『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今更ですが日記の表記は基本的に意味はありません。


その3

ViVid月Strike日

 

時空振動に巻き込まれて自分がこの世界に来て早数年、この世界の文化や文明にも大分慣れ、店も漸く軌道に乗り出してきた。これを気に、これ迄の出来事を簡潔にまとめていこうと思う。

 

いやー、最初の頃は焦ったね。時空振動に巻き込まれたかと思ったら飛行戦艦の中、それも何か玉座っぽい所にいるから内心結構焦ってたっけ。しかもあの時はなんかJS事件? みたいな大きな騒ぎが起きていた最中の出来事だったし、あの時の自分は、兎に角その場から離れる事ばかり考えていたっけ。

 

だというのに、目の前の玉座に座る幼い娘が突然大きくなったかと思うといきなり襲ってくるし、仕方がないと思いながら迎え撃ったのだけど………これ、傷害罪に問われたりしないよね? 正当防衛の内に入るよね?

 

や、確かに迎え撃ったよ? でも相手は大きくなっても中身は幼女っぽかったから可能な限り手加減したし、然程傷はつけなかったはず。人を影から散々煽ってきたメガネの女も何か首謀者っぽいから軽く打ちのめして無力化したし、幼女も内側にある原因らしき力? みたいなのを不動砂塵爆で破壊、そんなに暴れまわることなく鎮圧出来た。

 

その後、駆け付けた女性の人に幼女とメガネ女を引き渡し、ワームホールで即座に戦艦から離脱。どうにか抜け出す事に成功した。

 

で、その後はこの世界について色々調べたんだけど………いやー凄いね、まさかこの世界に魔法なんてものが実在するなんて、最初知った時はテンションが爆上げしたものだ。

 

他にも、時空管理局という組織やロストロギア等の遺失物、管理世界や管理外世界に無限書庫という様々な情報をグランゾンを経由して調べ、そして学んでいった。

 

人が世界を管理するとか大変な事をするなぁとか、無限書庫とかそれちゃんと管理できてんの? 把握仕切れてるの? とか、色々疑問に思った事はあるけれど、それ以外は自分の知る世界と良く似ているので、余り気にする必要はなかった。

 

で、それから色々考えて、腰を下ろしてゆっくり出来る場所が欲しいという理由から、自分はリモネシアにいた頃から夢見ていた喫茶店を開くことに決めた。

 

本当は時空管理局に勤めるなんて選択肢もあったんだけどね。ほら、この世界って次元漂流者なんて単語が出てくるから、自分みたいな人間でも求めれば可能な限り受け入れてくれるみたいな感じだし、戦艦で遭遇したあの女の人……高町なのはさんだっけ? に頼めば多分色々面倒を見てくれたのだと思う。

 

それも確かに悪くはないのかもしれない。魔法という物にも興味はあったし、魔導師にでもなれたら、これまで出来なかった事が出来るようになるかもしれない。

 

だが、自分はそれをしなかった。時空管理局という組織に別段思う所はないのだが、如何せん此方にはグランゾンという相棒がいる。なのはさんみたいな人の良さそうな局員もいれば、グランゾンを見て危険だと一方的に決め付けてくる輩もいるかもしれない。そうなったら自分だけでなく、自分の所為で迷惑を掛けてしまう人が出てくるかもしれない。

 

そんな訳で管理局に入るのは止めて、自分らしい一般市民としてこの街、クラナガンでひっそりと暮らしていくことに決めた。その際に時空管理局のデータベースにハッキングして、自分の個人情報を偽装して入力したのだけど、どうやらこの世界って魔法というには科学よりのモノらしく、結構分かりやすく出来ていた。

 

そのお陰で偽装の方もうまく出来たし、五年経過した今でもその事に気付かれていない。そんな訳で無事にこの世界で生きていける下準備が出来た自分だが、ここで一つ問題が起きた。

 

お金だ。やはり文明があり人との交流がある以上通貨というのは必要不可欠なモノで、当時無一文に等しかった自分はそれはもう焦った。今思えば、バイトでもして地道にお金を稼ぐべきだったのに、この時自分は何を思ったのか、たまたま近くにあった魔法格闘技大会なる勧誘ポスターを目にし、試合に出るとお金が出ると知った自分はこれしかないと決断、決意して近くのジムに雪崩れ込んだ。

 

当時から古く、今ではもう廃業して無くなってしまったジムだが、そこの会長さんは人が良く、デバイスの作成作業とか自分の事を住み込みで面倒を見てくれた。

 

そこから先はトントン拍子で話は進み、プロになり幾つかの大会に出て、更にトーナメントを勝ち進み、遂にはチャンピオンの人とのタイトルマッチに挑み、これに勝利した。

 

まさかここまで上手く行くとは思わなかった。いや、皆強かったよ? 対戦相手の人は色んな魔法使ってきて驚いたし、一、二回程良い一撃を受けたりした。

 

ただ何というか……脆かったんだよね。こう、某ボクシングマンガの如く足を止めて打ち合う人は殆どいなくて、皆遠くから魔法をボカスカ撃ってくるだけ、一応自分も一つだけ収束魔法と呼ばれる技を使えるが────ぶっちゃけアレ、ネタだしね。威力は収束魔法だけあってそこそこあるけど、本家に比べたら全然だし。

 

………でも、撃てた時は嘗て無いほどテンションが上がったっけ、魔法なら再現出来るかなと思って試しにやってみたけど、いやぁ嬉しかったなぁ。まさか“かめ◯め波”を撃てる日が来るなんて想像すら出来なかったから、初めて試合で使った日は興奮して眠れなかったっけ。

 

他にも、カートリッジなる魔力増強システムを参考にした界◯拳とか使ってみたりした。思えばこの世界に来てから、あの頃が一番楽しかった時間だったのかもしれない。

 

────閑話休題。

 

で、そんな遠くから撃ってるだけの相手に人越拳の拳が負ける筈もなく、試合の多くは近づいて一撃ドンという、分かりやすい内容だった。

 

そしてチャンピオンになった自分だが、果たして自分なんかがチャンピオンでいていいのだろうかと思い、DSAAの運営の人達に事情を説明してベルトを返上。チャンピオンの座から降りる事にした。

 

いやね。そもそも自分はお金が欲しくて大会に参加していただけで、別にチャンピオンとかベルトとかに固執してた訳じゃないんすよ。そりゃお金はあった方が良いけど、タイトル戦の時点で必要なお金は揃ってたし、自分のようなお金目的の下衆よりも、もっと高尚な志を持った人の方がチャンピオンに相応しいと思い、引退を表明した。

 

会長とは元々そういう契約だったから特に何も言われる事はなかったけど、せめてお世話になったお礼をしたいという事で、タイトルマッチでの賞金の半分を渡す事にした。

 

会長さんは最後に夢を見させてもらったから良いと言ったが、それでは此方の気持ちが収まらない。ベルトのレプリカと賞金の半分を受け取って貰い、今度こそ自分は喫茶店を開くことにした。

 

会長さんは現在息子夫婦の家で厄介になっていて、孫に囲まれて幸せに生活しているという。ジムを畳み、故郷で過ごしていてもたまに連絡を取り合う位には、自分と会長さんとの付き合いは深い。

 

そんな紆余曲折を経て漸く喫茶シラカワを開業し、自分は毎日充実した日々を送っている。子供からお年寄りの方まで、幅広い年齢層が自分の店を来てくれるのは、自営業者として本当に有難い。

 

お陰で近年は黒字が続いているし、気持ち的にも余裕が出てきた。近所のボランティアにも積極的に参加しているし、最近は孤児院に顔を出したりして料理を振る舞っている。

 

やっべー、今の俺超リア充じゃん。誰がどう見ても立派なリア充じゃんよぉ! ……でも、そんな充実した日々を送っても、一つだけ気掛かりがあった。

 

まだ店を開いて間もない頃、この店にはあるお爺さんが良く来ていてくれた。名前も知らず、顔も知らない人だが、自分の出すコーヒーを上手いと言ってくれたお爺さん。

 

良く孫娘の事を自慢に来る優しいお爺さんだが、ある日突然逝去してしまった。自分も割りとお爺さんとは話をしていたから、お爺さんの顔写真を新聞で見て逝去された事を知った時は、結構ショックだった。

 

そしてその後、とある学校で傷害罪事件が起こり、その起こした娘がお爺さんが良く自慢していた孫娘だと知り、自分は更にショックを受けた。

 

理由はその孫娘ちゃんが苛めを受けていたからという話だが、世間は孫娘ちゃんをやりすぎだと批難している。

 

お爺さんから聞いた孫娘ちゃんは、とても大人しく優しい娘だと聞いている。もしそんな娘がそこまでの怒りを募らせていたのだとしたら、問題はその苛めをしていた三人組にあるのではないだろうか。

 

詳しく調べてやって世間に事実を晒してやりたいが、既にこの件は両者の親御さんが示談で話を付けている。孫娘ちゃんも別の学校へ転校する事で話が終わっているから、部外者の自分が話を拗らせる訳にいかない。

 

色々思うところがある嫌な事件。けれどそんな孫娘ちゃんは現在DSAAの選手として活躍し、元気にしているのだとか。

 

随分思いきった娘だなと思うも、本人がそれで良いのなら余計な詮索はしないでおこう。もし彼女がこの店に立ち寄る事があるのなら、その時にでもお爺さんの話で盛り上がりながら珈琲を奢ってやるのも悪くない。

 

そして時は更に流れて新暦80年。先日自分はある女の子のスカウトに成功した。その娘の名前はフーカ=レヴェントン、快活で活発な当店自慢の看板娘である。

 

スカウトまでの流れで色々あったが……まぁ別にその話はしなくて良いだろう。実際そんな大した話ではないし。

 

愛想も良く、礼儀正しく、仕事に対しても一生懸命。こんな良い娘を尽くクビにしてきた人達って、ぶっちゃけ見る目無くね?

 

今は慣れてないメイド服の格好でたどたどしいが、顧客の皆さんからは寧ろそれが良いと好評だ。

 

しかし、そんなフーカちゃんにも心配な所がある。彼女から聞いた話だと、どうやらフーカちゃんはマトモに学校に通った事がなく、学歴というモノを一切持ち合わせていないらしいのだ。

 

これはいかん。この世界の社会は学歴だけが全てではないが、それでも小学校にも通えていないというのは非常に不味い。これからの長い人生でモノを言うのはその人が、これまで培ってきた知識と経験だ。フーカちゃんの事を物知らぬ娘だとは思わないが、将来で有利になる知識なんて持ち合わせていないのも事実。

 

ここは雇い主として少しばかり勉強を教える必要があるのかもしれない。だって心配なんだもの、仕方ないよね。

 

そんなわけでこれから今後のフーカちゃんの予定を考えるので、今日はこれまでにしようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────時刻はお昼過ぎ。人気も無くなり、今はシュウジとフーカだけとなった店内。シュウジの出した賄い料理を堪能していたフーカはモジモジしながらシュウジに訊ねた。

 

「あ、あの店長。本当にこの格好で仕事をしなくちゃなりませんかね?」

 

「そうだけど? どうしたの?」

 

「いや、その……やっぱりワシには似合ってませんって、折角の綺麗な服なのに勿体ないですよ」

 

「そんな事ないって、フーカちゃん良く似合ってるよ。お客さん達からも評判良いよ」

 

「で、でも……恥ずかしいですよぉ」

 

頬を赤くさせ、うっすらと目尻に涙を滲ませるフーカ。これまでの人生の中でこんなフリフリな格好などしたことがない彼女にとって、メイド服はかなり難易度が高かった。

 

どうやら本当に恥ずかしがっている様だ。客の前では健気に冷静さを装っていたが、それも限界に近いらしい。どうしたものかと頭を悩ませるシュウジはあることを思い付いた。

 

「そうだね。君一人を衆目に晒すのは不味かったかもしれない。ならば俺も一肌脱ごう」

 

「へ?」

 

「俺も女装しよう。二人で奇抜な格好をすれば何も怖くない。お客さんからの評判は落ちるかもしれないが、これもフーカちゃんの為、俺も一緒に衆目に晒そう!」

 

「え、えぇぇぇっ!?」

 

頑張る方向を全力で間違えていくスタイルのシュウジ、そんなカッ飛んだシュウジに動揺しながらもフーカが止めようとすると、一人のお客が店内へと入ってきた。

 

「ほ、ほら店長、お客さんですよ。アホな事言ってないで仕事に戻って下さい!」

 

「えぇー……」

 

「えぇーじゃないですよもう! 大変失礼しましたお客様、お席にご案内します……ので」

 

お客の来店に慌てながら愛想を振り撒くフーカ、しかしその客人の顔を見た瞬間、彼女の表情は歪み出す。

 

「リン……ネ」

 

「フーちゃん?」

 

「ん? お知り合い?」

 

嘗て親友だった二人、場の空気が張りつめていく中、シュウジはやはり平常運転だった。

 

 




Q.ボッチの現役時代の映像はあるの?
A.部分的ですがあります。尚、その映像見た某チンピラ風の格闘少女が模倣しようと一生懸命なんだとか。


それでは次回もまた見てボッチノシ

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