男は善意で火災報知器を押した   作:がしやま

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第6話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、覚悟は決まったんですか? 阿部さん」

 

 

「いや、そんなこと急に言われても、ねえ……」

 

 

 暗い表情でチマチマ小さな肉を口に運ぶ阿部、そんな彼を頬ば杖を付きながら見つめるホークス。

 とある焼き肉店にて、阿部とホークス、そして――

 

 

 

「ねー、この肉固くてもういらない。もっと柔らかいのちょうだい」

 

 

 

 連日お茶の間を騒がせていた呪霊、真人の姿があった。

 真人は何食わぬ顔でポイポイ焼けた肉を取り皿に放り込み、白ご飯と共に勢いよくかきこんでいく。

 野球部さながらの食べっぷりに阿部は心のうちで「今後の食費、どうなるんだろう……」と軽く絶望していた。

 

 

 あの生か死かのガチバトルが繰り広げられた日、阿部は真人に最後のチャンスと称して縛りを結ぶことを持ちかけた。

 そう、絶対服従の縛りを。

 

 阿部は真人と戦うにあたり、真人の術式の有用性に気付いた。

 無為転変、対象に触れることで魂を変化させると共に、肉体にも変化を及ぼす術式。触れられたら即ゲームオーバーの恐ろしい力だが、使いようによっては多くの人々に救いを与える力だ。

 

 無為転変を使えば、失った足を生やすことも、臓器を作り替えることも、老いた人間を若返らせることだってできる。汎用性も高く、ここで失うのは非常に惜しい。

 ただ一つ問題だったのは人間の命を軽んじる真人が使用者となってしまったということ。包丁で食材を切るか、人間を切るかというやつだ。

 

 

 しかし、今は違う。

 真人と縛りを結んだことにより、その術式は阿部の手中にあると言っても過言ではない。今後、阿部と真人の縛りが切れない限りこの力が悪用されることは二度とないだろう。

 だが、仮に縛りが消えたとて、然程心配する必要はないのかもしれない。なんせ、今の真人は阿部の教育もありかなり丸くなっている。

 最近は阿部に教えてもらったスイーツにハマり、食の素晴らしさを堪能する毎日を過ごしている。食べ物の力は偉大だと阿部は心の底から思った。

 

 

 これで一件落着、事件解決おめでとう。

 ……と、ここまではよかったのだ。

 

 というのも、今回の事件をきっかけに公安が動き出したというのだ。

 この先、このような悲劇が二度と起こらぬように、日本中から呪術師としての素質を持つ人間の捜索が始まったらしい。

 そして阿部はしっかり呪いの有識者として目をつけられ、現在かなり強引な勧誘を受けている。更に、無為転変なる天地をも揺るがす術式を持つ真人を手懐けたということで、阿部の公安引き入れは確定時効と化しているらしい。

 いずれは今通っている大学も、深夜バイトともサヨナラすることだろうとのこと。

 

 

「……まさかホークスさんが公安直属のヒーローだったなんて驚きです。

 なるほど、色々と合点がいきました」

 

 

「あんまり大きい声で話さないでくださいね? これでも一応極秘なんで」

 

 

「さいですか……」

 

 

 小さな善意で火災報知器を押したことから、まさか公安を動かす事態にまで発展するだなんて誰が考えたことだろうか。しかも、特級呪霊を手懐けて? 公安ヒーローホークスとも繋がりを持って?

 阿部は過去の自分にこのカオスな現状を教えてやりたくなった。

 

 

 

 

 

 

 そんな公安ヒーロー、特級呪霊、転生者という、異色すぎる組み合わせを、遠くから見つめる人物が一人。

 黒い目隠しの下から青い瞳を覗かせて、口角をゆっくりと上げた。

 

 

 

 

「何あれ、面白そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー人物紹介ー




【阿部】
前世が呪術師。普通に強いけど、仲間が死んでいく度に自己肯定感が下がりやさぐれた。
術式が釈魂刀。
今後、公安が設置する呪術師の組織に強制的に入れられる。色々可哀想な子です。


【ホークス】
とりあえず阿部がすごいってことはわかった。
今後、阿部を公安でサポートしていくよ。


【真人】
阿部と絶対服従の縛りを交わし、今後阿部の右腕としてバリバリ活躍していく。
今は食にハマッてる。マリトッツォうめぇ。


【目隠しの男】
なんか特級呪霊と縛り結んでるイカレ野郎がいたんだけどウケる。
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