前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
(自称)前作主人公シロウ・ブレイヴの幽霊からの提案は断った。
人ならざる者との契約は昔から良くないって、前世の兄も言っていたし。
前作主人公の幽霊シロウさんも無理強いはしないのか「まあ、そうだよな」とあっさりと引き下がってくれた。
それに少々呆気なく感じるものの、生者の身体を乗っ取ろうとする悪霊の類ではないんだなと思った。
◇
あれから数日後。
決闘裁判の日が刻々と迫っている。
シロウさんは魔導学院でふよふよと彷徨っている姿をよく見かけた。
何で今まで見ることができなかったんだろう?と疑問に思うものの、正直決闘裁判が迫ってきていてそれを考えている余裕などない。
決闘裁判は【魔術師としての潔白を証明する最後の手段】とされ、当事者と生家が望めば学院は基本的に止められない。
そのため私の生家ホートン子爵家が勝手に受諾してしまったせいで、決闘裁判を断ることが出来ないでいた。
『本当にごめんなさい。呪いによって生徒本人が決闘裁判を無理矢理受諾してしまった時の対策として、保護責任者が裁判の受諾の可否を行える規則があるのよ。
だけど決闘裁判の試合前に《宣言》をする時間があるわ。その時に正式に棄権することを宣言してくれれば………』
学院側から決闘裁判の中止を命じてくれることはできないかと訴えれば、赴任してきたばかりの若い女性教師──ブラン先生が申し訳なさそうに謝ってきたのを覚えている。
きっと彼女も、学院の上層部との板挟みとなって雁字搦めになっているのだろう。
おまけに学院も、2年前の邪竜戦で借りのあるセシルとホートン子爵家の板挟みになって、決闘裁判を行うことを認めるしかない。
まるで私だけが貧乏くじを引かされたような心地だった。
それに闇魔術の使用の嫌疑から学院の生徒達からの視線が痛かった。
【テロリスト】なんてこそこそと言われ、元々いた友人達からも避けられる。
陰口は当たり前で、いつの間にか私物が捨てられていて、一挙一動じろじろと見られる。
居心地悪くて、心が摩耗していく。
だから前作主人公のシロウさんの霊について考えたいものの、それ以上に色んなことが起きすぎて私の中で悩む余裕すら無くなっていた。
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───そんな最中。
授業後、周囲の目から逃げるように誰もいない旧校舎へ向かっていると、ちょうど人気のない渡り廊下で呼び止められた。
「ちょっと良いかな?」
びくりと肩を震わし、おそるおそる振り返る。
そこには柔らかそうな栗色の髪に、大きな瞳が特徴的な童顔の少年。
今作【アルカナ・クロニクル】の主人公、リュカ・クロニクルがいた。
ほ、本物だ………!
おまけに彼の後ろには、所謂【主人公組】と呼ばれるヒロインのフィリスと相棒の少年ロイがいる。
遠巻きでしか見たことのない主人公組にぎょっとするものの、彼らの剣呑とした表情に不安がよぎった。
何の用だろう。
少し、怖い。
するとリュカは意を決した様子で口を開いた。
「単刀直入に言うよ。早く自首して、しかるべき機関に投降した方が良いんじゃないのかな」
「え?」
リュカの言葉に戸惑っていると、彼の後ろに控えていたフィリスが前に出てくる。
「友人のアリアから話を聞いているわ。何でも闇魔術でセシル先輩を篭絡しようとしたそうじゃない。人の気持ちを魔術で操ろうとするなんて………貴族だからって何をしても良いわけじゃないのよ!」
「そんな、そんなことしていません。それに証拠はあるんですか?」
「私が友達を疑うわけないでしょう!それにあの子は本当に優しくて、嘘を付けるような子じゃないのよ」
そんな彼女に言葉を失ってしまう。
すると今度はロイが口を開いた。
「おい、アンタ。決闘裁判なんかせずに自首した方が良いんじゃないか。闇魔術の使い手とはいえ、セシル・マクレーガンだって女相手に手を上げたくないだろう」
「…………私は、本当に闇魔術なんてやってません。使い方も知らないし、寮の自室だって調べてくれても構いません。そもそもセシル様とだって、あんまり話したことなくて、」
しかし彼らは黙ったまま、じっと私を見据えてくる。
そんな彼らに私はそれ以上何も言うことができず、段々と尻すぼみになってしまった。
だって何を言っても信じてもらえそうにないのだ。
必死になればなるほど、何だか自分が言い訳を話しているような感覚に陥って、余計に焦ってしまう。
「…………えっと、その、」
アルクロのゲームで、主人公のリュカは少し思い込みが激しいところがあるけれど、それでも憎むことができない───愛される主人公だった。
それからフィリスは友達思いのヒロインで。
ちょっと勝気なところはあるけれど、人一倍優しくて、得意の回復魔法で傷付いた人を治してあげる【聖女】を目指す女の子。
相棒のロイは冷めたところはあるけれど、誰よりも正義感の強い素敵な少年だ。
そんな主人公達が
きっと善良な彼らにとって、憧れの伝説の代であるセシルが困っていることに見過ごせなかったんだろう。
今の時期はまだアルクロのゲーム序盤で。
まだ伝説の代との直接的な関わりはなかったと思うけれど、それでも何かセシルの力になりたかったのかもしれない。
けれど、私は何もやっていない。
ゲームで操作していた大好きなキャラクターが、現実では嫌悪感に満ちた視線で私を射抜くことにショックを受けてしまう。
前世の記憶があって、高校生まで生きた記憶はあるけれど、それでも敵だと見做されることは怖かった。
───しかしその時、どこからともなくタライがリュカの頭にガコンと落ちた。
って、え?
え?
「い、いってえーーーーーーッ!!!」
「やだ!ちょっとリュカ、大丈夫?」
え、何で?
どこから?
とりあえず私も慌ててリュカに「大丈夫?」と尋ねれば、一瞬驚いた様子で見られたものの「へ、平気」と気まずそうに言われてしまった。
あ、平気なら良かったです………。
そしてリュカ達は何だか格好がつかなくなったのか。
「じゃあ、そういうことだから」とだけ言って足早に去っていく。
そんな主人公組の背をぼうと見つめながら立ち尽くしていると、上から声がかかってきた。
『よう、大丈夫か?あんな風に絡まれて怖かっただろ』
「シロウさん!」
空からふよふよと前作主人公の幽霊、シロウさんが下りてくる。
溜め息を吐きながら肩を回す彼に、私は慌てて口を開いた。
「あ、あの、まさかシロウさんがタライを?持てるんですか?」
『軽いものなら気合で触れられるよ』
めちゃくちゃ頑張った。
そう言ってシロウさんは苦笑する。
そんな彼の姿に、何故だか涙がこぼれてしまいそうになった。
そういえば私、泣いてなかった。
色々あってパニックになって、泣く暇もなかったのだ。
「…………シロウさん、ありがとうございます。本当に」
『いや………って泣いてる!?え、ごめん!いや、ごめんじゃなくて、ええ、どうしような。ハンカチもないしな』
慌てる彼にクスリと笑う。
もうすぐ決闘裁判だし、正直何も解決できていない。
けれど、少しだけ心が軽くなった。