『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は長めな話。


その11

「不審者だと?」

 

 とある海辺にある旅館。朝食後、本日の予定について会議室代わりとして割り振られた部屋で集まり、それぞれ確認していたIS学園の教職員達が織斑教員のその一言により一気に緊張が高まった。

 

女性教員達の視線が部屋に入ってきた学園の数少ない男性の一人、白河修司に集中する。女性ばかりの部屋に男一人、普通なら気負ってしまう状況だが、修司なる男はそんな事気にも止めずに話を続けた。

 

「はい。今朝五時前、自分が旅館の周辺見回りの為に旅館から出た所で遭遇しました。様子もおかしく、言動もちょっとアレでしたので流石に不気味と思い、報告させて頂きました」

 

修司の淡々とした報告の内容に教職員の誰もが戸惑いを見せる。IS学園の生徒とは即ち後のIS業界の礎となる人材達だ。現社会の代名詞たるIS、そしてその先駆者となるIS学園の生徒達は企業や国の人間にとっては宝に等しい人材だ。

 

ISの知識を徹底的に叩き込まれた彼女達の価値は何もIS操縦技術だけに留まらない。豊富な知識に得られた内容はISの技術拡大や向上に大きく貢献している。

 

このIS学園の生徒達は言わば金の卵だ。それを狙い各国家陣営が裏で様々な思惑を巡らせており、IS学園の教員達は生徒達への授業だけではなく、日夜そう言った思惑と戦っているのだ。

 

故に、今朝聞かせられる修司の話は教員達にとっては中々ショックな出来事だった。何度も何度も臨海学校の現地を選び直し、時にはブラフの情報を流したりして各国の動きを調べたりした。

 

度重なるシミュレーションを繰り返して漸く立ち上げた今回の臨海学校の企画、その計画が根底から揺さぶられる事実に教員達……特に、山田先生は落胆を露わにしていた。

 

「織斑先生、どうします?」

 

「…………」

 

修司の問いに千冬は思案するように目を瞑り、腕を組む。最悪臨海学校の中止を視野に入れるべき案件の為に他の教員達は息を呑んで織斑教員の判断を注視した。

 

生徒達の安全を考えるのなら中止が最も効率的だ。しかし、普段厳しい授業を受けてきた生徒達はこういったイベント行事が数少ない楽しみ、それを奪うような真似はしたくないというのも、また本心だった。

 

静まり返る部屋、誰もが考える千冬の様子に固唾を呑んで見守っていた時、彼女の目がゆっくりと開かれて……。

 

「……幸い、本日二日目の日程は丸一日ISの各種装備の試験運用とデータ取りだ。対象は専用機持ちや武装の申請を出した生徒、一部の生徒は座学や自習の形となっている」

 

「非武装の生徒達を複数のグループに分けて監視すれば、不審者への牽制になると?」

 

「察しが早くて助かる。その通り、生徒達の数を複数に分けて監視すれば生徒達の安全も不審者への牽制も行いやすい。上手く行けば不審者を捕らえて目的を吐かせる事も出来るだろう」

 

織斑教員の提案に教員達は安堵する。中止という最悪の結末を回避出来た事を喜び、その後は警備と監視体制の強化と生徒達に注意するよう呼び掛ける事を決定し、その場は解散となった。

 

「それにしても、修司さんには本当に助けられてますね。まさか旅館の見回りをしてくれてたなんて……」

 

「数少ない男なので色々気を回してみたつもりなのですけど……スミマセン、何だか問題を増やしてしまったみたいで、その場で取り押さえようかとも考えたのですが、向こうは複数で来ているのかすら分からない状態でしたので……結果的に見逃す事になってしまいました」

 

「いや、充分過ぎる対応だ。お前の話を聞く限り、どうやら相手は相当の手練れのようだ。我々の警戒態勢を潜った上でお前の前に現れてみせた。恐らくは複数の人間が関与していると見て間違いないだろう」

 

「それに、下手に相手を刺激してしまって強行行動に移られたら、最悪被害者が出るところでした。修司さんの判断、私は間違っていないと思います」

 

「……そう言って下さると、気が軽くなります。ありがとうございます」

 

「大体、お前はもっと自分に自信を持つべきだ。折角優秀な能力と力を兼ね備えているんだ。少し位胸を張ってもバチは当たるまい。それに、謙遜が過ぎると逆に嫌われるぞ」

 

「そうですよ。昨日も鈴さんを助けた時、迅速な対応をしていてくれたじゃないですか。その時私たちは別の所にいたので……皆、本当に感謝しているんですよ」

 

「そ、そうですかね? 自分としてはやれることをしているだけなのですが……」

 

「まったく、生真面目な奴」

 

頭を掻き、イマイチ分かっていない風に首を傾げる修司に千冬は呆れた様子で笑みを浮かべる。

 

「所で、その変質者という女性はどんな格好をしていたのですか? 変わった格好だと言っていましたけど……」

 

「あ、はい。その女性……名前は名乗らなかったので分からなかったのですが、コスプレという奴ですかね? フリフリのエプロンドレスを着ていて頭にはこう……兎の耳を形取ったカチューシャみたいなモノを付けていました」

 

「…………」

 

修司の語る不審者の人物像、それを耳にした時織斑千冬の笑みが固まった。

 

「それで確か……お前の化けの皮を引き裂くとか言っていましたね」

 

「ウワー、それは相当アレな人ですね。聞いただけで不気味さが伝わってきますよ。了解しました。他の先生達にも伝えておきますね」

 

「特徴的な格好でしたからね。口頭でも充分伝わるでしょう。私も手伝いますよ。折角の臨海学校、無事に終わらせたいですから」

 

「分かりました。織斑先生、それでは私達も……」

 

「……あー山田先生、それに白河、いきなりで申し訳ないが、この一件私に預けて貰えないだろうか」

 

「「え?」」

 

「白河の見かけたという不審者なのだが……実は、私に心当たりのある人間の可能性が高い」

 

気まずそうにそう口にするIS学園のブリュンヒルデ。歯切れが悪く、申し訳なさそうに語る彼女に山田真耶と修司は固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Σ月@日

 

 今朝出逢った謎の不審者。様子もおかしく、自分の事を知っている風に語る女性に自分は最初新手のストーカーかと思っていたが、織斑先生が言うにはどうやら違うようだ。

 

知人だという織斑先生の言うことに戸惑う自分と山田先生だが、ブリュンヒルデの彼女が心配ないと言っている以上、自分達も余計な事はしない方がいいのだろう。

 

しかし、言葉を濁してはっきりしない以上他の先生達に示しがつかないと山田先生は打ち合わせでの方針は変えないと言っていた。織斑先生もその山田先生の言葉に対し特に反論する様子はなく、寧ろそれで頼むと言うくらいだ。あの不審者である女性が知人という割には冷たい対応する織斑先生だが……あくまで心当たりがあるだけで本当に知り合いとは限らない。と、言っていた。

 

自分達に知人であるかもしれないと話したのはあくまで可能性の一つとして自分達に報せたかっただけなのだろう。いるかいないか分からない知人より目の前の生徒を守る事を選択した織斑先生は、正しく教師だった。……尤も、指導の仕方は軍人のソレだったが。

 

兎も角、自分もいつもより警戒心を高めて生徒達の皆を監視しようと思う。自分の担当は旅館の宴会部屋で行われる講義、その周辺の警備なので生徒達を守る為にしっかりと警備をしていく所存だ。

 

本音を言えば外の警備に加わりたかったが、武装試験運用のデータ取りは機密扱いになる為、用務員である自分は参加出来ないと言われてしまった。

 

機密と言われれば大人しく引き下がるしかないが……まぁ、向こうは織斑先生を初めとした腕の立つ先生達が担当しているし、専用機持ち皆にも話していたから、安心してもいいだろう。

 

けれど油断は出来ない。織斑先生も言っていたが相手はふざけた格好をしていたが実力は確かだ。ガモンさんや不動さん程でないにしろ、強敵である事に変わりはない。正直荒事は苦手だが、事態が事態だけにそういう訳にはいかない。

 

そろそろ交代の時間だ。担当の先生と代わって今度は自分が生徒達を見守る番だ。日記の方も一時中断した方がいいだろう。

 

もし、厄介な組織が生徒達を狙っているのだとしたら……その時は自分もその気になるしかないだろう。

 

グランゾン。この世界ではオーバースペックの超兵器……使わずに済めばいいのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────何やら大変な事が起こっているようだ。現在旅館は物々しい雰囲気に包まれ、生徒の皆も不安な様子で部屋で待機している。専用機持ちの子達もなんだか険しい表情をしているし、どうやら事態はかなり深刻のようだ。

 

自分が生徒達の警備の番に回ったと同時刻、織斑先生から緊急事態発生の報せを受けて以降、部屋で待機を命じられた自分には外の情報を得る術はない。

 

本当はいけない事なのだが、何だか嫌な予感がするので旅館の備え付けられたパソコンを借りてネットワークにハッキングを掛けてみた所、どうやら、アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走してしまったようなのだ。

 

何故軍用ISが開発されているのか、アラスカ条約で禁止されている事をおもっくそ破っている大国の考えはともあれ、この銀の福音なるISが暴走してしまったのが臨海学校の一時中断に繋がっているようだ。

 

しかも更に調べてみれば、どうやら銀の福音は今から約一時間程でここから近くの空域を通過するようなのだ。……恐らくは、一夏君達専用機持ちの子達もこの軍用ISを止める為に織斑先生に呼び出されているのだろう。

 

正直、子供達を戦場に出すのは自分の心情的には反対だ。ISには絶対防御という安全装置が搭載されているが……武器や兵器を持って戦うのは紛れもない事実。人が兵器を扱う以上、必ずどこかで間違いが生じる。

 

ハッキングされた銀の福音の操縦者は現在意識不明の状態だという。意識の無い人間に武器を向けるのかという疑問も当然あるが、話の焦点はそこではない。

 

どんな理由や事情があっても、一夏君達が行うのは人と人の争い……即ち、戦争に他ならない。ISという兵器を用いてのそれはこれまでの戦争とはかけ離れた規模のモノになるだろう。

 

無論、織斑先生は分かっているのだろう。ISという兵器の有用性とその裏側に潜む危険性を。

 

モンド・グロッソというISの世界大会も情報を持ち帰る事で各国家の軍事兵器に大きく向上させている事も……。

 

 篠ノ之束博士は今の世界にどんな思いを抱いているのだろう。自身が心血を注いで生み出したISは宇宙に進出される事無く、軍事兵器として利用されている事を。

 

未だに博士の思惑は分からない。世界がこうなる事を見越して放置しているのか、それともどうにか変えようと裏で色々考えているのか、……それとも、そもそもそんな事など興味がないのか。

 

 ともあれ、今回は自分も動くべきだろう。幸い自分の部屋は旅館の隅、意図して来ないと殆ど人なんて来やしない所だ。最低一時間は寝ているふりで誤魔化せるだろう。

 

一夏君達にもしもの事のないようこれから自分は仮面を被り、グランゾンと共に目標座標に向かう事とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一夏ぁぁぁぁっ!!』

 

 燃え盛る爆炎。衝撃によって意識を断たれ、海面へと落ちていく一夏に篠ノ之箒は慟哭の叫びをあけながら駆け寄った。

 

『一夏、一夏! 目を覚ましてくれ、一夏!』

 

抱き寄せ、想い人の名を何度も呼ぶが、腕の中で眠る彼は目を覚まさない。一体どうしてこうなってしまったのか……。

 

きっかけは今朝、二日目の臨海学校で果たした姉との再会だった。最後に見たときと変わらない笑みで自分を呼ぶ彼女は妹の誕生日プレゼントという事で箒専用のIS“紅椿”を渡してきたのだ。

 

嬉しかった。姉の目的がなんであれ、家族の誕生日を覚えてくれていた事、それ自体が箒にとって何よりも嬉しい事だった。

 

だが、箒はこれを断った。自分が代表候補生、或いはそれに並ぶ実力者になるまで紅椿は受け取らないと。

 

その直後、担任である織斑千冬から緊急事態の報せを受け、専用機を持った一夏達もコレに参戦。一応紅椿の所有権は自分にある事もあり、箒もまた参加条件を満たす対象となってしまった。

 

そこからとんとん拍子で進む銀の福音の撃破作戦。本来なら束曰く、第四世代相当のスペックのISを持つ簪がメインで一撃のダメージが大きい白式を持つ一夏が参加する予定の筈だったが、簪の専用機である打鉄弐式が突然の機能停止に陥ってしまったのだ。原因は不明、整備も兼ねている簪は打鉄弐式にもたらされているコアネットワークの情報になんらかの異常が発生したと考えている。

 

 これにより千冬は“彼女”に対して疑惑を深める事になるが……いずれにしても、これで簪・一夏のペア案は事実上なくなり、代案として控えていた箒・一夏のペアが銀の福音撃破のメインパーティーとなってしまった。

 

まるで予め用意されていたような展開。しかし、状況が千冬の考えを待ってくれる筈もなく、福音は時が経つにつれて此方に接近してきている。

 

最早悠長な考えは許されない。千冬は箒と一夏それぞれに命じ、彼女の親友でありIS開発者の篠ノ之束の協力の下、作戦は開始される事になった。

 

箒は戸惑った。自分の力で勝ち取った訳でもない。身内だからというだけで得られた力を果たして揮っていいのかという疑問に終始囚われる事になってしまった。

 

それでも第四世代のISの力は伊達ではなく、その能力、性能は現行するどのISをも凌駕するものとなっていた。その為に福音ともある程度渡り合えていたのだが……ここへきて、更なる不安要素が紛れ込んできたのだ。

 

密漁船。他の教職員の手によって封鎖されていた海域にいてはならない者達が潜んでいたのだ。

 

恐らくはどこかで隠れていたのだろう。作戦行動範囲に巻き込まれたしまった密漁船、これを守るべく、一夏と箒は密漁船を庇いながら戦う事になるのだが……福音の前ではそれは自殺行為に等しかった。

 

広範囲殲滅機能を有した福音の力は凄まじく、二人しかいないこの海域では庇いながらの戦闘は余りにも分が悪かった。それに相まって紅椿を碌に慣らしていなかったツケがこの時発生した。慣れない機体、訓練機とはまるで性能が違う紅椿に翻弄されてしまう箒は、遂に福音に狙いを定められてしまう。

 

回避も出来ず防御も間に合わない。直撃は免れない思われた時、一夏が箒と福音の前に割って入ってきた。

 

福音の攻撃を受け、気を失ってしまう一夏。雪片弐型がシールドエネルギーを大量に使ってしまう事も災いし、シールドエネルギーが無くなった。

 

一夏の体から血が流れ出る。それを目にした時、箒の頭が真っ白になり、何も考えられず、何も出来なくなった。

 

しかし、そんな状況になりながらも福音の攻撃が止まる事はなかった。一夏と箒を排除すべき敵と認識した福音はそのまま落ち行く二人に追撃を開始した。

 

このままではやられる。そう思われた時、箒の目の前に“壁”が現れた。

 

───否、壁と見られたソレは壁とは全く違うものだった。

 

『……手、だと?』

 

目の前に現れた巨大な手。それに包まれた時、箒の意識はそこで途絶え……。

 

『やはり、このような展開になってしまったか』

 

どこかで聞いた事のある声が箒の耳に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q主人公にとって真の天才は?or何故主人公は自分の実力を自覚出来ないのか第二弾

兜十蔵博士
早乙女博士
コロニーの五人博士
イオリア=シュヘンベルグ
シュウ=シラカワ

大体この人達の所為。

Q主人公はまだ束博士の事知ってないの?

A兎さんが来てる頃、主人公は旅館で生徒の護衛に専念してました。

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