前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
王立魔導学院には
2年前、教師陣が闇魔術によって身動きが取れない中、学院に襲い掛かった邪竜を当時1年生が返り討ちにしたのだ。
一人の犠牲を経て勝利した者達は今や3年生。
そして今年、魔法騎士を目指す主人公の少年が入学し、新たな伝説が始まる───。
…………というRPG【アルカナ・クロニクル】の世界に転生して15年。
そんな通称【アルクロ】の世界で、主人公に関わることなく過ごしていた私ことエマ・ホートン子爵令嬢は…………
婚約者から婚約破棄および魔導学院の退学処分を宣告されてしまった。
◇
(あ、あれ?ここって悪役令嬢ものの世界じゃないよね?何でこうなる?何でこうなったの??)
人気のない旧校舎の裏庭にて、私は膝を抱えて混乱する。
つい先日、婚約者の青年から言われてしまったのだ。
『エマ・ホートン子爵令嬢。貴様に闇魔術の使用疑惑がかかっている。【聖女】アリアが貴様から闇魔術の残穢を感知したそうだ』
学院に入学したのと同じタイミングで婚約者になった、3年生のセシル・マクレーガン。
そして彼の後ろには可愛らしい少女が控えていて、彼が見てないのを良いことに私ににっこりと微笑んでいた(ちなみに【聖女】とは白魔術のエキスパートである女子生徒に贈られる称号だ)
生徒達で騒めく学院の廊下にて、セシルに言われた言葉に困惑していると彼は淡々と続ける。
『だが学院の規則に乗っ取り、貴様にもチャンスを与えよう。
いや、そんなこと言われましても………。
付与魔術とちょっと火を出せるくらいしか能のない私に決闘は無理だ。
しかもセシル・マクレーガンは、2年前に邪竜を倒したと言われるメンバーの一員。
そんな伝説の代相手に勝てるわけがない。
───と思っていたのだが、私の生家が勝手に決闘裁判を受諾してしまった。
「魔術評議会からの勧めで婚約させたとはいえ、たかが平民の分際で貴族に喧嘩を売るとは何事か!」と大して家格も高くない生家が怒り心頭で引き受けたらしい。
けれど、だからといって決闘裁判でぼこぼこになんてされたくはない。
(そもそも闇魔術なんて使ってないよ!絶対誤解だよ!でも相手はあの伝説の代のセシル・マクレーガンだし、聖女の女の子が言ったことなんて皆信じるに決まってる)
ぼこぼこにされる未来しか見えない。
元婚約者とはいえ今まで全く話したことなかったし、きっと手加減もされないだろう。
こうなったら決闘が始まる前に棄権することを宣言するしかない。
(頑張って勉強して魔術学院に入学したんだけどな………)
生家との折り合いが悪くて、家を出たい一心で頑張ったのだ。
入学して「アルクロの主人公のリュカがいる!すごい!」と感動して、隅っこの方で大人しく過ごしていたのに。
きっとあのセシル・マクレーガンの婚約者ということで聖女アリアに目を付けられたんだろうなと苦笑してしまう。
だってあの子、いつもセシルを見ていたし。
私という婚約者がいても気にせず、隙あらば話しかけていたし。
というか、私なんてセシルとは婚約の顔合わせ以来話してもいないのにな………。
するとその時、真上から声がした。
『……───本当にひどいな。セシルの奴、過去に闇魔術で色々あったから過敏になるのは分かるけど、こんな女の子相手に決闘裁判をするとか正気じゃねえよ』
誰だろう。
そう思って上を見上げると、半透明の青年(少年?)がふよふよと浮かんでいた。
目を丸くして凝視すると、向こうもびっくりした様子で私を見つめる。
『もしかして、俺のこと見えてる?』
「み、みえてません」
『いや、見えてるよな!?』
「ごめんなさい!見えています!」
ゆ、幽霊だーーー!?
この世界にもゴーストとかいう魔物は存在するけど、こんな鮮明な感じじゃない。
学院の制服とローブ。それから跳ねた黒髪に人懐っこそうな笑顔の男子生徒の幽霊にパニックになる、が。
そこではた、と動きが止まった。
…………あ、あれ?
この人、アルクロの前作【アルカナ・ブレイヴ】の前作主人公じゃない………?
【アルカナ・ブレイヴ】とは【アルカナ・クロニクル】の前シリーズで、《伝説の代》の3年生達が1年生だった頃の話がゲームになっているのだ。
ラストは魔導学院に襲い掛かる
それもあって今シリーズ【アルカナ・クロニクル】が作られたという話もあった。
その前作主人公、シロウ・ブレイヴにこの幽霊がすごく似ている…………。
「…………あの、シロウ・ブレイヴさんによく似ていらっしゃいますね?」
『似ているも何も本人だからな』
困ったように笑みを浮かべる幽霊にポカンとする。
う、うっそだあ………。
だって、え、良いの?前作主人公、幽霊になってるんだけど。流石にそんなわけないよね?
そんな成仏できてない状態でアルクロが始まるわけないし。
(…………ていうか私、アルブレやってないから、この人が本当に前作主人公か分かんないし)
実のところ、私は前作【アルカナ・ブレイヴ】をやっていないのだ。
アルブレが発売されたのは私が生まれる前だったし、前作をやらなくても今作のアルクロは何の問題もなく理解できたからだ。
すると、前作主人公の幽霊───自称シロウさんは、寂しそうに口を開く。
『アイツ、俺がいなくなってから女の子相手に決闘裁判するほど落ちぶれたのかよ』
「…………」
『…………取り憑いても良いなら勝たせてあげるけど、どうする?』
「えっと、それはあ………」
そう提案する幽霊に冷や汗がたらりと流れた。
正直、人外相手に体を明け渡すのはあんまり良くないような気がする。
婚約破棄に退学処分。
そして決闘裁判からの前作主人公(自称)の幽霊の登場。
私はもう頭がいっぱいいっぱいだった。