男は善意で火災報知器を押した   作:がしやま

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第19話

 

 

 

 

 

 

 闇夜に浮かぶ白、そして二つのサファイア。

 予想外の展開に夜蛾もどきは思わず「随分と大物が来たね……」と汗を滲ませ、甚爾は「これは聞いてねーぞ」と舌打ちを一つ。

 そんな彼らを他所に、夏油はただただ茫然としていた。あの日の夏空を想起させる澄んだ青を、呼吸を止めながら眺め続けていた。

 

 

 ――五条悟。

 

 

 呪術師最強、数少ない特級呪術師たちの中でも群を抜いた実力を持つ男。

 単独での国家転覆など赤子の手を捻るより生ぬるい、地球上の生物全てを皆殺しにし、世界征服を成し遂げるまである底知れぬ可能性。この世に存在する生命は全て彼の手中にあると言っても過言ではない。

 

 

 

「――どういうことかな、これは」

 

 

 

 衝撃と圧倒的なプレッシャーにより誰もが身動き一つとれず口を閉ざしていた中、とうとう沈黙が破られた。止まっていた時が動き出す。

 しかしようやっと開かれた口から紡がれた言葉に、夜蛾もどきは全身が痺れわたる感覚を覚えた。

 たった一言、たったそれだけの言葉。しかしその存在感と威圧感は絶大。

 

 神秘的な美しさに隠れた殺戮的な牙の矛先は誰に向くか、まさに一触即発。

 

 

 

「ちょ、五条! こっち手伝って!! そろそろキツい!!!」

 

 

 

 そんなピリついた空気をぶち壊すかのごとく、真人は五条に応援要請。

 今の今までずっと脳無の相手をしていた真人。脳無特融のタフネスとパワーに手を焼いていたわけであるが、そろそろ呪力的な面で限界が近かったところだった。実質、五条の登場に一番歓喜したのは彼であろう。

 

 五条は「はいはい、わかったよ」と先ほどの険悪な雰囲気とはうってかわり朗らかな笑みを浮かべ、真人の言葉に応じた。

 そしてそこからは一瞬だ、五条にとっては作業のようなものである。

 

 

 五条家相伝、無下限呪術による引き寄せる力を応用し、瞬きの間に脳無の正面まで移動。そして目にも止まらぬ速さでその胸部に己の右手を当てる。

 

 

「――術式反転、赫」

 

 

 五条の右手に極小の赫が発生、それを脳無の身体ごと地面に押し付け、赫の弾く力を持ってプレスする。

 赫の圧に耐えられなくなった身体は木っ端みじんに爆散し、核も三秒もかからぬ間に全て粉砕。

 五条悟の圧勝である。

 

 五条は身体に着いた砂を軽く払い、「次はお前らがこうなる番だよ」と鋭い視線を向けた。

 流れが、変わった。

 

 

 

「黒霧、作戦は失敗だ」

 

 

 その言葉を合図に、夜蛾もどきと甚爾の身体を黒い霧が包み込み始める。

 逃走を図る彼らに五条は訊ねた。

 

 

「今世で、何企んでやがる」

 

 

 すると夜蛾もどき……いや、羂索・・は少し考える素振りを見せた後、不敵な笑みを浮かべた。そこにあるのは純粋な好奇心のみ。

 人の命も何もかも、己の渇きを癒すための道具であるとでも言わんばかりの異常なまでの軽薄さは前世と全く変わらない。

 

 

 

 

「――魔王の作る世界が、見たくなった」

 

 

 

 

 それだけ告げて暗闇に姿を消す羂索。続いて「もう二度と会わねーことを祈る」と中指を立てながら捨て台詞を吐き、霧に飲まれていく甚爾。

 

 まるで前世の戦いのリベンジマッチ……いや、延長戦だとでも言うような羂索の口ぶりに、五条は一人胸をざわつかせていた。

 裏で何かが始まろうとしているのだと、怪しく光る月を静かに睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして人知れず起きた戦いは五条悟の登場により終止符が打たれたのだった。多くの謎と、新たな敵を残し――

 

 

 

 

「おーい、生きてるー? 生きてないと怒るよー」

 

 

 

 

 重苦しい空気にそぐわぬ真人の声が響く。

 真人は気絶した阿部に駆け寄り「今日の晩御飯どうすんのさ」と頬に触れる。そして残り僅かな呪力を使い、無為転変で阿部の傷を塞いでいく。

 

 夏油に前世を思い出させるにあたり、阿部は特例で他者への無為転変使用許可を出していた。

 その許可は今もまだ下りたまま、夏油だけに使えという条件も出ていない。阿部が目覚めて余計なことを言う前に治しておくが吉である。

 

 

 

 そんな彼らを他所に、五条と夏油は静かに互いを見つめ合っていた。

 夏油は時折視線を泳がせ、気まずげに五条の反応を伺う。五条はというと、表情一つ変えず、無言で夏油を見つめ続けていた。

 戦いは終わった。しかし問題はその後だ。

 

 記憶を取り戻した夏油に五条は何を思うか、何を起こすか。

 

 

 

 

 夏油の運命はいかに――!?

 




ー人物紹介ー



【阿部】
死ぬ気で頑張った。



【真人】
脳無から夏油を護ったり、阿部の大怪我を残り僅かな呪力で治したりと、阿部の次ぐらいに頑張った。えらい。
今日の晩御飯は五条奢りの焼肉です!



【八百万百】
憧れの阿部先生から小型の手榴弾と煙幕を用意するように頼まれた。阿部先生曰く「仕事で必要になりました」とのこと。
まんまと信じた。純粋。


【五条悟】
阿部のなーんか怪しい様子を疑い、ちょっと調べてたら案の定。
一人で抱え込んじゃダメだよ阿部さん。そして傑、僕とお話ししようか。



【夏油傑】
五条とお話しする。



【羂索】
夏油の身体が欲しかったけど予想外が重なって無理だった。
今は魔王様と一緒に色々企んでるよ! 混ぜるな危険!!!



【荼毘】
あのまま戦ってたら多分荼毘が勝ってた。惜しかったね。



【伏黒甚爾】
大金で雇われた。あくまで雇われなので今後どっちの味方につくかは不明。
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