが混じっていた。
クトリ「ねえ、ヴィレム」
ヴィレム「なんだ?」
少し考え込み、クトリは言葉を紡ぐ。
クトリ「“普通”ってさ……難しいね」
ヴィレムは小さく笑う。
ヴィレム「そうだな。俺も、まだ分かってない」
再びしばしの沈黙。風が布を揺らし、遠くで子供たちの声が響く。その音は、過去と未来をつなぐ橋のようで、静かに心を落ち着ける。
クトリは布をぎゅっと握る。
クトリ「……でもさ、前よりちょっと分かる気がする」
ヴィレム「うん?」
クトリ「泣いていいって言われた。甘えていいって言われた。……だから、ちゃんと泣いた」
ヴィレムは何も言わず、ただ静かに聞いている。
クトリ「そしたら、ちょっとだけ楽になった」
風がやさしく頬を撫でる。遠くの空は静かで、日常がゆっくりと流れている。
その時、子供たちの声が響いた。
子供「クトリー!」
駆けてくる小さな姿に、クトリは笑いながら注意する。
クトリ「危ないってば!」
でも、その顔には笑みが溢れていた。
子供「遊ぼー!」
クトリ「……うん、いいよ」
立ち上がるクトリ。肩に布を軽くかけ、壊れたラグナロクトリガーは大事に握ったまま。子供たちと一緒に走り出す。笑い声が広がり、倉庫の朝は以前よりも穏やかに、しかし確かに明るくなっていた。
ヴィレムはその後ろ姿を見つめる。静かに呟く。
ヴィレム「……ああ……守られたな」
遠くの空に目をやり、どこか向こうにいるキリトのことを思う。
クトリはふと立ち止まり、空を見上げる。誰もいない。だけど、彼女は小さくつぶやく。
クトリ「……頑張ってるよ」
そして再び走り出す。手には、壊れたトリガーと、大切な布。もはやそれは単なる“物”ではなく、誰かが残してくれた、希望そのもの、そして“普通”そのものだった。
風が吹く。子供たちの笑い声が響く。日常の穏やかさがここにある。キリトが残したものが、この場所に確かに生きている。未来はまだ始まったばかりだ。
■後日談
長編の異世界クロス作品を書きました。
テーマは「普通」。守られること、泣けること、それを許されること——そんな当たり前を描いた話です。
キリトとクトリを中心に、戦いと日常、そして別れまでを書いています。
読んでくれた方に、率直な感想をもらえたら嬉しいです。
・印象に残ったシーンやセリフ・キリトの行動や考え方をどう感じたか・クトリの心情や変化が伝わったか・ラスト(別れ)の受け取り方
短くても大丈夫ですし、良かった点も気になった点もどちらも歓迎です。
「どこが刺さったか」「逆に刺さらなかったか」など、正直な感想を教えてもらえるとすごく助かります。
シンフォギアの世界で、キャロルを主人公の身内のうち、どちらにしますか?
-
娘
-
妹