『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ボッチのやらかし、収まるところを知らず。


その10

 

 

 

「────どうしてもダメ、ですか」

 

空が夕焼けに染まり、夜の帳が下がり始めた頃。自分の心からの誘いを即答で断られた事に少なからずショックを受けたリンネは動揺しながらも今一度シュウジに訊ねた。

 

しかし、そんな彼女の訴えにシュウジは首を横に振る。喩え大金を積まれたとしてもシュウジは彼女の要望に従う事はない。少なくとも今のリンネにはどれだけ頼まれようと受ける気はなかった。

 

「今の俺はDSAAの格闘技選手じゃない、しがない喫茶店の店主さ。今回だってここに来たのは君のお呼ばれに応えただけ、本来俺は此処にいるべき人間じゃないんだよ」

 

「……………」

 

諭すようなシュウジの言葉にしかしリンネは納得出来ないといった様子で俯く。何故そこまで自分に拘るのか今一つ理解出来ていないシュウジがどうしようかと頭を悩ませていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「シュウジさん、此処にいたんですか。お待たせしまってすみま───リンネ!?」

 

「フーちゃん……」

 

会場から出てくるフーカとナカジマジムの会長と選手達。二人の邂逅、因縁ある両者が顔を合わせた事でその場空気が一気に重くなっていく。

 

「リンネ、お前またシュウジさんに突拍子の無いお願いを言いに来たんか」

 

「……フーちゃんには関係ないでしょ」

 

「関係あるわ! シュウジさんはワシの雇い主じゃぞ!」

 

「私が話しているのはシュウジさんだよ。邪魔しないで」

 

「お前こそシュウジさんとは何の関係も無いじゃろうが!」

 

「あれ? もしかして俺初めてのモテ期到来? 親戚の子供に遊ぶのをせがまれる叔父さんって、こんな気分なのかな?」

 

「シュウジさん、今真面目な所だから口を閉ざしてね」

 

険悪な雰囲気で言い合う二人、その主題となっているのは今二人の間に立たされているシュウジだ。端から見れば二人が自分を取り合っている様にも聞こえてくるから思わずそんな事を口にしてしまう。そんな彼を呆れながら諫めるのはヴィヴィオ達と一緒にいたミウラだった。

 

格闘技選手としてではなく、世話になった親御さんの娘というある意味この中の誰よりも親しい間柄の二人、それ故に彼女のシュウジに対する言葉には色々と刺があった。

 

「あ、ミウラちゃんおひさー。この間はゴメンね。色々と相談しないで」

 

「いえ、それはもう気にしてませんので。格闘技の事に関しても私の方から黙っているようにお父さん達に話してましたから」

 

他の選手達の時とは違い砕けた言葉遣いをするミウラとシュウジ、互いに遠慮のない物言いから二人の仲の良さが伺える。尤も、それが男女関の艶めいたモノではなく、年の離れた親戚の様なものであると見てとれる。

 

「しかし、ミウラちゃんも大したもんだよねー。その若さでワールドランカーとは、若い子の成長は凄まじいなぁ」

 

「シュウジさんがそれを言いますぅ? でも、えへへ。悪い気はしませんね」

 

険悪なフーカとリンネを置いて談笑する二人、おろおろするヴィヴィオ達を見てそろそろ止めようかとシュウジが動こうとした時、リンネの手がフーカの首へ伸びた。

 

「何度も言わせないで、私はフーちゃんとは違う。フーちゃんみたいに誰とでも仲良くなることなんて出来ないし、ヘラヘラと笑い合う事なんて出来ない。私の事は、もう放って置いて!」

 

「このっ!」

 

ギリギリと首を絞めてくるリンネの手をフーカは魔力を手に込め、脚から腰、腰から肩へ力を伝わらせる。それは以前シュウジの無茶ぶりで教わった必殺の一撃を放つ為の力の伝達法である。

 

奇しくも、それはアインハルトの持つ断空拳に良く似ていた。短い間だが骨身の芯にまで叩き込まれたフーカの一撃、それはリンネの手を弾くだけには留まらず、彼女の体を風圧だけで退かせてみせた。

 

フーカの飛び抜けた打撃力、それを目の前で見たリンネは一瞬だけ驚愕の色に染まる。アインハルトやヴィヴィオ達も驚きに目を見開かせる中、シュウジだけは満足そうに頷いていた。

 

「リンネ、ワシは言った筈じゃ。辛いときは一人で抱え込まずワシを頼れ、辛いなら辛いとハッキリと口にすればいいじゃろう」

 

「……フーちゃんには言っても分からないよ」

 

フーカの説得の言葉をリンネは受け入れない。何故彼女がここまでフーカを拒むのか、言葉だけでは伝わらない。やはり力付くでも分からせてやるしかないと誰もが思った時、彼女達の間にシュウジが割り込んでくる。

 

「あー、ゴメンね話の途中で」

 

「し、シュウジさん?」

 

「…………」

 

「何だか話を聞いている限りだとこのままじゃお互い平行線のままで埒が明かないからさ、一つ賭けをしようじゃないか」

 

「か、賭け?」

 

「シュウジさん、何を?」

 

突然二人の間に入って話を仕切り出したシュウジ。何だか嫌な予感がすると苦労人気質のノーヴェが察しても時既に遅し。

 

「そうだね。今度のウィンターカップに関係なくリンネちゃんはフーカちゃんと戦って欲しい。もしリンネちゃんがフーカちゃんに勝てば、君の望みに応えよう。君が俺を専属コーチとして雇いたいと言うのなら、俺は喫茶店を畳み、君が望む限り君の為に尽くすことを約束しよう」

 

「なっ!?」

 

「………本当ですか?」

 

「勿論、男に二言は無いさ。けれどフーカちゃんが勝った時、その時は………分かってるね」

 

「………良いでしょう。それならば私にも異存はありません。それでは皆さん、ご機嫌よう」

 

シュウジの突然の提案に一同は言葉を失う。対してリンネは自分にとって思いもよらない好条件に不敵な笑みを浮かべてこれを承諾する。丁寧な挨拶をしてその場から立ち去るリンネ、それを見届けたシュウジはフーカの方へ振り返り……。

 

「そんな訳でフーカちゃん、俺達も頑張ろうか」

 

笑顔でそう言い切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからゴメンって、フーカちゃんとリンネちゃんの話を聞いているといてもたってもいられなくてさー」

 

「だからって、あんな条件を出すなんてシュウジさんの正気を疑いますよ!」

 

大会の会場を後にして数分、シュウジの運転する車内。あれから方々の追求を回避しながら帰路に就いたシュウジは助手席で不貞腐れた様子で頬を膨らませるフーカに頭を悩ませていた。

 

自分とリンネを戦わせる。ただそれだけの為に己の店すら賭けの対象にする。自分が負ければこれまでシュウジと一緒だった……これまでの全ての出会いの原点だったあの居場所が無くなってしまう。その重圧よりもあっさりと己の店を掛け金として支払うシュウジにフーカは憤りを感じていた。

 

「あの店は、シュウジさんがチャンピオンの座を捨ててまで手に入れたかった場所じゃなかったんですか! そんな簡単に手離すほどあの店は軽いんですか!?」

 

「え? いや、うん。まぁ、そうだね?」

 

言えない。個人的には別にそれほど苦労して手に入れた覚えなどないなんて、フーカちゃんの為に質に入れる程度位に軽く考えてましたなんて、口が裂けても絶対に言えない。だってこの世界に来たばかりの頃なら兎も角、今ならその気になればお金を稼ぐ方法なんて幾らでも見付かるんだもの、仕方ないじゃない。

 

しかしそんな自分の心境を知らず涙眼で睨んでくるフーカにシュウジはどう言い繕うかその頭をフル回転させる。

 

「でもねフーカちゃん、俺は後悔してないよ。店を賭けにしてでも俺はフーカちゃんとリンネちゃんを戦わせてやりたい。君達二人の仲を取り持ってやりたい、そう本心から言える位に俺は君達に入れ込んでいるんだ」

 

「どうして、どうしてワシ等の為にそこまで……」

 

「それは、俺の方が少しばかり大人だからだ」

 

「大人……だから?」

 

「子供が必死になってるんだ。それを少しでも支えてやりたいというのが大人というものだ。まぁ、こう言った遠回しみたいな事しかできないがな」

 

大人という便利ワードを使っての言いくるめ、我ながら汚いやり方だなと自分に呆れながらも横目でフーカの様子を伺う。

 

俯いて辺りが暗くなってきたからその表情は読み取れないが、どうやら怒ってはいないようだ。もしかしたら店を賭けた事にプレッシャーを感じているのかもしれない。頭を撫でて気にするなと口にするシュウジにフーカは小さく涙声で返事をした。

 

この日、フーカは己に誓った。今よりもずっと強くなって、リンネやジムの人達にも認められ、プロになって成功したら。この人に恩返しをしよう。自分の為にここまで尽くしてくれるシュウジ=シラカワという男の為に今度は自分が返していこう。

 

頭に伝わる無骨ながらも暖かい掌の温もりに包まれながらフーカは決意した。

 

 

───そして、時は過ぎて季節は冬。ウィンターカップが遂に開幕される。

 

 

 

 




Q.もしもボッチがゴーレム使いだったら?

A.コロナの場合
コロナ「叩いて砕け、ゴライアス!」
リオ「良いぞー! やっちゃえコロナ!」
一同「頑張れー!」

A.ボッチの場合
ボッチ「ククク、叩いて砕け、グランゾン!」
一同「」

それでは次回もまた見てボッチノシ

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