前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
魔導学院へ入学した当初、セシルは同期となったシロウのことが正直気に食わなかった。
粗野で乱雑なくせに、要領が良く、世渡り上手。
おまけに学院に入学する前は名のある魔術師の下で生活をしていたそうで、入学当初から魔力を自在に操ってみせた。
頑固で、不器用な気質を持つセシルとは正反対の男に無性に苛立つ。
闇の魔術師達の道楽で故郷を焼かれ、家族を失った自分と違って、さも順風満帆に生きてきたんだろう。
セシルはその呑気な顔を煩わしく思い、時に授業の模擬戦闘では執拗に痛めつけたこともあった。
───なのに。
『すげえな、お前!氷雪系の魔術なんて属性の重ね合わせで複雑だろ。その上で疑似生命体のゴーレム作るとか、本当にすげえよ』
悔しそうにしながらも手放しでほめるシロウに苛立つ。
何も失うことなく、愛されて生きてきた者特有の余裕がセシルの劣等感を疼かせる。
『───家族?いねえよ。いや、妹が一人いたんだが………今はもういねえ』
学院で学ぶ内に、彼の人となりが嫌でも分かってしまう。
『名高い魔術師のもとで師事を受けていた?はは!そんなもんじゃねえよ。もう奴隷みたいなもんでさ。普通にいつも殺されかけてたし、ほら、この腹の傷だって師匠に致命傷を与えられた時のやつ』
要領は思っていたよりも良くなくて、それ以上の努力をしていたに過ぎない。
『故郷を焼いた闇の魔術師を倒すのが夢?───いいんじゃねえの。復讐は無意味っていう奴もいるけど、そいつは道楽でそういう非道を行えるような奴なんだろ?
お前が倒せば、闇の魔術で悲しむ人は多少救われるだろうから』
粗野で、乱雑で、要領も本当は良くない───ただのお人好し。
知れば知る程、良いところはなくなっていく。
けれど前よりも彼に苛立つこともなくなり、面と向かって言うことは決してないけれど、シロウの言葉に救われてきたのも事実だった。
だから。
2年前、闇の魔術師によって封印から解かれた邪竜が魔導学院を襲ってきた時。
セシルが邪竜から放たれたブレスによって焼かれそうになったその瞬間、何者かによって突き飛ばされた。
シロウだった。
火属性の魔術師であるためブレスへの耐性は多少あるが、それでも直で食らったのだ。
皮膚はところどころ焼け爛れ、赤く染まっている。
言葉を失うセシルにシロウは息も絶え絶えに言った。
『お前は、将来闇の魔術師を倒すんだろ?お前の故郷を焼いた奴の、横っ面をぶん殴るんだろ?…………こんなとこで死にかけんじゃねえよ』
白魔術師の生徒達は周りにいない。
石化した教師や息も絶え絶えな他生徒の治療にあたっていた。
『じゃあな、セシル。夢を叶えろよ』
そう言ってシロウは、最後の力を振り絞って自身の杖を焔の剣に変えた。
そしてその直後、シロウは命と引き換えに特大魔法を放ち邪竜を倒した。
きっと、セシルを庇いブレスを食らわなかったら、シロウはまだ生きていたかもしれない。
特大魔法への負荷にも彼なら耐えることができただろう。
それなのに、セシルを庇ったから。
シロウは、自分が殺したも同然だった。
◇
王立魔導学院の円形闘技場。
先程まで倒れ伏していたはずの少女──エマ・ホートンが、呆然と立ち尽くすセシルを見つめる。
彼女の手には生前シロウが使っていた剣が握られていた。
杖から剣へ。
しかしあれは単なる物質の変化魔法ではない。
シロウが
それと同じことを、目の前の少女が行っている。
(いや、あれはシロウの剣をまねたものに変化させているだけなのか?だが、それなら………)
銀光を帯びた刃が空気を裂く。
赤銅色の柄に埋め込まれた深紅の宝玉は、まるで心臓のように脈打ち魔力の波を微かに放っていた。
単純な変化魔法なら、ああも熱を発さないだろう。
精霊の息遣いを感じさせるように火花も散らない。
紛れもなくシロウの剣だった。
それを何故、彼女が。
するとその時、少女が──エマが叫んだ。
「セシル・マクレーガン!!!」
闘技場全体にその声が通る。
控えめで、覇気のない少女の姿はどこにもなかった。
「他人からの意見を鵜呑みにし、
聖女が言ったからだって?何でもほいほい信じるんじゃねえ!悪意をもって嘘をついてる可能性だってあるんだからな!?」
婚約者であったエマとは顔合わせ以来まともに話したことはない。
そのためセシルは彼女のこういった苛烈な一面を初めて見た。
しかし、何故か懐かしく思えてしまう。
そういえばセシルがその頑固さで人間関係に躓いた時、シロウが「ああもう」と言わんばかりの顔で世話を焼いてくれた。
「2年前に邪竜倒したからか、先生だってお前の意見をそう簡単に口を挟めねえんだ!そんな中でお前が『こいつは闇魔術を使った』なんて言ったらどうなる?
よく調べもしねえし、証拠だってない。冤罪の可能性だってある。それなのにお前ときたら闇魔術ってだけで………!」
「それは、」
「黙って聞け!!」
そして彼女はフと息を吐き、剣を構えた。
一瞬にして空気が変わり、セシルも思わず杖を構える。
「目を覚ませ、セシル・マクレーガン。闇の魔術師を倒すという夢を持つお前が、闇魔術による冤罪で何もしていない少女を不幸にさせるな」
「自分で何を…………」
「まあ、いい。力づくで目を覚ましてやるよ」
この決闘裁判もお前が望んだものだしな。
そう言い終えた瞬間、エマの周囲に大気中の魔素が集まっていく。
魔法や魔術は、基本的に自身の魔力と大気中の魔素が練り込まれて放出される。
周囲の膨大な魔素がエマの宝剣に吸い込まれていく。
その感覚をセシルは知っていた。
何故なら過去に何度も経験したから。
エマが剣を振りかぶった瞬間、赤銅色の柄に埋め込まれた宝玉が眩しく脈打つ。
銀の刃に奔るのは、まるで地の底から噴き上がったかのような灼熱の魔炎。
「《
炎をまとった刃が振り下ろされると同時に、空間ごと敵を押し潰すような熱風が爆ぜた。
セシルの召喚した氷のゴーレムが一閃され、激しい熱によって蒸発する。
その水蒸気から、結界と共に少女の影がゆらりと現れた。
一瞬にして間合いを詰め、拳を振り上げる。
「───歯ァ、食い縛れよ」
エマの拳は呆けるセシルの顔面に向かって、吸い込まれるように振り落とされた。
その衝撃と、凄まじい熱。
そしてセシルの身体は宙に浮き、そのまま闘技場の場外へ勢いよく吹っ飛ばされた。