前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜   作:どきどきわくわくすけ

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第4話 VS 氷雪の魔術師

 

 

 

 今作【アルカナ・クロニクル】では、主人公達が伝説の代である3年生とバトルする展開がある。

 

 学年対抗試合や剣術大会等といったイベントでそういった展開があり、私は【アルクロ】で何度もセシル・マクレーガンと戦った。

 

 セシルは水属性と風属性の複合魔力を持っており、それを利用した氷雪系の魔術を得意とする。

 

 しかし複雑な魔術のためか、彼の必殺技《氷の巨人(アイスゴーレム)》は一度召喚すると徐々に力が弱まっていく。

 おまけに《氷の巨人(アイスゴーレム)》を召喚するまでにある程度魔力を貯めなければならないのだ。

 

 ───なので、ゲームの中でのセシルの攻略法は《氷の巨人(アイスゴーレム)》が召喚される前になるべく多くダメージを与え、ゴーレムが弱まるまで結界術でやり過ごす。

 

 その攻略法が定石だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「───始め!」

 

 審判の言葉と同時に私は自分に付与魔法《身体強化(ブースト)》をかける。

 

 私が使える魔法は付与魔法の《身体強化(ブースト)》《結界(シールド )》《小治癒(コスモヒール)》。

 そして一応火属性の魔力を宿しているため、攻撃手段として《火弾(ファイアボール)》がある。

 

 けれどどの魔法も初期魔法であるし、《火弾(ファイアボール)》だってセシルにしてみれば蝋燭の火みたいなものだろう。

 それでもやるしかない。

 

「《火弾(ファイアボール)》!」

 

 セシルに《火弾(ファイアボール)》を放つものの、彼の結界によって弾かれてしまう。

 

 そして彼が杖をふるうと何もない空間から無数の氷の結晶が現れ、一斉に私に向かって放たれた。

 

 咄嗟に《結界(シールド )》をかけて弾くも、威力があるのかヒビが入る。

 

(通常攻撃だけでこんなに強いの?ゲームの時とは全然………)

 

 いや、もうここはゲームじゃないのだ。

 ここは現実で、セシル・マクレーガンは強い。

 それは事実だった。

 

 するとセシルが無表情で口を開く。

 

「防戦一方じゃないか。やる気がないなら、さっさと降参したらどうだ」

 

(そんなこと言われても………)

 

 しかしこのままだとセシルの《氷の巨人(アイスゴーレム)》がいつ召喚されるか分からない。

 

 そこでふと違和感に気付いた。

 

(……───違う。ここはゲームの世界じゃないから、セシルがゴーレムを召喚するのに、わざわざ最初に通常攻撃をしかけなくて良い。

 ゲームの仕様だとゴーレムを召喚するために魔力を溜める必要があって通常攻撃のターンが入るけど………ここは現実だからセシルの魔力は最初から溜まっている。でも、それなら)

 

 何故最初から《氷の巨人(アイスゴーレム)》を召喚せず、こうして様子見のように通常攻撃を放っているのだろう。

 

 もしかして、彼は───

 

 

「………………迷っているんですか?」

 

 

 そんな私の声が彼の耳にも入ったようだった。

 

 彼は、私を倒すことに迷いがあるのかもしれない。

 理由は分からないが、セシルの中で何かが揺れている。

 

 すると彼の冷たい美貌が怒りに歪んだ。

 

「───迷っているわけないだろう!お前のその被害者面もどうせ演技なんだろう!」

 

 セシルが叫ぶ。

 悲痛な声だった。

 

「闇魔術を使う者はどんな理由があれ許さない!闇の魔術師の道楽で故郷が焼かれ、家族が死んだ!

 闇魔術によって復活した邪竜のせいで、俺は唯一の理解者(シロウ)を亡くした!」

 

 そしてセシルは詠唱を唱え始める。

 空中に氷の粒が瞬きながら一か所に集まり、それはやがて巨大なゴーレムへと姿を変える。

 

 

「《氷の巨人(アイスゴーレム)》よ!闇の魔術師を仕留めろ!」

 

 

 冷気を漂わせながら召喚されたゴーレムに、思わず後ずさる。

 

 《氷の巨人(アイスゴーレム)》は通常のゴーレムよりも遥かに素早く、打撃も強い。

 当たれば一発で気を失うだろう。

 しかし魔力消費が激しく、長時間召喚し続けることはできない。

 

「《結界(シールド )》!」

 

 結界を張ってやり過ごすのが一番良い、が。

 次の瞬間、ゴーレムのもつ棍棒が私の結界を粉々に破壊した。

 

「たかが1年の張る結界にゴーレムの攻撃が破れないわけないだろう!とどめをさせ!」

 

 でも、それを私は理解していた。

 

 レベルを上げて強化したゲームの主人公の結界ならまだしも、私なんてただのモブなのだ。

 学院に入学したばかりの普通の1年生で、特別な力は何も持っていない。

 そんな私の結界は、確実に破られる。

 

 ───だから、ゴーレムが結界を破壊したその一瞬の隙。

 

 足に重点的に《身体強化(ブースト)》をかけ、風のような速さでゴーレムを避ける。

 そしてセシルの懐まで接近した。

 

「な、」

 

 彼はきっと、私と違って二つの魔術の同時に使うことができるだろう。

 

 けれどゴーレムを召喚しながら《結界(シールド )》をかけたとして、魔力のリソースが足らないため結界の強度は通常より脆いはず。

 

「《火弾(ファイアボール)》!!」

 

 彼の結界が破られる。

 そして私は手に《身体強化(ブースト)》をかけ、セシルの顔に向かって振り上げた。

 

「目を覚ませ!セシル・マクレーガン!」

 

 聖女だという理由だけでアリアの言葉を鵜呑みにし、違和感を覚えながらもそれに目を瞑って、無実の人間を闇の魔術師だと決めつける。

 

 しかし。

 セシルの頬を引っ叩こうとした瞬間、私の体は凄まじい衝撃とともに吹っ飛んだ。

 

 ゴーレムが私の体を氷の棍棒で飛ばしたのだ。

 

(あ、わたし、)

 

 あと一歩で届かなかった。

 悔しさと同時に身体が痛みで悲鳴を上げる。

 

 その時。

 

 

『ここまでよく頑張ったな。あとは俺に任しとけ』

 

 

 何故かシロウさんの声が聞こえた。

 そこで私の意識は暗転する。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 エマ・ホートンの体がボールのように飛んでいく。

 そしてどさりという音を立てて、彼女の体は闘技場の地面に伏した。

 

 改めて彼女の姿を見ると、それはあまりにも華奢で。

 婚約者であったものの、これまでほとんど関わりのない───けれど、貴族の令嬢であるにも関わらず控え目で、善良な人柄であるのをセシルは周囲の評判から知っていた。

 

 

 ───目を覚ませ!セシル・マクレーガン!

 

 

  今になって本当に彼女が闇魔術を使用していたのだろうかと疑問が湧く。

 

 ふと客席を視線をやれば、今回自分に告発してきた聖女アリアが祈るように両手を握りしめてこちらを見つめていた。

 

 するとアリアがセシルに気付いたのか。

 彼女は声をはり上げる。

 

「早くとどめを刺して!セシル様!」

 

 本当に、良いのだろうか。

 セシルの中で徐々に視界が開けていくような感覚がする。

 

 しかしそれに目を瞑り、闇の魔術を使ったとされる少女に裁きを下しても良いのだろうか。

 

(いや、もういいだろう)

 

 相手はとっくに気絶している。

 決闘もこれ以上続けられない。

 後悔に似た気持ちを抱いたって、もう遅いのだ。

 

 けれどその時、客席が騒めいた。

 

 セシルが驚いて顔を上げると、そこにはさっきまで伏していたはずのエマが立ち上がっていたのだ。

 

 そして彼女がゆっくりと顔を上げる。

 

「よお、久しぶりだな。セシル」

 

 今までとは違うエマの雰囲気にセシルは目を見開く。

 

 何だ。

 何が起こっている。

 

 すると彼女は自身の杖に向かって詠唱を唱え出した。

 

(一体、何を)

 

 次の瞬間、エマの持っていた杖は炎に包まれ、光り輝く見事な長剣に姿を変える。

 

 その剣を、セシルはよく知っていた。

 

 何故なら、その剣は。

 2年前に邪竜との戦いで命を落とした───自分を庇って死んでいった親友(シロウ)の愛剣と同じであったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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