前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜   作:どきどきわくわくすけ

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第3話 聖女の企みと決闘裁判

 

 

 

 

 ホートン子爵家と私は折り合いが悪い。

 というのも今の当主夫妻と私はほとんど血が繋がっていないからだ。

 

 今世の両親は私を産んだ後すぐに馬車による事故で死亡。

 そして遠縁の親戚が幼い私の後見人となり、当主の座についた。

 

 今のホートン子爵当主もその夫人も分かりやすく私を邪険に扱い、彼らの間に男児が産まれてからは余計にそれが顕著になった。    

 使用人に育てさせ、いない者として扱い、子爵家という地位に居座るためだけに私の家を乗っ取ったのだ。

 

 だから居場所がなくて、寮のある魔導学院に入学した。

 

 当初彼らは私をどこかの貴族の後妻として早々に嫁に出そうと企んでいたが、学院を卒業すれば優秀な魔術師を輩出したとして箔がつく。

 

 そんな思惑もあって、私は入学することを許された。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 決闘裁判の日がついに訪れてしまった。

 決闘は学院にある円形闘技場で行われるのだが、その控室で私は椅子に座り込みながら項垂れる。

 

(ああああ、嫌だなあー………!)

 

 決闘用の真っ黒な礼服に何とか着替えたものの、気分は沈み、動くのもままならない。

 

 きっと学院中の生徒達が見に来るだろう。

 だってあの伝説の代のセシル・マクレーガンが出るのだ。

 

 闇魔術を使用した悪役令嬢を伝説たる彼が断罪する。

 そんな場面を皆見たいと思っているに違いない。

 

 一応学院側に頼み込んで、後日私が本当に闇魔術を使ったのかどうか、きちんと調べてもらうことにはなっているのだ。  

 

 ちなみに調査は国から派遣される魔術師が行うらしい。

 けれどちょうど申請が受理されたばかりで、実際の調査が行われるのは早くても三日後だという。  

 

(本当なら裁判よりも前にその調査を済ませて、無実を証明したかったけれど………)

 

 決闘が始まる前に双方による主張の宣言がある。

 そこで「今回の決闘には棄権するが、後日正式な調査が入る。そこで真実を明らかにしたい」とセシルに宣言するしかないだろう。

 

「…………………」

 

 や、やっぱり無理かも。

 決闘裁判は棄権するけど、棄権するにも皆の前で宣告しなければならないのだ。

 きっとブーイングも起こるだろうし、絶対に何かものとか投げられる。そもそも人前で何かするのも苦手なのに。

 

(…………顔洗いに行こ)

 

 どこか逃げてしまいたい。

 

 そんなことを考えながら立ち上がる。

 控室から出て、のろのろとしながら水場に行こうとすれば、ちょうど客席近くの通路で誰かが話しているのが聞こえてきた。

 複数の女の子達の声に何だか気まずくなって、咄嗟に隠れてしまう。

 

 するとその時、聞いたことのある名前が飛び出してきた。

 

「───でもさ、アリアってば上手くやったじゃん。セシル先輩に取り入って、あの貴族女を退学に追いやれるなんて。報復とかあるのかなって思ったけどそういうのもないし」

「あの根暗女にそんな度胸ないわよ。それに私は【聖女】だから、皆私の言い分を信じるに決まってるわ」

 

 聖女のアリアだ。

 私が闇魔術を使っているとセシルに言った少女。

 

 彼女の周りには複数の女子生徒がいて、くすくす笑いながら話していた。

 

「けどエマって子。学院に調査するよう訴えたそうじゃない。どうすんの?あんたの嘘がばれるかもよ」

「大丈夫よ。あの子寮でしょ?あの子の部屋にこっそり呪物を置くつもりだから」

「もし失敗したら?」

「そしたら貴族の特権使って学院に取り入ったって噂流すわよ。いくら冤罪だって言われても誰も信じないんじゃないかしら」

「やだあ、ウケる!」

「メンタル弱そうだし、学院やめてお嫁にでも行くんじゃない?」

「貴族って良いわよねえ。結婚って逃げ道があるんだもの」

 

 そう言ってけらけら笑う彼女達の声に鈍器で殴られたような心地がする。

 

 何で、私にこんなこと。

 だって、私はあの子達に何もしていない。

 

 その場で茫然と立ち尽くしていると、アリアが無邪気に言い放った。

 

「ずーっとむかついてたのよねえ。だってあの子、魔力持ちの貴族ってだけであのセシル様の婚約者になったのよ?

 それなのに『私は全然嬉しくありません』って顔しちゃって───あのむかつく顔見なくて済むなら何でもやるわよ」

 

 きゃはは!という笑い声が頭に響く。

 

 セシル・マクレーガンとの婚約は、将来宮廷魔術師になる彼が貴族社会でうまくやっていくために魔術評議会が用意したものだ。

 セシルには貴族社会への参入と、我がホートン子爵家には評議会から多額の婚約金が支払われる。

 

 だから政略的な意味合いの強い彼との婚約に「嬉しい」も何も無いのに。

 

 そして彼女達は華やかな声を響かせながら、通路から去って行った。

 客席で、私の惨めな姿を見るために。

 

 足が一歩も動かなくなっていた。

 

 気力もなくて、今世の両親を亡くしてから理不尽な目に合うのは慣れていたはずなのに、打ちのめされたような気持ちになる。

 

 大好きなゲームの世界に転生したけど、前世の方がよっぽど良かった。

 前世でも両親は早くに他界してしまったけれど、兄が一人いて。友達もいて。理不尽を強いられることもなく、安全な日本で生きてきた。

 

「……………死んだら、元の世界に戻れるのかな」

 

 向こうでも死んだのだ。

 だからそれといっしょで、今度はこの世界で死ねば帰れるんじゃないかと思ってしまう。

 

 そんなことをぼうと考えていたその時、すぐそばで声をかけられた。

 

『───セシルの弱点は時間制限だぞ』

「うわあ!」

 

 振り返ればシロウさんがいる。

 びっくりして固まっていれば、彼はニッと笑みを浮かべた。

 

『セシルの大技の一つに《氷の巨人(アイスゴーレム)》がある。簡単に言えばゴーレムの召喚だが、そいつは時間が経てば経つほど弱体化するんだ。

 ゴーレムの召喚までにセシルを仕留めるのが一番良いが、それが難しいなら弱体化するまで逃げ切れば───』

「あ、あの!シロウさん?どうしてここに?」

 

 慌ててそう聞くと、シロウさんは「ん?」と首を傾げる。

 

『お前がセシルをどうやって倒すのか気になってな』

「すみません。実は棄権するつもりで………」

『そうなのか?ま、どうするかは本人が決めれば良いと思うけどこんな機会めったにないし、一発なぐっちゃったらどうだ?すっきりすると思うぞ』

「ええ……」

 

 あっさりとそう言い切るシロウさんに乾いた笑みが浮かぶ。

 

 するとその時に、闘技場の方から歓声が上がったのが聞こえた。

 廊下にかけられた時計を見ると、入場の時間が迫っている。

 

 いやだな。怖い。

 

 そう思った瞬間、背中がぽすんと押された。

 

 

『大丈夫。お前がやりたいようにやれば良い。俺は絶対、お前の味方だ』

 

 

 シロウさんが肩をすくめながら言う。

 それに何だか泣きそうになってしまった。

 

 彼は気合いを入れないと、現世のものに触れられない。

 

 私を安心させるためだけに、頑張って力を入れてくれたのだろうか。

 

 シロウさんに頷き、闘技場への通路を進む。

 

 単純だけれど、さっきまでの恐怖は少しだけ消えていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 円形闘技場に入場する。

 広い闘技場の周りをぐるりと客席が囲み、おそらく全校生徒の他に学外からの人間もいるであろう程賑わってた。

 

 闘技場の中央には審判係の先生とセシル・マクレーガンが立っている。

 

 私が歩くたびにブーイングが起こる。

 けれど、何故だかあまり怖くなくなっていた。

 

「逃げずここまでやって来たのは誉めてやろう。だが、俺はお前を許さない。滅ぶべき闇の魔術に手を染めたお前を誅伐する」

 

 剣呑とした表情で話すセシルを前に私も口を開く。

 

「…………今回の件につきまして、正式に学院へ調査を要請しました。調査に対して魔術師の立ち会いが必要とのことで決闘裁判までには間に合いませんでしたが、後日私が闇魔術を本当に使用したか調べられるでしょう」

「そんな悪あがきを………」

「だから、この決闘裁判をする必要は───」

 

 ない。だから棄権する。

 

 そう言おうとした瞬間、言葉が詰まる。

 

 調査によって私の冤罪が晴れたとして、アリアは私が学院を辞めるまで執拗に追い込んでくるかもしれない。

 

 ───このままで、良いのかな。

 

(良いわけないのは、分かってる)

 

 沸々と怒りが沸き上がる。

 

 ここまで踏みにじられて、大人しく引き下がるなんて絶対に嫌だという気持ちが生まれる。

 

 絶対に賢くない。

 けれど、やってやる。

 

「…………後日私の嫌疑は調査されるでしょう。正直、決闘裁判をやる意味も全くないと思っています。

 でもここでやらなければ、私は二度と貴方の横っ面をひっぱたく機会に恵まれないかもしれない」

「何?」

「決闘裁判を引き受けます。私は何もやっていない。それを貴方の提案したやり方で証明してあげると言っているんです」

 

 一回だけ。

 一回だけで良いから、彼の鼻を明かしてやりたかった。

 

 そんな思いで、きょとんと顔を呆けさせるセシルにそう言い切る。

 

 しかしその直後、セシルは怒りで顔を歪めさせた。

 

 

 

 

 

 

 

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