前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜   作:どきどきわくわくすけ

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第18話 魔法騎士の素質

 

 

 前世で『アルカナ・クロニクル』をやっていた頃、主人公のリュカに何度も突っかかってくるヘクターに、小学生の私はぼやいた。

 

『ヘクターっていつもリュカに突っかかってくるよね。嫌な奴だし、こんな人が誰かを守る魔法騎士になれないんじゃないかな』

 

 リュカがシャムルークを退学に追い込んだという理由はあれど、全くもって逆恨みだし理不尽だ。

 そんな人が偉大な魔法騎士になれるとはとても思えない。

 

 するとゲームを操作する私の横で、話を聞いていた兄がぼんやりと言う。

 

『そうだなあ。そう思うよな。………でもな、  』

『なあに?おにいちゃん』

『どんなに嫌な奴でも、そいつの夢を笑ったりからかったりするのは駄目だぞ。ま。ゲームだから良いけど、学校の子には絶対にやるなよ』

 

 兄のその言葉に幼い私は「現実の友達にそんな酷いことをすると思っているのか!ゲームと現実の区別くらいついてるよ!」と怒りそうになる。

 

 そして兄は続けた。

 

『頑張ってる奴の努力を笑うのが、一番だめで恰好悪いことなんだ。分かったか?』

 

 私の頭をぐわんぐわんと撫でながら、穏やかに言い聞かせてくる。

 

 そんな兄に私は「もー分かってるよ!」とぼさぼさになった髪を手櫛で直した。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 リュカ達主人公組がクリムゾンベアを倒した後。

 彼らとともに森の入り口へ戻り、私とヘクターは医務室行きを命じられた。

 

 フィリスに《治癒(ヒール)》をかけてもらったおかげで、怪我は治り、体力は回復している。

 けれど魔力切れを起こしているため、医務室に常備されているマナポーションを飲んでくるように言われたのだ。

 

 医務室へ、ヘクターと一緒に人気のない廊下を歩く。

 

 また、いつも一緒にいるはずのシロウさんはいなかった。

 半径100m以内にはいると思うけれど、クリムゾンベアとの交戦で彼の言うことを全く聞かなかった私に怒っているのかもしれない。

 

 するとその時、ヘクターが立ち止まった。

 どうしたんだろうと彼の様子を伺うと、ヘクターはぽつりとこぼす。

 

「……………エマ嬢、申し訳なかった。お前がクリムゾンベアの隙を作ってくれたのに、とどめを刺せなくて」

 

 その言葉が、彼にとってどれほど辛いものか理解できた。

 

 魔力量の少なさにコンプレックスを抱きながら、それでも偉大な魔法騎士になろうとするヘクター。

 しかし最後は魔力切れを起こし、終いにはライバルである主人公のリュカが膨大な魔力によってクリムゾンベアを討ち取ったのだ。

 

 そんな彼の心境を思うと、安易に声をかけられない。

 

「いえ、私がもっと早く隙を作っていれば───」

「滑稽だろう?あんな大口をたたいておいて、いざ実戦になると手も足も出ない。…………こんな俺が、魔法騎士になれるものか」

 

 俯いているせいか、色素の薄い髪が顔にかかって表情が見えない。

 

 どうしよう。何て声をかけたら良いのか。

 どうしたら彼の心が軽くなるのかと思案したが、きっと何を言ってもヘクターを傷付けてしまうだろう。

 

 そんな彼に上っ面な言葉はかけられない。

 

 けれどその時、ふと思い出した。

 私は彼に一番大事なことを伝えていない。

 

「ヘクター様。こんな時に言うのもあれですが、お礼を言わせてください」

「礼?」

「礼もですが、謝罪をあわせて………」

 

 しどろもどろそう言えばヘクターが顔を上げる。

 そして私は気まずくなりながらも口を開いた。

 

「クリムゾンベアと対峙した時、私に回復してその場から離脱しろと仰ってくれたでしょう?なのに、私がその言葉を無視して………申し訳ありませんでした。───あと、それに対して、すごくお礼が言いたくて」

 

 眉を寄せて怪訝そうにするヘクターに続ける。

 

「ありがとうございました。あの場から私を真っ先に逃がそうとしてくれて。でも、そんなヘクター様の姿を見て、私は一人で逃げようと思わなかったんです」

 

 だってそんなヘクターを、一人にさせるなんてことできない。

 彼のその勇気や献身に、自分も何かしたいと思えたのだ。

 

「私は、身を呈して誰かを助けようとする人が魔法騎士になってくれたら、守られる人はすごく心強いんじゃないかと思います。同じ仲間だったら、その人のために何かしたいと力が湧くんじゃないでしょうか」

 

 ヘクターの眉間の皺はいつの間にか取れていて、代わりにポカンとした表情をしていた。

 その顔が15歳の年相応の少年に見える。

 

 そう、私達はまだ15歳なのだ。

 

「───私は、そういう人が魔法騎士になってくれたら良いなって思います。

 それに、すごく無責任な言葉だと思いますが、ヘクター様なら魔法騎士になれると思います。だってその素質をもうすでに持っているじゃないですか」

 

 ヘクターがどんな敵や魔物も倒せる偉大な魔法騎士になりたいのは分かっている。

 

 でも、彼なら誰かの心を守れるような騎士に間違いなくなれるんじゃないだろうか。

 

 何だか段々気まずくなって、ヘクターに「すみません」と謝ってしまう。

 

「申し訳ありません。ヘクター様がそういった意味で魔法騎士になれるかと問いているわけではないのに。あの、頓珍漢なこと言ってますよね。すみません」

「…………いや」

「あ、で、でも魔法騎士になれるんじゃないかなって思うのは本当で。だって私達まだ15歳ですし、学院に入学したばかりですし、これからどんどん成長していくのに諦めるのは早いかなって」

 

 あたふたしながらもそう言えば、そんな私にヘクターが噴き出した。

 

 え、笑った?な、何故………?

 

 けれど、まあ良いかと思い直す。

 私のピエロっぷりに気持ちが少しでも浮上したのなら良かった。

 

「ありがとう。そうだよな。まだ15だから、きっと成長する余地はあるだろう」

「ええ、そうです」

 

 ヘクターの顔が少しだけ和らぐ。

 

 それにほっと安堵し、私達は再び足を進めた。

 

 

 

 

 

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