男は善意で火災報知器を押した   作:がしやま

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【第一章】第1話

――火事です、火事です。××映画館付近で火災が発生しました。

 

 

 けたたましいサイレンと共に無機質な警告がショッピングモール内にて響く。

 明るく賑やかだった空気が一変し、場は混乱の渦に包まれていた。

 慌てふためく者、好奇心を擽られる者、呑気にカメラを回す者、と三者三様の反応があちこちで見られる。

 

 そんな中、ある一人の男が立ち上がる。

 ウィングヒーロー、ホークス。彼は逃げまとう人々の波に逆らって現場へと急ぐ。それと同時進行で己の個性である剛翼を駆使して避難の手助けをしつつ、逃げ遅れた者がいないかを確認しながら迅速且つ慎重に動いていた。

 

 

 しかし、ホークスは違和感を覚えた。

 火災付近まで来たというのに炎どころか煙も無い、スプリンクラーが作動しているわけでもない。

 おかしい、と思いながらグルリと周囲を見渡す。

 すると一人の男に目が留まる。

 

 無造作に伸びた黒髪、長い前髪の下から覗く虚ろ気な瞳、死人のような青白い肌。

 男はホークスの存在に気付くなり、げんなりとした表情を浮かべた。

 そして徐に口を開く。

 

 

「――悪戯で押しました、どうぞ捕まえてください」

 

 

 男の口から出た薄っぺらい弁明に、ホークスは呆気にとられる他なかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「こんにちは、お兄さん。深夜バイトって大変?」

 

 

 ニコニコ。

 そんな効果音が聞こえてくるんじゃないかと思う程、目の前の男、ホークスは綺麗な笑みを浮かべていた。

 

 

 大学の学費を稼ぐために深夜のコンビニバイトを始めた青年、阿部。

 しかし深夜帯ということもあり客も中々来ず、ただただ時間が過ぎていくばかり。誰もいないことを確認し「退屈だ」と呟いて欠伸をしていたところだった。

 その矢先で突如来店してきた人気ヒーロー様に、阿部は脳内がスペースキャットとなっていた。

 そんな彼を他所にホークスは商品を手に取ることなく真っ先にカウンターへと向かい、阿部に声をかけた。そして冒頭の場面に繋がる。

 

 阿部は苦い顔をしながら「いらっしゃいませ……」となんとか挨拶を絞り出す。

 実を言うと、二人が会話を交わすのは今日が初めてではない。だというのにどうしてここまでよそよそしくなってしまっているのかと言えば、先日ショッピングモールにて悪戯で火災報知器を押し、ホークスの世話になったことが深く関係している。

 まだ日もそこまで経っていない、本人からしたら気まずいに越したことはないだろう。

 

 阿部はおそるおそる口を開く。

 

 

「……なんですか、また事情聴取ですか」

 

 

「んー、そんなところかな」

 

 

 ヘラリと笑うホークス。

 面倒事の予感を察知した阿部は「おしゃべりしに来ただけなら帰ってください」と睨むも、それも無視してホークスは「単刀直入に聞きますね」と話を強引に続けた。

 

 

 

「最近起きている変死事件について、何か知っていることはありますか?」

 

 

 

 変死事件。

 阿部は一瞬だけ目を泳がせたが、ホークスはそれを見逃さなかった。

 

 

「監視カメラに映ってたんですよ」

 

 

「……何がです」

 

 

「人の身体が粘土みたいに変形し始めて、そのまま死んでいく姿が」

 

 

「そうですか、気味が悪いですね」

 

 

「ええ、全くもってその通りです。

 その後タイミングよく火災報知器が鳴ったのも奇妙だと思いません?」

 

 

 詰将棋のように逃げ場を一つ一つ潰していくホークス。その丁寧で回りくどいやり方に、阿部は押し黙るしかなかった。

 

「いやー、おかげで助かりましたよ。避難もスムーズに進みましたし」

 

 

「……偶然じゃないですかね」

 

 

 

「はは、まだしらばっくれるんですか」

 

 

 

 顔は笑っているも、目だけは笑っていない。

 鋭い瞳とピリピリとした空気に阿部は居心地悪そうに目を逸らす。そんな彼に追い打ちをかけるかの如くホークスは言葉を続ける。

 

 

「正直に言ってください。じゃないと貴方が毎日ナイフを持ち歩いてること、警察の皆さんに話しちゃいますよ」

 

 

 その言葉に、とうとう阿部は「は……!?」とわかりやすい動揺を示した。

 光一つ無い真っ黒な瞳が大きく見開かれ、怪しい笑みを浮かべるホークスを映す。そしてあからさまに「面倒なことになった」という顔をしながら舌打ちをする。

 ガシガシと乱暴に頭をかき、深い溜息を吐いた。

 

 

「……お守りで持ち歩いていたって言ったら?」

 

 

「それでも銃刀法違反ですね」

 

 

 無情な返答に阿部は地団駄を踏みたくなった。

 目の前の男は相変わらずニコニコ笑顔を崩さず「話す気になりました?」と顔を覗き込んでくる。

 平手打ちをかまして怒声を浴びせたくなる衝動をなんとか抑え、深呼吸を一つ。

 

 落ち着いて、冷静に。

 

 これ以上罪を重ねてはそれこそ面倒だ、冷静にいこう。

 頭の中でグルグル思考を巡らせる。信じないかもしれない、けれども言わなければ豚箱行き。

 その場しのぎの嘘は後々自分の首を絞める羽目になるだけだ。

 

 阿部はゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――アンタは呪いを信じるか」

 

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