前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜   作:どきどきわくわくすけ

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第14話 課外演習準備

 

 

 

 基本的にシロウさんは私の寮室に入らない。

 というよりも女子寮へ入らないようにしてくれる。

 

 私に配慮してくれているというのもあるが、彼自身「見えないからってして良いことと悪いことがあるだろ」と言って大人みたいに私に説いてくるのだ。

 年頃の青年であるにも関わらず、やっぱり主人公となる人の器は違うんだろう。

 

 ちなみにシロウさんは私が寮室にいる間は、女子寮の近くにある管理人部屋でのんびり過ごしているらしい。

 

 

 

 そして私はシロウさんが居ぬ間に【アルカナ・クロニクル】のシナリオを思い返していた。

 

「ええと、確か………」

 

 ゲームでは主人公のリュカの、魔導学院での1年が描かれる。

 

 けれど魔導学院の地下に保管される───一度だけ時を巻き戻ることができる奇跡の魔導具『悠久の砂時計』を手に入れるべく、闇の魔術師達が色んな手を使って学院を襲撃してくるのだ。

 

 そして最後には闇の魔術師のリーダー的な存在が【邪神】というものすごく強い魔物を召喚し、それを主人公のリュカや仲間達が倒してハッピーエンド。

 というのが大体のあらすじだ。

 

(シャムルークがいてセシルがいないことに、どれくらいの影響が出るんだろう)

 

 まず主人公組は序盤ボスのシャムルークを倒していないため、経験値もなく大幅な成長や覚醒はしていない(多分)

 

 主人公のリュカは邪神を倒す主要メンバーなのだから、今後強くなってもらわないといけないが───

 

 でもそれって結局ゲームの話で、ここは現実なのだから、私がどうこう動いたってどうにも………。

 いや、でも、もし私が余計なことをしたせいで、闇の魔術師達によって誰かが死ぬような目に遭ったらそれはちょっと………。

 

(………とりあえず、まずは直近イベントの【課外演習】から何とかしなきゃ)

 

 5月半ばに開かれる1年生必修の課外演習。

 魔導学院の保有する森で、指定された魔物の討伐と素材の採取を行うのだ。

 

 広大な森であるためか。

 中々管理することができず、こうして年に何回か授業(・・)と称して棲みついた魔物退治が行われるわけだが、もし指定された魔物を討伐できなかった場合、再受講しなければならない。

 

 野外活動だし割と力仕事であるため、何度もやりたくない。

 研修のメンバー決めは3人までなら自由に組んで良いため、皆チーム決めから真面目に取り掛かっていた。

 

(…………私の場合、まずチーム決めをどうにかしなきゃならないんだよね)

 

 ゲームの本編どうこうよりも、とりあえず一緒に課題を取り組んでくれる人を見つけなければならない。

 

 闇魔術の使用疑惑から決闘裁判まで。

 入学早々色々とやらかしすぎていて、友達と言えるほどの人を作れていないのだ。

 

 最近仲良くなり始めた主人公組に入れてもらえれば早いのだが………あそこは3人で1つみたいなところがあるから、多分入れてもらえないだろう。

 

 このままでは1人で課題こなさなければならない現実に私は頭を抱えた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 とはいえ、こんな私でもチームに誘ってくれる人がいた。

 

 ヘクター・フリント様である。

 

「あの、フリント様。この度はチームに誘っていただき、ありがとうございました」

「いや。それからヘクターで構わん」

 

 チーム選びどうしようかなあと悩んでいたところ、あの(・・)ヘクター・フリントが声をかけてくれたのである。

 課題の準備と対策を行うため、食堂のテラスで作戦会議をする。

 ちなみにシロウさんは興味がないのか、どこかへふらふら行ってしまった。

 

 ところで、どうして私を演習に誘ってくれたのだろう。

 

 そんな風に思っていると、ヘクターは何とでもないような顔をして口を開く。

 

「シャムルーク会長に言われたからな。お前の面倒をみるようにと」

 

 ……………そ、それって。

 トラブル続きの新入生の面倒をそれとなく見てあげてね、というよくある社交辞令みたいな会話なんじゃないだろうか………。

 

(別に本気で受け取るような話ではなく、会話の流れでただ言ってみただけのやつなのでは………?)

 

 シャムルークがどういう意図でそれを言ったのか分からないが、ただ何となくの言葉をヘクターが鵜呑みにしているのならば申し訳ない。

 

 けれどここで彼がいなければ私は一人で演習を受ける羽目になる。

 それだけは避けたかったから、素直に「ありがとうございます」と礼を言った。

 

「それよりも演習の事前準備を始めるぞ。エマ嬢の使用魔法は《結界(シールド)》《身体強化(ブースト)》《小治癒(コスモヒール)》………あと火属性の攻撃魔法か」

「すみません。それから今回の演習では、剣の召喚は、なるべく………」

「ああ。確か魔力消費が激しすぎるんだったな。今回は俺が攻撃メインで動く。エマ嬢はその補助に徹してくれれば良い」

「あ、ありがとうございます!」

「だがやるからには本気でやるぞ!あの生意気な栗頭には絶対に負けないからな!」

 

 栗頭、というのはリュカのことだろう。

 張り切った様子のヘクターに、言われるがまま頷く。

 

 アルクロのゲーム序盤、模擬戦闘授業で主人公のリュカにこてんぱんに負けるヘクターは、それをきっかけにリュカをライバル視するようになる。

 

 そしてシャムルークの学院退学から強い憎悪を抱くようになるのだが…………

 

(シャムルークが退学になっていない今、きっとリュカに対して普通に対抗意識があるだけなのかな………)

 

 彼の内面は分からないけれど、リュカはヘクターにとって絶対に負けたくない相手なんだろう。

 

「…………あの、ヘクター様。学院の森に生息する大まかな魔物の分布と水域の場所はご存知でしょうか?」

「いや、知らん。そもそも入学したての1年がそこまで詳しいはずないだろう」

「そうなんですが、学院に入学する前に卒業生達が個人的に執筆したコラムを収集していたことがあるんです。

 個々では詳細について分からないのですが、それらを読み比べて森の地理や出現する魔物の大体の目途が付きました」

 

 そう言えばヘクターは目を丸くする。

 とはいえ私が持っている情報は、ゲーム内に表示されるMAPの知識だ。

 

 学院の森はこの課外演習後、自由に出入りすることができるようになり、前世ではよく経験値やアイテムのドロップをしに訪れていた。

 だから、どこにどんな魔物が現れるか、また魔物が出現しない川や湖の場所を知っている。

 

 もちろんヘクターに言った言葉も嘘ではなく、学院に入学する前事前準備として色んな魔術師のコラムを読んできた。

 高校入学前とかに、SNSでめちゃくちゃ学校の評判やどんな人が入学するのかリサーチする感覚と一緒だ。

 

「もしかしたら情報が古いかもしれませんが、共有しても良いでしょうか?」

 

 それにヘクターが頷き、私は鞄の中からノートを取り出して簡単な地図を描く。

 描きながら、ここにどんな魔物がいて、ここには湖や川があって………と言っていく。

 

「魔物の討伐を終えて、近くに水場があればそこで解体して素材を採取した方が良いですよね。どの素材が指定されるか分かりませんが、皮や内臓だったら水はあればあるだけ良いですから」

「解体か。座学で一通り習ったが───いや、あの栗頭に負けるわけにはいかん。気張ってやるぞ!」

「はい。頑張りましょう」

 

 彼はゲームの中では悪役で、ライバルキャラで、最後は悲惨な目に遭うキャラだ。

 

 けれどシャムルークが退学になっていない今。

 主人公のリュカに対して憎悪ではなく、カラリとした対抗心をを持つ彼への印象はそう悪くない。

 

 私を誘ってくれたというのもあるが、この演習では出来る限り彼の力になりたいなと思った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

『エマは俺にカンニングを頼まないよな』

 

 ヘクターと別れ寮へ帰路についていると、どこからともなくシロウさんがふよふよと戻ってきた。

 もしかして途中から私とヘクターの様子を覗いていたのかもしれない。

 

「カンニング?」

『ああ。今回の演習だって俺から話を聞けば、どんな魔物が出るかとか色々分かるだろ。それをしないんだなあって』

 

 え、聞いても良いなら全然聞きたいけど………。

 

 しかし、正直シロウさんにそうやって頼るのは何だか良くない気がする。

 私にはただでさえゲームの知識があるのだ。

 その上でシロウさんから色々聞くのは流石にやり過ぎかなと思った。

 

「聞きたい気持ちはもちろんあるけど………」

『あるけど?』

「自分で頑張れるところまでは、頑張りたいなって」

 

 きょとんとするシロウさんに私は慌てて続ける。

 

「あ、でも、全然そんな大それたことではなくて、どうしようもなくなったら、迷惑じゃなければ教えてほしかったりもします」

 

 するとシロウさんはしどころもどろ口ごもる私に仕方なさそうに溜め息を吐いた。

 

『ま、その時は遠慮なく言えよ。使えるものは何でも使わなきゃ』

「はい。ありがとうございます」

 

 誰もいない石造りの道をシロウさんと話しながら歩いていく。

 何だかそれが心地よくて、何故かとても懐かしい気持ちになってしまった。

 

 

 

 

 

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