『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、色々キャラが出てきます。


その8

 

 

 

───ワシ事 フーカ=レヴェントンの朝は早い。日が昇り、太陽が顔を出し始めた時間帯、カーテンの隙間から差し込んでくる日差しの光で覚醒したフーカは枕元に置かれた目覚まし時計が鳴り始めた瞬間に止め、欠伸をしながら目を覚ます。

 

店長が用意していた胴着に着替え、顔を洗って歯を磨く。全ての身支度を終えて外に出ると、既に準備を終えて待っている店長ことシュウジさんがいた。

 

「おはようフーカちゃん、その様子だとゆっくり眠れたみたいだね」

 

「はい。お陰様でバッチリです」

 

「それは重畳。じゃあ行こうか」

 

「オス!」

 

朝起きたワシとシュウジさんが最初にするのはランニング、片道10キロの道のりで最初は完走するのも大変じゃったけど、今では準備運動となっており、シュウジさんと世間話が出来る程度には身体が慣れてきている。

 

清々しい朝、今まではその日その日を生きていくのに精一杯でそんな余裕はなかったから知らなかったが、朝日に照らされたクラナガンの街並みは幻想的で朝焼けの色となった建物を見たときは少し感動したものじゃった。

 

シュウジさんが言うにはそう言う得した気持ちや経験を“早起きは三文の徳”というらしい。三文と言うのはシュウジさんの出身世界の昔の通貨の事らしく、微々たる違いだがそれでも得るものはあるという中々深い意味のある言葉なのだとか。

 

シュウジさんは頭も良い。普段からワシに試す物言いをする人じゃが、それは頭の出来が悪いワシを見下すモノじゃなく、考えればワシでも理解できるモノで且つワシの将来に役立つモノばかりで、悩むワシを見てはそれとなく教えてくれる優しい人じゃ。

 

けれど優しさだけがシュウジさんではない。時には厳しく、それこそどんなに悩んでも手を貸すことは無いときはざらにある。悩んで悩んで悩み抜いて、それで漸く出来た答えをあの人は笑うことなくちゃんと見て、そして間違った所をどうして間違えたのかを懇切丁寧に教えてくれた。優しさと厳しさを兼ね備えたお人、それがワシから見たシュウジ=シラカワという人間の在り方じゃった。

 

───いたことが無いから分からんが、もしワシに父親がいたならこういう人なんかな。偶にそう思える位にワシはシュウジさんに心を許していた。ワシの為に親身になって応えてくれる人、ナカジマジムの皆さんもそうじゃが、最近のワシの周りは少しお人好しが過ぎる人が多い気がする。

 

けれど、それを心配とは思わない。何故ならジムの先輩達は皆ワシなんかよりもずっと強い。シュウジさんに至っては嘗ての世界王者というのだから心配するだけ無駄というものじゃろう。

 

そんな強くて優しい人達に巡り会えた今のワシは、間違いなく幸せ者じゃ。そんな皆の想いに応える為にもワシは強くなる。強くなって、リンネの目を覚まさせてやる。

 

─────その為には。

 

「よし、着いた。それじゃあ軽くストレッチをした後はいつもの組手をしてみようか。フーカちゃん、遠慮は無用だよ」

 

「お、おおおおオッス!!」

 

辿り着いた浜辺、海風は穏やかで気持ちが良く、これ迄の嫌な思い出を全部消えてしまいそうな程に空気は澄んでいた。………それなのに何故震えた声が出てしまうのかって? そんなの分かりきっている。

 

シュウジさんは優しくはあるけど甘くはない。ワシを強くすると言った以上妥協はしないと言った。それはつまりワシをリンネと闘うギリギリまで徹底的に鍛え上げるつもりなのじゃろう。目の前に立つシュウジさんからは普段の温厚な雰囲気は微塵も感じない。今ワシの前には嘗ての世界王者が立っている。

 

つーかいつも思うのじゃが、シュウジさんの周りの空間歪んでね? 魔法の力なんて微塵も感じないのにこの圧力は一体なんなんじゃろ?

 

ワシは恵まれている。恵まれて、幸せで、まるで夢を見ている気分じゃ。

 

「て、テリャァァッ!!」

 

「初動が遅い! カメムシの方が万倍速く動けるぞ!」

 

「ジェロにィィィィッ!!??」

 

まぁ、それに見合う地獄があるのも事実なんじゃけどね。良いことと悪いこと、それの両方がいい具合にバランスが取れている。シュウジさんの扱きに色々磨り減っていたワシはそう思うことにした。

 

その後、シュウジさんとの組手を乗り越えたワシはヘロヘロの身体で店に戻り、シュウジさんの作る朝御飯を堪能してから仕事に入る。この時いつも思うのだけどシュウジさんの作る料理には何か特別な滋養作用があるのだろうか? 朝の組手で何れだけ疲れても料理一つで全快になるのは流石におかしいと思うのじゃが……。

 

特に劇薬とかヤバい薬を使った様子はなく、あれが普通の手料理と言うから驚きじゃ。どうやら此処に来るお客さんもそれが目的で、良く年配の方や仕事に疲れたサラリーマン風のお客が来るのはそういう理由があったらしい。

 

本人は真心以外変わった事はしていないという。一度その事が噂になりその噂を聞き付けた警邏隊の人が事情聴取に来て家宅捜査しに来たという大騒ぎがあったらしい。

 

結果は当然の如く白。危険薬物の類いは一切なく、シュウジさんの容疑は無事に晴れた。その後も管理局の局員さんが来て詳しく調べたが、やはり怪しい所はなく、常連の人達も中毒反応は検出されなかった事からシュウジさんは無実となった。

 

というか、格闘技以外にも色々伝説を作ってたシュウジさんにワシは驚きを通り越して呆れてしまった。だから時々渋い顔のおじさんが来てたんじゃな。明らかに堅気の雰囲気じゃなかったから驚いた。

 

その後、お昼を過ぎて夕方に差し掛かる時間帯。一足早く店をあがったワシは荷物を手にナカジマジムへと向かい、ナカジマ会長やハルさん先輩たちと一緒に練習に励んでいる。

 

シュウジさんとの組手もあってどうにかハルさん達の練習に付いていけて、スパーリングの方も何とか彼女達と打ち合えている。見切りと身体の反応速度、そして身体全体のパワーが桁違いに上がっていると皆さんは言うけれど、あまり実感は湧かない。何せどんなに自分で速く動いたつもりでもシュウジさんには一つも当たらないのだから。

 

その事を皆さんの前で口にすると何故か羨ましがられた。特にハルさんは一度シュウジさんにコテンパンにされた事もあり、是非もう一度手合わせしたいと凄みを増してワシに詰め寄ってくる。

 

お店もあるからとやんわり断ってもうーうー唸って納得しようとしないハルさん。普段は凛として格好いいのにこの時のハルさんは少し可愛く見えた。

 

で、結局諦めきれなかったハルさんはワシのデバイスを作る代わりにもう一度勝負してくれと頼み込んできた。確かDSAAの試合にはデバイスの持ち込みが必須というからいつかは何とかしなくてはならない課題だが、まさかハルさんからそう言われるとは思わなかった。

 

グイグイと詰め寄ってくるハルさんにシュウジさんに伝えておきます位にしか言えなかった。いやだって滅茶苦茶怖かったんですもの、ハルさんの目が血走ってたんですもの。ヴィヴィオさん達めっちゃ引いてましたよ?

 

その後、シュウジさん経由で知り合ったミウラさんに何とか宥めて貰いその日はそれで解散となったのじゃが……うぅ、シュウジさんに何て言おう。

 

そんな年相応の悩みと充実感を得ながら、今日もワシの日常は終わっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メカリル月ウィッシュ日

 

フーカちゃんとの共同生活を続けて早2ヶ月、そろそろウィンターカップの予選が始まる頃。今日も自分はいつも通り喫茶店でお客様を相手に商売を営んでいた。

 

今日はハリーちゃんもヴィクトーリアちゃんも来ておらず、久々に落ち着きのある時間だった。賑やかなのも良いが此処は他のお客さん達が憩いの場にしている喫茶店、静かなのが好ましい。

 

そんな今日の店に訪れてきたのは久し振りの常連さん、ゲンヤさんが来てくれた。ゲンヤさんは以前自分にある容疑が掛けられた時に色々手を尽くしてくれた人で、そんな経緯があってかこの人とはそれなりに話をする仲となっている。

 

交わす話の内容は専ら世間話で時々親父臭い事を言う人だが、こう見えてこの人は現在六人の娘を抱えており、その内五人は管理局に勤めているという。

 

あのナカジマ会長もゲンヤさんの娘さんらしく、独立し、立派に子供達を育てている彼女をゲンヤさんは誇らしく語っていた。

 

後は何処か男でも見付けて結婚してくれれば文句はない何て愚痴りなからもゲンヤさんの表情は凄く穏やかだった。まぁ、彼の娘はどれもこれも訳有り(・・・)だ。その事を考えればゲンヤさんが危惧するのも無理はないと言えるだろう。

 

でもナカジマ会長を見ている限りだとその心配は無いと思うけどね。昔はヤンチャだったかもだけど今は落ち着きのある子に育ったし、そこら辺の事情はゆっくり様子を見てもいいと思う。

 

その後は怒らせてしまったミウラちゃんの事とか色々相談に乗って貰い、気分良く帰って貰った。

 

フーカちゃんも帰宅し、今日の出来事を聞きながら店の後片付けを始める。その際にフーカちゃんからアインハルトちゃんの再戦の話を聞かされたのだけれど……正直困っている。

 

いやね、アインハルトちゃんもそうだけど自分と戦って欲しいと言う子が最近増えてきているんだよね。今後こう言う事が増えてきたら店への影響も出てきてしまうからなるたけ避けたい所なんだけど。

 

何か良い案は無いものか、悩んでいた自分はある教会修道女の人に通信で相談した。この人も先の容疑者騒動で世話になった人で、偶に自分の店に顔を出している。彼女はシャッハと呼ばれ、浮浪児の子供達の面倒を見たりなどとても頼れる女性だ。

 

夜分遅く、失礼だと思いながらも相談した自分を快く受け入れてくれたシスターシャッハ。そんな懐の深い彼女に相談したところ、何とも微妙な解決案が返ってきた。

 

本当にこんな事で何とかなるのだろうか? 疑問に思う所だが………いや、思慮深い彼女の事だ。きっと意味があるに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

────その後、条件付きで再戦を承諾したシュウジ、意気揚々とその条件に挑んだアインハルトだが、結局彼との再戦を叶える事はなかった。

 

“自分と戦いたければこの麻婆を完食してみせよ”

 

その条件を引き換えに挑んだアインハルトは一口目で撃沈。その凄惨たる光景に誰もが口を閉じ、無闇に彼と戦って欲しいと言うものはいなくなった。

 

ただ、条件を出したシュウジ本人は何処か納得出来ない様子で首を傾けていたとか。

 

………尚、この麻婆を完食出来たモノはとある修道女が唯一だと噂が立つのはそれから暫く後の話である。

 

 

 




Q.何でボッチの試合の格好が山吹色の胴着なの?
A.ボッチ「む、昔DBにハマってて、それで調子に乗りました。テヘペロ」

Q.某エース・オブ・エースや雷光の人は出てこないの?
A.もしかしたら近い内に出てくる……かも?


それでは次回もまた見てボッチノシ

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