男は善意で火災報知器を押した   作:がしやま

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第13話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、相手は一体全体何を企んでいるんだろうね。

 わざわざ俺を指名したところを考えると、人体改造でもご所望なのかな?」

 

 

「目先の強さにとらわれただけのお馬鹿さんの犯行であれば幾分かマシなんですが……どうでしょうね」

 

 

 深夜12時、何十年も前に閉校して老朽化しきったボロボロの廃校舎を前に、阿部と真人はそんな会話を交わす。

 

 

 

 顔も分からぬ謎の人物に夏油を人質に取られたのがつい昨日のこと。

 人質に取られた夏油の身の安全を考え、ここは素直に相手の要求に従うことにした阿部は真人を連れて指定された廃校舎へと足を運んでいた。

 

 人気は殆どなく、月明りだけが仄かに辺りを照らしている。

 校舎からは呪霊の気配を感じるが、どれも精々四級程度。気にする程のものでもない。何か目立った罠が仕掛けられているようにも見えない。

 

 だが油断は禁物だ。この世界の厄介なところは、前世とは違い警戒すべき対象が呪いだけでなく個性という能力にまで広がったという点だ。

 

 聞くにこの世界ではなんと人類全体の八割の人間が術式に匹敵しうる個性なる能力を有しているというではないか。

 人類の八割が呪霊の見えない術式使いと言っても過言ではない。彼らは一人一人が人を簡単に殺めることを可能とする力を持っているのだ。相手が非術師であったとて気を緩めることはできない。

 

 

「真人君、もしものことがあった場合は貴方だけでも逃げてください。そして早急に五条君に報告を」

 

 

「はいはい、わかってるよ。

 でも俺がいる限り君は誰にも殺させないよ、絶対にね」

 

 

 「アンタの下手くそな料理、結構気に入ってるんだ」と首を傾ける真人に阿部は苦笑い。

 今は我儘ばかりの困った食いしん坊キャラと化しているが、まさかこの呪霊が先日まで世間を騒がせていた連続変死事件の犯人だなんて誰も思うまい。やはり食の力とは侮れない。

 

 今日も全てが終わったらご褒美に肉じゃがでも振舞ってあげようと、阿部は呑気にそんなことを考えた。

 

 しかし、穏やかだった空気も次の瞬間すぐさま一変することとなる。

 とある男の登場によって――

 

 

 

「――久しぶりだな、阿部」

 

 

 

 何の前触れもなく背後から聞こえてきたその声に、阿部は思わず身体を硬直させた。

 真人は何の躊躇もすることなく後ろを振り返り、両手に呪力を纏わせた。しかし阿部だけはずっとその場を動けずにいた。

 

 

 

 その声があまりにも、聞き覚えのあるものだったから。

 

 

 

 ドクドクと勢いよく鼓動する心臓、乱れる呼吸、騒がしい耳鳴り。全身が激しく己の動揺を主張していた。

 もう今は冷静でいられる程の余裕も残されてはいなかった。

 

 

「どうした阿部、体調でも悪いのか」

 

 

 そう言って男が近寄ってきたがすぐさま真人がそれを牽制するように腕を変形させた。しかし阿部は「待ってください」とそれを制止する。

 ようやく覚悟を決めた阿部は意を決し、後ろを振り返った。

 そして一瞬だけ目を見開き、震える声でポツリと呟いた。間違いない、絶対そうだ、確実にそうだ!

 

 

 

「や、夜蛾、く――」

 

 

 

 しかし最後まで言い終わるよりも先に激しい痺れに襲われた。

 ビリビリと、まるで電流のような衝撃。それと同時に流れ込んでくる前世の親友、夜蛾との思い出。高専時代に過ごした青い夏の日々。

 膨大な情報量が湧き水のごとく勢いよく噴き出てくる。

 

 互いに背中を預けて命を懸けて戦ったたった一人の、唯一の親友。ボロボロの身体を支え合って、一緒に保健室に行った。泥だらけの顔を見て笑い合った。そして、もっと強くなろうと誓い合った。涙を流し合った。

 何度も挫けて、何度も励まし合い、何度も喧嘩した。

 二人で色んな経験をした、色んな世界を見た。

 そんな長くもあり短くもあった若かりし頃の四年間の思い出。

 

 もしこの世界で再び彼と出会うことができたのなら、いつか謝りたかった。

 勝手に死んでごめんと、生きることを諦めてごめんと、逃げてごめんと、君だけを残して死んでしまってごめんと。

 

 

 目頭が熱くなる。鼻の奥がツンとなる。

 下唇を噛み、手を伸ばす。過去の煙が腕に纏わりつく。意識がボンヤリとしてくる。心地よい夢でも見ているかのように、穏やかな気分になっていく。

 やっと、会えた。やっと、謝れる――

 

 

 しかし阿部の口は勝手に動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰ですか、貴方」

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