前作主人公の幽霊に憑かれました 〜前作主要キャラ達の脳を知らずに焼いてしまいます〜   作:どきどきわくわくすけ

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第8話 闇魔術疑惑、再び

 

 

 

 

 《降霊術》は闇魔術に該当する。

 聖職者による降霊など特例はあるが、基本的に禁忌とされているのだ。

 

 けれど私の場合、シロウさんは最初から幽霊でふよふよ浮いていたし、私も自分の意志で彼を取り憑かせたわけじゃない。

 

 流石に違うよね?大丈夫だよね?

 

 まあ、それはそうとして。

 私が気絶している間に、具体的には分からないが、きっとシロウさんは彼独自の技や何かを使ってしまったのだろう。

 で、それに対してセシルが疑っていると。

 

 どうしよう。

 何て答えようと思案していると、宙を漂っていたシロウさんが私に向かって口を開いた。

 

『セシルにこう言ってくれ。───元々シロウとは知り合いだった、と』

 

(え?)

 

 そんな嘘ついて大丈夫なの?

 

 そう思いながらも良い案が浮かぶこともないため、彼の言う通り「シロウさんとは知り合いだったんです」と話す。

 

 するとセシルがぴくりと反応した。

 

『学院の授業が休みの日、たまに一人で街へ降りてふらふらしてたんだよ。その時に会ったことにしよう。それから直接稽古したりして、繋がったと』

 

 ちょっと無理があるんじゃないだろうか………?

 そう思いながらも、しどろもどろ言う。

 

「ええと、昔、使用人にも内緒で屋敷から飛び出したことがあったんです。その時に街で迷子になっていたところ、シロウさんに助けてもらって………それからたまに待ち合わせして、稽古をつけてもらったりしていたんです」

「貴族の令嬢がそう易々と家を出れるものなのか?」

「それに関しては───私、今の家族とはほとんど血の繋がりはないんです。実の両親を事故で亡くしていまして、遠縁の親戚がホートン子爵家を継いだので………少し、その、折り合いが悪くて………」

「…………悪かったな。余計なことを聞いた」

 

 それに「いえ」と首を振る。

 

 ちなみに内緒で屋敷を出ていたのは本当だ。

 本当は駄目だし、とても危なかったと思うけれど、両親の墓参りに行きたいと言えば拒否されたので、こっそりと出掛けていたのだ。

 

『うーん、まだ疑われているな。なら俺とセシルしか知らない話でもするか。こいつ1年の頃、男装した女に間違えられて、貴族の坊ちゃんに一目惚れされたことがあるんだよ。

 別に同性愛に偏見はないが、思いっきり異性愛者の坊ちゃんに女だと間違えられて、その場でプロポーズもされたんだぜ?確か学院外部からの依頼で貴族の護衛をしていた時だっけな』

 

「ええと、シロウさん、セシルさんのこともよく話していました。学院外部からの依頼で、貴族の御令息に女性に間違えられてプロポーズされたと………」

「そんなことまで話していたのか、アイツは………!」

 

 セシルが恨みがましそうにぼやく。

 

 何だか余計なことを言っちゃったかもしれない。

 シロウさんを見れば、彼は呑気にけらけらと笑っていた。

 

 するとセシルが顔を上げる。

 

「……………他は、他に何か、言っていたか」

 

 その言葉に、私はシロウさんを見つめる。

 セシルの後ろにいるシロウさんが、ゆっくりと口を開いた。

 

『今更言うこともないんだが………セシルは頑固で融通がちょっと効かないとこがあって、最初の頃はコイツと同期とかやってけんのかなって思っていたな』

 

「…………シロウさんはセシル様のこと、少し頑固なところがあって、最初の頃は同期としてうまくやっていけるかどうか不安だったみたいです」

 

『まあ、でも一緒に授業受けていく内に、才能があって、そのくせめちゃくちゃ努力家で、悪い奴じゃないってのは分かってきた』

 

「でも、学院で過ごしていく内に貴方にはとても才能があって、その上で努力をしている人だと。悪い人ではないと知ったみたいです」

 

『こっぱずかしくて言えないけどさ、俺にとってセシルは良いライバルで、友達だったよ』

 

 

「貴方のことを───良きライバルであり、友人だったと」

 

 

 そう言い終えれば、セシルの色素の薄い瞳には涙の膜が張る。

 淡い翡翠色の瞳がかすかに揺れていた。

 

 それをあえて見ないふりをして、彼の言葉を待つ。

 するとセシルはしばらく黙り込んだ後、再び私に向かって頭を下げた。

 

「エマ・ホートン子爵令嬢、この度は本当に申し訳なかった。婚約の破断金は勿論、別途貴女に償う機会を与えてほしい。……───とはいえ、俺はこの学院を退学する身だ。次に会った時に、良ければ償わせてくれ」

「え?」

 

 セシルは魔導学院を辞めてしまうのか。

 

 彼の言葉に茫然としていると、セシルは憑き物が取れたような表情をして肩をすくめる。

 

「当然だろう。無実の女生徒にここまでのことをしたんだ。責任を取って退学するつもりだ」

「でも、そんな」

「婚約の破断金のことは心配しなくて良い。学外のクエスト報酬や魔術の特許でそれなりに稼いでいる。一括で払えるだろう。…………それに俺は貴族に盾を付いたんだ。魔術評議会を裏切った俺は、もう宮廷魔術師になれない」

 

 私がもし、本当に闇魔術を使っていたとすれば。

 彼は貴族に盾突いたとしても大義名分があるため、宮廷魔術師への道は閉ざされなかった。

 

 しかし私が勝って無実を証明したから、セシルは退学を余儀なくされる。

 

「……………」

 

 【アルカナ・クロニクル】の時間軸では、セシルは魔導学院に在籍していた。

 それを私の行動によって変えてしまった。

 

 何だかそれがひどく複雑で、申し訳ない気持ちになってしまう。

 

「そんな顔をする必要はない。俺が全て悪いんだ」

「セシル様、でも」

「それから、様付けは止してくれ。そんな風に君に呼んでもらえる資格はない」

 

 セシルが、いや、セシルさんがそう言って踵を返そうとする。

 

「エマ・ホートン子爵令嬢。またいずれ会った時、君に償わせてほしい」

 

 そうしてセシルさんは医務室から去って行った。

 

 シロウさんの身体を、通り過ぎて。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 エマ・ホートン子爵令嬢と別れた後、人気のない学院の通路をセシルは歩き続ける。

 

 彼女に対して途方もない罪悪感を感じながら、今後の身の置き方を思案する。

 

 魔術評議会が提案した貴族との婚約を最悪な形で破断させた今、この国で魔術師として働くのは難しいだろう。

 冒険者ギルドの流れの魔術師ならば話は変わると思うが、貴族や国が依頼するクエストは受けられないだろう。

 

(他国へ行こうにも、大人しく行かせてくれるとは思えんしな………)

 

 邪竜を打ち倒したメンバーであり、将来宮廷魔術師になることを渇望された身だ。

 考えすぎかもしれないが、妨害されるか。最悪指名手配される可能性だってある。

 

 そしてふと、セシルはシロウとの日々を思い出した。

 

 

『妹はいるが………いや、今はいねえ』

 

 

 シロウの家族を聞いた時、気まずそうに言われたあの言葉。

 おそらく唯一の肉親である妹はすでに亡くなってしまっているのだろう。

 けれどもし生きているのなら、エマのような少女ではないだろうかと思えてしまう。

 

 しかしそこでセシルはハッと立ち止まった。

 

 

 …───おにいちゃん。

 

 

 エマが目を覚ます直前、彼女の口から零れ落ちた言葉。

 

 けれど彼女には兄がおらず、いるのは血の繋がらない弟のみ。

 もしかするとシロウのことを【兄】と慕っていたのかもしれないが───

 

「いや、そんなまさか…………」

 

 妹がいること以外出自が不明のシロウ。

 実の両親を亡くし、遠縁に家を乗っ取られたエマ。

 同じ火属性の魔力を持ち、同じ火の精霊(イフリート)の宝剣を扱う彼ら。

 

 セシルはある一つの可能性に辿り着き、咄嗟に元来た道を振り返った。

 

 ちょうど医務室へ、ブラン教師とキャロル教師が入っていく。

 医務室から聞こえてくる彼女らの話し声にセシルはしばし立ち尽くし、首を振った。

 

(…………流石にそれは、考え過ぎか)

 

 シロウとエマが血の繋がった兄妹だなんて、そんなことあまりにも出来すぎている。

 

 ───しかしもし、それが事実なのだとしたら。

 

 自分は無実の女生徒だけでなく、友人であった亡き男の、唯一の妹の名誉までも傷付けたのではないか。

 

 それに思い至った時、これまで以上の罪の意識がセシルに重くのしかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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