前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
前世の死因ははっきりと覚えている。
朝、兄と些細なことで言い争いになって家を飛び出した矢先。
高校までの通学路で通り魔に刺されて死んでしまったのだ。
腹に広がる焼けるような痛みに恐怖と失血で体がどんどん冷えていった。
そして周囲にいた人達のつんざくような叫び声を耳にしながら、地面に伏す直前。
通り魔が、たまたま近くを歩いていた───ショックで呆然と立ち尽くす小学生くらいの女の子に向かって歩き出したのが見えた。
───ああ、だめ。ぜったい、だめ。
気を失う程の痛みに悶えながら、通り魔の背中に掴みかかる。
けれどそこから意識を途絶えてしまい、私の身体は簡単に振り払われてしまった。
その女の子がどうなったか分からない。
無事だったら良いと思うけれど、そんな都合が良いことが起こらないのも、私はよく知っていた。
◇
何でこんなところにクリムゾンベアがいるのか。
本来なら森の北西部の奥にいるはずだ。
どうしてこんなところに、と思ったが、そこでふと思い付く。
───ゲームの仕様なんかじゃなくて、生き物だからだ。
先生からの通達によって、ほとんどの生徒は森の北西部に近寄らなかった。
けれど森で派手に魔法を繰り出していたら、普通の動物なら近寄らないが魔物ならば気になるはず。
まして、この森では外敵のいないクリムゾンベアなら特に。
『エマ!!!』
クリムゾンベアに投げ捨てられ、地面に倒れ伏す。
トライアル用の作業着を着ているものの、クリムゾンベアの爪は簡単に私の肩を引き裂いた。
そんな私にシロウさんが『早く逃げろ!』と叫ぶ。
「
態勢を立て直したヘクターが瞬時に杖を剣に変化させて、攻撃を繰り出す。
しかしクリムゾンベアの剣山のような毛皮によって斬撃が通らない。
肩から血がとめどなく流れながらも一旦距離を取り、慌てて自分に《
けれど《
身体中が寒くて、不意に前世で死んだ時のことを思い出してしまう。
(───怖い)
『変わってやりたいが俺には回復魔法が使えん!《
「エマ嬢!俺に気にせず回復をしながら離脱しろ!」
シロウさんとヘクターの叫び声が飛び込んでくる。
───ここでの最善の選択肢は、一体何だろうか。
ヘクターの言う通り、回復を続けながら離脱するべきか。
離脱したとして、都合よく誰かに助けを求められるだろうか。
(いや、無理だ)
それならばヘクターを援護しつつ、自分に《
「《
ヘクター様!クリムゾンベアの弱点は体毛の薄い腹です!奴が攻撃に怯んだ隙に逃げましょう!」
「! 分かった!」
しかしクリムゾンベアの爪がヘクターにかけた
あと一発でも攻撃を食らえば結界は粉々に砕かれるだろう。自分の魔法の威力の無さに絶望する。
即座にもう一度ヘクターに《
(どうしよう………!魔力を使い過ぎて魔法の威力が弱まっている!)
それはヘクターもだった。
ラミア戦で魔力の消費をしたのもあり、魔法の威力が減っている。
私は自分に回復をかけるのを諦め、彼へのサポートに徹することを決めた。
逃げる時の、自分にかける《
『エマ!お前まだ血が完全に止まってねえんだろ!自分に回復魔法をかけろ!』
でも、そうしたらヘクターへかける付与魔術の威力が減って、最悪彼は死ぬかもしれない。
(シロウさん、本当にごめんなさい)
身体がどんどん寒くなっていく。
抉られた傷から血が流れていく。
けれど、ヘクターを見殺しにできない。
前世で、私は女の子を助けられなかった。
死に際に強烈に襲い掛かったあの後悔だけは、もうしたくない。
(───そうだ!)
「《
《
けれど本来の防御壁としての使い方ではなく、クリムゾンベアの顎に向かって平行に展開させた。
顎に直撃したクリムゾンベアの身体は仰向けにぐらりとよろめき、腹部を広げ、垂直に立ち上がる。
「ヘクター様!今です!」
しかしその直後、ヘクターの身体ががくりと崩れ落ちた。
(魔力切れ………!!)
《
その時。
茂みの向こうから焦茶色の何かが飛び出してきた。
「───火炎斬《バーン・スラッシュ》!!」
同じトライアル用の作業着を着た焦茶色の髪の少年が、炎を纏った剣でクリムゾンベアに切りかかる。
リュカだ!
すると彼の後ろからフィリスとロイも飛び出してきた。
「エマ!ヘクター!無事!?《
「《
フィリスに回復され、ロイがクリムゾンベアの視界を奪う。
途端に身体は楽になって、私はリュカに向かって叫んだ。
「リュカ!クリムゾンベアの弱点は腹部よ!《
もう一度、結界をクリムゾンベアの顎に向かってスライドさせるように展開する。
クリムゾンベアの顎に結界が直撃し、奴の身体が仰向けによろめいた。
───しかし弱点を狙ったとして、今のリュカには倒す程の技も攻撃力もないだろう。
体力は回復したものの、残り僅かな魔力で皆の足に《
「俺さ、この間のエマの決闘裁判を見て試したい技ができたんだ」
リュカが何故か晴れやかな声でそう言ってくる。
(一体、何を)
そして次の瞬間、リュカの剣が灼熱の炎に包まれた。
膨大な魔力が彼の剣に集まっていくのが分かる。
それは、まさか───
「《
炎を纏った剣がクリムゾンベアの腹を一閃する。
それによって絶命したクリムゾンベアは、そのまま仰向けに倒れた。
そしてリュカが私に向かって、ニコッと笑う。
「同じ火属性の者同士やれるんじゃねえかなって思ったんだ!どうだ?すごいだろ!」
私はシロウさんから聞いただけで実際どのような技か分からない。
けれど今リュカが使った技は、シロウさんが決闘裁判で披露したものだ。
本来ならばセシルのサポートがあって討伐するものの、決闘裁判でその技を見て、覚えたから討伐に成功してしまった。
天性の素質と、繊細な魔力調整は彼の持つ膨大な魔力量で押し切って出来てしまった技。
残酷なまでの、圧倒的な主人公の力。
私はその事実に言葉が出てこなかった。