前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜   作:どきどきわくわくすけ

15 / 21
第15話 シナリオから外れて

 

 

 

 課外演習当日。

 トライアル用の作業着を着こみ、指定された森の入り口へ行くとすでに他の1年生達が集まっていた。

 

 さてヘクターを探さそうと辺りを見渡せば、すぐに分かった。

 ヘクターが主人公組に元気に突っかかっていたからだ。

 

「人数制限ぎりぎりでチームを組むとは随分自信がないようだな?精々魔物に餌と間違われないよう気を付けろよ、栗頭」

「はあーー!?そこまで言うならお前は一人で演習こなすんだろうな!?」

「ほぼ一人みたいなものだ」

 

 すごい普通に嘘つくじゃん。

 

 元気に喧嘩しているリュカとヘクターを遠巻きに見つめていると、その視線に気付いたのか。

 ヘクターが「こっちに来い」と顎で指図してくる。

 

 それにおそるおそる近寄れば、ヘクターはリュカ達に対してあっけらかんと言い放った。

 

「俺とチームを組むエマ・ホートン嬢だ。本来俺一人でも余裕なんだが、シャムルーク会長から直々に面倒をみるように言われてな」

「な、ヘクターとエマがコンビ!?」

 

 リュカが分かりやすく驚く。

 すると彼の後ろに控えていたフィリスが手招きしてきた。

 

 ヘクターとリュカが言い合う横で、こっそり彼女のもとに行く。

 

「もしかしてヘクターから脅されてるの?前にチームはどうするか聞いた時、口ごもっていたから気になっていたけど………大丈夫?リュカとチームを離れても良いから、私がそっちのチームに入ろうかしら」

 

 ヘクターとチームを組むことになった後、それとなくフィリスから演習のチームはどうするのかと聞かれたのだ。

 

 もし一人で参加するようなら私と組まない?と言ってくれたが(優しい)きっともうすでに主人公組でチームを固めているだろうし、そこまで気を使ってもらうのは申し訳ない。

 かといってチームの相手がヘクターであるとも言えず、やんわりと誤魔化していた。

 

「心配してくれてありがとう。ヘクター様もそんなに悪い人じゃないから大丈夫だよ」

「そう?エマが良いなら良いけど………」

 

 シャムルークの退学によって主人公組に憎悪を向けるようになったヘクターならば、ちょっと大変かもしれない。

 けれどそうでもなく、復讐心によって暴走していない今の彼ならば問題ないだろう。

 

 そしてそれよりも、私は彼女らに伝えたいことがあった。

 

「………あの、話したいことがあって。森に入って北西部の奥まで進むと、多分大きな崖がそびえていると思うの。昨日の大雨もあって地盤がかなり緩んでいると思うから、そっちには行かない方が良いよ」

 

 崖があり大雨によって地盤が緩んでいるだろうことは事実だ。

 

 しかしそれよりも、森の北西部の奥には狂暴化した緋熊(クリムゾンベア)が潜んでいる。

 ゲームのシナリオでは、主人公組は本来森に生息しないクリムゾンベアと対峙することになるが、偶然通りがかった監督係のセシルによって助けられ彼と共に撃破するのだ。

 

 けれどセシルが学院を去った今、彼のサポートなしでクリムゾンベアを討伐することは難しいだろう。

 

「どうして森に崖があることを知っているんだ。一年生はまだ森への立ち入りは禁止されているだろう」

 

 すると話を聞いていた主人公組の一人、ロイ・ガンフォードが割って入ってくる。

 それに私は以前ヘクターに話したように説明した。

 

「学院に入学する前に卒業生達のコラムを集めていたの。市井に流れていないものもあって、それらをあらかじめ読み比べて、事前に森の地理の目途を付けていたんだ」

 

 だからもしかしたら情報が古いかもしれない。

 そう言い終わればロイは感心したように言う。

 

「なるほど………貴族による情報収集は侮れないな」

「一応先生にもこのことを伝えるつもりだよ。だからもし私の予想が当たって北西部の奥に崖があるなら、演習が入る前に全体に通達されるんじゃないかな」

 

 少し無理があるかもしれないけれど、ロイ達に何とか納得してもらう。

 

 …………本当ならば、これは彼らが強くなるためのイベントでもある。

 将来的にラスボスである【邪神】を倒すために、イベントを通して成長した方が良いのかもしれない。

 

 けれどゲームの世界とはいえ、ここはもう現実なのだ。

 知り合いである彼らが死ぬかもしれないのなら、それは避けたい。

 

 邪神だって、本来学生であるリュカ達が倒す必要はないのだから。

 

(学院の先生達や国から派遣されるだろうプロの魔術師達に頑張ってもらえれば良い。ゲームでは闇の魔術師達が大人達を無力化する呪いをかけて力を封じていたけど、ラスボス戦までに解呪の魔法を頑張って覚えよう)

 

 他人任せで、本当に卑怯だけれど。

 そもそもセシルが退学してしまったことから、ゲームの本筋から大きく外れてしまっている。

 

 元のシナリオに戻す力は私にはないし「ラスボスの【邪神】を私が倒す」なんて言える程の実力もなかった。

 

 何だか自分の力の無さに気持ちが落ち込んでしまっていると、不意にぽすりと頭を撫でられる。

 ハッと見上げれば、シロウさんが仕方がなさそうに私の頭を撫でていた。

 

『おいおい、今から演習なんだぞ?一人で落ち込んでるみたいだが、今は演習に集中しろよ。あとで話を聞いてやるから』

 

 彼の言葉に少しだけ気持ちが浮上する。

 

 本当にシロウさんは優しい。

 どうしてそんなに優しいんだろう?

 

 フィリスやロイがいる手前返事を返せないが、心の中で礼を言う。

 

 するとその時、先程までリュカと言い合っていたヘクターが私の名を呼んだ。

 

「エマ嬢、行くぞ。先生に話したいことがあるんだろう」

「あ、はい!………それじゃあ、演習頑張ろうね」

 

 そう言って主人公組の前から踵を返す。

 

 シロウさんの言う通り、今は演習に集中しようと気を引き締めた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。