前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
フィリスと別れた後、黄昏時の真っ赤な夕日に照らされながら女子寮へゆっくりと歩く。
私の後ろにはシロウさんがふよふよと着いてきていて、誰もいないのを確認した後、納得していない声音で話しかけてきた。
『なあ、エマ。アイツを許したのは百歩譲って分かるが、何であそこで《
確かにシロウさんの言う通りである。
フィリスに「ゴーストの呪いがかけられているかもしれない」とか言いかけてもらえば、きっとシロウさんを払うことができただろう。
シロウさん自身もそう言っているのだから、問答無用で除霊をすれば良い。
けれど、そういったことは私にはできなかった。
「シロウさん。シロウさんは本当に未練はないんですか?」
立ち止まって振り返ると、シロウさんが目を見開いていた。
私には、未練がたくさんある。
前世でろくに兄に恩返しをすることもできないまま、高校生の時に死んでしまった。
もう理由は思い出せないけれど、登校する前に些細なこと喧嘩して、そのまま家を飛び出して。
学校へ行く途中に、ナイフを持った通り魔に刺されて殺された。
今世でも早くに両親を亡くしたけれど、彼らが馬車の事故で亡くなるまでとても大切に育てられたのを確かに覚えている。
そんな両親にもっと
そんなたくさんの未練が、私にはある。
シロウさんには、そういった未練がないのだろうか。
自分がそうだからシロウさんも、とまでは言えないけれど、もし彼にほんのわずかでも未練があるのなら叶えたかった。
『…………俺がこのまま現世に留まって、悪霊に転化したらどうする?それに悪霊にならずともお前を利用するかもしれないんだぞ』
「だから私が《
幸い別れ際、フィリスに、私に闇魔法の残穢がないか確認してもらった。
残穢を感じないと言っていたから、きっとシロウさんは悪霊ではないのだろう。
ただ単純に現世を彷徨っているのなら、決闘裁判の礼もあるし彼の力になりたかった。
『とんだお人好しだな。お前が寝ている間に俺が好き勝手動くとは思わないのか?』
「え、するんですか?」
『いや、基本的に誰かに取り憑くのは魂が剥離する程の衝撃や相手の了承が必要だから無理だが………』
そう言って正直に否定するシロウさんに苦笑してしまった。
私よりもきっと、この人の方がお人好しだろう。
「シロウさんが満足して成仏してくれるのが一番良いけど、『もう大丈夫』って思える時まで付き合います」
私のそばにいるのが嫌だって言うのなら、今すぐにでも除霊する。
けれどそうでないのなら取り憑いてもらっても構わない。
だって、焦って成仏する必要はどこにもないのだから。
するとシロウさんがゆっくりと口を開く。
彼の身体越しにオレンジ色の夕日が透けて見えて眩しかった。
『…………ま、未練なんてないのは本当なんだがな。
ただ、何だろうな。もう少し魔導学院を目に焼き付けておきたい気持ちもあるんだ。たった1年しか通っていないのに、おかしいよな』
シロウさんの言葉に首を振る。
おかしいことなんてない。
そしてシロウさんは私に手を差し出した。
『シロウ・ブレイヴだ。改めてよろしくな』
「エマ・ホートンです。こちらこそよろしくお願いいたします」
シロウさんの手を重ねるとほんの少しだけ触れる感覚がした。
力を入れてくれているのだろう。
シロウさんは、幽霊で、男性だけれど。
私や、見えていないのに学院の女生徒達にも最大限配慮してくれて、お節介焼きでどこまでも優しい。
そんな彼だからこそ、こんな提案をしてしまう。
この先どうなるかは分からないけれど、きっとこの選択は間違ってないんじゃないのかなと思えた。
そんな風に感慨深く思っていると、シロウさんが私の方にやって来て───何故か私のおでこにデコピンした。
「わッ」
『俺だから良いものの、今後こういう約束はほいほいするんじゃねえぞ。俺は幽霊でもう人じゃねえんだ。人外との関わりは気を引き締めてやれよ』
呆れたように溜め息を吐くシロウさんに呆然としながらも「はい」と頷く。
すると彼は仕方なさそうに笑みをこぼしたから、私も思わずつられて笑ってしまった。