『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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殆ど乗りと勢いの産物です。




IS編
その1


 

○月×日

 

 ────前々から思っていたが、自分はもしかしたら面倒事に巻き込まれる体質なのかもしれない。

 

先の再世戦争でどうにか生き残りはしたものの、身を寄せる場所がない為、拠点を探す事を踏まえてグランゾンで世界中のアチコチを廻っていたら、多元世界特有の現象“時空振動”に巻き込まれてしまった。

 

次元の壁を越えて別世界に転移させられる現象“時空振動”これにより破界の王ガイオウやインサラウムといった別世界の存在が現れたりするなど、多元世界の代名詞とも言われるこの時空振動。まさか自分がそれに巻き込まれるとは露ほど思わなかった為、現在絶賛戸惑い中である。

 

まぁ、こうして日記を書ける分だけ冷静を保てているのだから、自分も結構逞しくなったと思う。

 

ともあれ、まずは情報収集だ。幸いグランゾンは人目の付かない海底に転移させられていたし、丸一日位ゆっくりと考えた方がいいだろう。

 

 

 

○月△日

 

 昨日一日、グランゾンを通してこの世界について調べてみた結果、色々と面白い事が判明した。まず一つ、時空振動で元の世界に帰って来られたのかなという自分の淡い期待は見事に打ち砕かれたのだが……まぁ、これ自体はさほど気にしてはいないので置いておく。

 

問題はこの世界の根幹を担うであろうモノ、“IS”なるマルチフォーム・スーツの存在についてだ。このISは制作者である篠ノ之束氏が設計、開発した代物で宇宙での活動を想定して作られた飛行パワードスーツだ。

 

現在はそんな制作者の意図とは別に【スポーツ】競技に使用される【兵器】として運用されている。

 

スポーツなのに兵器とはこれ如何に? と最初は突っ込み所満載に思われたこのスーツだが、その性能を見ればそれも納得だと言えた。

 

何せこのパワードスーツは人間大のサイズでありながら従来の兵器を大幅に越えた性能を有しており、こんなモノが戦争に使われたら、一方的な展開になるのは目に見えているだろう。

 

分かりやすく言えばソレスタルビーイングのガンダムと自分が元いた世界の軍事兵器が勝負するようなモノ。核兵器位しか打つ手がなくなるのだ。

 

しかもこのIS、戦闘能力は凄まじく高い癖に基本的に女性しか動かせない仕組みとなっている為、もし男と女で戦争すれば一月も経たずに男の敗北とされている。

 

そんな訳でこのISは新たに発足された条約に則り、表向きでは戦争に使用されるのは固く禁じ、スポーツで使われる“安全な兵器”として運用される事になったらしい。

 

 他にも色々と調べた事があるのだが、今日の所はこれで終了する事にする。

 

明日からは実際にこの地に降りて自ら探検しようと思う。いつまた時空振動に巻き込まれるかは分からないが、その時まで自分なりにこの世界で生きていこうと思う。

 

 

 

○月α日

 

 グランゾンを重力の底───ワームホールに収納し、この世界を散策しようと思った自分は取り敢えず馴染みの深い国、日本へと降り立った。

 

戸籍や履歴はこの世界にある学校や施設の名前を使って偽造し、身分証明も年齢と名前以外は全て嘘で塗り固められている。

 

……偽造かぁ。仕方ないとはいえ、ほんの数年前までは考えられなかった事を平然とやるようになった事に少し複雑な心境を抱く。

 

ともあれ、自分が作った身分証は思った以上に出来が良かった。警察の人に詰め寄られた時は焦ったが自分の身分証を見た途端、簡単な事情聴取をされただけで解放されたし、あちらの質問に対し観光だと答えれば地図をくれた上に周辺の地理についても詳しく教えてくれた。

 

ISの存在の所為で女尊男卑の世の中になってしまったとはいえ、こういった親切心は残っていてくれるのは素直に嬉しく思う。

 

しかし、どの世界にもああ言った輩はいるものだな。今時喫茶店に強盗とか、しかも銃器で武装したりしてまで……。

 

あそこまで重装備なら、いっそ銀行とか襲えよ。女性ばかり狙って、みみっちい。

 

 あぁ、でも困ったなぁ。幾らお店の修繕費として払ったとしてももう少し出費は抑えるべきだった。

 

多元世界の頃からこつこつと貯めていた資金、その半分が一気に飛んでしまった。……マジどうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISが世に出てきて早数年。その絶対的な力と女性にしか扱えない特性の下、世界は女性有利の男女差別化が深刻化していった。

 

女は男よりも強い。その風潮は適性のない一市民にまで浸透し、世の中は女尊男卑となってしまった。

 

下らない。女性警官として普段から世論を見てきた私から見れば、今の世の中はこの一言に尽きた。

 

女の方が強い? 男の時代は終わった? バカな、それは現実を直視出来ていない妄想者の戯言に過ぎない。ISの力が強くても、それが女性にしか扱えなくても、ISは一人の力だけでは動けない。万全のバックアップと有能な支援者達の協力があって、初めてISは運用できるのだ。そしてその有能な支援者達の中には当然男性も含まれている。

 

世界的パワーバランスは女性側に傾いているが個人の能力としては依然として男性の方が強い。学生同士によるIS無しの喧嘩なら、当然男性の方が有利なのだ。余程訓練した人間でない限り、このバランスを覆すのは無理だろう。

 

そんな当然の答えも今の世界は気付けていない。今後のこの世界の行方に不安を覚えていると、署から緊急の報せが届いてきた。

 

 とあるショッピングモールにある喫茶店を武装した男性集団が占拠したという。以前の安全大国であった日本からは想像すら出来ない出来事だった。

 

やはり、ISが出てきてから世の中はおかしくなった。別に前の時代が優れていたとは言えないが、それでも武装した人間に一喫茶店が占拠された事など一度も無かったのも……また事実だ。

 

恐らくは今の女尊男卑の世の中に不満を持った者達による犯行だろう。ISの存在の所為で男女差別は年々その酷さを増し、傲慢さを増長させた女性によって酷い目に遭わされた男性も少なくはない。

 

その為、女性に恨みを抱いた男性もまた存在している。犯人グループが占拠した喫茶店は女性も多く訪れている店だ。今回の犯行の動機もそれに関係しているのだろう。

 

 IS。女性にしか扱えない絶対的な力を持った“兵器”それによって生み出された歪み、それが今の様な形となって現れては更なる歪みを生み出しかねない。

 

当然、警察たる私達も現場へ急行した。本来なら熟練された特殊部隊の到着まで待つしかないのだが……私達が駆けつけた頃には事態は終息していた。

 

散乱とした店内、しかし銃が撃たれた様子はない。あるのは隅で呆けた様子の店員及び客員、そして……床で延びている犯人グループと、中央で佇む一人の男性。

 

紫色を帯びた頭髪、身に纏った白いロングコート、整った顔立ち、これだけ見れば何てことない普通の一般市民だというのに状況が彼を異質に際だたせていた。

 

男は私の存在に気が付くと、店の従業員に多額の料金を支払い、私に笑顔を向けてこう言ってきた。

 

『もしかして警察の方ですか? ちょうど良かった。犯人グループは無力化しました。其方で事情を説明したいので署まで案内して頂けますか?』

 

呆気に取られた私が我に返ったのはそれから数秒後、その後気絶した犯人グループを拘束し、彼と現場にいた数名の当事者達に事情聴取の協力をしてもらった。

 

……彼、白河修司は非常に聡明な人物で此方の質問に淡々と、そして協力的に答えてくれた。身分証も特におかしな所はなかった。勝手な行動をした事に対する厳重な注意に関しても、彼は真摯な態度で謝罪した事からすぐに身柄は解放したのだが……正直、彼をあのまま放置しても良かったものかと戸惑った。

 

何せたった一人の人間が武装した集団相手に、しかも誰一人犠牲者を出さずに無力化したのだ。本人は少々空手をかじっている程度だと言っていたが、どうも胡散臭い。

 

他の目撃者の話もいつの間にか犯人グループは次々と昏倒し、気が付けば先の男性───白河修司が悠然と佇んでいた。と、要領の得ない回答ばかり。

 

店が散乱していたのも最初に現れた犯人グループが暴れたからだと聞くし、聞けば聞くほど不可解な話ばかり。

 

だが、どれだけ疑っても白河修司が犯人逮捕に大きく貢献した事は変わらない。もっと調べてみたい気持ちもあったが、彼が人格者だった事もあり、これ以上引き留めるのも不味いと思ったので身柄は解放した。

 

別に彼を悪人だと言うつもりはない。ただ、凄まじく胡散臭かった。今後もし彼が何らかの事件に関与した場合はその時は徹底的に調べた方がいいのかもしれない。

 

 大体、さほど広くない店内で“後ろから襲撃余裕でした”ってなんだ。奴は忍者だとでもいうのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月◇日

 

 いやー、世の中って本当に色んな人がいるよなぁ。人にぶつかって来ておいていきなり服を買えなんて言ってくる女性なんて……人気のある日中の街のど真ん中で言われた為にちょっと引いてしまった。

 

ISという女性にしか扱えない“兵器”が存在することで生まれる弊害、所謂女尊男卑なる風習。女性が圧倒的に有利となったこの御時世、多少の優遇の違いはあるだろうと思っていたが、まさか街中でいきなりカツアゲされるとは思わなかった。

 

や、マジで。こんな経験は前にいた多元世界でも滅多になかったのに、いきなり……しかも女性に言われるとは思わなかった。

 

前の時は全員男がヒャッハー言いながら襲ってきたのでその時は適当にあしらう事が出来たのだが、今回の相手は女性、どう対処するか悩んでいた時に───その人は現れた。

 

轡木十蔵(くつわぎ じゅうぞう)さん。何でも先日の喫茶店での強盗騒ぎに巻き込まれた一人で自分にお礼がしたいと言うことでその時、自分とカツアゲ女性の仲裁をしてくれた。

 

結局は自分と十蔵さん、それぞれの財布からお金が飛び立ってしまう結果に終わってしまったが……それでも庇ってくれた事自体が嬉しかった。だって周りが我関せずを貫いている中、唯一助けてくれた人なのだ。結果はどうあれ、自分の心は晴れやかだった。

 

 ただ、困った事にその時支払ったお金の為に旅の資金が底を付いてしまった。これでは今日の宿の目処も立たない。仕方がないから野宿でもするかと覚悟を決めた時、十蔵さんがある提案をしてくれた。

 

“IS学園”そこで用務員として働いている十蔵さんが、そこで仕事を紹介してくれると言ってくれたのだ。しかも三食付きの住み込みという破格の条件、端から見れば怪しさ全開の自分に何故そこまで良くしてくれるのか、疑問や思惑は読めないが……悪意は感じないので自分は十蔵さんのその条件を飲むことにした。

 

万が一、もし万が一十蔵さんに何らかの思惑があり、自分をそれに巻き込むつもりであるのなら、その時は自分も最大限抵抗するつもりでいようと思う。

 

尤も、そうならないのが一番良い。人の好意は素直に受け取る事にしよう。

 

時空振動に巻き込まれて訪れた新たな世界。ここではどんな出会いが待っているのか、期待と緊張感を抱きながら今日の日記は終わりにする。

 

 ……因みに、今日の自分の寝床はとある公園。ダンボールを地元のホームレスの方から分けて貰っているとです。

 

ダンボールって、暖かいよね。

 

 

 

 

 




主人公に知り合いが出来た!


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