キーンコーンカーンコーン。
ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、俺は用意していた荷物を掴むように持って、すぐに廊下へ飛び出した。
「おっ、君じゃん」
ふと声のしたほうを向くと、一人の女子生徒が壁に寄りかかって立っていた。クラスメイトの彼女だ。
「いや~私もちょうど帰るところでさ~。一緒に帰らない?」
「え、お前はいいのか?部活は?」
俺がそう聞くと、彼女はひらひらと手を振った。
「えっ、部活?いや~今日はちょっと家の用事があってさ。それで休んでるんだよ」
「それなら、早く帰ったほうがいいんじゃないか?」
「いやいやいや!そんな急ぎの用事でもないから、一緒に帰ろうよ~、ね?」
彼女にぐいぐいと腕を引かれ、断るのも面倒になって、俺は頷いた。
「わかったよ。一緒に帰る」
「よっしゃ!じゃあもう行こうか!」
彼女は嬉しそうにステップを踏みながら歩き出す。その後ろ姿を見ながら、俺は仕方なく後を追った。
「…これでやっと、彼は私の物に…」
不意に、彼女が何か小さくつぶやいたのが聞こえた。
「ん?今、なんか言ったか?」
「えっ!?な、何も言ってないから!早く行こっ!」
彼女は顔を真っ赤にして、ずんずんと先を歩いて行ってしまった。
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帰り道、俺は彼女と他愛もない世間話をしながら歩いていた。
「そういえば駅前の新作のクレープ食べた!?あれすっごくおいしいんだよ!今度買ってきてあげるから、一緒に食べよ!」
他愛もない話が続く。そんな中、彼女が不意に立ち止まった。
「そうだ!今から私の家に寄ってかない?」
「え、なんでだよ?」
突然の誘いに、俺は思わず聞き返す。
「実は君に見せたいものがあってさ。それをぜひ見てほしいんだよね!どうせ家に帰ってもゲームしてるだけでしょ!いいから、寄ってかない?」
「うっ…まあ、そうだけど…」
確かに、家に帰っても特にやることはない。俺はまあいいかと、彼女の誘いに乗ることにした。
リビングに通され、椅子に座ると、彼女がお菓子とジュースを出してきてくれた。
「はい、これ好きに食べてね」
「お、サンキュ」
「いやーにしても急にごめんね」
「で、見せたいものって何なんだ?」
俺がそう聞くと、彼女は一瞬言葉に詰まった。
「えっ、見せたいもの?」
「あー、まあそれはまた後で見せるからさ」
「それより、君って、す、好きな人とかって、居るの?」
彼女は顔を赤らめながら、上目遣いでそう聞いてくる。
「はあ!?好きな人…?なんでそんなこと…」
「いいから教えてよ~」
「………」
恥ずかしかったが、彼女の勢いに負けて、俺は隣のクラスに気になる子がいることを白状した。
「…へー。ちなみにそれって、誰のこと?」
声のトーンが、少し低くなった気がした。
俺はさらに恥ずかしくなりながらも、小声で「A子…」と、その子の名前を告げた。
「へー、A子か…。でも知ってる?あの子って、見た目に反して結構腹黒いって噂だよ。裏で色々言ってるみたいだし」
彼女の言葉に、俺はカッとなった。
「は?何言ってんだよ。あいつがそんなことするわけないだろ。A子はそんな子じゃない」
俺が強く否定すると、彼女は一瞬だけ、温度のない目で俺を見つめた。
「…ふーん。君は、あの子のこと信じてるんだね」
そう呟くと、彼女はすぐにいつもの笑顔に戻って、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「君、なんだか眠そうだね?」
「え…?」
彼女に言われて初めて気づく。急激な、抗いようのない眠気が俺を襲っていた。視界がぐにゃりと歪み、俺は椅子から崩れ落ちるように倒れてしまった。
「大丈夫。すぐに良くなるから」
最後に聞こえたその言葉は、俺の耳には届かなかった。
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目が覚めると、そこは見知らぬ薄暗い地下室だった。手足に冷たい感触がする。
「う…ん…なんだこれ、鎖…!?」
俺はコンクリートの床に置かれたパイプ椅子に、頑丈な鎖で縛り付けられていた。
「あっ、君、起きたんだ!おはよう!」
聞き覚えのある声が、地下室にこだまする。階段から降りてきたのは、さっきまで一緒にいた彼女だった。
「いやー、いきなりここに連れてきてごめんね。びっくりしたでしょ」
「お前…!なんで俺、こんなところに…!ここはどこなんだ!?」
俺が叫ぶと、彼女はにこりと微笑んだ。
「えっ、ここはどこかって?」
「ここはね、君に見せたかった場所。つまり…」
「君の永遠の居住地となる場所だよ!」
俺は驚きのあまり、何も言い出せなかった。
「なんで黙ってるの?嬉しいでしょ?だって、これからはずっと二人きりなんだよ。誰にも邪魔されない、私と君だけの世界」
彼女はうっとりと目を細めながら、俺の頬にそっと手を伸ばす。その指先はひどく冷たかった。
「ふざけるな!なんで、なんでこんなことするんだ!」
俺が震える声で叫ぶと、彼女は心底不思議そうに首を傾げた。
「どうして?決まってるじゃない。君のことが好きだからだよ。ずっと、ずーっと見てたんだから。君が朝、家を出るところも、授業中に窓の外を眺めている横顔も、部活をサボって買い食いしてるところも、全部」
彼女は立ち上がり、地下室の壁にかけられたカーテンを勢いよく開ける。そこに現れたのは、無数に貼り付けられた俺の写真だった。
「うわ…なんだよ、これ…」
登下校中の姿、教室での何気ない一コマ、友達と笑い合っている写真。その全てが、俺の知らないうちに撮られたものだった。
「これが、君に見せたかったもの。私の宝物だよ。でもね、これだけじゃ足りなかった。写真の中の君は、私を見てくれないから。だから、本物の君が欲しくなっちゃった」
「A子はどうした!お前、あいつに何かしやがったのか!」
俺がA子のことを問い詰めると、彼女はつまらなそうに鼻を鳴らした。
「A子?ああ、あの子のことね。心配しなくていいよ。もう二度と君の前に現れたりしないから。だって、君はあの子のこと信じてるみたいだけど、あの子がいると君が私だけのものにならないでしょ?そんな邪魔者は、私がちゃんと『お掃除』しておいたから」
彼女は屈託のない笑みを浮かべる。その純粋さが、今は何よりも恐ろしかった。俺は必死に逃げようともがくが、手足は頑丈な鎖で椅子に繋がれている。ガチャリ、と無慈悲な音が響くだけだった。
「無駄だよ。その鎖は、私が君のためにお父さんの工具箱から持ってきた特製品なんだから。さあ、これからの話をしようよ。学校なんて行かなくていい。友達もいらない。家族のことも忘れなよ。これからは私が君の全部になってあげる。食事も、お風呂も、何から何まで、全部私がしてあげる。君はただ、私のそばにいて、私だけを見ててくれればいいの。ね?最高でしょ?」
地下室の小さな窓から差し込む光が、恍惚の表情を浮かべる彼女を照らし出す。その目は、狂気的なまでの愛情に濡れていた。
「さあ、記念すべき二人きりの最初の食事は何にしようかな。君の好きなハンバーグがいいよね。玉ねぎ、ちゃんと細かく刻んであげる。ああ、幸せ……。これから毎日、君と一緒にいられるんだね」
絶望に染まる俺の顔を覗き込み、彼女は心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「これからよろしくね」
自分にもこんな友達が欲しかったよ…