とある変死事件がきっかけで公安が急遽設置した『呪霊対策課』、端的に言えば呪いに纏わる事件に対応する政府公認の呪術師組織である。
彼らの主な仕事は呪霊および呪詛師の抹殺、メンバーは三人。
転生者の阿部、特級呪霊の真人、それから――
「最近できたシュークリーム専門店のシュークリーム、超神がかってるから一回食ってみ。
冗談抜きで飛ぶよ」
「話盛ってない? 五条さっきから表現大袈裟だと思うんだよね」
「盛ってない盛ってない、マジモンだからアレは」
元特級呪術師の五条悟。
ひょんなことから公安ヒーローホークスと知り合い、そこから特級呪霊真人と絶対服従の縛りを結び、更にはコンビニバイトから公安勤務へと昇格したミラクルボーイ、阿部。
前世においてのトラウマで一度は呪術師の世界から身を引いた彼であるが、ホークスと出会ったことを境に再び人助けの喜びを思い出し、今世でも呪術師として人々を救い続けることを決意した。
しかし、そんな人生の第一歩を踏み出そうとしていた矢先に現れたこの男、五条悟に阿部の覇気はみるみるうちに弱まっていった。その目にはいつにも増して光が無い。
現在喫茶店にて、女子会よろしく最近のスイーツについて和気藹々と語り合っている真人と五条。
そんな彼らを横目に冷めたコーヒーを啜る阿部。
特級呪霊と元特級呪術師が意気投合しているツッコミどころ満載のこの光景に、阿部のキャパはピークに達しかけていた。その結果、阿部は半ば無理やりに「ダイバーシティ」という言葉で全てを片付け、思考放棄という選択を選んだ。実に合理的である。
――五条悟。
白い髪に、スラリとした長身。服は全て黒で統一されており、その顔には黒い目隠し。
全身で不審者を主張するこの男こそ、前世では最強の呪術師として名を馳せていた特級呪術師である。
阿部と同じく前世の記憶を有しており、再開当初は阿部を丸一日中マシンガントークで昔話に付き合わせたという。
阿部は根っからの五条嫌いだ。
七海建人の言葉を使って言い表すのであれば、阿部自身、五条を信用しているし信頼している。しかし尊敬はしていない。
これが阿部にとっての五条悟である。
「……五条君、そろそろ本題に入ってもいいですかね」
「ん、ああごめんごめん。忘れてたよ」
「で、何の話だっけ」と首をあざとく傾ける五条に、阿部は深い溜息を吐きつつ、「呪霊対策課のことです」と呟いた。
阿部、真人、五条の三人で構成される呪霊対策課、その内二名は特級クラスの実力を持つという心強すぎるメンバーではあるが、少し問題があった。
「五条君、雄英で教師やってるんですよね。
呪霊対策課に入ったら教師なんてやってる暇ないですよ」
「誰が何と言おうと基本教職の方を優先するからね、僕は」
「それだと俺みたいに無理やり仕事辞めさせられるんじゃ……」
そう、今世の五条悟は呪術師ではなく、雄英高校の教師として働いていた。
前世に引き続き無下限呪術と六眼を持って生まれた五条、ヒーローを目指していたのであれば、あのかの有名なオールマイトをも超えるヒーローになれていたかもしれない。
しかし、本人曰く「表立ってキャーキャー言われるのはもう飽きてるから」と興味無さげだ。今世では程よくチヤホヤされながら、立派な生徒たちを育成していきたとのこと。
「公安がどれだけ強引な手口に出ようが、僕は絶対に教師を辞めるつもりはないよ。
絶対にね」
「はあ……」
真っ直ぐな目標に感心すればいいのか、その裏に隠れる不純な動機に呆れればいいのか、阿部は激しく迷った。迷った末、本日二度目の思考放棄を選択した。考えるだけ時間の無駄と判断したようだ、懸命である。
「にしてもっすよ、阿部さん」
五条は頬ば杖を付きながらボトボト砂糖を紅茶に落とす。
目隠しの下に隠された青い瞳、その視線の先にはパンケーキを幸せに頬張る真人の姿。
全てを見通す六眼は、阿部と真人の絶対服従の鎖を映し出す。
「よくコイツと縛り結べましたねぇ、特級ですよ」
「それに関しては運がよかったというか、なんというか……」
「流石は阿部さんですね」
「いや……そこまで言われる程ではないです」
阿部の言う通り、確かにあれは運による勝利だと言っても過言ではなかった。
二人の術式の相性は最悪だった。しかし、術式の性能は真人の方が遥かに上だ。真人の敗因は体術の怠りであり、もしも近接戦闘に長けていたのであれば結果はまた変わっていたことだろう。
もう一つ言うのであれば、真人自身が術式を把握しきれていなかったことも理由としてはある。
多重魂、撥体、幾魂異性体、遍殺即霊体。
真人が前世を思い出していたのであれば、本格的に阿部に勝ち目はなかった。
「……まさか、君が阿部さんとねぇ」
「……?」
五条は古き日の思い出に浸りながらパフェを口に運んだのだった。