前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
決闘裁判から3日経った。
私を陥れようとしていた【聖女】アリア・ローゼマリーは闇魔術の残穢がびっしりとついた呪物を持っていたため一発アウトで学院退学。
現在も憲兵からの調査や尋問を受けているらしく、兵舎に囚われているそうだ。
それからセシル・マクレーガン、もといセシルさんも自主退学。
ホートン子爵家に婚約破断金を一括で支払い、その後は冒険者ギルドの魔術師として生計を立てるそうだと噂で聞いた。
そして私はというと───何故か前作主人公の霊シロウさんが、私の半径100m以内から離れられなくなってしまった。
「何でだろうね、シロウさん………」
『何でだろうな、エマ………』
シロウさん曰く、どうやら一度取り憑いてしまった影響で魂が私の身体から離れられなくなっているかもしれないとのことだった。
しかし強制的な共同生活を余儀なくされているものの、私自身はあまり困ってはいない。
というのもシロウさんは紳士なのか、私の許可がないと寮部屋───そもそも女子寮に入ろうとしないのだ。
緊急でアリア・ローゼマリーの部屋の呪物を探したということもあったが、基本的にシロウさんは女子寮の中に入らず外でふよふよしてくれている。
それにシロウさんと一緒にいるのは授業中とかお昼休みくらいで、あとは私の半径100m圏で単独行動してくれるため割とプライバシーは守られていた。
「シロウさん、ありがとうね。色々と配慮してくれて」
『当たり前だ。見えないからって女子のあれこれを覗くのは違うだろ』
良い人である。
彼がそういうスタンスであるものだから【男の子の幽霊】というよりも、何だか保護者みたいな目で見てしまいそうだ。
「それよりもシロウさんに行動制限させてるのが申し訳ないな」
『気にすんな。そもそも俺が勝手に憑依したからこうなったんだからな』
いや、もう、良い人というより、達観しすぎてるな………。
私が気にしないようそんな風に言ってくれる彼に「生前はモテてたんだろうな」と思う。
『ま、こんなことになったんだ。いつまでもこのままってわけにはいかないし、白魔術師に《
するとシロウさんが何とでもないような顔をして言う。
それに私はポカンとしてしまい、慌てて聞き返した。
「え、除霊?」
『ああ、はっきり言って今の俺には未練なんてないからな。そんな状態で成仏できず現世に囚われているのは良くないだろ。それにお前だってずっと俺に取り憑かれても困るんじゃねえか?』
あまりにもあっけらかんとした物言いに、私の方が戸惑ってしまう。
え、でも、良いのかな。
そんな無理矢理除霊させてしまって。
だって《
どうしたら良いのか分からないけれど、正直言って恩人相手にそんな乱暴なことしたくない。
『そんな顔するな。そもそも俺がここにいるのが間違っている。それに俺がいつ悪霊に転換するか分からないしな』
「………はい」
シロウさんが何の後腐れもなさそうに言う。
それに少しだけ寂しく感じてしまった。
◇
あの決闘裁判以来、私の学院での生活は変わった。
冤罪によって受けていた嫌がらせや中傷は止んだものの、何だか切れさせたらヤバい奴だと思われてしまい、遠巻きにされるようになってしまったのだ。
中には私が(一応)貴族の令嬢という立場からか、同じ貴族出の子達は誤解していたと謝ってくれたり、家が商家の子達も今後のことを考えて謝罪してくれていたりする。
別に彼らに表立って何かをされたわけではないけれど、これから付き合いがあるのなら今回のことはお互い水に流しましょうね、ということだ。
しかし問題は平民出の生徒達だった。
アリアやセシルさんが退学したのがよっぽど衝撃的だったのか「こいつに関わったら最悪退学させられるぞ」なんて噂が風潮されて、少々視線が痛い。
入学早々冤罪をかけられ、ぼっちで過ごすことになったから一人には慣れてるものの、やはり居心地が悪いのは変わらなかった。
授業も終わり、辺りはオレンジ色の夕日に包まれている。
女子寮へ帰ろうと人気のない廊下を歩いていれば、後ろから声をかけられた。
「ホートンさん!」
誰だろう。
振り返ってみれば、そこにはフィリスがいた。
今作【アルカナ・クロニクル】のヒロイン、フィリス。
ストロベリーブロンドの髪を持つ美少女だ。
しかしつい先日、彼女から詰められたことを思い出し自然と身体が強張る。
きっと彼女の友人であるアリア・ローゼマリーを間接的に退学させた私を憎んでいるのだろう。
(何て言われるんだろう。早く済めば良いんだけど………)
駆け寄ってくる彼女に気まずくなりながらも立ち止まる。
しかし私の予想に反して、フィリスは勢いよく頭を下げた。
「ホートンさん、この間はごめんなさい!」
突然謝罪をするフィリスに驚いてポカンとしていれば、彼女は焦った様子で早口で話し始めた。
「この間貴女の話をろくに聞かず【闇の魔術師】だと決めつけて詰め寄ったでしょう?私、アリアと友達だってだけで信用できると決めつけて、貴女を悪者にして本当に酷いことしたと思う」
「あ、いえ」
「自分でもすごく都合が良いと思ってるし、絶対に許せないと思う。だから、別に謝罪を受け入れてほしいわけじゃなくて………ああ、ごめんなさい!ちょうど貴女を見かけたから、すぐに謝んなきゃと思って走って来て、でも全然考えがまとまらなくて………!」
ウェーブした長い髪をくしゃくしゃとさせながら口ごもる彼女に、何だか等身大の女の子を見ているような気持ちになる。
フィリス・ラングレー。
小さな片田舎の村から入学してきた少女。
何だか普通の女の子のように思えてしまう。
何より、確か彼女はアリアの部屋から呪物を見つけ出してくれたんじゃなかっただろうか。
ふとシロウさんに視線をやれば、彼は大きく溜め息を吐いた。
『無理に許さなくても良いんじゃねえのか?言葉だけの謝罪なんてどうとでも言えるだろ』
確かに彼の言う通りだろう。
けれど私の中にフィリスへの怒り───というよりも落胆はもうない。
許す許さないどうこうよりも、もう気にしていないというのが正直だった。
そこでふと閃く。
フィリスは入学時点で大体の白魔術を扱える。
そのため《
「あの、ラングレーさん。私はもう気にしていないから大丈夫です。それよりも頼みたいことがあるんですが……───」
顔を上げて不思議そうにするフィリスに、私は続けて口を開いた。
「私に《