前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
俺が『アルカナ・ブレイヴ』というゲームの主人公シロウに転生する前の、前世の記憶をはっきりと覚えている。
交通事故に巻き込まれて死んだ両親と、まだ小学校に入る前の幼い妹。
死んだ両親の代わりに妹の親代わりとなるため、俺は通っていた大学を辞めて教授から紹介された職場で働き始めた。
歳の離れた妹は、ある日突然両親が亡くなったことを理解できておらず夜泣きをぶり返し「会いたい」と泣きわめく日もあった。
その度に俺も泣きそうになったけれど、小学校に上がる頃には歳の割にしっかりとした、優しい子になってくれて。
自分の置かれている環境を理解してからは、兄である俺にも気遣う子になった。
もう少し我儘に振舞ってくれても良かったものの、きっと俺が頼りにならないからだよなと不甲斐なく思う。
───そんな優しい妹も、あの子が高校に入学したばかりの頃に亡くなってしまった。
通り魔に刺されたのだ。
その日は俺の誕生日で、妹が早く帰ってくるよう言ってくれたのに「残業するかもしれない」と返して拗ねさせてしまった。
『………もういいよ。おにいちゃん、仕事しなきゃいけないんでしょ。別に誕生日会は明日でも良いんだから』
そう言って、妹は家を飛び出してそのまま高校へ行ってしまった。
妹が、本当に珍しく言ってくれたせっかくの我儘を叶えてやれず申し訳ない。
慌てて俺もスーツに着替えて追いかける。
───けれど、辿り着いた先は地獄だった。
目の焦点が合っていない無精髭の男が血で汚れたナイフを持って、ゆらゆらと歩いている。
通勤途中の人で賑わっていた道路では、皆我先にへと逃げ出して。
男の背後には、奴に刺されたであろうセーラー服の女の子が血を流してうずくまっていた。
妹だった。
信じられない程の血を流すあの子に、理解することができなかった。
だってさっきまで普通に喋っていたのだ。
しかし我に返ってすぐさま駆け寄ろうとした時、通り魔の男が呆然と立ち尽くす小学生の女の子のもとへ行こうとしているのに気が付いた。
───まずい!
咄嗟に女の子と通り魔の間に割って入る。
そして男がナイフを振り上げた瞬間、奴の動きが止まった。
大量の血を流してうずくまっていたはずの妹が、いつの間にか後ろから男の服を掴んでいたのだ。
その一瞬の隙に、がむしゃらにナイフを取り上げ遠くに投げ捨てる。
周囲の人達も状況を理解して、通り魔を取り押さえ、小学生の女の子をその場から引き離す。
そして妹だけが、たくさんの血を流して倒れ伏した。
周りの喧騒が遠くに聞こえる。
血が溢れ出る腹部を必死に抑えながら、俺は絶望した。
もう、息をしていなかったから。
この子は、通り魔に襲われそうになった小学生の女の子と俺を助けるために最後の力を振り絞って守ってくれた。
そんな優しい子を、妹を、俺はみすみす死なせるのか。
もし俺が小学生の女の子でなくて、妹を優先していたら結果は違っていたのだろうか。
もっと早く止血していれば妹は生きれたんじゃないだろうか。
いや、そもそも今朝、喧嘩しなければこんなことには。
───その時、ふと思い出す。
両親の葬式の日。
頼れる親戚もおらず、大学を辞めて幼い妹を男手一つで育てようと決意した日。
まだ両親が亡くなったことを理解できていない、きょとんとする小さな妹に俺は言った。
『───これからどんなことが起きようとも、俺が絶対守るから』
そう言って、指切りをした。
妹も目をぱちぱちとさせて「うん!わたしもおにいちゃん守るね!」と頷く。
───俺はその約束を、最悪な形で破ったのだ。
その後の人生はよくあるものだった。
それから粛々と仕事に打ち込み、その5年後、俺は両親と同じく交通事故に巻き込まれて死んだ。
◇
そして俺は奇妙なことに転生した。
俺が中学生の頃にはまっていたRPG『アルカナ・ブレイヴ』の主人公シロウに転生し、第二の人生を過ごした。
前世の妹の最期を後悔しながらも、シロウとして過ごし人と関わっていく内に次第に少しずつ心は癒えていく。
生まれは省くが天涯孤独の孤児である自分を引き取り、面倒をみてくれた魔術の師匠。
魔導学院で出会う等身大の少年少女達。
人生2週目であるからか。
学院で出会う彼らはひどく幼く、何だか妹にするように色々と世話を焼いたのを覚えている。
そして俺は自分の運命に抗うことなく、最終戦の邪竜との戦いで死んだ。
奴の討伐を生存したまま成功することを目標として鍛えていたが、想像以上に強く、ゲームの流れと同じく自分の死と引き換えに邪竜を討伐することになった。
前世の妹がしたように───誰かの命を救えるのなら、自分の命など安いものだった。
死にゆく俺と同じく、息絶え絶えに邪竜が言う。
『───呪ってやる。お前の魂が果てるまで呪ってやるぞ、勇者よ』
奴の言った言葉の意味が分からない。
自分は死ぬのだから、呪いなど無意味だ。
そんなことを思いながら、死に間際に思い出すのは師匠や魔導学院の仲間達。
そして───前世の妹だった。
今世であの子の死を乗り越えたつもりが、やはりそんなことはなかったかと思う。
俺が死んでこの世界に転生したから、あの子もこの世界に転生して、幸せに暮らしていたら良い。
そんな奇跡みたいなことを思い、俺は意識を失った。
───はずだった。
・
・
・
痛みも感覚も何もないまま、微睡んでいた意識が浮上する。
目を覚ませば俺は幽霊になっていて、どこかの貴族の屋敷のような場所に漂っていた。
(ここはどこだ?邪竜の言っていた呪いとはこのことか?)
ふよふよと漂いながら、屋敷の敷地内を散策する。
そして屋敷の裏手を見てみると、そこで一人の女の子がしゃがみこんでいた。
簡素な装いをしていたため一瞬使用人かと見間違えたが、質の良いワンピースドレスにこの家の令嬢だと気付く。
その令嬢が顔を上げた瞬間、ばちりと目が合った。
「え、幽霊?」
はしばみ色の髪に焦茶の瞳。
泣いていたのか、目にはうっすらと涙の膜が張っている。
姿形は違うのに、どこか前世の妹を思い出してしまった。
『…………お前、俺が見えるのか。名前は?』
「ゆ、幽霊と簡単に関わったら大変なことになると知り合いが…………」
『祟っちゃうぞ』
「エマ・ホートンです!ごめんなさい!」
『どうして泣いていたんだ?』
「そ、その、魔導学院の入学を家の人に反対されて………。でも私、このままだと、お妾さんが何人もいる60歳のおじさんと結婚しなきゃいけないみたいで………」
そう言って、まためそめそと泣き始める少女に同情する。
貴族の令嬢らしからぬ、小市民的な態度。
これが、
そしてその後、俺は邪竜の言った呪いが何なのか身をもって知ることになる。