前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
シロウさんが正式に私に取り憑くことになって幾日。
決闘裁判で私がシロウさんと同じ宝剣を召喚してみせたことから、3年生の生徒達が何人か話しかけにきた。
そして彼らに「シロウさんから宝剣を譲渡された」と誤魔化し、少し話せば、皆さん私の凡庸具合に残念そうな顔で去っていく。
(しかもあんな魔力消費の激しい戦い方はもうしないって言ったら、余計残念な顔されたなあ………)
宝の持ち腐れじゃん、そう言ってくる人もいた。
大抵そう言う人は私より家格の上な貴族の生徒だけれど、正直私もその通りだと思う。
そんなわけで私は(別に構わないのだが)皆をがっかりさせながら、学院生活を送っていた。
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魔導学院の授業は基本的に単位制だ。
そのため学年はあるもののクラス分けはされていない。
必修科目にプラスして、興味のある科目や授業を通して得られる免許目的で授業をカスタマイズしていくのだ。
ちなみに私は将来、宮廷の付与魔術師として働きたいため、付与魔術師になるための
そして治癒メインの白魔術師と戦闘補助メインの付与魔術師は取得している授業が被っていることが多く、ラングレーさん───もといフィリスとよく一緒に授業を受けていたりする。
あの謝罪から彼女とは少しだけ仲良くなり《
「あ!エマ!ちょうど良かったわ!ちょっといいかしら」
生徒で賑わう学院の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。
私の横にはシロウさんがふよふよと浮いていて、彼と一緒に振り返る。
そこにはフィリスがいて、先の勢いはどこかへ行ったのか。何だか気まずそうな顔をしてやって来た。
「どうしたの?」
「ええと、エマが良ければなんだけど、リュカとロイが貴女に謝りたいって言っているの。リュカとロイって分かるかしら?」
彼女の言葉に頷く。
そういえばフィリスと一緒にいる時、遠巻きで彼らがこちらを見ていたのを思い出した。
冤罪とはいえ、トラブルを起こした私と仲の良いフィリスが一緒にいるのは心配しているんだろう。
そう内心苦笑しながら思っていたのだ。
「本当は私もまず貴女に謝罪しても良いか聞いてから謝るべきだったんだけど………あんな酷いことを言ったんだから無視しても良いし、許さなくても良いわ。でももし良ければ謝りたいって」
フィリスがふと目を反らす。
その視線の先にはリュカとロイがいて、ばつが悪そうにこちらを見ていた。
それにシロウさんが『ずっと謝りたそうにしていたもんなあ』とつぶやく。
あ、シロウさんは気付いていたのね………。
「全然………というより、私はもう気にしていないから謝らなくて大丈夫だよ」
「そうはいかないわよ!ほら!リュカもロイも来て!」
そう言って強引にフィリスは彼らを呼ぶ。
するとリュカもロイも廊下を歩く生徒達の人波をぬって、慌てた様子でやって来た。
そして廊下の隅に立つ私の前まで来ると、二人がバッと頭を下げる。
「ホートンさん!本当にごめん!」
「俺もすまなかった。君の事情をろくに聞かず、一方的に悪者に仕立て上げ、本当に卑怯者だった」
思いの外深く謝罪する彼らに、廊下を歩く生徒達が何だ何だとすれ違いざまに見てくる。
しかし私の顔を一瞥すると「あ、決闘裁判で何かあったんだな」と納得したような顔をするものだから、私は何だか居た堪れなくなってしまった。
「………さっきフィリスに話したけど、私はもう全然気にしていないから大丈夫だよ。だから顔を上げてほしいかな」
そう言えば二人がゆっくりと顔を上げる。
人懐っこそうな雰囲気に焦げ茶色の髪をした、この世界の主人公リュカ・クロニクル。
整った顔立ちをした黒髪の少年、リュカの相棒兼幼馴染のロイ・ガンフォード。
フィリスの時と同じく、何だか等身大の男の子のように見えてしまう。
失礼な話かもしれないけれど、この先彼らが世界を救う大業を成し遂げるとは思えないくらいだ。
するとリュカが肩をすくめながら口を開く。
「ホートンさんって貴族なのに、全然偉そうじゃないよな。前にタライが落ちてきた時も『大丈夫?』って心配してくれたし」
それは私が前世で小市民だったからに過ぎない。
それにこの世界で私はあまり他の貴族の人ときちんと関わったことがなかった。
現ホートン子爵家当主の手前、貴族の友達なんて作ることはできなかったしパーティーに呼ばれても当主夫妻が断ってきたのだ。
それに貴族の社交界デビューは15歳。
今年の夏に行われるだろうそれが、私にとって本格的な貴族社会への参入になるだろう。
「俺はリュカ・クロニクル。リュカって呼んで」
「ロイ・ガンフォード。よろしくな」
改めて彼らが自己紹介をしてくれる。
何だか感慨深くなって不意にシロウさんに視線をやれば、彼も微笑ましそうな目で私達を見つめていた。
それにますますこそばゆい気持ちになって、私も自己紹介しようとする───が。
その時、私達に割って入るように鋭い声が飛び込んできた。
「エマ・ホートン子爵令嬢!生徒会からの命令だ!今すぐ来たまえ!」
肩をびくりと震わせ振り向けば、色素の薄い金髪に特徴的な鷲鼻の───背の高い少年が立っていた。
彼のことは知っている。
ヘクター・フリント。
私と同じ1年生で、今作【アルカナ・クロニクル】の主人公リュカのライバル(悪役)である貴族の少年だ。
「ヘクター!生徒会の命令ってどういうことだ?エマが何かしたっていうのかよ!」
「ハッ、お前には関係ないだろう。生徒会長からの命令だ。エマ嬢、こんな奴らにかまけていないで、さっさと来い」
「何だと………!」
わ、わあ、すごい。
本当に仲が悪い………!
アルクロの世界で、主人公リュカと同じく魔法騎士を目指すヘクターは何かとゲーム上で突っかかってきた。
話しかければ罵倒するし、たまに勝負を仕掛けられる。
そしてイベントの度にリュカの足を引っ張ろうとする悪役で、ゲーム終盤では主人公リュカの命を狙って闇魔術に手を染め退学。
生家であるフリント伯爵家からも見放されて、最後は闇魔術の使用の副作用で廃人になってしまうという残念なキャラだ。
そんな彼は私を一瞥すると「さっさと行くぞ」と言ってくる。
「話の途中だけど、呼ばれたから行くね」
リュカ達に軽く会釈をし、歩き始めるヘクターの後ろを着いていく。
リュカが何か言いかけようとしていたのが気になるが、また今度話す機会があったら聞いてみよう。
『何の用だろうな?』
傍らでふよふよと浮くシロウさんに、ヘクターにばれないよう「さあ?」と首を傾げる。
するとヘクターは振り返ることもなく話しかけてきた。
「生徒会長であるシャムルーク会長がお呼びだ。何の用か俺も知らないが、くれぐれも粗相のないように」
「………………………シャムルーク会長?」
「? ああ、そうだが」
彼のその言葉に一瞬固まってしまう。
ぼんやりとしていた脳が一気に覚醒するような感覚がし、徐々に深く眠っていた記憶を思い出していく。
魔導学院生徒会長【混血】のシャムルーク。
魔術の起源とされるジャハード王国出身で、学院内でも多数の信者を持つ褐色の美男子。
学院内政治において多大な影響力のある【伝説の代】を良く思っておらず、その影響力を削ろうと闇魔術を使用してセシル・マクレーガンを暗殺しようとしていた男だ。
そしてその企みを偶然知ってしまった主人公のリュカ達が、最初のボスとして彼を倒し、悪事を明らかにし、シャムルークは学院から追放になるのだが───
(……………………あれ、シャムルークって何でまだ学院にいるんだ?)
最初のボスとして彼が倒されるのは4月下旬頃。
リュカ達が学院に慣れてきた頃だ。
しかし今はもうすでに5月上旬。
おかしい、が。
そこで私は理解してしまった。
(そ、そっか………!私がセシルさんを退学に追い込んじゃったから、わざわざシャムルークがセシルさんを暗殺する必要がなくなったんだ………!)
だからシャムルークはセシルの暗殺を企てない。
学院から追放になることもない。
………………え、これってまずいのかな。
それを理解した時、私はゲームのシナリオを大幅に変えさせてしまっていること動揺した。