前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜 作:どきどきわくわくすけ
氷のゴーレムはエマの一閃によって真っ二つに斬られ、熱によって蒸発していく。
そして魔力を込めた拳で頬を殴られ、場外へ吹っ飛ばされたセシルはポカンとエマを見上げた。
彼女はどこかすっきりとした表情をしていて、地面に倒れながら目を丸くするセシルにニッと笑う。
「俺の勝ち」
───その笑顔が、どうしてもシロウと重なる。
ゴーレムを倒された衝撃も、頬の痛みも気にすることなく、亡き同胞に似た笑みを浮かべる少女の姿を目に焼き付ける。
すると次の瞬間、エマはくるりと踵を返し、客席のある一方向に向かって叫んだ。
「【聖女】アリア・ローゼマリー!!」
客席のある一方向──聖女アリアに向かって、エマは流れるように続ける。
「決闘裁判が始まる前、客席通路で言っていたよな!?貴族の女だからってセシルと婚約できるなんて許せないと!
エマ・ホートンに闇魔術の使用の疑いをかけて陥れると言っていたのを覚えているぞ!!」
その言葉に客席は騒めく。
これまでのエマがそう言ったとしても誰も耳を貸さなかっただろう。
しかし決闘裁判で堂々と勝利し、自身の潔白を晴らした少女の言葉を誰も流そうとはしなかった。
「そ、そんなこと言っていないわ!証拠はあるの!?」
「それでいったらエマ・ホートンが闇魔術を使用していたという証拠だってないだろう!お前が闇魔術の残穢を感知したという証言だって、どこまで本当かは分からない!」
「本当よ!今は感知できないけど、少し前に貴女にすれ違った時に確かに感じたんだから!」
アリアは縋るように周囲を見つめ、そしてその大きな瞳に涙を溢れ出す。
両手で顔を覆い、さめざめと泣き始めるアリアに周りは不意に同情しかけた。
しかし、エマはそれを遮る。
「なら、お前。何故エマ・ホートンの寮室に呪物を置こうと企んでいる。言ってたよな?今度学院による調査があるから、その時までに彼女の部屋に呪物を隠しておこうと。
本当にエマ・ホートンが闇魔術を使っているなら、わざわざそんなことをしなくて良いだろう」
「そんなこと、企んでなんか………!全部でたらめよ!」
「それなら
次の瞬間、アリアは顔を青ざめさせて席を立つ。
そしてそのまま客席から去ろうとした、が。
「───待て。何故逃げる。全てでたらめなんだろう。まさか本当にお前の部屋に呪物があるから、それを取りに行こうとしているわけじゃないよな?」
全部でたらめなら、そんなことする必要ないもんな?
エマの言葉にアリアは地面に足が縫いついたように動かなくなってしまう。
顔は血の気が引いており、口をかすかにわなつかせていた。
彼女の異様なその雰囲気に周囲の生徒達は少しずつ後ずさっていく。
するとエマが、今度は別の方向に向かって叫んだ。
「ブラン先生!」
「は、はい!!」
最近赴任してきた女教師ブランが慌てた様子で円形闘技場に姿を現す。
得意の転移魔法で現れた彼女にエマははっきりと告げた。
「先生。悪いんだが、今すぐアリア・ローゼマリーの部屋を調べに行ってくれないか?時間が経てば、アイツの仲間が呪物を部屋から持ち運ぶかもしれない」
「何を勝手に………!」
アリアが怒り狂ったように言いかけるが、それにエマは冷めた口調で返す。
「見られて困るものでもあるのか?そうか、あるなら仕方がない。ブラン先生、フィリスとやらも転移で連れて行ってくれないか。白魔術師となる者は闇魔術の感知に優れているんだろう?」
突然名を呼ばれた、客席にいるフィリスという少女が肩を振るわせる。
そしてエマは淡々と続けた。
「部屋に入りはするが、必要以上に荒らしはしない。女同士だし、何ならお前もついて行って良い。ここまで譲歩してやっているんだ。問題ないだろう」
誰も彼女に、エマに口答えすることができない。
───こいつは一体、何者なんだ。
「ブラン先生、それではよろしくお願いします」
「え、ええ」
「怪しいのは金庫の中です。そこだけでもよく調べてください」
そしてブランはハッと我に返ったように頷き、転移で客席にいるフィリスと、まるで一気に老け込んだ様子のアリアを連れてその場から消えた。
おそらくアリアの寮室に向かったのだろう。
「ま!これで丸く収まっただろ。呪物の入った金庫には闇魔術の阻害魔法はかけられてなかったし、あの白魔術師の子がアリアの味方でもしない限り見つかるだろうな」
静まり返る闘技場の中、セシルにしか聞こえないような小さな声でエマがぼやく。
そして大きく息を吐き、セシルに向かって口を開いた。
「じゃあな、セシル」
シロウ。
そう言い終える前に、エマの持っていた宝剣は炎に包まれて、元の杖に戻った。
そして彼女の体はゆっくりと、闘技場に倒れ伏した。