前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜   作:どきどきわくわくすけ

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第16話 記号じゃないライバルキャラ

 

 

 

 先生によって無事、大雨による地盤の緩みで北西部の奥へは行かないよう通達された。

 

 そしてチームごとに順番に森へ入り、私やヘクターも森へ入っていく。

 

 ラミアは基本的に岩の多い場所を好む。

 事前に書いておいた森の予想MAPをリュックから取り出し、私達はラミアの潜んでいるであろう生息地へ向かった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「《身体強化(ブースト)》!」

「《風斬(ウィンドスラッシュ)》!」

 

 杖を剣に変化させ、《身体強化(ブースト)》のかかったヘクターがラミアの首を切断する。

 

 紫の毒々しい色をした、成人男性程の大きさの蛇型魔物(ラミア)はその場で倒れ伏し、ヘクターと私は討伐したことを確認した。

 

「案外呆気ないものだな。もっと手こずるかと思ったが」

 

 ヘクターが剣を杖に戻しながら肩をすくめる。

 

 それはきっとヘクターが強いからに過ぎない。

 彼の生い立ちはよく知らないが、優秀な魔法騎士を輩出する名門フリント伯爵家は魔導学院に入る前から家庭教師を付けていたに違いない。

 

 入学時からある程度力をつけていた彼にとって、一年生の演習で指定される魔物なんてそれほど苦労せずに討伐できるのだろう。

 

(残念なことにリュカには負けちゃうんだけど)

 

 ヘクターは風属性で、リュカは火属性。

 魔法属性の相性が悪く、中々勝つことができないでいた。

 

「鱗は念のため2、3枚程採っておきましょう」

「ああ。それが終わったら灰をまくか」

 

 ゲームの中では討伐した魔物は光の粒となって消える。

 けれどここは現実なものだからそんなエフェクトもなく、素材を採取した後の魔物の死骸は残ったままだ。

 

 そのため魔物除けの薬の粉末が混ざった灰を死骸にまかなければならない。

 そうすれば魔物は寄り付かないし、早く腐蝕して土に還るのだ。

 

 ナイフで鱗を抉った後、互いにリュックから灰の入った麻袋を取り出す。

 そしてラミアの死骸に黙々とかけていると、ヘクターがぽつりと口を開いた。

 

「………今回の演習は、エマ嬢が森の地理を事前に把握していたのが成功の要因だろう。栗頭にはああ言ったが、感謝している」

「え?」

 

 驚いて顔を上げれば、気まずそうな顔をしたヘクターがいた。

 

 そういえば演習が始まる前の会話で、リュカに「今回の演習はほぼ一人みたいなものだ」と彼が言っていたのを思い出す。

 

 そんな彼に私はずっと気になっていたことを聞いてみた。

 

「…………ヘクター様」

「何だ?」

「差し支えなければお聞きしたいのですが、どうしてリュカにあのような態度を取るんでしょうか?その、決して批判するつもりはなくて、ただどうしてかなって………」

 

 気が合わないというのもあるだろう。

 

 しかしこうやって二人で話していく内に、ヘクターの理性的な部分を見て不思議に思うようにもなったのだ。

 気に食わなくとも、この世界軸のヘクターならわざわざリュカに突っかかることはしなさそうだから。

 

 するとヘクターはしばらく黙り込んだ後、とても小さな声で話し始めた。

 

「……………魔法騎士の課程(カリキュラム)で模擬試合があったんだ。その時、俺は初めて同年代の奴に負けた」

 

 確かに今作【アルカナ・クロニクル】では、戦闘のチュートリアルとして主人公のリュカが偉そうな貴族の男の子───ヘクターと模擬試合をするイベントがある。

 

「アイツ。その試合が終わった後、俺に何て言ったと思う?『そんな風にたくさんの魔法を使い、剣を握れるなんてすごい。自分だったらどんなに努力しても難しい』と」

 

 悔しそうに語る彼に、私は「主人公(リュカ)らしいな」と思った。

 

 初のヘクター戦では、まだ覚えている魔法が少ないことからHPとMPのごり押しで勝たなければならない。

 

 チュートリアルだからよっぽどのことがない限り負けないし、ヘクターの使用する魔法の数々を見て「こんなことができるようになるんだ」と後々の布石にもなるのだ。

 

 それを思い出していると、ヘクターが苦々しい表情で続ける。

 

「…………情けない話、俺は昔から魔力が少なくてな。だからどの魔術が一番魔力を必要とせず効率的に運用できるか試している内に、使える魔法が増えていったんだ」

「それは…………」

「魔術は自身の魔力と大気中の魔素によって放出されるが…………それでも俺の魔力量は少なかった。だから家から魔法騎士になるのも反対されていたんだ」

 

 フリント伯爵家から反対されていたということは、家庭教師も付けてもらえなかったんじゃないだろうか。

 

 ヘクターが強いのは本人の才能と、すぐに魔術を教えてもらえるような環境があったからだと思っていた。

 けれど彼の口ぶりからするに違うのだろう。

 

「そんな矢先、あの栗頭には無残にも負け、あんな言葉を言われたんだ。凄まじい魔力量を持つ───俺が欲しかったものを持ったアイツが『魔法の手数が多くてすごい』だって?

 …………よく言うよ。結局、元々持っていた素質に勝てないんだからな」

 

 彼の言葉に思わず口を閉じてしまう。

 

 ヘクターが、ゲームにおける記号的なライバルキャラにはもう見えなかった。

 

「だからアイツには苛立つし、勝ちたいんだ。素質がなくとも偉大な魔法騎士になれることを証明したい」

 

 彼の生家である名門フリント伯爵家。

 ウェストリア王国創成期において、とある一人の魔法騎士がドラゴンから国の窮地を救ったことにより、爵位を与えられて成り上がった貴族。

 その背景からか代々優秀な魔法騎士を輩出し、王家や国を守っている。

 

 そういった環境で生まれ育ったというのもあるため、魔法騎士になりたいのだろう。

 

 空になった麻袋に視線を落としながら、只々すごいと思う。

 

 そんな彼に、私は口を開こうとした。

 

 ───その時。

 私達の様子を見守っていたシロウさんが叫んだ。

 

 

『───ヘクターの後ろに何かいるぞ!!』

 

 

 ハッと顔を上げれば、ヘクターのすぐ真後ろに赤い毛並みを持った巨大熊──クリムゾンベアが飛び掛かっていた。

 

(何でここにクリムゾンベアが………!)

 

 ヘクターは気付いていない。

 ホルスターに仕舞った杖を取り出し、呪文を唱えていては間に合わない。

 

 考える間もなく、私はとっさにヘクターを突き飛ばす。

 

 それと同時に振り上げたクリムゾンベアの腕が、私の肩を引き裂いた。

 

 

 

 

 

 

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