乳上や褐色不敬ファラオ、他にもイバラギンや三蔵お師匠と言った数多くの女性からチョコを受けとりました。やったね(白目)
皆さんは如何でした? チョコ、貰えました?
「ふぅ、少し遅れちまったな。チビ共達はもう練習してるんだろうなぁ」
ナカジマジム専用駐車場、車から降りてジムへと早足で急ぐのはジムの会長であるノーヴェ=ナカジマ、その複雑な出生事情から当初は酷く粗っぽい性格だったが、周囲の人間環境のお陰で社会貢献が出来るまで更正し、今ではDSAAの選手達を複数育てるという、立場ある人間へと成長を遂げた。
今度開催される格闘技のウィンターカップ、その諸々の手続きをしていて少しばかり遅れてしまった為、ノーヴェはこの時焦っていた。
裏口からジムに入り、更衣室で専用のジャージに着替え、会長室には寄らず選手達が待っているだろうトレーニング室に向かう。その時、やたら慌てた様子のユミナと遭遇した。
「か、かかか会長!」
「な、なんだユミナ、いきなりどうした?」
「よ、よよよ良かったぁ! 会長来てくれたぁ!」
「だから落ち着けって、何をそんなに慌ててるんだ?」
「ち、ちちちチャンピオンが、世界王者が!」
「チャンピオン? アインハルトの奴がまだ何かしでかしたのか?」
ユミナが動揺した様子でチャンピオンと口にするから、またアインハルトが何かをやったのかとノーヴェは嘆息する。数年前からの付き合いで、既にノーヴェの中では問題児筆頭となっているアインハルト、しかしどうやら違うようで、必死に首を横に振って否定するユミナにノーヴェは訝しむ。
「き、来たんです。ここに、元世界王者……シュウジ=シラカワ選手が!」
「………………………はぁ!?」
この業界に入って既に何年も経っているノーヴェ、当然様々な選手を見てきており、その中には当然シュウジの事も入っている。しかし試合の中でしか分からず、その人物像は一切不明。その謎に満ちた伝説のチャンピオンが今、ナカジマジムを訪ねてきている。
ユミナからシュウジが自分の事を呼んでいたという追加の事実を聞いたノーヴェは、高まる緊張感を抱きながら彼女の案内に従い、選手達の下へ急ぐ。
ほぼ駆け足で急ぐノーヴェ、扉を開き、選手達がいるであろうトレーニング室にやって来た彼女が目にしたのは────。
◇
「んっと、よ……っと」
アインハルトの要望に応え、久し振りに身体を動かすことになったシュウジ、入念にストレッチをする事で筋を伸ばしながら、己の肉体の調子を整えていく。
そんな彼を尻目にリング中央で静かに待つのは、U15の現役格闘技選手にして世界王者であるアインハルト=ストラトス。彼女側のニュートラルコーナーには、ヴィヴィオ達がアインハルトの様子を伺っていた。
「アインハルトさん、まさか本当に挑むなんて……」
「で、でもアインハルトさんならきっと良い所まで行くと思うよ」
「そ、そうだよね。同じチャンピオンだし、それに向こうは引退して結構時間が経っているから、もしかするともしかするかも!」
アインハルトの集中を乱さないよう、敢えて小声で話す三人。同じ格闘技を競うライバルであり仲間、アインハルトの嘗て無い挑戦。同じチャンピオン同士という夢の対決を前に、彼女達の緊張は最大限に高まっていた。
実際、アインハルトがシュウジに勝てるのか? と聞けば、多くの者は分からないと答えるだろう。アインハルトの実力は本物だ。それはヴィヴィオ達を始め彼女と闘った事のある者達や見た者、その全員が認めている。格闘技の世界に本格的に入ってから全ての試合を勝利で飾っている彼女の強さは、十代最強女子であるエレミアさえ太鼓判を押すほどだ。
肩書きだけを見ればシュウジと変わらず、寧ろ試合回数だけを見れば、アインハルトの方が上と思える。覇王イングヴァルトを祖先に持つ覇王流の担い手、彼女が引退した相手に負ける要素は何処にもなかった。
しかし、対するシュウジ=シラカワという男に関してはアインハルトの経歴など全く意味を成してはいなかった。相手の選手を悉く1Rで倒してしまう圧倒的破壊力、魔法をメインにした戦いでも殆ど魔力は使わず、己の技量だけで相手を圧倒する技術力の高さ。
唯一放った収束魔法の威力も凄まじく、その強大さはヴィヴィオの母親である高町なのはの
力と技、そのどちらもが飛び抜けておきながらその全てを出し切った事は一度もない。数少ない試合の映像で、彼が汗一つ流さなかった場面がそれを物語っている。
今のアインハルトが負ける所は想像できないが、同じくらい目の前の男が負ける姿は想像できなかった。相手を等しく1Rで打ち倒し、その多くが謎に満ちた元世界王者────格闘技界の中で呼ばれる彼の異名は“
その魔人に覇王が挑む。勝てる確率は不明、しかしヴィヴィオ達は期待していた。彼女なら、アインハルトなら成し遂げるのではないかと。嘗ての魔人を相手にもしかするとがあるのかもしれないと。
「ごめんごめん、待たせちゃったかな」
「いえ、全然」
ストレッチを終え、準備を万端に整ったシュウジがリングに降り立つ。フーカと同じ山吹色の胴着を身に纏い佇むその姿は、映像で見たあの姿と重なって見えた。
もうじき二人の戦いが始まろうとしている。この状況をせめて記録だけでもしておこうと、コロナとリオはデバイスを起動させて映像記録に努めている。
「ヴィヴィオさん」
「は、はい!」
「
「あ、了解です!」
アインハルトに言われ、ゴング役を買って出るヴィヴィオ、己のデバイスであるセイクリッドハートを呼び出し、その機能を使って時間制限を設けた。
3分1R、実際の試合形式とほぼ変わらない対戦方式。ヴィヴィオが、コロナが、リオが、そしてフーカが固唾を飲んで見守る中………。
“カーンッ”
試合開始のゴングが鳴り……。
「お前ら何やってるんだ!?」
「ナカジマ会長っ!?」
「ノーヴェ!?」
「え? 会長さん?」
突然乱入してきたナカジマ会長にアインハルトを除いた全員の視線が集まる。ゴングが鳴ったと同時に間合いを詰めて拳を繰り出すアインハルト、既に打ち放った拳はアインハルト本人でも止められず……。
「へぶらっ!?」
「あっ」
渾身の右ストレートがシュウジの顔面を捉えた。まさかのクリーンヒットに誰もが言葉を失う。アインハルトすら想像してなかった事態、ナカジマ会長が戻ってきた今これ以上続けるべきか迷う中。
「………フッ」
一撃を受けて、それでも尚余裕の笑みを浮かべるシュウジに、アインハルトは続行を決断した。
「お、おいアインハルト!」
遠くからナカジマ会長の制止の声が聞こえてくる。が、既に闘志に火が灯ったアインハルトの耳には届いてはいなかった。足に力を込めて追撃を開始するアインハルト、折角入れた一撃を活かせぬまま終わるわけにはいかない。この好機を逃してなるものかと、アインハルトは怒涛のラッシュを見せる。
しかし当たらない。アインハルトの乱打をまるで全て見切っているかのように避けるシュウジに、ナカジマ会長を含めた全員が息を呑む。アインハルトの拳、蹴り、その全てを紙一重で回避し続けているシュウジ、二人が闘うのはこれが初めての筈、なのにこうまで見切られてしまうのか。
(分かっていた事、ならばこれはどうです!)
手合わせして初めて分かる相手との差、しかしそんな事は既に分かっていたこと、敢えて手を出し続け、相手に自分の攻撃を慣れさせたアインハルトは次の攻撃の最中にフェイントを混ぜ込んだ。
相手の目が優れていればいるほどに嵌まりやすい手段、本来なら優れた眼力を持つヴィヴィオに対して用意していた仕込み技だが、アインハルトは出し惜しみなしでこれを繰り出した。
「っ?」
(ここっ!)
目まぐるしい乱打からの突然のフェイント、体が僅かに反応したシュウジの動き、ここが勝負の分かれ目だとアインハルトは更に懐に潜り込もうと───
「っ!?」
した瞬間、衝撃がアインハルトの顔面を貫いた。何が起きたか分からなかった。しかしこの体には突き抜けた衝撃の感触が確かに残っている。
見ればそこには構えを取っているシュウジの姿があった。先程までのノーモーションではなく、オーソドックスな構え、その姿は何処と無くコロナと似ていた。
試合の映像にすら映ってなかったシュウジが見せる初めての構え、これがシュウジの本来の戦い方なのか、驚きながらも体勢を整えようとするアインハルトだが。
「あぐっ!」
目の前のシュウジの拳が大きくなると同時にアインハルトの顔に被弾する。何かされた訳ではない、ただ単純にシュウジの放つ左拳が正確で、そして速かっただけだ。
(この左は芯に来る! これ以上受けたら不味い!)
安全面を考慮してDSAAのリングには総じてダメージ軽減の設定が施されているが、そんなモノなど意味は為さないかの様にダメージを与えてくるシュウジの拳にアインハルトは戦慄する。もしこれが実戦形式なら、もしこれが安全面が考慮されてない場所だったら……。
(私はもう、とっくに倒されている!)
「くっ、あぁぁっ!」
降り注がれる拳、その一発一発がアインハルトの身体を打ち、響かせ、破壊していく。攻守が逆転し、一方的になるアインハルト。ここまで違うのか、ここまで実力が離れているのか、見せ付けられるシュウジという男の実力にヴィヴィオ達が絶句していた時。
「覇王、断空──」
後ろに飛ぶことでシュウジから離れ、遂に一か八かの勝負に出たアインハルト。腰だめに構えた拳には膨大な魔力の渦が集約されていき……。
「け────」
しかし、それが打たれる直前、一瞬の間に間合いを詰められ、左の拳の連打をアインハルトはマトモに浴びてしまう。
直後、ラウンド終了のゴングが鳴ると同時にシュウジはアインハルトに背を向ける。立ったままのアインハルト、結局は圧倒されてしまったが、それでも倒れる事のなかった覇王にヴィヴィオ達は駆け寄っていく。
「アインハルトさん!」
「凄いよアインハルトさん!」
あの魔人を相手に倒れず、1R保って見せたアインハルト。ヴィヴィオ達はそれぞれ彼女に声を掛けるが、アインハルトはその呼び掛けに応えずに前進し、目の前のシュウジと打ち合おうとする。
「ちょ、アインハルトさん!?」
「終わりました。終わりましたよ!」
「アインハルトさん!!」
「え? あ、あれ?」
ゴングが鳴った事に気付かず、意識を刈り取られていたアインハルト。左手一つで圧倒された事実に周囲の人間は絶句する。
「ひ、左手一つだけでも超一流かよ」
見事過ぎて言葉が見付からない。試合を止める事も忘れ、見入っていたノーヴェが何気無しに溢した一言。しかしそれは残念ながら当てはまらない事に彼女達は気付かない。
何故ならシュウジが本領を発揮する戦い方は丁寧なファイトスタイルではない。今のシュウジが披露したのは、先程フーカと闘ったコロナが見せたスタイルを独自にアレンジしたモノである。
適度な運動で体を慣らした事で満足そうにリングを降りるシュウジ、その際フーカに向き直り。
「そうだ。フーカちゃん、君に一つ格言を教えよう。これはDSAAに於ける基本にして真理、覚えておいて損はないよ」
「か、格言ですか」
「うん、それはね………」
“左を制する者は世界を制す”
それは、今この場に於いて最も相応しい一言だった。
ボッチ「運動しにきただけだし、倒すのは可哀想だよね」
一同「マジか、コイツ……」
大体こんな温度差。
それでは次回もまた見てボッチノシ