前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
医務室でマナポーションを飲んだ後、私達はリュカ達と合流した。
今回演習で助けてくれたことの礼を言いに行ったわけだが、ヘクターが吹っ切れたように感謝するものだから皆目を丸くしていた。
一応私達はラミアの討伐と鱗の採取を達成しているため、演習は無事クリア。
そして彼らと別れ、私は誰もいないのを確認しながら人気のない旧校舎へ向かった。
シロウさんに謝るためだ。
「あ、あのー…シロウさん………?」
宙に向かっておそるおそる彼の名を呼ぶ。
すると上からシロウさんがふよふよと降りてきた。
一瞬前髪の隙間から見えたシロウさんの顔は無表情で、めちゃくちゃ怖い。
そして目の前に佇む彼に私は勢いよく頭を下げた。
「ほ、本当にすみませんでした!シロウさんが私のことを心配してああ言ってくれたのに、たくさん無視してしまって………ごめんなさい!」
基本的に自分が何をしようが他人には関係ないが、今回シロウさんは私のことを思って「回復を優先しろ」と言ってくれたのだ。
失血死しては元の子もないし、最悪ヘクターと共倒れになる。
それなのに私が中途半端にヘクターを優先した。
シロウさんが必死に私を生かそうとしてくれたのを結果的に反故にしてしまったのだから、彼に謝らなければと思った。
それに常に一緒にいる相手とは喧嘩なんてせず、なるべく穏便に過したい。
すると、シロウさんが静かに口を開いた。
『…………エマが謝ることは何もないよ。お前がどうするかは、お前が決めるべきだからな』
シロウさんが少しだけ笑みを浮かべて顔を上げる。
『それに、俺の方こそ悪かった。気まずかったよな』
「あ、いえ。私も本当にすみませんでした………」
あっさりとした物言いに、ほんのわずかに違和感を感じる。
そしてシロウさんはちょうど近くにあった木製のベンチに腰を掛けるよう視線で促してくる。
私がベンチに座ると、シロウさんもその隣に座った。
何か、大事な話があるのかな。
『……………弁解させてもらうと、エマが俺の言うことを聞かなかったことに腹を立てていたわけじゃない。少し、色々思い出して』
それは、確かに。
大らかなシロウさんが、そんなことで一々目くじらを立てないだろう。
けれど今回は私の生死がかかっていたから特別なのかな、と思っていた。
そしてシロウさんはしばらく黙り込んだ後、どこか遠い目をしながら話し出した。
『───ずっと昔、俺はこの世で一番大事な人を見殺しにしたんだ』
彼の言葉に、思わず声を失う。
『その人が………あいつが怪我をして、たくさんの血が流れていくのに。俺はあいつを放って、他の人間を助けた。まだ小さな子供だったから、助けなきゃって』
シロウさんの声が震えている。
『俺が助けた子は無事だったけど、その間にアイツは死んだ。俺がアイツを優先して、傷を抑えればまだ生きていたかもしれないのに。たくさん血を流して、俺が』
シロウさんが顔を俯かせる。
そして「ごめん」とこぼした。
それが何だか泣いているように見えて、言葉が詰まる。
彼の言った状況がどういうものか詳しくは分からないけれど、その大事な人が死んでいく横で、彼は他の───小さな子供を助けた。
「………………その、シロウさんの大事な人は、子供の命を優先させたシロウさんを責めるような人なんですか?」
『そんな奴じゃない。むしろアイツも、血を流しながらも、その子を助けようとしていた。
…………でも、結果的に死んだんだ。恨んでいるんじゃないかとは思っている』
シロウさんが途方もない声でつぶやく。
それに私は、咄嗟に口が動いていた。
「───恨んでませんよ!」
思ったよりも大きな声が出てしまった。
けれど口が止まらない。
いつの間には、前世で自分が死んだ時のことを思い出していた。
「わ、私も昔、通り魔に襲われて死んだ………じゃなくて死にかけたことがあるんです。ナイフで刺されて、すごく痛くて、でもそいつが近くにいた小さな子に襲い掛かろうとした時『助けなきゃ』って思ったんです」
シロウさんが顔を上げて、じっと私を見つめている。
彼の目にはうっすらと涙の膜がはられていた。
「でも結局その子を助ける前に気絶しちゃって、その子がどうなったか分からないんです。
私は今でも、すごくそれを後悔していて。どうしてもっと身体が動かなかったんだろうって、ずっと思っています」
自分でも何を言っているんだろうと思う。
けれど目の前のシロウさん───その大事な人の気持ちが何故だか分かるような気がした。
「シロウさんの大事な人は、絶対に貴方を責めません。もし私がシロウさんの大事な人だったら、絶対にそう思います」
『……………恨んでないのか?』
縋るようなシロウさんの言葉に頷いてみせる。
「ええ、恨んでいません」
本当のところは分からないけれど、私だったらそう思う。
触れもしないのに彼の手に自分の手を合わせた。
するとシロウさんが苦しそうに顔を歪める。
い、嫌だったのかな。勝手に触るの。
いや、触ってはないんだけど………。
そして彼は息を吐く。
どうしたんだろう。
それから、シロウさんは真剣な面持ちで口を開いた。
『……───エマ、この話は俺の
一瞬、意味が分からなかった。
意を決した様子で話し出す彼に「え」と声が漏れる。
前世?前世って………。
『はっきりと話すことはできないが、お前と俺は前世で繋がりを持っている』
「え、ちょっと、待ってください。前世って、シロウさんもまさか日本人で………」
『エマ、俺は、』
しかし次の瞬間。
シロウさんは、最初からそこにいなかったかのようにパチンと消えてしまった。
シロウさんの姿がどこにもいない。
不自然に、何かを言いかけて。
「あ、あの、シロウさん………?」
立ち上がって、辺りを見渡す。
どこにもいない。
急に何が起こったんだろう。
困惑しながら途方に暮れてしまう。
けれどそこでハッとした。
…………あれ。
私、何でこんなところにいるんだっけ………?
確か誰かと話していたような気もするけど、思い出せない。
頭が霞みがかったようにぼんやりとし、首を傾げる。
どうして私はこんな旧校舎にいるんだろう。
(あ、そうだ。課外演習でヘクターをきちんとサポートできなかったから一人反省会をしていたんだ)
それを思い出し、何か違和感を感じながらも、私は自分の寮へ戻って行った。