居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について   作:古野ジョン

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第33話 過去と現在

「おおー!」

「兄ちゃんもやるなー!」

 

 ピロピロとまた効果音が鳴り、オーディエンスから一段と大きな歓声があがった。そうだ、思い出してきた。こんな感じだったよな。

 

「ふっ!」

 

 続けて、第二球を同じように打ち返した。カーンと快音が響き、今度は鋭いライナーが飛んでいく。白球が直線軌道を描くのをじっと目で追いつつ、再び歓声が巻き起こるのを聞いていた。

 

 ちらりと、後ろを見る。やんややんやと騒ぐ観衆の中に、うんうんと頷いている女性が一人。そう、夏織さんだ。

 

 球を打ち返しながら、考えた。夏織さん、どうして野球が得意だと分かっていたのだろう? そして、どうして俺にわざわざ打たせようとしたのだろう? ……分からない。

 

「いいぞ、怜!」

 

 夏織さんの声が聞こえる。女子に応援されながら野球をするなんて、高校時代じゃあり得なかったな。妙な感覚だけど、嫌な気はしない。

 

 不思議な気持ちを味わいながら、規定の球数までひたすらバットを振り続けた俺であった……。

 

***

 

「いやー、疲れましたよ」

「お疲れ様だ、怜。よく打っていたな」

 

 打席から戻ると、夏織さんが笑顔を浮かべていた。俺の方を見て、何やら満足そうだ。別に大したことはしていないんだけどな。

 

「怜、やっぱり野球をやっていたのだろう?」

「……なぜ分かったんですか?」

「ここに来てから、怜の目が輝いていたんだ。水族館にいた時よりもな」

「えっ、そうですか」

 

 自分じゃ気づかなかった! なんか恥ずかしい!

 

「私は高校時代に弓道をしていたんだ。怜は?」

「……まあ、たしかに高校野球をしていました。サードですよ、サード」

「花形じゃないか! すごいなあ、ミスタープロ野球だ」

 

 夏織さんはなんだか尊敬の目を見せていた。ミスタープロ野球……って、いったいいつの話をしているんだこの人は。現役の頃どころか、監督をしていた頃すら記憶にあるか怪しい。

 

「怜、どうして言ってくれなかったんだ?」

「へっ?」

「最初から、野球をやっていたと言ってくれればよかったのに」

「ああ……」

 

 首をかしげて、こちらに問うてくる夏織さん。別に嫌だったわけじゃないが、積極的に思い出したい記憶でもないのだ。

 

「実は、最後の大会の直前に体を壊したんです。結局一試合も出られなくて……まあ、不完全燃焼というか」

「そ、そうだったのか。すまない、悪いことを聞いた」

「いえいえ! 言わなかった僕が悪いんですから」

 

 結局、俺にとって高校野球は中途半端に終わってしまったものだったのだ。だから、心残りというわけではないけど……満足は出来ていない。

 

「さっ、そろそろ出ましょうか」

「れ、怜」

「どうかしました?」

 

 バッティングセンターから出ようと、足を踏み出そうとしたその時――夏織さんに呼び止められた。

 

「わたっ……」

「?」

「私は、怜と一緒にいるからな!」

 

 ……えっ?

 

「えっ?」

「えっ?」

 

 思わず、見合ってしまう。しばらくして、自分が言ったことが恥ずかしくなったのか……夏織さんは、急いで歩き出した。

 

「い、行くぞ怜!」

「は、はいっ!」

 

 そうだっ、まだまだデートは続くんだ! いっぱい楽しまないとな――

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