ジェニュエン・ヒロイン   作:赫牛

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夜に誓って/恋につかれて

「ここは……?」

「私の部屋ですよ」

「来那の……?」

「ええ、美琴さん、あの後すっかり眠ってしまいましたから」

 

 あの後。

 来那と話していたら悪魔に襲われて、僕があの白い鎧になってそれを倒した。夢の様に感じるけど、本当の事。

 

「一人でここまで?」

「いえ、ちょっと人を呼んで運んでもらいました」

「……そっか」

 

 安心した所で、視線を周りに向ける。

 その部屋には白が多かった。壁の塗装は白、本棚も白、勉強机も白。その上に置かれた何かのマスコットらしき球体だけピンクで、僕が今寝転んでいるベッドの布団も白。彼女が着ているワンピースも白で起き抜けの目には少しぼやけて見える。壁にかかった時計の黒い文字盤が、やたらとはっきり見える。それは10時半を示していて、その事を理解するのに少し時間がかかった。気付いた僕は布団を跳ね除けて上体を起こす。

 

「もうこんな時間!?帰らないと……」

「駄目ですよ、美琴さん。もう遅いんですから出歩くのは良くないです」

「でも……」

「今日は泊っていってくださいな。こんな時間ですけど夕飯も用意しますから、ね?」

 

 そう言いつつ、来那は僕の手を両手で包んだ。柔らかくて、優しくて、暖かい手だった。

 

「分かった、ありがとう来那——」

 

 そこまで口にしてはっと気付く。襲われていて焦っていたとは言え、いつの間にか来那の事を呼び捨てにしていた。

 

「ごめん、僕、君の事全然知らないのに来那って……」

「今更ですね。そのまま来那で大丈夫ですよ」

 

 くすりと笑った来那は、その表情をいたずらっぽいものに変えてみせる。

 

「じゃあ私も、美琴と呼んで良いですか?」

「え……」

「貴方だけ、は不公平でしょう?」

 

 じっと来那に見つめられる。それ以上何も言わないけど、圧力を感じる。

 

「分かった、うん、大丈夫」

「ふふ、ありがとうございます、美琴」

 

 これで良いんだよね、多分。初対面の内に距離が縮まったのは小学生以来だから、年頃の女の子相手の対応と言うのは良く分からない。

 もしかしたら、こう言うのを青春と言うのかもしれない。

 

 

 

 

 

 そして流されるまま夕飯を食べ、風呂に入って少しお喋りをして、そして通された客間のベッドに潜り込む。

 そうしている間は二人きりだった訳ではなく、常に使用人らしき人達が誰かしらいて、夕飯を用意したり部屋の入口に立って、おそらく警備等していたようで、女の子と二人であると言う状況以上に緊張した。別に僕は変な気を起こす気は無いけど、素性も知らない男が転がり込んできたんだ、警戒するのも仕方ない。

 布団は柔らかくて良い匂いがして、だけどさっきまで寝ていたのもあってかどうにも寝付けない。どこでも寝れる性質(たち)ではあるが、今日は妙に落ち着かない。

 一体、何のせいだろうか。悪魔のせいか、それとも……。

 扉の開く音がする。誰かの足音が近づいてきて、僕が背中を向けている方のベッドの端が少し沈む。

 

「起きていますか、美琴?」

 

 来那だ。

 

「うん。どうしたの、来那」

 

 振り向いて応えると来那は一瞬目を伏せて、それからまた僕を見る。

 

「その……美琴が嫌じゃなければ、隣に入っても良いですか?」

「え?」

 

 僕が聞き返すと、来那は口を結んでそっぽを向いてしまった。

 

「やっぱり何でもありません、忘れて——」

「待って!」

 

 手を伸ばし、離れようとする来那の腕を掴んだ。

 

「いやその、嫌とかじゃないから……だからその、ど、どうぞ?」

 

 躊躇いながらもそう言うと、来那は顔を輝かせた。

 

「はい。じゃあ失礼します」

 

 背中を向けて奥に寄ると、空いたスペースに来那は収まったみたいで、少しベッドが軋む音がしたのを最後に静寂が訪れる。ちらりと後ろを見ると、来那も僕に背を向けて寝ていた。視線は合わせない。だけど、凄く近い。

 不意に、疑念が込み上げる。

 

「来那は、僕が怖くないの?」

「怖い、とは?」

「だって僕、あんな変なのになってたのに。どう考えたって普通じゃないでしょ」

 

 悪魔だけでもおかしな話だが僕の方だって大概だろう。いきなり妙な姿に変わってしまったのだから、普通怖いと思う。僕だったら近づかないようにする。

 衣擦れの音がして、微かに感じる熱が少し近づいてきた気がした。

 

「おかしなことを言うんですね」

「そうかな?」

「貴方は私を守ってくれたのに、それを怖いだなんて……貴方が今、隣にいてくれて私はとても嬉しいです」

「来那……」

 

 来那の方に体を傾けると、来那もこちらを向いていて視線が合った。

 

「一つ、正直に言っても良いですか?」

「なに?」

「危険だからと貴方を引き留めましたが……あれは建前。本当は一人になるのが怖くて、貴方に傍にいて欲しかったんです」

 

 申し訳なさそうに笑う来那の顔を月明かりが微かに照らす。

 

「美琴に守って欲しくて、ずるい言い方をしてしまいました。ごめんなさい」

「……良いんだよ、来那」

 

 本当は色々聞きたい事もあるけど、今はただ、僕ができる事をするべきだ。

 来那の肩に、優しく手を置く。

 

「君は僕が守るから、だから大丈夫」

「美琴……」

 

 僕の名前を呟いて笑う来那の顔に、夕焼けの下で見た時とはまた違う感情が沸き上がってくる。

 キスの一つでもするべきか。一瞬浮かんだ変な考えを隅に追いやって、肩を抱きよせる。驚いた様な声を上げた来那は、すぐに体を預けてきた。

 そのままの姿勢でどれだけいただろうか。不意に小さな寝息が聞こえてくる。来那のものだ。安心して眠ったのだろう。

 

「おやすみ、来那」

 

 来那の額に僕の額をくっつけて、僕も目を瞑る。

 

 

 

 

 

 あの夜が明けて。

 あの後ライナと別れた俺は何事も無かったかの様に家に帰って、何も無かったかの様に目覚めた。全部が夢だったみたいに、俺の周りは変わっていなかった。

 一瞬、本当に夢だったのかとさえ思った。しかしライナの体の温もりは、到底夢だったとは思えなかった。

 俺と別れた後、ライナは無事家に帰ったのだろうか。俺が家まで送ると提案したのを近くだからと断ったのは良いが、道中でまた悪魔に襲われたりしなかっただろうか。

 駄目だ。ライナの事ばかり考えてしまう。

 せめてまた会えたなら。夢じゃないと確信できたなら。

 ライナは俺の事を運命だと言った。それが本当なら、またどこかで出会えるかもしれない。

 今の俺には、そんな希望的観測をする事しかできなかった。

 

「おはよう、藍」

「……あ、ああ、おはよう」

 

 一瞬遅れて、美琴が話しかけてきた事に気付く。

 

「どうしたの、元気無い?」

「別にそう言う訳ではないんだが……」

「ふーん……」

 

 席に座った美琴はじっと俺を見てくる。

 

「な、何だよ」

「いや、好きな人でも出来たのかなって」

「なっ……!」

 

 そしていきなりそんな事を言ってくる。

 

「ば、馬鹿言うな!高3の秋だぞ?そんな事に現を抜かす暇なんてないだろ」

「好きな人が出来るのに時期は関係無いと思うけど……じゃあ出来たんだ」

「出来てない何を聞いてるんだ!」

 

 こいつは偶に人の話を聞いているのか分からなくなる時がある。そのくせ見透かした様な事を言ってくるから性質(たち)が悪い。

 

「なに?藍くん好きな人が出来たの?」

 

 問答をしていると一人の女子が俺達に近づいてきた。同じクラスの高橋芽衣(たかはしめい)だ。ずいと顔を近づけるものだから、濃い赤に染まった髪が俺の鼻先に触れた。

 

「違う。そんなんじゃない、こいつが勝手に言ってるだけだ」

「えー、でも周防くんの言う事って割りと当たってるから、やっぱ出来たんだ、ふーん」

「だから違うって……ああもう……」

 

 この高橋さんは、俺の思い違いでなければ俺の事を好いている。今年の春に同じクラスになってから何かと傍によって来たり、話しかけたりしてくる。この前二人きりになった時にそう言う雰囲気を醸し出されたのが極めつけだった。その時は気付いていない様に装って切り抜けたが、どうやらまだ諦めていないらしい。だから俺のそう言う噂を聞いて、もしかしたらまた何かアクションを起こされるかもと思うと気が滅入る。

 チャイムが鳴り、ほぼ同時に担任が教室に入ってくる。何か言いたげな高橋さんは、しかし何も言わずに自分の席に戻っていった。

 

 

 

 

 

 夕方。

 この日の授業を終え、帰路につく生徒達。

 

「藍は今日も塾?」

「ああ、悪い」

「大丈夫。じゃあまたね」

 

 手を振る美琴を見送りつつ帰る用意をする間も、俺は警戒していた。

 他の誰か、特に美琴がいる間は、彼女は何か仕掛けてきたりはしないだろう。なら塾まで美琴と一緒にいれば良いと言う話にはなるが、俺のプライベートな厄介事にあいつを巻き込みたくはない。俺の問題は俺自身で解決すべきだ。そもそも何もしてこない、俺の考え過ぎな可能性だってあるのだ。尚更付き合わせられない。

 

 そして校門を出た時に、声を掛けられる。

 

「らーんくん?」

「っ……ああ、何かな?」

 

 甘ったるい声で俺の名前を呼ぶのは、紛れも無く高橋芽衣だった。

 

「ねーねー、今一人?一緒に帰ろうよ」

「一緒にって、俺達別にそんな仲じゃないだろ」

「えー冷たーい。良いじゃんそうじゃなくても。ほら、一人で帰るのって危険だからさ、ね?」

 

 媚びる様な上目遣いで俺を見る彼女。俺が一番嫌いなタイプにドンピシャだ。

 

「噂される様な事を不用意にするもんじゃないぞ」

「私は噂されても良いもん」

「それは……そうかもしれないが」

 

 要求するくせに、こちらの意見には反論ばかりする。知り合ってからずっとこんな調子で、だから俺はこの人の事が苦手なんだと思う。

 兎に角、彼女はどうあっても一緒に帰る気らしい。

 

「良いじゃん別に、一緒に帰るだけだよ?」

「……勝手にしろ」

 

 なるべく冷たく聞こえる様に言って、彼女に背を向ける。

 下手に断って変な事をされても困る。ここは一旦要求を呑んで高橋さんを落ち着かせる方が良いかもしれない。

 当然の様に彼女は俺の横に並んで、話しかけてくる。それを適当にあしらいながら、時間が早く過ぎるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 塾に着くと流石の高橋さんでも帰ると言って付いては来なかった。だから今日はもう彼女の顔を見なくて良い。

 そう思っていたのだが。

 帰る俺の前を歩く人が皆、門を出た所でちらりと左を見る。それが気になって俺も見たのだが……。

 

「なっ……高橋さん?」

「あ、やっと出て来たー。随分遅くまでやってるんだね」

 

 高橋さんが門の外にしゃがみ込んでいた。何故かなど考えるまでもない。俺を待っていたんだろう。

 

「ずっと待ってたのか?通報されてもおかしくないぞ」

「大丈夫だってー、それより早く帰ろ。こんな遅くなっちゃったし。あ、どっかでご飯食べに行く?」

 

 当然みたいな顔をする彼女に、呆気に取られる。少し満足させればそれで終わるだろうと浅はかな予測を立てた自分を殴りたい。

 

「ねえどうするー?……あっ、ちょっと」

 

 これ以上関わると何か言ってしまいそうだったから、何も言わずに背を向けて歩き出す。しかし高橋さんは構わずに付いてくる。

 

「ねーねーどこが良いと思う?私ハンバーガーとか食べたいんだけど……」

 

 聞き流しているはずの彼女の言葉が、やたらと耳に障る。

 

「藍くんって洋食の方が好きだよね?だったらこっちの方が良いかな……」

 

 それでも応えない様に、無心で歩く。歩きたかった。

 

「あ、それか藍くんの家にお邪魔しちゃおっかな?一緒にご飯を——」

「いい加減にしろ!」

 

 彼女がまくし立てる言葉の内容が内容だから、つい反応してしまった。と言うより、もう我慢の限界だった。

 

「人の気持ちを無視して勝手に話を進めるな。俺は別に君と食事をしたいなんて思ってないし、一緒にいたいとも思ってない」

「藍くん……?」

「君の気持ちは嬉しいがこの際はっきり言っておく。俺は君の事は好きじゃない。だから、君が望む様な事はできない。もうやめてくれ」

 

 俺が言い放った言葉が誰もいない広い路地に響く。

 ため息をつき、背を向ける。ここまで言えば流石に諦めるだろう。

 

 

 

 一瞬でもそう考えた自分の甘さを、俺はまた痛感する事になった。

 

 

 

「やっぱりそうなんだ……」

 

 冷え切った高橋さんの声がした。彼女のものとは思えない程低く小さくて、鳥肌が立つのを感じる。

 振り向くと、高橋さんは虚ろな目で俺を見ていた。

 

「藍くんは他に好きな人がいるから、だから私の気持ちに応えてくれないんだ……」

「好きな人って、それは関係——」

「私見たもん!昨日藍くんが知らない女と一緒にいたのを!」

 

 叫んだ高橋さんから普段の比じゃない圧を感じて、汗が一筋垂れる。

 昨日見た知らない女。それはつまり、ライナの事か。

 

「もう良い……藍くんが振り向いてくれないなら、無理矢理私のものにする……!」

 

 そう言って高橋さんは鞄を探る。そして取り出したのは、通学鞄から出てくるには余りに場違いな物。

 スタンガンだった。

 スイッチを入れたのか、威嚇する様に一筋走った電流が目を焼く。そして高橋さんは鞄を捨てて動く。

 

「待て!……くっ!」

 

 突きつけられたスタンガンを間一髪で避ける。勢い余って地面に倒れ込んだ高橋さんは、幽鬼の様にゆらりと立ち上がるとこちらを睨む。

 

「動かないで……言う事聞いてよ藍くんっ!」

「もう止めるんだ!こんな事したって俺は——」

「うるさいっ!」

 

 高橋さんは再びスタンガンを構えて向かって来る。

 女子相手に手荒な真似はどうかと思うが、こうなってしまったならやむを得ないか。

 

「くそっ!」

 

 スタンガンでの突きを左に受け流し、彼女の背後に回り込んで無防備なスタンガンを持つ腕を掴む。力を入れて締め上げると耐えられなくなったのか、高橋さんはスタンガンを落とした。

 そして高橋さんよりも先にそれを拾い上げ、彼女の首に押し当ててスイッチを入れた。

 

「あっ……」

 

 体を震わせた高橋さんは小さく声を漏らし、全身から力が抜けて動かなくなった。気を失った彼女を一先ず地面に降ろし、強く握っていたスタンガンを投げ棄てる。

 思わず大きなため息が出る。高橋さんの俺への執着がこんなに大きかったとは予想もしていなかった。降りかかった先が俺だったから何とかなったものの、もしこの狂気がライナに向けられていたらと思うと身震いする。

 しかし信じられない。まさか高橋さんがこんな事をするなんて。俺への態度は度を超すものがあったが、それ以外では普通だと思っていたのに。普段の彼女ではなく、まるで何かに取り憑かれている様だった。

 

 

 

 何かに、取り憑かれる?

 

 

 

「まさか……」

 

 思わず呟いたのと同時に周囲の街灯が消え、暗闇が一層濃くなる。異様な空気の中僅かな星明かりが作る高橋さんの影が伸び、そこから勢い良く何かが飛び出す。

 それは紛れも無く悪魔だった。しかし昨日見たものとは違っていた。黒く硬質なものと動物の様な毛が生えたものが継ぎ接ぎになった皮膚。腕は人間のそれより長くその下に皮膜を持ち、尖った耳を備えた頭部には鋭い牙が光っている。コウモリと悪魔を合わせた様なそれが、俺の前に立っていた。

 

「お前が彼女を……」

 

 高橋さんの想いが嘘ではないのは知っている。しかし彼女の行き過ぎた行動は、おそらくこいつが彼女を暴走させていたのだろう。正に悪魔の所業だ。

 悪魔は翼を広げ、俺に跳びかかる。辛うじてそれを避け、距離を取って身構える。

 低く唸る悪魔と対峙して、不意に俺の体が熱くなる。腰の辺りに、あの赤い宝石が出現していた。

 そうか、これは俺の体を離れた訳じゃない。だからこの力はまだ、俺の中にあるんだ。

 風が吹く。顔を上げると飛んだ悪魔がすぐそこまで迫って来ていて、脚に生えた鋭い爪が俺を突き刺そうとしていた。

 

「っ……!」

 

 命の危機を感じると同時に、体が光に包まれた。全身が鎧に覆われ、力が体中に満ちていく。

 姿を変えた俺は寸での所で悪魔の両脚を掴み、力を込めて投げ飛ばす。地面を転がった悪魔は立ち上がって俺の姿を認めると、身構えて低く唸った。

 互いに間合いを計り、再び悪魔が飛ぶと同時に両肩の刃を引き抜き、二つ同時に投擲する。悪魔の首を狙った刃は寸前で躱されてしまったが、悪魔がそれに気を取られている隙に跳躍、引き絞った拳を悪魔の顔に撃つ。

 着地と同時に帰ってきた二つの刃をキャッチし、墜落した悪魔に向かって振り下ろす。刃が悪魔の身体を切り裂き火花が散って、濃い闇を照らし出す。

 隙を縫って悪魔が翼を俺に叩きつける。だが痛くはない。それを無視させる程俺の中で渦巻く怒りが身体を突き動かす。

 俺に危害を加えようとした事もある。しかしそれよりも、彼女の気持ちを利用した事が許せなかった。例え俺にとっては邪魔だったかもしれなくても、彼女にとってはきっと大事なものだと思うから。

 強く切り裂いた一撃が悪魔を吹き飛ばす。その隙に構え、力を刃に込める想像をする。

 そして悪魔が立ち上がった瞬間走り出し。

 

「たあああああっ!」

 

 すれ違いざまに二刀で悪魔の胴を断ち切った。

 断末魔を上げながら悪魔は爆発し、俺を取り巻いていた闇は薄らいでいった。

 

 

 

 

 

 警察に通報し、高橋さんが無事警察に保護されるのを陰から見送ってから帰路についた。

 時間ももう遅いし、色々あって大分くたくただ。もう何も無ければ良いのだけれど。

 そんな俺の願いは、意外な形で裏切られた。

 俺の家の前に誰かが立っていた。既視感を覚える光景。しかし違ったのは、そこに立つ人は桃色の髪で白いワンピースを着ていた事。

 

「ライナ……?」

 

 思わず漏らした声にライナは反応し、ぱっと顔を輝かせる。

 

「こんばんは、藍」

「ライナ、どうして……」

「藍に会いたくて、来てしまいました」

 

 いたずらっぽく笑うライナ。何故俺の家が分かったのかとか、またこんな時間にとか、色々言いたい事はあるけどそれよりも嬉しさで言葉が出てこなかった。

 

「つきましては藍……お邪魔しても、よろしいですか?」

「お邪魔って、俺の家に?」

「はい!」

「ああ、良いけ……ど……」

 

 にこりと屈託無く笑うライナの言葉に返事をしそうになって、思い出す。普段忙しくて中々家に帰って来ない父親が、今日は帰ってくると言っていたのを。

 これは。

 

「不味いか……?」

「え、やめた方がよろしいですか?」

「え、あ、いやそんな……」

 

 不安そうにこちらを見るライナをこのまま返すなんて残酷な事は俺にはできなかった。

 目を瞑り天を仰いで、俺は覚悟を決めたのだった。

 

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